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下着ドロボーを撃退せよ

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 下着ドロボーを撃退せよ


 ひとりの中年男が、午後の1時過ぎ頃にフラついていた。いい歳こいてやる事がないのですか? 的なオーラが漂っているが、それはカモフラージュ。実をいうと彼の職業は下着ドロボーだったのである。

(この辺りはグッと来る感じが見当たらないなぁ……)

 仕事に熱心な男は、とある家の近くで足を止めた。前方に知らない家があって、そこの2階に目を向けると下着がランランと風に揺れている。

(どうだろうか)

 さっ! っとスマホをとりだす男。何やらぶつぶつ言いながら、何やらスマホを調べるようにして干されているところへカメラを向ける。

 ズイーンとアップすると、ある事によってある事実を確信した。大きさのちがうブラジャーが干されているわけであるが、その対比によって片方が巨乳サイズと見取る。

(あれ絶対に巨乳サイズだ。ぜひともゲットしたい!)

 情熱の炎をゆらす男は、さっそく仕事にとりかかった。まずその家の前に立った。表札には中野と書かれているから中野家だ。

 ピンポーン! とわざとらしく押す。そして返事がなければ、くい! っと親指を立てて門の向こうへと進む。

(さて、どうやって行くか)

 下着ドロボーにとって重要なのは家宅侵入ではない。とにかく干し物がある場所に行ければいい。外から屋根に上がって、そこからベランダにたどり着けたらOKってことだった。

ー一方その頃ー

 一匹のカエルがピョンピョンと跳ねる。道路をまっすぐ進んでいたと思いきや、門の下から中野家の敷地に侵入。そうして動きを止めた。

(うん?)

 カエルは中野家にあやしい男がいると発見。自転車置き場こと家の側面をウロウロしている。そうして物置のてっぺんに上った。それから屋根に上がるにはどうしたらいい? って感じにソワソワしている。

(たいへんだ、すぐに連絡しないと)

 ピョンピョンと跳ねたカエル、自転車置き場とは逆の側面に回った。そこでとつぜん二本足のカエルに変身! そう、このカエルはカエルーノ部隊の一員なのだ。

「あ、あ、こちらカエル303号。応答願います」

「どうした?」

「中野家にあやしい男がいます」

「なに、それはほんとうか?」

「屋根に上がろうとしています。もしかすると上から侵入する気かも」

「わかった。もうしばらく様子を見るんだ。何かあったらすぐに連絡するように」

 こうして303号は無線を切った。中野優子に思いを寄せるカエルーノは、中野家周辺を常にパトロールするよう部下に命じている。時には自分が出向き、うまくいけば優子とイチャラブしようなんて考えてもいる。

「カエルーノさまのためにも中野優子のすべてを守らねばならない」

 303号はそうつぶやき、しばらくその場でジッと待ち続けた。さて下着ドロボーはどうかといえば、なんとか屋根に上がれていた。

「へへ、楽勝だぜ」

 男はさほど苦労せずベランダにたどりつく。ふつうの人にとってはタダの干し物空間。されどこの男にとっては、キラキラまぶしい期待の領域。

「やっぱり! おれの目に狂いはなかった」

 干されているブラジャーが2種類あると見たら、大きい方に手を伸ばして、Eカップか! とよろこびの声をあげるのだった。

「きょうはいい仕事ができたぜ!」

 Eカップブラジャー白をゲットしたら、意気揚々と地上にもどる。今日の仕事は100点だ! とかよろこんだとき、あまりはしゃぎすぎたのでEカップが風に飛ばされた。

「やべ……」

 幸いなことにEカップは庭って範囲に落ちた。ドロボーはそれを拾い上げると、なに食わぬ顔で中野家から出た。そしてそれをカエルが見ていた。

「あ、あ、こちら303号、どうぞ!」

「どうした? なにかあったか?」

「中野優子は巨乳な女の子だったか?」

「そうだ。たしかEカップだったはずだ。それがどうかしたか?」

「あやしい男が中野優子のブラジャーを盗んでいった」

「なに!」

「いますぐ尾行する。またすぐ連絡する」

 303号はここで小さなカエルに戻る。二本足姿の方が追いかけるのは楽なのだが、他の人間が見ると騒ぎ立てるだろう。よって小さな姿で懸命にドロボーを追いかける。

 せーぜー息を切らしながらピョン跳ねするカエル。しんどい……とか思っていたが、下着ドロボーがどういうコースを進むか見えてきた。

(○○池に向かっているな)

 カエルの読みは大当たり。下着ドロボーとしては、できるだけ人の少ない道を歩きたい。そうやって家に帰ってEカップを保管したい。だから○○池ってコースを選んだ。グルっと回るでっかい池の周りは散歩コースだが、人はあまり多くない。しかもその途中から、人の少ない道に出ることができる。ドロボーにしてみれば黄金コースだ。

「あ、あ、こちら303号。応答願います」

 カエルは人目を盗み二歩足にヘンシン。仲間に連絡を入れる。

「どうだ? なにかわかったか?」

「ドロボーは○○池に向かっている。もうちょっと深読みすると、おそらく途中で△通りに出ると思われる」

「了解」

「それでカエルーノさまは?」

「ただいまはカルロッタ姫とランチにお出かけ中だ」

「わかった、なんとしても我々でドロボーをつかまえよう」

 カエルたちがそんなやりとりをしているとは知らないドロボー。彼は人気の少ない散歩コースをのんびり屋さんみたいに歩く。そして△通りへ出るためのショートカットコースに入る。

「今日は大成功だぜ! Eカップなんて手に入ったもんな」

 うれしそうに笑ったそのときだ。

「ちょっと待て!」

 ふと声をかけられ顔を前に向ける。そしてギョッとした。

「な……か、カエルが……」

 おどろく彼の前には二本足のカエルがズラーッと並んで立っている。けっこう本気の軍団という感じだが、一番前にいるカエルが言い放つ。

「おまえはドロボーだ。そうだろう!」

 二本足で少しマヌケっぽくかわいいカエルに言われては腹が立つ。しかし見た感じ数十体はいるだろうから、ちょっと怖くもなる。

「ドロボーだと? おれが何をとったっていうんだ? コンビニのおやつか? おにぎりか? 言ってみろっていうんだよ」

 自信たっぷりに潔白を主張したら、カエルもまた同じような力強さで言う。

「下着だ。おまえはEカップブラジャーを盗んだだろう!」

「え……」

 素直に反応してしまう男だった。それは犯罪を認めたって事になる。隠し持っているブラジャーを素直に出すか? そうして謝るか? その方がよくない? などなど考える。

 しかし……

 人間さまがカエルにビビるなんて恥だと思った。そこで近くにあったでっかい棒切れを手にすると、とんでもない事を言う。

「おれに何かしてみろ、そのときはブラジャーを汚してやるぜ」

「なんだと!」

「汚してほしくなかったらおれを見逃せ」

「お、おまえというやつは……」

 隊長らしきカエルがググっと顔をしかめたとき、今度はドロボーの後方より別の声が聞こえてきた。それこそずっと追いかけていた303号だ。

「下着ドロボー、おとなしくブラジャーを返すんだ」

 そう言うとどこからともなく取り出した弓矢をかまえる。ギリギリって音が緊張感をかもしだす。でも男はヘラヘラっと笑っていうのだった。

「そんなオモチャみたいな矢で人間が死ぬわけがない」

 ハハハと高笑いをする下着ドロボー。だが303号は矢を構えたまま、かなりおそろしい事を教えてやるのだった。

「これはタダの矢ではない。世にもおそろしい毒矢だ」

「ど、毒矢?」

「そうだ。ヤドクガエルの毒をたっぷり塗ってあるのだ」

「は、ハハ……まさか、そんな」

「かすり傷ひとつであの世に逝くぞ。それでもいいのか?」

 303号の顔は本気だ。ギリギリっと音を立たせながら、死にたくなかったらブラジャーを返すようにと迫る。

「い、いやだ! せっかくEカップが手に入ったんだからな」

 下着ドロボーがいきなりダッシュを開始。それはすごいスピードであるが、303号は冷静な顔で狙いを定める。そして何やらブツブツ言い始める。

「ぎゃーてい・ぎゃーてい・はらそーぎゃーてい・ぼーじーそわかーはんにゃしんぎょう」

 303号がピャ! っと毒矢を放った。それはマッハ5くらいのスピードで男に向かっていき、ブス! っと男の背中にブッ刺さった。 

「ぁう、いててて!!」

 おどろいた男、必死になって矢を抜こうとする。しかし急に意識がクラクラっとしてきた。まさかほんとうに死ぬのか! と思ったら、どんどん意識が遠のいていく。

「お、おれ……ほんとうに死ぬのか?」

 男は近づいてきた303号に問いかける。

「素直に返せばよかったものを……」

 303号はそう言ってEカップブラを取り返す。

「な、なんでだよ……たかがブラジャーだろう? たかが……」

「それはちがう。中野優子のブラジャーはお前の命より重くて尊いのだ」

「そ、そんな……」

 ここでドロボーはガクっと息絶えた。こうしてEカップブラジャーは無事に取り戻された。尊いモノが悪人の手に渡ることなく平和は守られたのである。
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