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魔法のTシャツ(巨乳・貧乳どっちにも味方してくれる!)(前編)

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 魔法のTシャツ(巨乳・貧乳どっちにも味方してくれる!)・前編


 学校ってモノが生徒の束縛を終了。そこから抜け出た優子とクラスメートの香苗は、一旦帰宅してから駅前モールで再会した。

「なんか買うの?」

 モール内のエスカレーターに乗ったとき、どのような購買意欲があるのかと香苗にたずねる優子。

「ちょっとおもしろいTシャツを買おうと思ってるの。優子も買えばいいんじゃないかなぁって言いたい」

 そう言ってククっと笑うモノだから、とうぜん優子は何のことかと知りたがる。それを伏せられたりすると、3Fに到着するのがとてもじれたいと思うのだった。

「ガールズキャンデーにあるんだ」

 2Fから3Fへの動く階段に乗り換えたとき、部分的に語って優子の気を引く香苗。それは他クラスの友人からもらった情報だという。

 ガールズキャンデーとは3Fにある小物店。一応性別を選ばないとはしているが、どう見ても女子力満載。つまり女子ホイホイというお店。優子もごくたまに買い物をしたりする。女子カラーに満ちた文具品みたいなモノなど。

「あった! これ!」

 ガールズキャンデーにたどり着いた香苗は、お目当てのモノをすぐに発見。それを指さしながら、優子の方へ顔を向ける。

「ふつうのTシャツじゃないの?」

 肩透かしを食らったような顔をする優子。

「ちゃんと商品名を見ましょう!」

 香苗の指が商品ネームに向けられる。

「魔法のTシャツ?」

 思いっきりキョトンとする優子。その顔は頭の中が少し乱れたって事を示している。口にした商品名からは、実態がさっぱりイメージできないからだ。

「魔法ってなに? どういうこと?」

 まったく舞い降りてこない納得にイラつく優子は、いちばん胡散臭いキーワードを攻撃した。

「じゃぁ、ここを見て」

 香苗の指先が、こんどは商品説明という個所へ向く。そこにはまずでっかい字で、巨乳の人にも貧乳の人にも味方してくれる! なんて書いてある。ますます意味が分からないと思うので、優子は言葉が出なかった。

「つまりさぁ、今のところ全然胸がないわたしが着ると巨乳に見せることができて、優子みたいな巨乳が着ると、貧乳みたいな見た目になるってこと。

「香苗……あたま大丈夫?」

「なによその言い方」

「Tシャツなんて上にかぶせるモノだよ? 内側が肝心じゃん。内側を無視して巨乳も貧乳もないと思うけど?」

「ま、ふつうはそう思うよね」

「着たことあるの?」

 優子に言われた香苗は、なぜかめっちゃ得意げな目になって腕組みをする。
 
「これはマジですごいんだよ」

 うっとり目の香苗によれば、このTシャツを試着させてもらった自分は、一気にCカップくらいの巨乳になったという。

「はぁ? Cカップ?」

「優子のEカップには負けるけど、わたしには舞い上がるほどうれしかった」

「じゃぁ逆はどうなの?」

「逆は試してない……というか確認できない。優子みたいな巨乳はいないし……」

 どこまでが本気かわからない空気になった。詐欺にだまされる寸前みたいな緊張感が漂ってきた。疑わしさを倍増させる理由、それは値段である。どでかくアピールされている数字によれば300円という。今の時代は300円で魔法が買えると言わんばかり。そしてその数字なら、優子のポケットマネーでも買える。

「じゃぁさ、確認させてよ」

 魔法にちょっと興味をひかれた優子は、香苗に証明してくれと要求。この店には試着室ってモノもあるし、試着可能って文字も目に入る。

「そうだね、試着させてもらおう」

 すんなり同意した香苗は店員に試着を申し出る。そして許可をもらったら、試着用の一つを手にして優子と共に案内された。

「わたし今のところカベだからさ、見られるの恥ずかしい。だから待っていて」

 試着室のカーテンを閉めると、中を覗くなよ! と優子に忠告する香苗だった。たんにTシャツを変えるだけとはいえ、豊満って余裕を持っていない者にはシビアな行為。

ーそしてよそ20秒後ー

「いいよ!」

 内側から香苗の声が発せられた。

「では!」

 魔法とやらを見てやると、カーテンを開ける優子。シャーっと音が鳴り友人の姿が目に入る。その瞬間、見えないカベにぶつかったみたく衝撃を受けた。

「は、はぁ?」

 両目をでっかく開いて青ざめる優子。

「どう? 優子には負けるけど、これなら美巨乳っぽくて目を引くよね」

 デーン! と自信たっぷりに立つ香苗。上半身は魔法のTシャツとやらを着ている。その色はショッキングピンク。でも何よりまずはふくらみ具合だった。

 おどろいて動けない優子の目は、香苗のTシャツになかなかのふくらみがあると見る。それはたしかにCカップくらいのモノ。あげくやわらかそうな感じであり、内部と無関係に形成されたとは思い難い。

「そ、それって……着る前に何かした?」

「何かとは?」

「ひそかにふくらみを作るような仕掛けがあるとか」

「ないない、そんなの魔法って言わない」

「ま、魔法って……」

 試着室内へズイっと進行する優子。赤い顔で自慢げな香苗の肩をつかむ。そしてほんのちょっと体をゆすってみる。

 すると香苗のTシャツ、いちばん目を引くところがユッサユッサって感じに揺れた。天然にして89cmのふくらみを持っている優子は、とても信じられないとする。どういう仕掛けなんだ? と顔が必死になってきた。

「ちょっと触らせて、触るよ?」

「やだ恥ずかしい……」

「うるさい! いつも人のおっぱい触ってるくせに!」

 今度はわたしが触る番! として、優子は香苗のふくらみに手を当てた。するとどうだろう、なんとなくやわらかい手触りがあった。それは優子の一級品にはおよばない手触りだが、知らないモノをだますには十分なレベル。

「詰め物でしょう、中に何か入れてるんでしょう!」

「入れてないってば」

「だったら見せて、見せなかったらムリヤリにでも脱がす!」

 いつもの優子らしからぬ態度に香苗は圧されてしまった。仕方ないということで、優子の接近を許してからTシャツの胸倉を開いた。

「えぇ?」

 優子がびっくりし過ぎなほどおどろく。何かがあるのだろうと思ったら、内部はスカスカ状態。内側の事情と外部の状態はまったくかみ合っていない。だとすれば言えることはただ一つ、魔法……それしか言いようがない。

「信じられない」

 もはや疑う気のない優子は、ホクホク顔の友人に軽い忠告をしてやった。

「香苗、それってさぁ……絶対内側を気にされるよ?」

「わかってる。学校で着たら大変だよね」

「わかっているならいいんだけど」

「ただひとつ、優子にお願いがあるんだ」

 ここで香苗から浮き出るのは、うぅん! っと甘えるようなオーラ。中野優子に甘えすり寄る目は質のわるい猫のよう。

「なに、その目?」

「優子はさぁ、このTシャツ気にならない? 着てみたいと思わない?」

「わ、わたし?」

 一瞬ドキッとして優子は考えた。実はちょっぴりとだけ、水一滴分くらいの興味は持っていた。小2の終わりごろに胸がふくらみはじめ、小6の現在はEカップの89cmというグローイングアップ!こういう巨乳だと揺れるやわらかいモノは人の目を引く。もう一生否定できない運命の絵。ゆえに自分がまな板だったら、周りはどうなるのか? という疑問を直視してみたかった。

 対する香苗の思惑としてはこう。自分の似非Cカップで楽しんでみるとき、横にまな板を置きたいとする。そうすれば周囲の目はかたよる。いつもは優子が独占するモノを、こんどは自分が独り占めしたいとする。

「えぇ、でも……」

「なに?」

「魔法Tシャツ着て歩いていたら、知っている人が見たらびっくりしない?」

「優子っておっぱいは大きいけど根性ないなぁ」

「ムッ! そういうこと言うか?」

「だったら魔法Tシャツ着て帰ろうよ」

「わかった、そうしよう!」
 煽られるとムキになるEカップだった。ポケットマネーで魔法Tシャツを買うと、着て帰りたいと店員に申し出る。

「どうぞ」

 満面の笑みでやさしく応じる女店員。しかし内側では優子を見て、なんで最近のガキは乳が豊かなの? と小さい殺意を覚えたりした。

 そうして優子は試着室にたどり着く。ベージュ色のカーテンを閉めるとき、覗かないようにと忠告しておく。

「えぇ……優子のブラ姿見たい……谷間とか拝みたい」

「ダメ、見せる気ないし!」

 そっけなく言い放った後、クルッとミラーに向かった。自分の白いフルカップのふくらみとか谷間とか、それを見られるのがイヤだったというよりは、魔法Tシャツにドキドキする顔に突っ込まれたくなった。

「これを着るだけでわたしが巨乳じゃなくなる? このわたしが?」

 上半身を裸にすると、色白グラマーな体とフルカップがある。その豊かさとやわらかい谷間具合は、小6にしては女神の度合いが過ぎるというモノ。たんなるTシャツを着たくらいでは隠したりうすめたりはできない。

「えい!」

 気合にて優子がTシャツをまとった。そのときの感覚に異変はなかった。どのTシャツを着ても同じ! という風に胸は感じる。でも鏡面がとらえる自分を見たら、それはもう仰天するほどおどろく。

「え?」

 ズガーン! とショットガンで撃たれたみたいにドキッとした。なぜならカガミに映るのはたしかに自分だが、もっとも重要なところが改変されている。

「ま、まな板? このわたしが?」

 色白な指先がブルブルふるえて、うそだろう? とばかりミラーに向けられる。ショートレイヤー、ふっくらした輪郭の顔、むっちりボディーに黒いスカート、そういうのは同じだが、やわらかく豊かなふくらみ具合がない!

「ウソ?」

 信じられないという目で、すかさず不安になった。さっと両手がTシャツの胸位置に当てられる。するとどうだろう、我ながら大きい……と思うやわらかい弾力がある。ふっくらムニュっと乙女の手触りがしっかりとある。

「え、なにこのTシャツ……ほ、ほんとうに魔法?」

 優子はすっかり冷静でいられない。内側にあるとハッキリしていれば、外側が真逆になっても気にしない。むしろ初めて見る自分に対して、ジワーっとくる新鮮味をおぼえた。

「ない……わたしに胸がない」

 魔法Tシャツを着ていると、見た目はひさしぶりのまな板だった。それはずいぶん懐かしいモノに感じられた。

「優子、開けてもいい?」

 香苗の声を聞いて我に返る。どうしよう! とか思っても仕方がないので、開けてもいいよと促すのだった。
 シュワ! っと勢いよく開いたカーテン。そしておよそ0.2秒後くらいに、香苗がビシ! っと固まってしまうのだった。優子は何も言わずに待っていたのだが、香苗のアクションはちょっとひどいモノ。

「ぷっ!」

 いきなり腹を抱えて笑い出す香苗。

「こら、なんで大笑いするのよ」

 黙っていられないとモノ申すと、香苗はぜいぜい息を切らしながら、パーティー中ってくらい楽しそうな顔で言うのだった。

「まな板の優子なんて初めて見た!」

「そ、それはわかるけど、なんで笑うのよ」

「だって、だって……ギャハハハ」

 散々に笑いまくってから、おちついた香苗が説明した。魔法Tシャツを着て見た目的には豊かな乳を失った優子。でも他のパーツはそのままだから、ものすごいフェイントだよねぇという。

「ふぇ、フェイント?」

「だってさ、ふっくらムッチリで……いかにもおっぱいが豊かそう! って感じなのにまな板じゃん。すごいギャップだよ」

 そう言ってまたしつこく笑いかける香苗だった。

 屈辱的なことをぼろくそに言われまくった優子。でもここはちょっとガマンをした。他者がどう思うか、行き交う人間がどういう反応をするか、それはぜひとも拝んでみたいモノだった。

「優子、内側にはデカ乳があるんだよね?」

「デカ乳とか言うな……」

「ちょっと確認したい、触ってもいい」

「ダメ! いったいどれだけ触ったら気が済むのよ」

 プンプン! とやりながらも優子は香苗の横に立った。そうして仲良しという風にして歩き出す。店内をそれとなく回ってから外に出たら、こんどはモール内をそれとなく歩き回ってみる。それらではイマイチわかりにくいと思った。されどモールの外に出てみると、別世界という感覚を優子は味わう事になる。


ー優子に対する世間の目はどう変わるのか。後編に続くー
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