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十八話・自殺した女の子が誘ってくる1

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(この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません)


十八話・自殺した女の子が誘ってくる1


「あ~あ、なんて憂鬱な空……マジうぜぇ」

 空野雨竜は透明カサをクッと後ろに倒し、見事なまでに灰色という空を見てぼやく。それは時々発生する機嫌の悪い空だ。生まれて初めてみるようなモノではない。だがどうしてか今日のそれはおそろしいほど不気味でうつくしいグレーに見える。そうしていつも通りの時間に〇〇高校というところにたどり着いた。雨竜に言わせると学校は学生を収納する刑務所もどき。だが言い切らずに「もどき」とつけるのは、多少なりとも青春を味わえるから。
 
 ここは男子校ではなく共学。やはりそれはありがたいと思う雨竜だった。青春真っただ中というとき、女子という生き物が同じフィールドにいるといないではもう別世界。ましてこれほど天気が悪く雨も降っている日において、たどり着いたのが男子校だったら、おれは自殺してしまうぜ! と思う雨竜だった。

「うぃーっす」

 外のクラスに反して明るい教室内にたどり着く。そしてわき目もふらず自分の席へと向かうが、それは友人が目に入らないってわけではない。自分の席の隣にいるのがエンジェルだから、早く拝みたいと心が疼くから。

(あれ、木村さんはまだ来ていないのか)

 雨竜にとって目の保養プラス心の癒しとなるステキな女の子、それは木村千依(ちえ)という名前を持つ。ショートレイヤーがよく似合っており、ふっくらした輪郭にすごいグラマーさん。噂によると高1の今現在においてGカップとからしく、ユッサユッサと揺れるとき、それを見て心が荒れる男子なんかいないという話だった。

 ところがステキな人である千依はいつまで経ってもやってこない。そのままホームルーム開始となり、担任の男性教師がやってきたではないか。木村さんが遅刻とはめずらしいなぁとか思っていたら、担任がとんでもない事を言い出す。

「みんなだまってくれ。そしておちついて聞いてくれ。今からとてもつらい報告をしなければならない。実はその……昨晩のことらしいが……うちのクラスにいる木村千依、彼女が飛び降り自殺をしたそうだ。とても残念だが……もう二度と会えない」

 担任が苦しそうな顔をして言い終えると、当たり前の事として室内は静まりかえった。それには雨竜も含まれるが、彼は言葉を失うその中においてとても奇妙なフィーリングに陥っていた。

(え、え、え?)

 雨竜は誰も座っていない隣の机を見て、こんがらがった頭と心の結びつきをほどこうとする。だがどうしても理解という文字が自分の中に舞い降りない。

 人はいつか必ず死ぬ。会者定離という言葉の究極形は死である。性別も年齢も関係なく、いつかは死がやってくるものだ。しかし……雨竜がそうであるように、翌日にいきなり死にました! と聞かされるなんて想像を人はしない。目の前で死んだならまだしも、話を聞くだけではどうしても現実味がわかない。それはとてもうすく悲しい衣をまとったように、怖く、悲しく、せつなく、そしてどうしたらいいのかわかりづらい。

(死んだ……死んだ……死んだ……木村さんが死んだ……木村千依が死んだ……死んだ、自殺してしまった)

 心の中で雨竜は何度もくり返す。そうすると悲しさが胸の奥から沸く。だが後一歩というところで、どうしても信じられないとか受け入れられないとかで、その悲しさが不思議な感覚によって流される。だから涙はでない。しかし冷静で傷ついていないというわけではない。そんな感じで1時間目が終わるまで過ごした。

「おいおい、ネットに載っているぞ、木村の自殺」

 1時間目と2時間目の間になると、さっそくノリノリという感じでクラスの男子一人が雨竜の近くにやってきた。

「おまえなぁ……人が死んだんだぞ」

 雨竜にとってはとても信じられないことだった。男女どちらであれ、とくに何とも思わないって顔をしている奴がけっこういるのが狂っていると思った。

「いや、悲しんでいるって。だから気になるわけでネットで調べたんだ」

 そんな風に言う男子からは、ネットで見つけた情報を早くひけらかしたいという幼稚な心が浮かんでいる。雨竜に言わせるならそれ人間のクズ。

「どうやら木村はビルの10階から飛び降りたらしい。なんでも死体はぐっちゃぐっちゃになったらしいぜ。それを見た人の中にはショック死しかけた人もいるんだって。さすがに画像は見つけられなかったけど、もしかしたら後で出てくるかもな」

 そんな事をたのしそうな声で言う。それを耳にして耐えられるわけがなく、雨竜は立ち上がるだけでは済まなかった。

「ふざけんな!」

 バン! と大きな音が立つほど強く机を叩いた。

「なんだよ雨竜、おまえ……あれか? 木村の事が好きだったとか? 要するにおまえ、木村みたいにおっぱいの大きい女子が好きってか? 甘えん坊なんだなぁ」

 ここで笑いが起こったりするからたまらない。雨竜は教室という不愉快な空間から出ると、もうすぐ授業だというのは無視し一階に降りていく。そしてトイレに入り込むとドアを閉め、にぎった手でカベを思いっきり叩く。

「信じらんねぇ……同じ人間とか思いたくないねぇ。人が死んだのに死体がどうとか口にできるなんて、人が死んだのに笑ったりできるなんて……」

 雨竜、もう一度つよくカベを叩く。そして本来なら涙が出てもよさそうだが出ないのは、自分が冷たいのではなく、木村千依の死を信じられないでいるからだと声にしてつぶやく。まちがってもあの人間のクズと自分は一緒ではないのだと2回くり返したりもした。

―キーンコーンカーンコンー

 チャイムというのが鳴った。でもすぐにはトイレから出ない。遅刻してもいいからキオmチを落ち着かせようと思ったからだ。それはおよそ10分くらい続き、それから雨竜はトイレから出て廊下に戻る。

「うん?」

 ピタッと立ち止まる雨竜。

「な、なんだ……」

 その場に立って首をかしげるのは、妙な違和感というのを感じるせいだった。何かが変だと思うが理由が見えない。

「音?」

 入り口方面に顔を向け、外から入ってくるはげしい雨の音を聞く。それが問題というより、むしろ校舎内の方がおかしいのでは? と意識が向いた。

「なんだ、なんていうか……」

 ひとまず歩き出した雨竜、やけに校舎内が静かだと思い、それが違和感の正体か? と、胸の内側でドキドキする。なぜかわからないが、あまりにも静かであり、誰もいないのでは? なんて想像が働く。

(まさかな)

 雨竜、教室にたどり着くと勢いよくドアを開けた。そして何か言われたり一斉の目線が飛んできたりたりするんだろうと身構えた。

「え……」

 なんと……どういうわけか……誰もいない。空っぽという表現が詰め込まれた教室がそこにある。電気はついているが誰もいないに加え、外は芸術的な灰色だからなかなか怖いモノがある。

「うそ……この時間って体育だっけ?」

 頭がボケてしまったか? と思いながら、すぐさま近くにある他クラスの教室にかけよる。そして怒られる事を望んで勢いよくドアを開けた。

「えぇ……」

 ここも先と同じで誰もいない。電気だけがついて健全な不気味さをアピールしているように見える。そして他の教室もすべて同じ。なぜかはわからないが、このフロアにいるのは雨竜だけらしい。

「そ、そうだ……職員室に行こう。そこに行けば先生がたくさんいる」

 我ながらナイスなひらめき! とダッシュする雨竜、説明しにくい不安みたいなモノを胸に抱えながら階段にたどり着いた。そして最初の半分を下りて左に曲がり、残りの半分を降りようと思ったとき彼の足は止まった。

「は……」

 階段の下にひとりの女子生徒が立っている。この学校の制服を着ており、ショートヘアーが似合っていて、大変にグラマーだって胸のふくらみ具合の持ち主、それは雨竜の想い人である木村千依でしかない。だが問題があって、なぜか彼女の顔はひどく青白い。病弱な色合いなどでは済まされないその皮膚の色合いは、目にする雨竜の胸にするどい恐怖として突き刺さるのであった。
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