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65・友情を壊した女が憎い1

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65・友情を壊した女が憎い1


「おまえには言っておこうと思って」

 1年前のある日、突然に大親友が打ち明けた。夕焼けが印象的な放課後の教室内において、彼女が出来たとか少年に言ったのである。

「か、彼女?」

 巡上太一(じゅんじょうたいち)は一瞬脳の一部にエラーが生じたと思った。なぜならそれはまったく予想していなかったことを通り越し、夏に雪が降るなんてありえないから考えた事もないと同じだったのである。

「いいよ」

 大親友である英(ひで)が言うと、教室のドアがガラっと開いた。そして入ってきたのはとなりクラスに生息する女子の一人、中2ながらもすごい巨乳ってユッサユッサが目立つ戸泉華夜(こいずみはなよ)だったのである。

「えぇ……波多野、戸泉とつき合っていたのか?」

 太一の胸に信じられないってキモチが沸き上がる。

「あぁ、1か月くらい前から……悪いな、気恥ずかしくて言いにくかったんだ。でも大親友には報告しなきゃいけないと思って」

 波多野英、ハハっとテレくさそうに笑いながら、戸泉華夜のやわらかそうって肩に手を回し2人でいっしょにピースしたりする。

「い、1か月前……から?」

 太一にガツン! とぶっ太い衝撃がぶつかった。なぜなら太一と英はただの親友ではない。小学1年生の頃よりの大親友である。どのくらいの友情かといえば、英がいるなら他のやつとの友情はべつに無くてもいいと思えるほどだった。そして実際、太一は他の奴やつとの友情をあまり大事にしておらず、究極の相棒と思う英さえいえればよかったのである。だからして1か月も異変に気づかな事というのは、知らない内に領土を侵略されたようなショックを受けるにつながる。

「3人で帰らないか」

 英がそう言った。となりの戸泉華夜が色白ふっくらな顔でにっこり微笑んだりした。それを見た太一はかってない屈辱を味わってしまう。

―突然……友情が消えたー

 太一は表立って拗ねたり怒ったりはしなかったが、2人の間におこぼれとして存在するのはみじめだと思ったゆえ、おれは帰ると言ったついでにエールを送ってみた。

「お二人とも幸せに」

 それは10%くらいは本気で言ったかもしれないが、90%くらいは皮肉的に放った言葉。

「サンキュー、やっぱり持つべき親友だ」

「じゃぁね、巡上くん」

 これが1年前に生じた不愉快な出来事。まるで根性の悪いきつねにつままれたようなキブンにさせられたと日記に書かずにいられなかった。

「1か月……1か月も……戸泉とつき合っていたのに、なんで気づかなかった。なんでおれは波多野があの巨乳にヘロヘロしているって気づかなかった? おれと波多野は大親友だろう、どうして気づかない、こんな事ってあって言い訳がないだろう!」

 その日の夜、初めて腹立たしいという理由で部屋の壁にパンチを当てたりしてしまった。そしてこうもつぶやいた。

「いや……すぐ別れるはず……中学生の恋愛なんて長続きしないってえらい先生が言っていたもんな。そ、それに……いくら戸泉が巨乳とかいっても、いくらなんでも中2でセックスとかできるわけがない。だから結局、つき合っても思ったほど楽しくないって流れになって破局するはず」

 そう考えてみると高ぶっていた怒りを沈められた。そしてこれは波多野に生じた気迷いなのだから、少しの間は許してやるしかないと考え、恋にやぶれた友人が自分に戻ってきたら温かく迎えてやろうとも考えた。

 が……しかし……それから1年というのは、太一の心が淋しくなるばかりだった。英は一応友情も忘れたくないと思っているように見受けられたが、明らかに戸泉華夜って巨乳女子に心の99%を奪われている。

(く……)

 3人で話をする……波多野英と戸泉華夜の間に入って会話する。これは一見すると恋と友情の両立がもたらすほほえましい3人みたいに見えなくもない。実際に周囲の者たちはそういう風に見ていたし、3人にしかわからない精神のつながりで平和的に過ごしているのだろうと勝手に思っていた。でも太一はすこぶるさみしく、そして耐え難い屈辱を味わい続けていた。なぜなら自分だけハミ出しモノであり、友情を失った哀れな存在であったから。

「なぁ、太一」

 中2のあの日から1年が経過したある日のこと、10分休憩という時間において英が話しかけてきた。一秒でもあれば戸泉とべったりしたがるくせに、何の用があるんだ! と腹を立てつつ、英だけで話しかけてきたって事実がちょっとうれしかったりした。

「な、なんだ?」

「おまえ好きな女とかいないの?」

「い、いないけど?」

「いやぁ、おまえにも彼女がいたらいいのになぁって最近思うんだよ。なんならさ、華夜を通して女を紹介してやろうか?」

 なんという事だろうと太一は思った。大親友に見下された……と思った。そして以前の波多野ならそんな事は言わなかったはずとも思い、女はここまで男子を狂わせるのかと驚いたりもした。

「いらない。好きな女とかいないし、っていうか女になんか興味ない」

「えぇ、興味ないって……あっちの人か?」

「ちがうよバカ、おれは一人の男子として誇り高く生きたいと思うだけだ」

「ぷっ、なんだよそれ……まぁ太一が言いそうな事って気はするけど」

 英は軽く笑った後、女の子はいいものだとなどと言い出す。男の友情なんかアウト・オブ・眼中! とさりげなく訴えているような目が印象的。

「ど、どういう風にいいんだ?」

 聞きたくない……と思いつつ聞かずにいられない哀しさ。

「やっぱりかわいいしな、やさしくしてもらえるとグッと来るから、あぁ、おれがこいつを守りたいと思う」

「く……」

「それに……」

「それに? なんだよ、言えよ」

「いやぁ、大それた事はしていないけどさぁ、でもちょっと密接とかするといいニオイがフワッとして最高なんだよ。それにその何だ……やわらかくてキモチいいっていうのもあるしな」

 ハハハっとテレて笑う英の顔には、太一が相手だから言えるんだという感じが浮かんでいた。しかし聞かされた太一は決してたのしくない。むしろ英が堕落したと思ってすこぶる腹が立った。

(こ、こいつ……こんなにバカだったか? ちがう……波多野はこんなキャラじゃなかったはず。すべてあのクソ女、戸泉華夜とかいう巨乳のせいだ。それのせいで波多野が狂ったんだ)

 このとき太一は生まれて初めて女子が憎いと思った。だから出来るだけ2人の間には入らないようにし始める。そのキモチを太一は日記にこうつづった。

「あの2人の間に、2人の友人という立ち位置で参加するのはものすごい苦痛。人として根底からバカにされているような気がして耐えられない。いつになったらあの2人は破局するんだ、おれはそれを待っている。どっちがどうとか関係なく破局し、以前の波多野が復活して戻ってくるのを待っている」
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