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月を爆破せよ(月下人撃滅計画)4
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(お姉ちゃんはどこに行くんだろう……)
夜の尾行を開始した真治、月明りの下をまるでゆらゆらって感じに歩く優子を追う。すると身近でありながらあまり歩かないコースを優子は進んでいき、ある公園にたどり着く。
(ん……あれは……)
隠れている真治が見ていると、公園内には先着していた者がいた。少しばかり薄暗くてよく見えないが、全体の感じから姉と同じ年齢の男子だと思う。
「優子」
男子が言った。するとどうだ、見ていた真治がびっくりするのはムリもないって展開が生じた。姉が……女子力ガードのめちゃくちゃ高いはずの優子が、くぅっと甘えすり寄り相手に抱きしめられたりしたではないか。
(えぇ、うっそぉ……)
あまりに姉らしくないふるまいに真治はまたショックを受ける。だが、とりあえず声を出さず音を殺して移動。ベンチに座っている2人の後方に出来るだけ近づくと、全身全霊で会話の盗み聞きに勢力を注ぐ。
「優子、今日は優子に大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「今までだまっていたけれど……実はぼく地球の者ではないんだ」
「え、どういうこと?」
「ぼくの正体から月下人、月の住人、そして月の都に住む王子」
「ん? なにそれ、なんかおもしろいネタを思いついたって事?」
「ちがうよ、ほんとうの事なんだ」
ここまでをだまって聞いていた真治、まず最初に頭の中が???となった。しかし相手の声がずっとマジメで不気味ゆえ、もしかしてほんとうかもと悪いドキドキが胸に生じたりもする。
「実を言うとぼくは優子に会いたくて地球にやってきたんだ。そうさ、魅力的な女の子に会えると思ったら38万kなんて距離は全然大した事ないんだ」
「わたしに会いに?」
「そうさ、部下から報告を受けたんだ。地球には……王子が理想とする、いや理想そのものって魅力的な女の子がここにいます! って。わかって欲しい、そう言われてジッとしているなんて、男としてはそれは不可能なんだ。なぜかわかるかい? 男は魅力的な女の子とロマンスのためなら命をかけたいって思う生き物だからだよ」
ここで聞いていた真治はおぇぇっとなる。黙って聞いていれば恥ずかしいセリフをペラペラと……と嫌悪感すら感じる。しかしほんとうなら同じようになるはずの姉が、相手の言う事をうれしいと思っているようなオーラを立てているから困る。
「そこで優子、明日……明日ではダメかな?」
「明日? 明日に何?」
「ぼくといっしょに月の都に行かないか? そして都の姫になって欲しい。それはつまりぼくの妻になって欲しいって事だ」
「え、月に?」
「優子、ぼくとの愛を守るため、どうか地球を捨てて欲しい!」
「そんな……いくらなんでも……急に言われても……」
優子が、さすがにそれはムリという反応を示すと真治はホッとした。そして姉のとなりに座っているやつに心の中で言ってやるのだった。
(おまえひとりで月に帰れ、バーカ!)
しかし優子の横に座っていた男子こと月野住人は立ち上がると、月の光を浴びながら力説を開始。その演説は実にうまく巧妙で、聞いている人間をその気にさせる魔力みたいなモノがあった。
住人の演説はまず愛の重要性を説くから始まり、愛はすべてへの思いやりだと話を広げ、それからすると地球はあまりに汚れていて未来はないという社会テーマに結び付けていく。
「優子、断言してもいい。地球にはもう明るい未来なんてない。月はこれから繁栄していくが、地球はこれから廃墟となり金星みたいに熱い星になると運命づけられている。そんな場所で愛を育めるわけがないんだ。愛とは平和な場所でのみ成立させ次につなげていけるものなんだ」
住人は続ける。優子のたましいが地球から離れられないというのは、それは地球への愛ではなくただの傲慢だ! と。
「優子、地球にしがみついていては愛など育たない。だってそうだろう? これまで地球にどれだけ平和のメッセージがあって、それが無意味に終わっているか、その現実を持ってして地球にこだわるのはもはや愛を育む責務からの逃亡だと言ってもいいんだ」
住人は熱弁を振るうと、そこで結論を! と迫るのではなく、やさしい男の自己嫌悪を演じて見せる。左手を額に当て、つい感傷的になってしまったと悔いて見せる。
「まったく、ぼくって男はいつもこうだ……いつも情熱が先走りしてしまうんだ。優子を愛しているとか言いながら、優子のキモチそっちのけって演説をやってしまう。ぼくはダメな男だよ、優子、大いにこの愚かな男を笑ってやって欲しい」
隠れて聞いていた真治、もう聞いていて恥ずかしいのなんのでたまらないと鳥肌を起こす。いま隕石が落ちてきて直撃することで、その男が消え去ればいいのにとさえ思う。
しかし! いったいどうした事か、いつもならおぇぇ……とやったりするはずの優子が、住人の演説と自己嫌悪ってふるまいに感動していた。
「笑うわけない」
スクっと立ち上がって住人の心に寄り添うとする優子、その姿は演説に騙される愚かな聴衆のひとりみたいだった。
「今日はさすがにムリだけれど……でも明日の夜、明日の夜に行く。わたし……月の都に行く」
まったくなんという事だろう、優子が自ら月に行くと言い切ってしまった。両手で口を抑えながら青ざめる真治、心の中で何回も叫びくり返してしまう。
(お、お姉ちゃんが……地球を捨てる……)
夜の尾行を開始した真治、月明りの下をまるでゆらゆらって感じに歩く優子を追う。すると身近でありながらあまり歩かないコースを優子は進んでいき、ある公園にたどり着く。
(ん……あれは……)
隠れている真治が見ていると、公園内には先着していた者がいた。少しばかり薄暗くてよく見えないが、全体の感じから姉と同じ年齢の男子だと思う。
「優子」
男子が言った。するとどうだ、見ていた真治がびっくりするのはムリもないって展開が生じた。姉が……女子力ガードのめちゃくちゃ高いはずの優子が、くぅっと甘えすり寄り相手に抱きしめられたりしたではないか。
(えぇ、うっそぉ……)
あまりに姉らしくないふるまいに真治はまたショックを受ける。だが、とりあえず声を出さず音を殺して移動。ベンチに座っている2人の後方に出来るだけ近づくと、全身全霊で会話の盗み聞きに勢力を注ぐ。
「優子、今日は優子に大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「今までだまっていたけれど……実はぼく地球の者ではないんだ」
「え、どういうこと?」
「ぼくの正体から月下人、月の住人、そして月の都に住む王子」
「ん? なにそれ、なんかおもしろいネタを思いついたって事?」
「ちがうよ、ほんとうの事なんだ」
ここまでをだまって聞いていた真治、まず最初に頭の中が???となった。しかし相手の声がずっとマジメで不気味ゆえ、もしかしてほんとうかもと悪いドキドキが胸に生じたりもする。
「実を言うとぼくは優子に会いたくて地球にやってきたんだ。そうさ、魅力的な女の子に会えると思ったら38万kなんて距離は全然大した事ないんだ」
「わたしに会いに?」
「そうさ、部下から報告を受けたんだ。地球には……王子が理想とする、いや理想そのものって魅力的な女の子がここにいます! って。わかって欲しい、そう言われてジッとしているなんて、男としてはそれは不可能なんだ。なぜかわかるかい? 男は魅力的な女の子とロマンスのためなら命をかけたいって思う生き物だからだよ」
ここで聞いていた真治はおぇぇっとなる。黙って聞いていれば恥ずかしいセリフをペラペラと……と嫌悪感すら感じる。しかしほんとうなら同じようになるはずの姉が、相手の言う事をうれしいと思っているようなオーラを立てているから困る。
「そこで優子、明日……明日ではダメかな?」
「明日? 明日に何?」
「ぼくといっしょに月の都に行かないか? そして都の姫になって欲しい。それはつまりぼくの妻になって欲しいって事だ」
「え、月に?」
「優子、ぼくとの愛を守るため、どうか地球を捨てて欲しい!」
「そんな……いくらなんでも……急に言われても……」
優子が、さすがにそれはムリという反応を示すと真治はホッとした。そして姉のとなりに座っているやつに心の中で言ってやるのだった。
(おまえひとりで月に帰れ、バーカ!)
しかし優子の横に座っていた男子こと月野住人は立ち上がると、月の光を浴びながら力説を開始。その演説は実にうまく巧妙で、聞いている人間をその気にさせる魔力みたいなモノがあった。
住人の演説はまず愛の重要性を説くから始まり、愛はすべてへの思いやりだと話を広げ、それからすると地球はあまりに汚れていて未来はないという社会テーマに結び付けていく。
「優子、断言してもいい。地球にはもう明るい未来なんてない。月はこれから繁栄していくが、地球はこれから廃墟となり金星みたいに熱い星になると運命づけられている。そんな場所で愛を育めるわけがないんだ。愛とは平和な場所でのみ成立させ次につなげていけるものなんだ」
住人は続ける。優子のたましいが地球から離れられないというのは、それは地球への愛ではなくただの傲慢だ! と。
「優子、地球にしがみついていては愛など育たない。だってそうだろう? これまで地球にどれだけ平和のメッセージがあって、それが無意味に終わっているか、その現実を持ってして地球にこだわるのはもはや愛を育む責務からの逃亡だと言ってもいいんだ」
住人は熱弁を振るうと、そこで結論を! と迫るのではなく、やさしい男の自己嫌悪を演じて見せる。左手を額に当て、つい感傷的になってしまったと悔いて見せる。
「まったく、ぼくって男はいつもこうだ……いつも情熱が先走りしてしまうんだ。優子を愛しているとか言いながら、優子のキモチそっちのけって演説をやってしまう。ぼくはダメな男だよ、優子、大いにこの愚かな男を笑ってやって欲しい」
隠れて聞いていた真治、もう聞いていて恥ずかしいのなんのでたまらないと鳥肌を起こす。いま隕石が落ちてきて直撃することで、その男が消え去ればいいのにとさえ思う。
しかし! いったいどうした事か、いつもならおぇぇ……とやったりするはずの優子が、住人の演説と自己嫌悪ってふるまいに感動していた。
「笑うわけない」
スクっと立ち上がって住人の心に寄り添うとする優子、その姿は演説に騙される愚かな聴衆のひとりみたいだった。
「今日はさすがにムリだけれど……でも明日の夜、明日の夜に行く。わたし……月の都に行く」
まったくなんという事だろう、優子が自ら月に行くと言い切ってしまった。両手で口を抑えながら青ざめる真治、心の中で何回も叫びくり返してしまう。
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