息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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57・いじめられっ子、フュージョンで逆襲せよ1

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57・いじめられっ子、フュージョンで逆襲せよ1


 本日はずっと雨が降っている。空は濃い灰色でシトシト泣き続け、冷たい空気を無慈悲に感じさせる。

(……)
 
 〇〇高校の校舎内は明るい、そして温かい。昼休みだからにぎわいもあ。それなのにひとりの少年は、あえて自分から自分が見捨てられるような所へ向かって歩く。行きたくない、誰か助けて……などと思いながら、自らの足は止められず講堂の裏側にたどり着くのだった。

「よぉ悲思惟(かなしい)遅かったなぁ」

 講堂の裏側に先着していた数人の内、いかにもというオーラを立てる一人がつぶやき勤に歩み寄る。

「ご、ごめん……」

 悲思惟勤、もはやすっかり癖になってしまったすぐ謝るを行動に出す。オドオドした震える隠す事ができないので、せめてと顔を下に向ける。

 するとどうだろう、突然にボス! っとイヤな音が鳴る。うぐ! っと声をこぼした勤がたまらず痛みいっぱいな腹に手を当てようとすれば、井時目垂矢(いじめたれや)は勤の前髪をグッとつかむ。それからゴン! っとすごい音がするヘッドバッドを顔面に食らわせた。

「あぅ……」

 それはそれはひどい衝撃ゆえ、目の前がクラッとなる勤。

「あぅ、じゃねぇよ……金は?」

 言ってグッと勤を突き飛ばす。すると押された方はミジメに背中をつめたい壁に当ててへたり込む。

「おめぇは女の子かよ、気色悪い反応してんじゃねぇぞ」

 垂矢、勤の肩をグッと足で踏み込む。

「わ、わかってるよ……いますぐ出すよ」

 言って、足をどけてもらって立ち上がる勤だった。ブレザーの内ポケットに手を入れ封筒を出す。それは一見薄いようでありながら、高校1年生が苦も無く差し出せるような数字ではない。

(でも……いいんだ……)

 勤は感情を外へ出さないようにして心の中でひとり納得する。相手に抵抗する事ができない以上、いかに受ける苦痛を減らすかが重要。そのためなら従順なしもべになるが吉とする。しかし今日はこれで話が終わらず、もうちょい続きがあった。

「なぁ、悲思惟よぉ、前から思っていたんだけどよぉ、おまえって感情がないのか?」

 垂矢は封筒を胸ポケットにしまうと、明らかにおびえているのに、出来るだけ能面的な表情であろうとする勤を見る。

「無感情な面してるよなぁ、おまえって。ほんとうに人間? もしかして前世は人になれなかった人形とか?」

 垂矢は勤をからかい挑発した。自らがイジメておきながら、無抵抗な相手をクソ野郎と罵る。そして相手が怒りの反応を見せようものなら、それをつまみに暴力を振るおうと考えている。

 しかし勤は無感情的フェイスを崩さない。何を思っているのか、何を考えているのか、すべて相手に読み取られないよう最大の技を使っているような顔を垂矢に見せ続ける。

「ぷっ!」

 垂矢の口からつばが飛んだ。それは汚いモノである。たとえ路上のコンクリートであっても、そんなモノをつけられたらやめろと怒るだろう。だが勤はそうではない。
 べちゃ! っと汚いモノが頬についたとき、ほんの一瞬はドキッとしたように見える。しかしおどろいたことに、それでも感情こもった反応は起こさなかった。何ら変わりなく無表情でポケットティシュを取り出すと、何も言わず汚らしい流れを拭き取るだけ。

「なんなんだよ、おまえは、おらおら、なんか言えよ、一回くらい歯向かってみろよ」

 垂矢は勤のケツを蹴る。このケツを蹴るというのは、蹴る側にとっては相手を見下す爽快感を得られる行為。しかし蹴られる側にとっては、足やら横腹を蹴られるのとは比較ならない屈辱ゲーム。たまらなくみじめで死にたくなる。だがそれでも勤は表情を変えず、かといってここから猛ダッシュで逃げるような事をするわけでもなく、ほんのり傷ついているようにふるまいながらケツを蹴られる事に甘んじる。

「弱虫パーンチ!」

 ふざけた声の垂矢が右ストレートを相手の顔面にぶち込む。そうすると殴られた側はブワっと鼻血が噴き出し、地べたにうずくまる。垂矢およびその仲間達はケラケラと笑う。誰一人としてそれはやりすぎだ! なんて言う事はなかった。それどころか追撃のようにバカにした事をあれこれ相手に浴びせる。

「こいつ大人になってもこんな感じなのかな」

「家でメソメソやってるんだろうか」

「卒業式の日に死んだら劇的じゃね?」

「多分、おれたちがいなくなったらうゎーん! って泣き出すんだぜ」

 ハハハハハハハっと飛び交う数人の笑い声。しかし金を奪い取りプライドをいたぶったことで有り余るエネルギーを少しは使ったとし、面々はこの場を去ることにする。

「今日はこのくらいでカンベンしてやるよ。でもしばらくしたら金がいるから、それまでに用意しておけよ」

 垂矢が吐き捨てて仲間を連れて去っていく。するとどうだ、今まで耳に入っていなかったのがウソみたいな大きい雨音が生々しく聞こえ始める。

「よかった……制服は汚さなくて済んだ」

 鼻血というモノで汚すのは自分の手だけ、それを良しとした勤、すぐ近くにある水道で顔を洗う。自分は悪い事をしたわけではない、むしろ被害者だというのに、罪悪感めいたモノを持つ。だから殴られたとか知られたくないとし、必死になって血の跡やらをきれいに流し落とす。

「ふぅ……」

 雨が降っている。そのつめたく寒い事実を見つめながら、壁を背中にして座り込む。そして勤はこう思うのだった。

(なんとか今日の苦痛を耐えしのいだ)

 毎回いつも彼はそう思う。それで終わったという事はなく、少しすると必ずまたいたぶられる。バカにされ辱めを受け金を取られる。それは永遠に続くのだろうと心の奥底で思っているのに、直面する痛みが終わると少しホッとしてしまう。だからこの少年は心の深い奥底で甘い期待を抱く。あの連中のイヤがらせは、そのうちヤメてくれるだろうと。

(うん?)

 ここでスマホに振動が発生。なんだ……と少し不安になって取り出しディスプレを見て見た。すると母がラインでメッセージを送ったらしい。そして勤はその通知画面を見た瞬間、ドーン! と苦しさに落ち込む。

―今日は大事な話がしたいから、学校が終わったらすぐ帰ってくるようにー

 母から来たこのメッセージが何を意味するか、他の誰より勤が一番よく知っている。

 高校1年生の勤が毎度数万円をサクッと用意できるはずがない。だから親、主に母の財布から抜き取る。そのときのキモチというのはおぞましく、母に対する裏切り感で胸が張り裂けそうになる。だがそれでもいじめられないためには、母が気づいているだろうとわかっていても繰り返すしかなかった。

「家に帰りたくない……」

 切な気な声が地面に向かってこぼれた。あと数時間後に帰宅という絵を思い浮かべたとき、母と対面するシーンが恐ろしくてたまらない。しかし彼はここで大急ぎで考え始めた。この悲惨な出来事をどうやって伝えようか? ではなく、どうやってウソを吐こうかと。

「母さん……」

 おれってサイテーと思いながら、どういうウソを吐けば親を納得しごまかせると詐欺師まがいな事を考える。なぜなら被害者であるはずの勤にとってみれば、自分がイジメられているって事実がバレるのはあまりにも恐ろし過ぎた。それを望んでいるからこそ、とてつもなく怖くなる。よってまったく不要な心のガードを立て、味方になってくれるであろう親に対してウソを言わねばならないウソを放つということは被害者である自分が罪のすべてを引き受けるという、この上なくバカらしい事だとわかっていても。
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