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優子とブラの友情物語

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 優子とブラの友情物語


「ふわぁ……んぅ」

 午後3時過ぎ、学校から家の近くまで来た優子がいる。あんまりにも心地よい日和なので、眠気って膜が目の裏に貼り付く。まるで沸騰した牛乳の皮が取れないみたいだった。

「1時間くらいゴロンしようかな」

 家にたどりついたら門を開ける。そうしてまた眠たくてたまらないアクビを浮かべる。しかし門を締めたとき、あるモノが目に入った。

「え?」

 一瞬ドキッとしたEカップの胸。慌てて庭のある場所に進んでかがみ込む。そこには一枚のブラがあった。フルカップだ、しかもサイズはEかFあたり。中野家にいる女は母と優子の2人だ。母がCカップで優子はEカップなので、考えるまでもないって話になる。

「で、でも……わたしこの色のブラは持ってない」

 そうなのだ、庭に落ちているブラの色はグレー。うまくハマれば魔性の色気を発散できるとか、女心を静かに魅せるとか言われているカラー。

「他の家から飛んできた?」

 そんな可能性を口にして手を伸ばそうとする。するとどうだろう、地面に落ちていたブラが優子に向かって話しかけてきたではないか。

「お願いです、少し休ませてください」

「ぶ、ブラがしゃべった……」

 突然にブラから言われて優子はメチャ戸惑った。キューンと脳内が冷凍されたかのごとく焦ってしまう。でも話を聞いてみると、このブラの身の上はとても気の毒だと判明。つまりかわいそうな状況から逃げたいって、そんな意思をブラ持ったって事だった。

「わたしの以前の主人は、ほんとうはCカップなのに……見栄を張ってわたしを購入したのです。当然ですがサイズは合いません。わたしにいい仕事をしろと言ってもムリです……」

 ブラの語りはとっても哀しいから、優子はつい口を挟んでしまった。

「そんなの主人が悪いんだよ、ブラのせいじゃないよ」

 するとブラは数秒ほど間を置いてから、また哀しい声で語りだす。

「わたしの主人は当然、サイズをごまかしているとバレてしまいました。そしてわたしを責めたのです。お前のせいだ! おまえがいい仕事をしないからわたしが不幸になるんだ! って。焼却炉に放り込んでやる! と言われたら、怖くなって逃げ出したのです。どこをどう彷徨ったのかわかりません。ただ疲れてしまったので、ここで一休みしていたのです」

 語ったブラからは気の毒な疲れが生々しく伝わる。かわいそうに……と優子は思わず目頭を熱くする。それからそっと手にとってサイズを見てみた。するとどうだ、E80なんて優子のサイズではないか。ちょっとした運命を感じてしまった。

「わたしのブラはE80だよ」

「そ、そうなんですか?」

「な、なんなら……少しの間でも……わたしが使ってあげようか?」

 優子の内側から飛び出たやさしい言葉。落ちていたブラを身に纏うなんて、そんなのありえないって思う乙女心がやさしさを優先させている。

「え、で、でも……」

「いいよ。せっかくブラに生まれたんだったら、ブラとして役に立ちたいってキモチ……わたしにはわかるから」

「あなたのお名前は?」

「わたし優子」

「優子さん、あなたみたいな人に出会えるなんて……ユメみたい……名前のとおり優しい人ですね」

 虐げられてきたブラからこぼれる涙声。優子はそれをやさしく手に持つと、家の中に入ってマイルームへ向かう。

まるっきし妙な話だとか気にする事なく急ぎ足で階段を上がっていく。

「わたしもさ、グレーのブラは経験してみたかったんだ」

 そう言ってにっこりほほ笑む優子だった。部屋に入るとさっそくとばかり上のTシャツを脱ぐ。ムッチリ色白ボディーにホワイトEカップって姿になったら、ちょっとテレくさそうに、グレーのブラは似合うかなぁとつぶやく。

「ぜ、絶対似合うと思います。だ、だって優子さんはかわいいし、内側にやさしさを秘めているから、そういう魅力

はグレーにはぴったりだと思うんです」

 ブラは必死になって訴えた。決して自分のためではなく、他ならぬ優子のためと。それを受け取った優子はテレくさそうにありがとうと言っておく。

 少し前かがみになる。背中に両手を回したら3つ3段ホックを外す。そうしてフッと軽くなったところで、ゆっくり白いブラを体から離す。すると女神レベルのグレードを持つふっくら美巨乳が登場。そこに今度は気の毒なグレーブラを当てる。

「うん! 装着完了」

 スタンドミラーの前で自分を見る優子。グレーブラのふくらみと谷間にけっこう満足。なかなかいい感じとか、今度はグレーブラを買おうとか思ったりする。

「あ……」

 ブラは明らかにカンゲキしていた。先代の持ち主からは理不尽な仕事を押し付けれていた。でもいまは全然ちがう。本来の仕事ができる、自分の仕事がこなせる。中野優子という少女が持っているバストをサポートすることが、自分にとって最高の仕事だとふるえる事ができる。

「うっしょっと……」

 Tシャツを着直した優子、このままではヒマだから外に出ようと考える。グレーブラを纏いけっこういい感じっだって、そんなキブンを満喫したいって思いがあった。

「何かキブンがいいから自転車に乗ろう」

 ういっと自転車を引っ張り出す優子がいた。家の外に出て華麗にまたがると、スィスィーっと風を切り出す。

「あぁ、風がキモチいい」

 少しうっとりする優子。だがブラの方もちがう理由で心地よさを得ていた。自転車の振動で揺れ動くモノ、豊かでやわらかい弾力をぴったりサポートする満足感に他ならない。

「優子さん、優子さん」

「うん? なに?」

「優子さんはやさしい女の子なんですね」

「なに急に、テレるじゃんか……」

 エヘっとテレ笑いする優子のバストが揺れる。それをサポートするブラは大いに喜びを味わう。自分のやれることを精一杯やっているという状況が、生まれてきた嬉しさにつながる。

 こうして優子とブラの友情関係は少しばかり続いた。母に見られるとなにか突っ込まれると思い、こっそり洗濯してこっそり干すなど苦労をする。それは優子がブラにしてやれる最高級の友情だったかもしれない。

 しかしそんなうつくしい友情関係も終わらざるを得ないときが来た。元よりすり減っていたモノだから、ダメになるスピードは速い。

「あぁ……バックが……」

 ブラの背面がすり減りを通り越し、大きく破れている。ちょっとありえないほどの速度でダメになってしまった。

「優子さん……わたしを捨ててください」

 ブラから放たれたのは切な気にしてつよい意思。

「えぇ……せっかく仲良くなれたのに」

 優子がくちびるを噛みしめる。

「ブラは永遠に使えるモノではありません。優子さんほどの人なら、とっくに知ってることですよね?」

 優子はとてもつらかった。ブラが永久使用できない事はとっくに知っている。こんな風に傷んでしまったらポイ捨てするのが女の営み。ずっとそれをやりたいなんて思えなかったのだ。ずっと一緒にいたいなんて考えすら湧き上がっていた。

「わたし……わたし……」

「これは仕方のない事なんです。その上で優子さん、ひとつだけお願いがあるんです」

「お願い?」

「最後に揺られながらユメを見ながら終わりたいのです。だから川に流してくれませんか」

「か、川に流す?」

「ダメですか?」

「わかった……」

 ブラの頼みを聞き入れた優子は、その日の夜に散歩とか言って家を出た。家族に見られないようこっそりレッスンバッグを持っているが、その中にはお別れするブラが入っている。

(わぁ、すごくきれい。まるで金色のメロンパンみたい……)

 見上げた優子の目には、とってもきれいな月が映る。ファンタジーへの想像をかき立てるモノだが、つらいキモチを和らげてくれるようにも思える。そういう月下の中を優子は自転車を走らせた。向かう場所は学校近くにある○○川。そこにお役御免となったブラを投げ捨てようというのだった。

「優子さん、ちょっとの間でもシアワセを与えてくれてありがとう」

「そんな……」

「優子さん……いつまでもステキな女の子でいてくださいね」

 さみしい別れがそこまで迫っていた。優子は川に向かってブラを放り投げることを躊躇してしまう。そうすると静かな時間だけが流れていく。それでようやく決心がついたら、少量の涙を両目に浮かべてブラを投げる。

(さようなら……)

 優子の涙目が夜風にブラを見続ける。そのブラは出だしこそシアワセでなかったかもしれない。でも優子と出会いちょっぴりでもシアワセを得た。その事に満足を感じているように、ブラが川の水に向かって落ちていく。

「さようなら……優子さん……ありがとう」

 最後の声が聞こえたとき、ブラが川の水に落下したとき、優子の目は潤んでいた。でも震える体にグッと力を入れ、大泣きって姿にだけはなるまいと踏ん張る。そうやって川に落下するブラへ伝えた。

「わたし、いっしょに過ごした時間を忘れたりしないから……」

 その声が聞こえたのかどうかはもうわからない。一枚の使い古されたブラが、無機質にして哀れなモノとして水に浮かぶ。それは緩やかな水流によって流されていく。見つめる優子からドンドン離れていき……やがて……その姿は見えなくなってしまった。

「な、泣くもんか……」

 涙目の優子がクッと星空に顔を上げる。そのやさしい心を察した風が、ふぅっと涙一滴を流し飛ばす。そのきれいな銀水は川の中へと落ちていった。
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