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167・キャラクターの反乱バトル11
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167・キャラクターの反乱バトル11
憂鬱。すごい憂鬱……と書矢の心が沈む。
「あぁ、小説家になりたいと思っているのに……小説がすごい苦痛。なんだよこれ、どういう事だよ」
本日午後8時、小説の続きを書こうかと思いながらやる気迷子に陥る無名作家だった。
昨日、いや、一昨日も小説のアップをサボった。なぜならアップするのに必要な原稿を書く気力がドーン! と暗闇に落ち込んだせい。
「まぁ、2日くらいサボってもいいだろう……」
ベッドに寝転がり投げやり的に天井を見上げる。
「売れるための小説を書いていたら友人に批判され、家に雷が落ちたら小説のキャラが出てきてあれこれイチャモンつけてきやがった。おかげでもう小説がグチャグチャ。なんだろう、好きでやっている事のはずなのに苦痛。小説書きたいと思うのに、一番やりたくない事がそれ! という感じで苦痛」
高校生男子みたいにブーブー垂れまくっていたが、今日も執筆は中止だ、ゴロゴロしてしまえ! と眠気に敗北しそうな両目を閉じようとした。
「ん?」
眠そうな面を机の上に向ける。するとどうだ、電源を切っているはずのパソコン画面が急に明るくなる。
「また誰か出てくるのかよ……アデリーヌ? それともビアンカ? あるいはカルロス?」
今は相手にしたくないなぁと大きなアクビをした。しかし最初に出てきた右腕を見たら誰だ? と思い、次いで顔が出てきたら眠気が飛んだ。それは初めて出てきた奴だったからだ。
「ブルーノ!」
そう、いま出てきたのはブルーノだ。書矢が連載している小説に登場するキャラ。よくある大男で脇役だが性格はよくマジメ。ビアンカに密かな想いを寄せているみたいな薄っすら設定もある。
「うむ……」
ブルーノが部屋の床に両足を下ろし立つ。そうして天井やらカベをグルっと見渡してから、ベッド上で青ざめている書矢と目を合わせる。
「作者か?」
「そ、そうだけど……」
「話がしたくてやってきた。一方的で申し訳ないが、断らないでいただきたいと思っている」
ブルーノに言われ書矢は内心焦りまくる。なぜブルーノが出てきたのか? そしてこのキャラが何を言いたいか察しがついているからだ。
「わ、わかった。まぁ座れ」
おれは作者で神であり、ここはおれの部屋だ! という事で、書矢は命令調で指示。そうして共にあぐらで向かい合う。
「作者、名前は?」
「お、おれは書矢」
「書矢、最近小説の更新が止まっているように思うが……」
「止まっているって言うほどじゃないだろう、まだ2、3日程度だ」
「ふむ、では言い方を変えよう。小説の続きは書いているのか?」
「今は休憩中だ」
「だったら言おう、ひとつ、是非とも書いて欲しいエピソードがある。それはわたしがビアンカに謝罪し、ビアンカがわたしを許すという内容だ」
「な、なんだって?」
「書矢……おまえはこのわたし、ブルーノというキャラにドロを塗った。崇高なブルーノという男に汚名を着せた。それ許しがたい、いまここで書矢の顔面を右こぶしで打ち砕きたいほどだ」
「ぅ……」
書矢、以前にて外道な展開を書いた。敵の悪い魔法を食らったブルーノがトチ狂い、ビアンカに殴る蹴るをやって気絶させたあげく、ちょっとだけ爆乳ってふくらみを揉んだりしたこと。
「よくもあんな展開を書いたな……よくもこのブルーノにあんな役をやらせてくれたな。よりにもよって想い寄せるビアンカに対して……」
よっぽど怒っているらしく、ブルーノがググググっと右手を握っている。小説の中で登場するブルーノ驚異の右ストレートを出されたら、書矢が大ケガする事は避けられない。
「だ、だが……ブルーノ」
「なんだ?」
「気絶したビアンカに対して外道ファックな事はさせなかっただろう。最初はそれをさせるつもりだったんだぞ。だがその案は没になった。だったらおまえはおれに感謝するべきだ。それをなんだ、キャラの分際で怒りを神にぶつけようなどとおこがましい」
「書矢……貴様は……」
ブルーノがプルプル震える。だがここで書矢は立ち上がり両手を握りつよい口調で言ってやる。
「甘ったれるなブルーノ、おまえは人生を舐め過ぎだ!」
「なに? なんだと?」
「いいか! この世の誰もみんな、男も女も大人も子供も例外なく苦労しているんだ。自分がまったく予期していなかったトラブルや不幸と戦う事だって日常茶飯事。みんなそれを耐えている。表には出さないが、見えない所で泣いたりしながらも苦悩を乗り越えているんだ。そう、みんなそう、このおれもそう。それからするとブルーノ、おまえは甘ったれのくそったれだ、何がキャラに汚名を着せられただ、その程度の事で作者にたてつくなど、おまえが人生の苦悩と向き合っていない証拠。おまえみたいな甘ったれがプライドなどと主張する権利はない、わかったか!」
ハァハァとやる書矢だったが、その正論は一応ブルーノを黙らせる事に成功した。だがもうちょい攻めておかないと危ないだろうって事で、書矢は腕組みをするとクルっと回れ右をし残念だなぁという口調でつぶやく。
「ブルーノ」
「な、なんだ書矢」
「おまえはマジメだ、いい男だ、だからいずれはシアワセにしてやろうと思っていた。ビアンカとおまえが結ばれる展開を書いてもいいと思っていた。だがいまのおまえって甘ったれには失望した。だからおまえをシアワセにしてやりたいって神の心も失せたわ」
「う……」
ブルーノが詰まった。やったぜ、ざまーみやがれ! と思う書矢だが、ここで露骨に喜ぶとブルーノが怒るだろう。だから態度は変えず、あえて神の理解力というのを示す事とする。
「だが……ブルーノ」
「な、なんだ?」
「たしかに、おまえのつらいキモチもわかる。だから約束しよう。近いうちに何らかの形で、ビアンカとおまえが会話しビアンカがおまえに怒ってはいないという展開を入れよう」
「ほ、ほんとうか? ほんとうにそうしてくれるのか?」
「これは神の情けだ」
「かたじけない、書矢!」
ブルーノは書矢を見ながら形を変えて座礼した。これでだいじょうぶだなと書矢は内心ホッとするばかり。
「ふぅ……」
ブルーノが姿を消すと巨大な緊張感が一気に解けた。超大げさにいえば戦場から帰還したみたいに心身からきつい縛りが消える。
「あぁ……小説っていったいなんだろう。おれ……小説家になりたいと思うから執筆活動しているのに、なんか本来の目的とズレているような気が……これでも小説が成功につながったらいいけど……つながるかこれ? おれ、ムダな努力をしているような気がしてならない」
まったくかったるいぜ……と思うし眠気もある。だがブルーノとの約束を守らなかったら、画面破壊を食らいそうだとマジで怖くなるからして、予定外のエピソードを作成開始。
ビアンカとブルーノが2人っきりになるシーンが出てきて、ブルーノが以前の事を許して欲しいとつぶやいたら、そんなの気にしていないわよとビアンカが言う……というシーンを書いていく。
「いっそ……互いにキモチが盛り上がったからって事で、行きずりの屋外セックスとかさせてみようか……」
一瞬、実に作家らしい誘惑に駆られてしまった。しかし……ビアンカもブルーノも、それをさせると激怒では済まないはずだ……と恐怖する。だから結局、ビアンカがブルーノを許すというだけの内容にとどまった。でもそんな大した事のない内容なのになぜか苦労し、書き終えるのに3時間もかかってしまった。そして書矢は天井を見上げながらつぶやく。
「なんか……クソな映画を見て疲れる3時間と似ているような気がするなぁ」
憂鬱。すごい憂鬱……と書矢の心が沈む。
「あぁ、小説家になりたいと思っているのに……小説がすごい苦痛。なんだよこれ、どういう事だよ」
本日午後8時、小説の続きを書こうかと思いながらやる気迷子に陥る無名作家だった。
昨日、いや、一昨日も小説のアップをサボった。なぜならアップするのに必要な原稿を書く気力がドーン! と暗闇に落ち込んだせい。
「まぁ、2日くらいサボってもいいだろう……」
ベッドに寝転がり投げやり的に天井を見上げる。
「売れるための小説を書いていたら友人に批判され、家に雷が落ちたら小説のキャラが出てきてあれこれイチャモンつけてきやがった。おかげでもう小説がグチャグチャ。なんだろう、好きでやっている事のはずなのに苦痛。小説書きたいと思うのに、一番やりたくない事がそれ! という感じで苦痛」
高校生男子みたいにブーブー垂れまくっていたが、今日も執筆は中止だ、ゴロゴロしてしまえ! と眠気に敗北しそうな両目を閉じようとした。
「ん?」
眠そうな面を机の上に向ける。するとどうだ、電源を切っているはずのパソコン画面が急に明るくなる。
「また誰か出てくるのかよ……アデリーヌ? それともビアンカ? あるいはカルロス?」
今は相手にしたくないなぁと大きなアクビをした。しかし最初に出てきた右腕を見たら誰だ? と思い、次いで顔が出てきたら眠気が飛んだ。それは初めて出てきた奴だったからだ。
「ブルーノ!」
そう、いま出てきたのはブルーノだ。書矢が連載している小説に登場するキャラ。よくある大男で脇役だが性格はよくマジメ。ビアンカに密かな想いを寄せているみたいな薄っすら設定もある。
「うむ……」
ブルーノが部屋の床に両足を下ろし立つ。そうして天井やらカベをグルっと見渡してから、ベッド上で青ざめている書矢と目を合わせる。
「作者か?」
「そ、そうだけど……」
「話がしたくてやってきた。一方的で申し訳ないが、断らないでいただきたいと思っている」
ブルーノに言われ書矢は内心焦りまくる。なぜブルーノが出てきたのか? そしてこのキャラが何を言いたいか察しがついているからだ。
「わ、わかった。まぁ座れ」
おれは作者で神であり、ここはおれの部屋だ! という事で、書矢は命令調で指示。そうして共にあぐらで向かい合う。
「作者、名前は?」
「お、おれは書矢」
「書矢、最近小説の更新が止まっているように思うが……」
「止まっているって言うほどじゃないだろう、まだ2、3日程度だ」
「ふむ、では言い方を変えよう。小説の続きは書いているのか?」
「今は休憩中だ」
「だったら言おう、ひとつ、是非とも書いて欲しいエピソードがある。それはわたしがビアンカに謝罪し、ビアンカがわたしを許すという内容だ」
「な、なんだって?」
「書矢……おまえはこのわたし、ブルーノというキャラにドロを塗った。崇高なブルーノという男に汚名を着せた。それ許しがたい、いまここで書矢の顔面を右こぶしで打ち砕きたいほどだ」
「ぅ……」
書矢、以前にて外道な展開を書いた。敵の悪い魔法を食らったブルーノがトチ狂い、ビアンカに殴る蹴るをやって気絶させたあげく、ちょっとだけ爆乳ってふくらみを揉んだりしたこと。
「よくもあんな展開を書いたな……よくもこのブルーノにあんな役をやらせてくれたな。よりにもよって想い寄せるビアンカに対して……」
よっぽど怒っているらしく、ブルーノがググググっと右手を握っている。小説の中で登場するブルーノ驚異の右ストレートを出されたら、書矢が大ケガする事は避けられない。
「だ、だが……ブルーノ」
「なんだ?」
「気絶したビアンカに対して外道ファックな事はさせなかっただろう。最初はそれをさせるつもりだったんだぞ。だがその案は没になった。だったらおまえはおれに感謝するべきだ。それをなんだ、キャラの分際で怒りを神にぶつけようなどとおこがましい」
「書矢……貴様は……」
ブルーノがプルプル震える。だがここで書矢は立ち上がり両手を握りつよい口調で言ってやる。
「甘ったれるなブルーノ、おまえは人生を舐め過ぎだ!」
「なに? なんだと?」
「いいか! この世の誰もみんな、男も女も大人も子供も例外なく苦労しているんだ。自分がまったく予期していなかったトラブルや不幸と戦う事だって日常茶飯事。みんなそれを耐えている。表には出さないが、見えない所で泣いたりしながらも苦悩を乗り越えているんだ。そう、みんなそう、このおれもそう。それからするとブルーノ、おまえは甘ったれのくそったれだ、何がキャラに汚名を着せられただ、その程度の事で作者にたてつくなど、おまえが人生の苦悩と向き合っていない証拠。おまえみたいな甘ったれがプライドなどと主張する権利はない、わかったか!」
ハァハァとやる書矢だったが、その正論は一応ブルーノを黙らせる事に成功した。だがもうちょい攻めておかないと危ないだろうって事で、書矢は腕組みをするとクルっと回れ右をし残念だなぁという口調でつぶやく。
「ブルーノ」
「な、なんだ書矢」
「おまえはマジメだ、いい男だ、だからいずれはシアワセにしてやろうと思っていた。ビアンカとおまえが結ばれる展開を書いてもいいと思っていた。だがいまのおまえって甘ったれには失望した。だからおまえをシアワセにしてやりたいって神の心も失せたわ」
「う……」
ブルーノが詰まった。やったぜ、ざまーみやがれ! と思う書矢だが、ここで露骨に喜ぶとブルーノが怒るだろう。だから態度は変えず、あえて神の理解力というのを示す事とする。
「だが……ブルーノ」
「な、なんだ?」
「たしかに、おまえのつらいキモチもわかる。だから約束しよう。近いうちに何らかの形で、ビアンカとおまえが会話しビアンカがおまえに怒ってはいないという展開を入れよう」
「ほ、ほんとうか? ほんとうにそうしてくれるのか?」
「これは神の情けだ」
「かたじけない、書矢!」
ブルーノは書矢を見ながら形を変えて座礼した。これでだいじょうぶだなと書矢は内心ホッとするばかり。
「ふぅ……」
ブルーノが姿を消すと巨大な緊張感が一気に解けた。超大げさにいえば戦場から帰還したみたいに心身からきつい縛りが消える。
「あぁ……小説っていったいなんだろう。おれ……小説家になりたいと思うから執筆活動しているのに、なんか本来の目的とズレているような気が……これでも小説が成功につながったらいいけど……つながるかこれ? おれ、ムダな努力をしているような気がしてならない」
まったくかったるいぜ……と思うし眠気もある。だがブルーノとの約束を守らなかったら、画面破壊を食らいそうだとマジで怖くなるからして、予定外のエピソードを作成開始。
ビアンカとブルーノが2人っきりになるシーンが出てきて、ブルーノが以前の事を許して欲しいとつぶやいたら、そんなの気にしていないわよとビアンカが言う……というシーンを書いていく。
「いっそ……互いにキモチが盛り上がったからって事で、行きずりの屋外セックスとかさせてみようか……」
一瞬、実に作家らしい誘惑に駆られてしまった。しかし……ビアンカもブルーノも、それをさせると激怒では済まないはずだ……と恐怖する。だから結局、ビアンカがブルーノを許すというだけの内容にとどまった。でもそんな大した事のない内容なのになぜか苦労し、書き終えるのに3時間もかかってしまった。そして書矢は天井を見上げながらつぶやく。
「なんか……クソな映画を見て疲れる3時間と似ているような気がするなぁ」
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