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第九・スフレの変身? スフレは変身しなくても十分魅力的
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第九・スフレの変身? スフレは変身しなくても十分魅力的
「さてと、買い物は終わったかな」
ドラゴンのシッポを売るため町にやってきたスフレ、立ち止まってメモ帳に書いた買うべきモノ一覧に目をやる。そしてそれらはすべて購入して背中のバッグに入れていると納得。だったら家に帰って夕飯をつくろうと歩き出す。
「うん?」
ここでスフレの足がストップ。いつもなら無視している怪しげな店、「なんでもあって困っちゃう屋」に目をやっただけでなく、なぜか入りたいと思った。まだ世界は明るさいっぱいの午後3時過ぎであるが、昼の魔法が発生しているのか無性に入ってみたくなって進んでいった。
「なんでもあって困るとか、どれだけすごいのがあるというのやら」
あまりというよりは全然期待していないという顔で店内を見渡す。怪しげでこじんまりしていた入り口のイメージに反して店内はかなり広い。よくわからない雑貨屋さんだと思いながら、あっちこっちそれとなく見ていたが、突然とっても気になり足を止めたのみならず、右の人差し指を向けひとり小声を出す。
「リヴァイアサンの種? リヴァイアサンって……」
つい先日の湖におけるハプニングが生々しく脳内でリプレイされた。売り切れの札があるので、商品説明のテンプレートに目をやる。すると海もしくは湖に放つとすごいスピードで成長するリヴァイアサンと書かれており、使用する場合は周囲に迷惑をかけないようになどと一般常識を装った無責任が書かれてもいる。最後には迫力ある動画の撮影などにどうぞ! でも後はすべて自己責任で処理してね! などとも書いてある。
「まさかこれだったの? 使用する場合は周囲に迷惑をかけないでとか、ムリに決まってるでしょう、ったくバカなんだから……」
ブツブツやりながらその周辺を見ると、ある商品に目が止まった。ミニミニガラス瓶に色違いの粉が入っているという数種類があり、それらにはビューティーシリーズという名前がついている。そして商品説明の札に綴られているモノは、スフレの胸をちょいドキドキさせてしまう。
「美人になる。かわいくなる。背が高くなる。背を縮められる。巨乳になれる。巨乳すぎるおっぱいを小さく出来る……背が高くなるって、赤色?」
スフレは怪し過ぎるとしか思えない赤い粉が入った小瓶を色白な手でつかみ、その瓶の背面にある説明に目をやる。
「一定時間あなたの背が伸びます。一定時間ってあいまいな……せめて何時間とかハッキリ書きなさいよね」
スフレはぼやきながら以前にパネトーネからチンチクリンと言われておもしろくなかった事を思い出していた。スフレの身長は155cm、べつに気にする必要はないのだが、昔からたまにチンチクリンと言われたら気にするわけで、それがまだ吹っ切れていなかった。パネトーネよりは自分の方がまともな女子と思うのに身長で負けていると思えば妙に泣けてしまう。だから一度は脱チンチクリンをしてみたいって欲望にはあらがえない。
「だいたいプラス10cmくらいか、わたしの場合は165cmくらいになるって事か。それってパネトーネと同じくらいかな」
こんなあやしい店で怪しすぎる赤い粉を買って体内に入れるなんてダメ! と考えるのが普段のスフレ。でもここでの彼女は考えるほど購入したくなり、あげくの果てには見栄え変わった自分が悠にどう思われるか知りたいなんて考えに到達。こうなると危なっかしい小瓶を持ってレジに向かうしか道はなかった。
「ありがとうございます」
女店員にそう言われて店を出たとき、胡散臭いモノをゲットした事に罪悪感を覚えつつ、一方では早く試したいって女心のざわつきが抑えられない。
「とりあえず急いで帰ろう」
子どもっぽい逸りを胸に大急ぎで自宅に帰った。そうして赤い粉を水に溶かして飲みたいってキモチをグググっと抑え、まずは手っ取り早く晩ごはんをつくる。そして悠が帰宅したら2人であれこれ会話して食事を済ませる。後はかんたんな片付けにオフロなどを済ませ、ようやく何もやる事がないって夜8時過ぎにたどりつく。
「じゃぁぼく、2階で本を読んでるから」
悠はそう言うとギシギシ言わせながら階段を上がっていく。それを見たスフレ、やっとここまで来た! と、ズボンのポケットから取り出した小瓶をテーブルの上に置く。そしてコップに水を入れスプーンを取り出す。
「こんな赤い粉……飲んだら死ぬような気がする。まともなアタマだったら絶対飲むべきじゃないって考えるはず。でも……仮に飲んで死ぬんだったら、あの店ってとっくにつぶれているはず。そう考えれば飲んでもだいじょうぶって事のはず」
自分の背中を押すため賢者っぽい言い訳をつぶやいたら、いよいよと瓶の中にある赤い粉を水の中に入れた。そうして右手に持つスプーンでグルグルっと感情込めてかき回せば、無色透明がカーマインレッドへと回り変わっていく。
「う……」
さすがにちょっと怖気づいた。飲んだら死ぬよ? という声が聞こえてきそうだとも思う。だが身長165cmの女になってみたいという思いが恐怖を打ち負かす。
「これはプレミアムなトマトジュース、飲んでもだいじょうぶ!」
「うほうほ……味がついてる。リンゴ? なんて親切な……」
予想外の事にむせまくったものの、とても甘く飲みやすい事に感謝してしまうスフレだった。危ないとか思っても口当たりがよいのでグイグイやって一気に全部飲み干してしまう。一適も余ることなくその体内に吸収されていった。
「これで変わる?」
もしかして何も起こらない? わたしはタダのバカですか? と不安になり、左手の平をFカップってふくらみに当てる。すると急に体にびりびりっと電流が走って、つぎに引き延ばされるような感覚に包まれ、おどろきながら変動する視界を目にする。グゥーっと高くなって、見慣れたモノを見つめる位置が変わったとハッキリ理解。
「う、うん?」
身に纏うモノのフィット感に小さなエラーがあるように感じたので、前もって近くに置いておいたスタンドミラーの前に立ってがっちり確認。
「お、おぉ……わ、わたし……変わってる。チンチクリンじゃない、これってパネトーネと変わらない身長。な、なんていうか……いいかも、わたしイケてるかも」
ここには誰もいないのだからという事で、素直にエヘエヘとニヤつくスフレ。生まれて初めて経験する目線にカンゲキし、少し女らしさがアップしたように思うミラーの自分に胸をときめかせる。
「こ、これって……たしか永久じゃないから元に戻ってしまうはず。だったらわたしあの赤い粉っていったいどれくらい買えばいい? ずっとこの姿でいようと思ったら、この家が埋まるくらいあの瓶を買わなきゃいけない?」
もうすでに赤い粉を肯定しており、お金の心配もするスフレだった。そしてここでハッと赤い顔で気づく。
「この姿……悠に見せてみたい……なんて言われるか……知りたい」
避けて通れない乙女心ってモノだから、スフレは胸をドキドキしながらゆっくり階段を上がり始める。そして悠に与えた部屋の前に立つと、勇気という2文字を持って右手でドアをコンコンとやる。
「悠、ちょっといい?」
「開けてもいいよ、どうしたの?」
「うん、ちょっと見て欲しいモノがあって」
言ってスフレはおちつけと自らに言い聞かせながらドアを開けて中に進む。一方の悠はベッドに寝転びながら本を読んでいた。だからその本をお腹の上に置き、スフレの方へ目を向ける。
「なに、どうしたの……って、あ、あれ? え、え、え?」
変なおどろきが大きいから悠は思わずベッドから落ちてしまう。そしてアタマを抑えながら、両膝をつけたまま顔を上に向ける。
「す、スフレ?」
「う、うん……」
「え、な、なんで? なんかいつもとちがうような……」
立ち上がった悠、目の前に立っているスフレの高さがちがう事に理解がおよばない。しかもスフレは着ている服がちょっとばっかりサイズちがいって訴えているような感じに見えなくもない。
「ちょっと変身してみたんだ」
「変身ってなに? どういうこと?」
「えっとそれは……」
これまで無視していたあやしい店に不思議に誘われ、中に入ってみたらビューティーシリーズというのが目に入り、背が高くなるという赤い薬を買って飲んだのだと、スフレは実にサックリ事情を説明した。
「そ、そんな、そういう変なのを飲むのは危ないじゃんか。そういうのってなんかスフレらしくないよ」
スフレらしくない……そう言われたらスフレは胸に少し痛みを感じた。やっぱりそう言われるかと切なくなる。しかしそれは仕方ないと横に流し、見た目変わった自分はどうなのか聞かせて欲しいと悠を見つめる。
「ど、どうって……」
「そ、その……お、お、女としてどういう風に見られるのかなぁって……」
気恥ずかしくて死にそうだと思いつつ、ここで笑ってごまかしてはそれこそ捨て身のギャグになってしまうとし、スフレはもうちょい悠に近づかんと前進。だがそこで思わずつまずいて転びそうになる。
「あぶない!」
悠が真正面から受け止めると、フワッといいニオイがする。そして2人の間に夜を甘い感じにしてみないか? 的な空気が漂い始める。
「え、えっと……」
悠が自分を落ち着かせんと大急ぎの努力を始めたら、ガンガン! と部屋の窓を叩く音がした。だから悠が赤い顔をそれに向け見てみるとドラゴンがいる。
「ちょ、ちょっと待って……」
仕方ないという事でスフレを離し、部屋のドアを開けた。すると勢いよくけむりが室内に入り込みすぐさまパネトーネという女子が登場。そして挨拶もそっちのけで歩み寄った悠の胸の辺りってTシャツをグッと掴んで声を出す。
「悠、何してんの? わたしという魅力的な女子がいるのに、なんでスフレと抱き合ったりするわけ?」
「あ、いや、そ、それはその……」
「だいたいスフレも何をトチ狂って……」
ここでパネトーネの表情が固まった。悠のTシャツをつかみながら、顔を横に向けたまま両目を数回ぱちくりさせる。
「え、え? スフレ? え、なに? なんか背が伸びてない?」
「伸びた。だって成長期だもん」
「はぁ? なにバカ言ってんの、あんた何したっていうわけ?」
パネトーネは悠から手を離すと、気恥ずかしそうに赤い顔ってスフレと向き合う。そしてこんな成長期があるわけないと、組んだ両腕を豊満なに胸に当てさげすんだ目を向けてやる。
「じ、実は……」
パネトーネはにぎやかな女子なので事情を言わないとずっとギャーギャーうるさいのは見えている。だからスフレは悠にしたのと同じ説明をくり返す。
「背が高くなる薬? なに、あんたわたしにあこがれていたの?」
「なんでわたしがパネトーネにあこがれなきゃいけないのよ」
「だってわたしの方が背は高いし美人だし、それでGカップって巨乳」
「わたしだってFカップの巨乳だし!」
スフレが言い返したとき、突然からだに妙な感覚が発生。ドキ! っとしたスフレだったが、心の中で思った通り薬の効き目が終わってしまったのだ。数字的にはたかが10cmだが、グワーッと元のサイズに戻って目線の高さが変わっていくと、しかもそれをパネトーネや悠に見られるといたたまれないキモチになってしまう。
「おぉ、元のチンチクリン」
「チンチクリンって言うな……」
「スフレはチンチクリン巨乳がいいんだって。美人で整ったナイスな巨乳ってわたしと張り合おうと思うのが大まちがいなんだって」
ハハハと勝ち誇った笑いを浮かべると、よしよしと適当に慰めんとスフレのアタマをナデナデしてやるパネトーネ。
「ふん……」
スフレはクルっと回れ右して部屋から出て行こうとする。すると悠は待って! と言ってから、スフレの背面に少し近づき感想を言った。
「これはウソじゃないんだけど、ほんとうのほんとうに真心なんだけど、スフレは今の方がすごくかわいいよ」
「べつにムリにお世辞とか言わなくてもいいよ、悠」
「お世辞じゃないよ。だって男っていうのは……」
「いうのは?」
「女の子に対してウソは言えない生き物だから」
「悠って、わたしみたいな女をかわいいと思ってくれるんだ?」
ここでスフレが振り返ると、悠は満面の笑みでもちろんだよと答えた。それは撃沈しかけていたスフレの心を浮上させるに十分なモノ。
「はいはい、そこまで!」
2人の世界なんか作るんじゃない! とばかりに、パネトーネは両者の間に割って入る。そして悠の視界を遮るように背中を向けて立ち、スフレの両肩に手をおいて気になる事を聞いた。
「スフレ、その赤い薬ってどこで買った?」
「町外れにある「なんでもあって困っちゃう屋」という名前の店だけど」
「それって他にもおもしろいアイテムとかある?」
「あると思うけど……」
「そうか、だったら今度わたしも行くよ。ドラゴン女子だってお金は貯めて持っているからね」
「パネトーネがあの店で買い物するって……ゲスな買い物しそうだね」
「まぁまぁ、そんなことよりスフレ、わたしというお客が来たんだから、早くお茶でも入れなさいって」
パネトーネはスフレの体をクルっと回転させると、背中をグイグイ押して強引に部屋から押し出し、自分も一階へと行くとする。今、この部屋には悠とスフレの2人だけにしたくない感じがあふれて気に入らないと思うからだった。
「あ、悠は休憩でもしていて、お茶が入ったら呼ぶから」
ニコっと笑ってドアを閉めるパネトーネだったが、Gカップって胸の内はあまりおだやかではない。悠とスフレが先ほど見せたあのやり取りにおける赤い顔と満面の笑み、あれは傍から見ているとビリビリに破りたいと思うモノだった。
(わたしも悠にガンガン攻め込まないとダメだね。スフレと悠が結ばれる話なんて認められるわけがないし)
スフレと共に一階へ向かう中、パネトーネは自分も何かしらのアクションで悠のハートに触れねばならないなと考えるのだった。
「さてと、買い物は終わったかな」
ドラゴンのシッポを売るため町にやってきたスフレ、立ち止まってメモ帳に書いた買うべきモノ一覧に目をやる。そしてそれらはすべて購入して背中のバッグに入れていると納得。だったら家に帰って夕飯をつくろうと歩き出す。
「うん?」
ここでスフレの足がストップ。いつもなら無視している怪しげな店、「なんでもあって困っちゃう屋」に目をやっただけでなく、なぜか入りたいと思った。まだ世界は明るさいっぱいの午後3時過ぎであるが、昼の魔法が発生しているのか無性に入ってみたくなって進んでいった。
「なんでもあって困るとか、どれだけすごいのがあるというのやら」
あまりというよりは全然期待していないという顔で店内を見渡す。怪しげでこじんまりしていた入り口のイメージに反して店内はかなり広い。よくわからない雑貨屋さんだと思いながら、あっちこっちそれとなく見ていたが、突然とっても気になり足を止めたのみならず、右の人差し指を向けひとり小声を出す。
「リヴァイアサンの種? リヴァイアサンって……」
つい先日の湖におけるハプニングが生々しく脳内でリプレイされた。売り切れの札があるので、商品説明のテンプレートに目をやる。すると海もしくは湖に放つとすごいスピードで成長するリヴァイアサンと書かれており、使用する場合は周囲に迷惑をかけないようになどと一般常識を装った無責任が書かれてもいる。最後には迫力ある動画の撮影などにどうぞ! でも後はすべて自己責任で処理してね! などとも書いてある。
「まさかこれだったの? 使用する場合は周囲に迷惑をかけないでとか、ムリに決まってるでしょう、ったくバカなんだから……」
ブツブツやりながらその周辺を見ると、ある商品に目が止まった。ミニミニガラス瓶に色違いの粉が入っているという数種類があり、それらにはビューティーシリーズという名前がついている。そして商品説明の札に綴られているモノは、スフレの胸をちょいドキドキさせてしまう。
「美人になる。かわいくなる。背が高くなる。背を縮められる。巨乳になれる。巨乳すぎるおっぱいを小さく出来る……背が高くなるって、赤色?」
スフレは怪し過ぎるとしか思えない赤い粉が入った小瓶を色白な手でつかみ、その瓶の背面にある説明に目をやる。
「一定時間あなたの背が伸びます。一定時間ってあいまいな……せめて何時間とかハッキリ書きなさいよね」
スフレはぼやきながら以前にパネトーネからチンチクリンと言われておもしろくなかった事を思い出していた。スフレの身長は155cm、べつに気にする必要はないのだが、昔からたまにチンチクリンと言われたら気にするわけで、それがまだ吹っ切れていなかった。パネトーネよりは自分の方がまともな女子と思うのに身長で負けていると思えば妙に泣けてしまう。だから一度は脱チンチクリンをしてみたいって欲望にはあらがえない。
「だいたいプラス10cmくらいか、わたしの場合は165cmくらいになるって事か。それってパネトーネと同じくらいかな」
こんなあやしい店で怪しすぎる赤い粉を買って体内に入れるなんてダメ! と考えるのが普段のスフレ。でもここでの彼女は考えるほど購入したくなり、あげくの果てには見栄え変わった自分が悠にどう思われるか知りたいなんて考えに到達。こうなると危なっかしい小瓶を持ってレジに向かうしか道はなかった。
「ありがとうございます」
女店員にそう言われて店を出たとき、胡散臭いモノをゲットした事に罪悪感を覚えつつ、一方では早く試したいって女心のざわつきが抑えられない。
「とりあえず急いで帰ろう」
子どもっぽい逸りを胸に大急ぎで自宅に帰った。そうして赤い粉を水に溶かして飲みたいってキモチをグググっと抑え、まずは手っ取り早く晩ごはんをつくる。そして悠が帰宅したら2人であれこれ会話して食事を済ませる。後はかんたんな片付けにオフロなどを済ませ、ようやく何もやる事がないって夜8時過ぎにたどりつく。
「じゃぁぼく、2階で本を読んでるから」
悠はそう言うとギシギシ言わせながら階段を上がっていく。それを見たスフレ、やっとここまで来た! と、ズボンのポケットから取り出した小瓶をテーブルの上に置く。そしてコップに水を入れスプーンを取り出す。
「こんな赤い粉……飲んだら死ぬような気がする。まともなアタマだったら絶対飲むべきじゃないって考えるはず。でも……仮に飲んで死ぬんだったら、あの店ってとっくにつぶれているはず。そう考えれば飲んでもだいじょうぶって事のはず」
自分の背中を押すため賢者っぽい言い訳をつぶやいたら、いよいよと瓶の中にある赤い粉を水の中に入れた。そうして右手に持つスプーンでグルグルっと感情込めてかき回せば、無色透明がカーマインレッドへと回り変わっていく。
「う……」
さすがにちょっと怖気づいた。飲んだら死ぬよ? という声が聞こえてきそうだとも思う。だが身長165cmの女になってみたいという思いが恐怖を打ち負かす。
「これはプレミアムなトマトジュース、飲んでもだいじょうぶ!」
「うほうほ……味がついてる。リンゴ? なんて親切な……」
予想外の事にむせまくったものの、とても甘く飲みやすい事に感謝してしまうスフレだった。危ないとか思っても口当たりがよいのでグイグイやって一気に全部飲み干してしまう。一適も余ることなくその体内に吸収されていった。
「これで変わる?」
もしかして何も起こらない? わたしはタダのバカですか? と不安になり、左手の平をFカップってふくらみに当てる。すると急に体にびりびりっと電流が走って、つぎに引き延ばされるような感覚に包まれ、おどろきながら変動する視界を目にする。グゥーっと高くなって、見慣れたモノを見つめる位置が変わったとハッキリ理解。
「う、うん?」
身に纏うモノのフィット感に小さなエラーがあるように感じたので、前もって近くに置いておいたスタンドミラーの前に立ってがっちり確認。
「お、おぉ……わ、わたし……変わってる。チンチクリンじゃない、これってパネトーネと変わらない身長。な、なんていうか……いいかも、わたしイケてるかも」
ここには誰もいないのだからという事で、素直にエヘエヘとニヤつくスフレ。生まれて初めて経験する目線にカンゲキし、少し女らしさがアップしたように思うミラーの自分に胸をときめかせる。
「こ、これって……たしか永久じゃないから元に戻ってしまうはず。だったらわたしあの赤い粉っていったいどれくらい買えばいい? ずっとこの姿でいようと思ったら、この家が埋まるくらいあの瓶を買わなきゃいけない?」
もうすでに赤い粉を肯定しており、お金の心配もするスフレだった。そしてここでハッと赤い顔で気づく。
「この姿……悠に見せてみたい……なんて言われるか……知りたい」
避けて通れない乙女心ってモノだから、スフレは胸をドキドキしながらゆっくり階段を上がり始める。そして悠に与えた部屋の前に立つと、勇気という2文字を持って右手でドアをコンコンとやる。
「悠、ちょっといい?」
「開けてもいいよ、どうしたの?」
「うん、ちょっと見て欲しいモノがあって」
言ってスフレはおちつけと自らに言い聞かせながらドアを開けて中に進む。一方の悠はベッドに寝転びながら本を読んでいた。だからその本をお腹の上に置き、スフレの方へ目を向ける。
「なに、どうしたの……って、あ、あれ? え、え、え?」
変なおどろきが大きいから悠は思わずベッドから落ちてしまう。そしてアタマを抑えながら、両膝をつけたまま顔を上に向ける。
「す、スフレ?」
「う、うん……」
「え、な、なんで? なんかいつもとちがうような……」
立ち上がった悠、目の前に立っているスフレの高さがちがう事に理解がおよばない。しかもスフレは着ている服がちょっとばっかりサイズちがいって訴えているような感じに見えなくもない。
「ちょっと変身してみたんだ」
「変身ってなに? どういうこと?」
「えっとそれは……」
これまで無視していたあやしい店に不思議に誘われ、中に入ってみたらビューティーシリーズというのが目に入り、背が高くなるという赤い薬を買って飲んだのだと、スフレは実にサックリ事情を説明した。
「そ、そんな、そういう変なのを飲むのは危ないじゃんか。そういうのってなんかスフレらしくないよ」
スフレらしくない……そう言われたらスフレは胸に少し痛みを感じた。やっぱりそう言われるかと切なくなる。しかしそれは仕方ないと横に流し、見た目変わった自分はどうなのか聞かせて欲しいと悠を見つめる。
「ど、どうって……」
「そ、その……お、お、女としてどういう風に見られるのかなぁって……」
気恥ずかしくて死にそうだと思いつつ、ここで笑ってごまかしてはそれこそ捨て身のギャグになってしまうとし、スフレはもうちょい悠に近づかんと前進。だがそこで思わずつまずいて転びそうになる。
「あぶない!」
悠が真正面から受け止めると、フワッといいニオイがする。そして2人の間に夜を甘い感じにしてみないか? 的な空気が漂い始める。
「え、えっと……」
悠が自分を落ち着かせんと大急ぎの努力を始めたら、ガンガン! と部屋の窓を叩く音がした。だから悠が赤い顔をそれに向け見てみるとドラゴンがいる。
「ちょ、ちょっと待って……」
仕方ないという事でスフレを離し、部屋のドアを開けた。すると勢いよくけむりが室内に入り込みすぐさまパネトーネという女子が登場。そして挨拶もそっちのけで歩み寄った悠の胸の辺りってTシャツをグッと掴んで声を出す。
「悠、何してんの? わたしという魅力的な女子がいるのに、なんでスフレと抱き合ったりするわけ?」
「あ、いや、そ、それはその……」
「だいたいスフレも何をトチ狂って……」
ここでパネトーネの表情が固まった。悠のTシャツをつかみながら、顔を横に向けたまま両目を数回ぱちくりさせる。
「え、え? スフレ? え、なに? なんか背が伸びてない?」
「伸びた。だって成長期だもん」
「はぁ? なにバカ言ってんの、あんた何したっていうわけ?」
パネトーネは悠から手を離すと、気恥ずかしそうに赤い顔ってスフレと向き合う。そしてこんな成長期があるわけないと、組んだ両腕を豊満なに胸に当てさげすんだ目を向けてやる。
「じ、実は……」
パネトーネはにぎやかな女子なので事情を言わないとずっとギャーギャーうるさいのは見えている。だからスフレは悠にしたのと同じ説明をくり返す。
「背が高くなる薬? なに、あんたわたしにあこがれていたの?」
「なんでわたしがパネトーネにあこがれなきゃいけないのよ」
「だってわたしの方が背は高いし美人だし、それでGカップって巨乳」
「わたしだってFカップの巨乳だし!」
スフレが言い返したとき、突然からだに妙な感覚が発生。ドキ! っとしたスフレだったが、心の中で思った通り薬の効き目が終わってしまったのだ。数字的にはたかが10cmだが、グワーッと元のサイズに戻って目線の高さが変わっていくと、しかもそれをパネトーネや悠に見られるといたたまれないキモチになってしまう。
「おぉ、元のチンチクリン」
「チンチクリンって言うな……」
「スフレはチンチクリン巨乳がいいんだって。美人で整ったナイスな巨乳ってわたしと張り合おうと思うのが大まちがいなんだって」
ハハハと勝ち誇った笑いを浮かべると、よしよしと適当に慰めんとスフレのアタマをナデナデしてやるパネトーネ。
「ふん……」
スフレはクルっと回れ右して部屋から出て行こうとする。すると悠は待って! と言ってから、スフレの背面に少し近づき感想を言った。
「これはウソじゃないんだけど、ほんとうのほんとうに真心なんだけど、スフレは今の方がすごくかわいいよ」
「べつにムリにお世辞とか言わなくてもいいよ、悠」
「お世辞じゃないよ。だって男っていうのは……」
「いうのは?」
「女の子に対してウソは言えない生き物だから」
「悠って、わたしみたいな女をかわいいと思ってくれるんだ?」
ここでスフレが振り返ると、悠は満面の笑みでもちろんだよと答えた。それは撃沈しかけていたスフレの心を浮上させるに十分なモノ。
「はいはい、そこまで!」
2人の世界なんか作るんじゃない! とばかりに、パネトーネは両者の間に割って入る。そして悠の視界を遮るように背中を向けて立ち、スフレの両肩に手をおいて気になる事を聞いた。
「スフレ、その赤い薬ってどこで買った?」
「町外れにある「なんでもあって困っちゃう屋」という名前の店だけど」
「それって他にもおもしろいアイテムとかある?」
「あると思うけど……」
「そうか、だったら今度わたしも行くよ。ドラゴン女子だってお金は貯めて持っているからね」
「パネトーネがあの店で買い物するって……ゲスな買い物しそうだね」
「まぁまぁ、そんなことよりスフレ、わたしというお客が来たんだから、早くお茶でも入れなさいって」
パネトーネはスフレの体をクルっと回転させると、背中をグイグイ押して強引に部屋から押し出し、自分も一階へと行くとする。今、この部屋には悠とスフレの2人だけにしたくない感じがあふれて気に入らないと思うからだった。
「あ、悠は休憩でもしていて、お茶が入ったら呼ぶから」
ニコっと笑ってドアを閉めるパネトーネだったが、Gカップって胸の内はあまりおだやかではない。悠とスフレが先ほど見せたあのやり取りにおける赤い顔と満面の笑み、あれは傍から見ているとビリビリに破りたいと思うモノだった。
(わたしも悠にガンガン攻め込まないとダメだね。スフレと悠が結ばれる話なんて認められるわけがないし)
スフレと共に一階へ向かう中、パネトーネは自分も何かしらのアクションで悠のハートに触れねばならないなと考えるのだった。
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