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25・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男2

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25・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男2


「いらっしゃいませ」

 店内に入った男に対して数人の店員やら職人がにぎやかに言う。一人に浸りたいと思う男にとっては都合良く空いているのでカウンターに腰かける。

「あ、ちょっと」

「はい、いらっしゃいませ」

「赤だし、あさりでひとつ」

 注文した。それで何事もなくと思っていた。しかしフッと顔を横に向けて店員を見たとき、思わず全身が痙攣しかけてしまう。

(え、え、え……)

 秀樹が横目で見続けるその女店員、エプロンがユッサユッサと揺れ動く大変にグラマーな爆乳さんというのは、あのショートヘアーと顔の特徴というのは、一瞬にして男の中にある記憶と結びついた。

(あ、天野……みちる……)

 ちがう、そうかも、ちがう、そうかも……とルーレットを心の中で回した結果、その店員が仕事で発する声を聞いたりした結果、考えれば考えるほど疑う余地がなくなっていくのだった。

「おまたせしました」

 先と同じ店員が注文の品を持ってきた。まっすぐ座りつつ、ほんのちょっと体を傾けるとき目も同じ方向に向ける。ボワーン! と揺れるエプロンとユニフォームに包まれたすごい豊満なふくらみ。動画だったら一時停止をして長々と見つめたいと思う一瞬の絵。しかし秀樹はここであえて顔を動かす。

「ごゆっくり」

「あ、あぁ……」

 いまたしかに目が合った。そして相手の顔をハッキリ見て、まちがいなく星野みちるだと思った。でも相手の方には秀樹が誰かわからないのか、赤の他人を見ている目そのものだった。

「1年間同じクラスだったのに……っていうか、1年……つき合ったわけでもないから覚えてもらえないって事か……こっちはバカみたいな感情いっぱいで覚えているというのに」

 皿を取り寿司を食い赤だしを啜り時々緑茶を飲んで味わうものの、頭の中は星野みちるという女の事しかない。

(声をかけても……いいよな)

 非モテ、青春の残りカス、砕けた心の残骸、そういう要素がまとまり一つになると、声をかけずにはいられないと彼は思う。しかし食事を終え、キモチを落ち着かせるというためにも行ったトイレから戻ってくると、天野みちるが仲間たちに対してお疲れ様ですと言う姿が映った。これはマズいと動きかけたものの、店員専用という所へ行ってしまっては追いかけられない。

(いや、出てくるのを待てばいいんだ)

 気を取り直した秀樹、足早にレジへ向かうとすばやくお会計を終えて外に出た。そして店を眺めながらグルっと歩いてみて、従業員の出入り口はあれでないか? と思うことができた。

「天野みちる……天野みちるか……」

 心臓が過剰にドックンドックンと鳴る。こうなると以前と比較すれば滅多に吸わなく杏ったタバコの力を借りたくなる。

「ふぅ……」

 夜風に煙が乗っかるとき、なんとうまい一本だろうと心底しびれた。それは食後だからどうのではなく、異常なまでの緊張をきれいに沈めてくれるせい。

 するとガランと音がしてドアが開く。そして私服姿のすごいグラマーって中年女性が、ユッサユッサって音を映像に変換しながらスクーターに近づく。

「天野みちる」

 とてもガマンができず声を出してしまう。

「へ?」

 ドキッとした女性が振り返ったら、そこには見覚えのある男が立っている。でもそれは遠い過去の記憶によるものではなく、つい先ほどという熱のある記憶による。

「えっと……先ほどのお客さんでしたっけ?」

「そうなんだけど……天野みちる……さんで合ってる?」

「合ってますけど……えっと……どちらさん?」

 言われた秀樹はものすごく短い一瞬という時間に、たっぷりしっかり相手の女を見つめた。ボーダーシャツのものすごい豊満なふくらみ具合は過去からのつながりが明らかとしか思えないし、若さと瑞々しさがたっぷりありつつ、少し大人の色気が混じっているという顔、それもう明らかに巻き戻せば記憶と一致する。

「え、思い出してくれないの? 青山秀樹だけど」

「青山秀樹……」

「高1のときクラスメートだった」

「あ、あぁ、あぁ!」

 色白でやわらかそうな両手を軽く合わせたみちる、やっとこさ思い出したと深呼吸をひとつ。

「よく覚えていたね、すごい記憶力だね」

 みちるが見せた笑顔というのは、30歳はまだ青春だと伝えているように愛しい。だが秀樹には正直ちょっと面白くない。

「そんな記憶力なんて必要ないだろう」

 秀樹に言わせればすごい巨乳女子だったとかいうだけでインパクト絶大なのに、いいなぁと感情移入をしたあげく、生まれて初めて積極的になろうと話しかけ、これはイケる! と思って告白したらフラれてしまったのだから、忘れるなという方がムリなモノ。それがゆえ、相手が自分を全然おぼえていない事に腹が立つ。

「喫茶で話とかできない?」

 この流れをすぐに切るのは嫌だと思ったから、つき合って欲しいと真剣なまなざしで訴える。

「ごめん、そういう時間は取れない」

 ごめんね! と手を合わせるみちるを見たとき、また断られるのかよ! とマイナス感情が吹きそうになる。だが場所が場所だけに理性で抑え、だったらタバコを一本吸い終わるまでのおよそ5分だけ時間をくれと要求のレベルを下げた。

「わかった」

「天野、ここで働いているんだな」

「パートだよ、昼過ぎからこの時間までね。で、青山は?」

「おれは……」

 ここで秀樹は一瞬何かひらめいたような感覚になった。そこでバカ正直に言うのではなくウソを伝える。

「〇〇商社で働いている、〇〇駅の近くだ」

「あんな遠くから来たわけ?」

「まぁ、友人にちょっと会う用事があったから。それで天野、おまえは週に何回くらい働いているんだ?」

 この質問をされた時、みちるはほんの一瞬何か考えたみたいだった。正直に言う必要があるんだろうか? と思ったのかもしれないが、秀樹の職場が遠いと聞かされた直後だったから安心したらしく正直に情報を伝えた。

「今はちょっと人手が足りなくてさ、だから毎日」

「毎日……大変なんだな」

「で、青山、結婚とかしているの?」

「してない……天野は?」

「わたしもしてないよ、お互い売れ残り路線?」

 言ったみちるがクスっと笑ったが、秀樹は同調できない。おたがい売れ残りであるなら、それなら付き合いたいと言いたくなる。

「あ、天野……」

「ごめんね、そろそろ帰る」

「お、おれ……」

 秀樹が訴えようとしていたものの、爆乳女性はヘルメットをかぶってしまった。そしてスクーターにまたがって動かし始めると、じゃぁね! という手ぶりだけを見せて勢いよく走り去っていくのだった。

「く……」

 またスカされたと思う秀樹だった。しかしみちるがここで毎日、同じ時間帯に仕事をしていると知ったので気を取り直す。

「15年前はダメだったけど、今は……おれ、あきらめない」

 白い吸殻を地面に落とし踏みつけると、秀樹はもうとっくに忘れて消えてしまっていたはずの感情を復活させてしまった。
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