異世界でドラゴン女子たちと仲良くしてみます

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第十・パネトーネの料理

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第十・パネトーネの料理


「ここか、ここがスフレの言っていた店ね」

 本日、午後3時過ぎに町の一角にやってきたパネトーネ、お目当てである店の前に立って店名をジーっと見つめた。

「よし、わたしもなんか買っちゃる。そして悠のハートにグイグイ攻め込んでやるんだ」

 ふんふん! と鼻息を立てながら店内へと進む。そしてドワーっと並べられる怪しげな商品やらフンイキに対して、なかなかいい感じねとつぶやいたりし、昨日にスフレが使ったのであろう商品およびシリーズ品の並びを目にして立ち止まる。

「これかぁ」

 赤い粉の入ったミニガラス瓶を手に取り、これはわたしに要らないと冷淡な目を浮かべた。それから他には? と色々舐めるような目で確認。

「巨乳になる? 必要ない。非巨乳になる、これこそ要らない。なんかロクなのがないじゃん。なんかこう、パーっとわたしに合った華やかなモノってないの?」

 キモチがステップするように落ち着けなくなったパネトーネ、ゆっくり店内を見渡すという事ができない。だからレジに行き女店員と向き合ったら、なんかお勧めはないの? と聞くが早い! という行動に出る。

「どんなのをお求めですか?」

「えっと……いやぁ、わたしってほら美人でしょう、スタイルいいでしょう? それで巨乳でしょう? 非の打ちどころがないから貪欲になれないんだよ。こんなわたしにふさわしいアイテムって何かない?」

「あっと……お客さま……」

「なに?」

「たしかにお客さまは魅力的ですが、全肯定で話を進めると足りないモノが見えなくなってしまいます。自分に足りないのはなんだろう? と考えてみてはどうです?」

「はぁ? わたしに不足しているモノ?」

「はい」

「こんなステキなわたしに足りない部分なんか……」

 息まくパネトーネだったが、ここでフッと静かになった。そして豊満にしてやわらかい胸のふくらみに腕組みを当て、ちょっとスフレの事を考えてみる事から始めてみる。スフレは料理がなかなか上手であり、一方の自分は食べるが得意。つまり自分は料理ができなくても食い気さえあればいいと考えている女。もしかするとそれは自分の欠点なのだろうかと、めずらしく謙虚に考えてみる。

「そ、そうね、たとえば料理がちょっとヘタかもしれない」

「だったらこれなんてどうです?」

 店員はレジから離れパネトーネをある場所に連れて行った。調味料か毒か疑わしいモノの並びの前に立つと、その一つを手に取ってこう述べた。

「どんなにゲロまずい料理でも、これを垂らして混ぜれば最高にうまい料理へと変化させられます」

「どんなにゲロまずくても?」

「はい、人が死んでしまうようなゲロまずい料理であっても」

 店員に言われたパネトーネ、300mlの蒼いガラス瓶を手にし、これで自分の手料理を作り悠に食べさせれば、おいしい! とカンゲキされればスフレを蹴落とせるという物語が生まれると考える。

「買うわ」

「あ、それでお客さま、ひとつ注意が」

「なに?」

「これ、開けたらいいニオイがするのでついつい入れ過ぎしたくなりますけど、入れ過ぎたら逆効果になると覚えておいてください」

「逆効果?」

「物事には限度があります。どんなにすごくても一周すれば転落あるのみと同じって事です」

「わかった、注意する」

 こうしてパネトーネはどこでどう作られたのかさっぱりわからない、そもそも体内に入れてもだいじょうぶなのかどうかって不安になるが正しいようなアイテムを購入。そしてそれを持って大急ぎでスフレ宅にお邪魔する。一応ピンポーンは鳴らしたものの、エプロン姿のスフレが出てきたら、すぐさま機関銃みたいにしゃべる」

「スフレ、なにその格好、まさかもう晩ご飯の料理中? あんた急ぎ過ぎでしょう、もっと余裕もった生活しなさいよね」

「いやいやパネトーネ、いきなりギャーギャー言われても理解できないよ」

「もう夕飯を作っているの? と聞いているのよ」

「いや、まだだよ? 何にしようかなと考え始めていたところ」

「おぉ、だったらわたしにつくらせて」

「はい?」

「今日はわたしが晩ごはんを作ってあげると言っているんだよ」

「うそ、どういう風の吹き回し?」

 ジーっとパネトーネを見るスフレ。なんか下心があるだろう? という心の声を目線に混ぜて相手に送る。

「イヤだなぁスフレ、わたしみたいなステキな女子を疑うもんじゃないよ。わたしはただ、普段お世話になっているお礼がしたいだけ」

「その説明を聞くと余計にあやしいという気がするんだけど」

「とにかくわたしに作らせて。出ないとこの家をつぶす!」

「まったくもう……ドラゴンはワガママなんだから」

 マイホームをつぶされてはかなわないのでスフレはしぶしぶ台所をゆずる事にした。そして一応説明はしておく。

「お米はもうセットしたからいいよ。で、ここに各種野菜で、ここが各種肉。パネトーネにドラゴンの肉で料理してくれとか頼むのはグロいから言わない。だから他の肉を適当に使ってくれたらいいよ」

「ドラゴンのシッポ、わたしたちの味」

「やめて! そういう表現ニガテ。で、ここに調味料一式。ここに各種ナベなどがあるので、好きに使って」

「わかった、じゃぁスフレはどこかに消えていてくれていいよ」

「だいじょうぶ? 手伝おうか?」

「いらないよ、ほら、早くどこかに消えて、シッシ!」

「はいはい、じゃぁ期待しているからね」

 スフレ、たまには夕飯までゴロゴロしてみるかと自分の部屋に入った。そしてパネトーネは台所に立ってやる気満々に燃えた。

 が、しかし……ぶっちゃけ、何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。テーブルの上にざっと素材を並べてみても、どういう風に料理したらいいのか見当がつかない。しかしそれを気にしなくてもいいだろうって、いかがわしいアイテムを取り出す。

「これがあれば、おおざっぱな料理でも美食になる」

 おほほと笑ったパネトーネ、さっそくがんばってみるか! と、台所で包丁を持って超乱雑な料理を展開。皮を向かずダイナミックな大きさに切るのがニンジンなのはいいとしても、ジャガイモも同じく皮を向かずに切ってナベに放り込む。そして面倒くさいとばかり、玉ねぎも丸ごと何にも手を加えずナベに突っ込む。そして豚肉をがっつりドワーっと放り込むと、手当たり次第に調味料をブッ込んで火をかける。

「ふぅ……料理ってしんどいものねぇ」

 ほとんど何も手数など加えていないのに、台所は台風通過後のごとくあれまくる。その見苦しさは台所というよりはゴミ山。

「ふわぁ……」

 料理などした事のないパネトーネは、火にかけたナベを見ながら眠気に襲われる。

「なんでこんなに疲れるんだろう。料理って食べるのは健康的だけど、作るのってものすごく不健康じゃない?」

 うとうとしながらゲロまずい料理でもうまくなるという調味料らしきモノが入った瓶を手に取る。そのとき店で店員に与えてもらったアドバイスが一瞬アタマの中で再生された。一度にドバー! っと出るのはヤバいのでスプーンにおとして少しずつナベに入れていけばいいというモノ。

「ふわぁ……面倒くさい」

 だいじょうぶでしょうと、こっくりこっくりやりながら、ナベに向かって蒼い瓶を傾ける。そして眠気と戦いながらひたすらにひたすらに調味料をドボドボ入れていき、やがては350mlのすべてをぶち込んでしまう。

「あ……」

 ハッと我に返ったパネトーネ、ここまで一生懸命やったのに! と叫びかけた。だがナベからはいいニオイが浮かぶ。それはゲロまずい料理でもおいしくなるという魔法のうたい文句そのものであり、一周したら転落という恐怖には感じられなかった。

「おぉ、なんていいニオイ……べつに問題なんかないはず」

 見つめるでっかいナベの内側はかなりダイナミックで下品に混沌としており、蒼っぽい液体が危険という感じを漂わせる。だが立ち上がるニオイはあまりにもいい香りだから、パネトーネはこれを悠に食べさせたいとしか思わない。

(なに、このいいニオイ)

 部屋で寝転がっていたスフレ、予想外的ないいニオイにつられ台所にやってきた。そして一体何をつくったの? と言いかけたものの、想像を絶する散らかり具合に絶叫してしまう。

「あ、スフレ、どうした?」

「どうしたじゃない! なんでこんなに散らかすの!」

「はぁ? 料理したら散らかるのは当然でしょう」

「そんなわけあるか! 散らかさないように料理するのがほんとうの心なんだよ。まったくもう、人の家の台所をゴミ山にして……」

 これはもう片付けさせるしかないと思うスフレだったが、ここでバッチグーなタイミングで悠が帰ってきた。

「ただいま、なんかめっちゃいいニオイがする」

 スフレがおいしい料理を作ってくれたと思う悠だったが、ひっくり返ったとしか言いようのない台所を見て思わず絶句。

「あ、悠、いい所に」

「あ、あれ、パネトーネ?」

「ささ、ごはんにして。話はそれから」

 パネトーネ、散らかっているモノを台所の半分に押し寄せ、そこの整理はスフレに押し付け、きれいにした領域にあるテーブルに悠を座らせる。

「スープなんだよ、多分おいしいと思うよ」

 パネトーネ、スフレに皿を一枚取らせたら、デレデレ顔でナベのフタをあける。中身が気になっていたスフレはクイっとのぞき込む。

「ぐえ……」

 思わず言葉を失うスフレだった。すばらしいニオイだからどんなエレガントなスープかと思ったら、ナベの中は乱雑な引出しの中身そのもの。おそらく何もしないで放り込んであろう具材の哀れな姿と同時に、蒼っぽいスープというのはあぶない世界へのキップみたいに思える。

「さ、どいて、スフレにも後で食べさせてあげるから」

 パネトーネ、なんとも言い難いスープを入れたら、その皿を悠の前に置いた。その見た目は悠にとっても大変にショッキングなモノ。

「さ、食べて」

 パネトーネが浮かべる屈託のない笑顔を見ると、これはなんだ! と先に質問してはいけないような気がした。それになにより立ち上がってくるニオイが最高にすばらしい。それは明らかに料理は見た目じゃないという歌声。

「いただきます」

 ニオイを無視できない悠はスプーンを右手に持った。蒼っぽいスープとはいったい? なんて思いはしたものの、香りに誘われズーっと熱い液体を吸い込む。そしてこの味わいはと考え始めようとしたが、その瞬間に突然両目が回りだす。

「あぅ……」

 立ち上がった悠、青ざめながら左手を首に当てる。

「え、悠?」

 パネトーネとスフレがびっくりしたと同時に悠はその場にひっくり返ってしまった。そして口から泡を吹き完全に意識を失う。
 キャー! と慌てる2人の女子。倒れた悠にビンタしたりしたが回復しないので、ドラゴンになったパネトーネの背中にぶっ倒れた悠とスフレを乗せて町の病院まで飛ぶ事となった。

「く……スフレが乗っかると重い……」

「悪かったね。っていうか、パネトーネが悪いんだから文句言うべからず」

「あぁん……わたしはただ料理で悠によろこんでもらいたかっただけなんだよぉ」

「悠、しっかりして……」

 こうして悠は病院に担ぎこまれ1日だけが面会謝絶の休養という事になった。ぶっ倒れた原因は不明としつつもドクターはこう続けた。

「何かとてつもなく恐ろしいモノを食べたのかもしれませんね」

 これを聞いたパネトーネ、自分が悠を病院送りにさせてしまったと両目に涙を浮かべ、これでもう絶対に嫌われたとハンカチを目に当てる。

「だいじょうぶだよ、多分……悠はやさしいから許してくれる気がする」

 スフレはそう言って励ましてみたが、もうダメだ! とか、悠が許してくれなかったら身投げするしかないとパネトーネはひたすら取り乱した。

 そして悠が回復して退院となったとき、病院の前で待っていたパネトーネは不安を胸にブルブル震えた。怖い……悠ににらまれるんじゃないか、あるいは嫌われてしまったんじゃないかとドキドキガクブルを隠せない。

「あ、パネトーネ」

 やぁ! と悠はちょっと疲れ交じりながらも笑顔で軽く左手を振る。

「ゆ、悠……わたし、その……」

 謝りたいと思いつつ言葉が出て来ないパネトーネ、しかし悠はサラっと言うのだった。別にもう怒ってないよと。

「え、ほ、ほんとうに? だって……」

「だってあの料理はパネトーネがぼくのために作ってくれたと聞いた。料理っていうのは作ってくれる人のキモチがうれしいもんだよ。そして誰にも失敗はあるんだよ。だからイチイチネチネチ怒るよりは、ササっと忘れて次に進んだ方がおたがいシアワセ。だからぼくは怒ってないよ」

「ゆ、悠……」

 パネトーネ、カンゲキして悠に抱きつこうと動きだす。しかしそこにパッと登場するのはスフレであり、両腕を横に広げ2人を近づけさせない。それからパネトーネの方に向かって大事なことを言う。

「パネトーネ、あんたに渡すモノがある」

「え、なに? がんばったことに対する功労賞とか?」

「アホか、悠の入院費。わたしが払ったんだから、その分は返して。悠の事だからぼくがスフレに返すとか言いそうだけど、それはダメ。いくら相手のために作った料理とかいっても、それで相手を入院させたのは事実なんだからね」

 ムッ! っとした顔で請求書をパネトーネに付きつけるスフレ。ギャーギャー叫んだら説教するつもりでいた。しかし意外にもここでのパネトーネは素直に言う事を聞いて請求書を受け取った。そしてめずらしくしおらしい表情でスフレに言うのだった。

「スフレ……わたしに料理とか教えてくれる?」

「う……ま、まぁ……パネトーネがその気ならいいよ」

 相手が予想外の態度を見せるので身構えていたスフレの気が緩む。するとパネトーネは目の前のチンチクリン女子を横に突き飛ばし、悠の両手をつかんであざとくかわいい顔を見せる。

「悠、わたし料理とかできるようになるよ。そしたらたとえスフレが死んだりしてもだいじょうぶ。わたしが悠のごはんを作ってあげるからね」

 その声を横で聞いていたスフレ、グッと右手を握りワナワナ震えながら思うのだった。やっぱりパネトーネに料理は教えてやらない! と。
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