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160・キャラクターの反乱バトル4

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160・キャラクターの反乱バトル4


「わ、わかった……要求に応じる」

 書矢はアデリーヌに負けてしまった。

「ほんとう? もしウソを吐いたら、後で首を斬りに来るからね?」

 怖い事を言いながらアデリーヌは服を着直す。そのとき、バストを出した自分を押し倒したりしなかった書矢をホメた。けっこう理性があるんですねとか言って。

「いや……ほんとうを言うと試しパイズリくらいはしたいと思った……」

「ゲッ……」

「自分の作ったキャラだと思ったら……なんか悩んでしまったというか」

 ポリポリっと頭をかく書矢が見つめる中、かきながらパソコンの中に戻っていくアデリーヌだった。

「ん……どうするか……ほんとうにやるのか……いっそ約束なんか破ってしまえ! と言いたいけれど、首を斬りに来るとか言ってたしなぁ……」

 部屋の床にかがみ込み、大げさなようで全然大げさじゃないと両手で頭を抱え苦悩する無名作家だった。

―そうして翌日―

「やるか……やるしかない……アデリーヌとの約束を守るしかない。ま、まぁ、これがうまくいくかもしれないもんな。意外と読者の反応がよいって事が起こるかもしれないしな」

 そんなつぶやきをしてから、書き換えた小説をアップ。アップボタンを押すときはほんとうに手が固まった。なぜってそれはかなり大変な修正を盛り込んだから。

 小説の主人公はカルロスという男。そのカルロスは無敗の無双という無難レールに乗せていた。本来はそれで書き上げていた。だが修正したモノだとカルロスが負けてしまう。これはアデリーヌの提案を採用したためだ。カルロスが魔物に負けて意識不明となり、しばらくの間はアデリーヌが無双の戦士になるという流れ。

「だいじょうぶ……おれの小説……今はPVもユニークもブックマークもレビューもすごいレベル。ちょっとくらい無難じゃない展開にしたってだいじょうぶ。むしろ評価してくれるはず……たまには思い切った事をやってみるのもいいですね! って拍手してくれるはず」

 そう思って送信完了。そうして読者がどんな反応を示すのか、9割型は壮絶な恐怖を感じながら、1割の期待感を持ってしばらく待った。

―そうして数時間後―

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 許される範囲の大声で絶叫する書矢がいた。両手で頭を押さえ、部屋の真ん中に立って天井を仰ぐ。

「ぶ、ブックマークがごっそり減ってる……」

 机上のパソコン画面が示すのはまずそれだった。同じ無名作家でも、まったく相手にされない者からすればすごい数字をキープしている。だが今の書矢にしてみれば、10万ブックマークが6万になるとは大災害に直面したのと同じ。

「う、ウソだろう……い、いきなりマイナス4万とか……」

 ハァハァ……と苦しそうに呼吸しながらイスに座る。見てみればPVにユニークの数は今のところだいじょうぶ。ではレビューはどうか? 新着レビューというのが数十件あるので、作者としては無視するわけにはいかない。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 再び立ち上がったら、今度は部屋の壁に頭をガンガンぶつける。もう心臓が破裂して発狂死にしそうだった。レビューを見てみると、一応ひとつだけ……ほんとうにひとつだけ好意的なモノがあった。

―お、意外な展開ですねぇ。個人的にはありきたりより面白いと思うので、今後の展開に期待しますー

 これは書矢の心を心底ほっとさせた。だが他のはすべて怒りに燃えていた。餌を取り上げられ腹を立てる猛獣みたいだった。

―おい、こらふざけんなよ。なんで主人公が負けるんだよー

―変な展開にするな、読むの止めるぞー

―主人公が負けるんだったらさぁ、前書きで報告しろよ。負けるとわかっていたら読まなかったつーんだよボケ!-

―慢心ですね。ちょっとチヤホヤされたからっていい気になって。読者が何を求めているか考え初心に戻るべきですー

 他にもいっぱい非難ゴーゴー! もはやあたらしいのを好む感じがどこにもない。古いモノから離れられない老いた読者ばかりだと怖くなる。

「や、やば……」

 これはまずい、これでは書籍化が遠のくぞ! と思った。しかし敗北して意識不明となったばかりのカルロスを、実は冗談でした! という子ども展開にするとカンペキ見捨てられてしまう。

「実は意識不明とかじゃなかった、死んだふりが作戦だったという展開にするか? それなら読者をびっくりさせたってオチで済む。そう、次の話でそうすれば間に合うんだ」

 さっそく次話の作成にとりかかろうとパソコンのキーボードに手を置く。しかしここで思い出す。

「あ……でも……カルロスが意識不明にならなかったら、アデリーヌとの約束を果たせない……首を斬られてしまう」

 どうする? とひとりはげしく悩んだ。アデリーヌは自分が作ったキャラでひたすら従順な女子と思っていた。だがおそらくはあの落雷だ、あの落雷で生命をと自我を得たと同時に、作者が思うのとはちょっとちがう性格になってしまったということだ。

「だったら……ほんとうに首を斬られるかも……」

 読者離れが怖いからアデリーヌとの約束を破るか。おれは読者に媚を売らない自分の世界をつくるんだ! という美意識でアデリーヌとの約束を守った展開を書くか……どうするか!

「ハァハァ……どうする、どうすればいいんだよ……どうすればいいんだ、どうすればいいんだよぉ!!!!!」

 部屋の床をゴロゴロ転がり苦悩。親が見たらドン引きするような姿であるが、同じ無名作家が見たのであれば、わかる……と同情してくれるのかもしれないってサマ。

 しばらくして散々発狂して疲れたので、床に寝転がったままテレビのリモコンを手に取る。そうしてうつろな目をテレビ画面に向ける。そうしたら次のような番組が、なんとまぁいいタイミング! という感じで流れていた。

―人に媚びを売らない生き方に挑戦し続ける若者たちー

 マンガ、音楽、イラスト、そして小説……などの世界で、受け手に好かれる事しか考えない生き方はイヤだと奮闘する人たちのドキュメンタリーだった。そして全然知らない他人たる若者がこんな事を語る。

「最初は媚びないと不安だったんですけど、でもほら、媚びてやっていたら、いったい何のためにやっているんだろうって思ったんですよ。だって、好きで始めた事なのに、それが奴隷みたいになるっておかしいですよね。だから嫌われてもいいから己の信念を貫こうって、そういう風に決めたんです」

 来た……ブッ刺さった。心が不安定で弱っている時だったからか、見事なまでに書矢の心に一本のドスが突き刺されてしまう。

「嫌われてもいい……か……好きで始めた事なのに……か」

 これは大げさだと自ら思ったが、ここでは感情が高ぶってしまった。だから不本意だとしても、目からツーっと涙を流す無名の小説家であった。
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