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十六話・どんどん事態が大きく悪化していく

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(この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません)


十六話・どんどん事態が大きく悪化していく


 ある男が平日の真昼間になんとなく住宅街を歩いていた。33歳という彼は自分を必要としない世間を憎みつつ、世間やら理想と思い焦がれる女に愛されたいと夢見る男。

「あぁ……天気だけはいいんだよなぁ」

 きれいな空と光を見上げたら、なぜ自分にはやる事がないんだとためいきが出る。しかしこのとき、とある家の物干しざおを見て彼の足取りが止まった。

「あ、あれは……」

 首をクッと上に向けている彼の目はベランダに干されている洗濯物をとらえ、その中のブラジャーという下着にくぎ付け。でもそれはただのブラジャーというだけではない。ただのブラジャーであるなら彼はまったくの無反応でいられたのだ。

―デカブラー

 巨乳もしくは爆乳が大好きで、そういう女と相思相愛になってみたくて一度も叶わない彼にしてみれば、豊満なサイズのブラジャーを見たらこらえきれなくなる。そうでなければたとえブラジャーであっても、彼はそれをただのゴミと冷淡に見ることはできたのだが。

(あの大きさ……Hカップくらい……それ以上……どっちにしても大物だ。これは見過ごすわけにはいかない)

 遠目に見てかなりのグラマーサイズとわかる以上、彼は叶わない恋に引き寄せられるかのごとく行動に出た。左手に持つスマホを持ち重要な会話をしているような演技をかます。そしてインターホンを押したとウソの行動をする。そしてインターホンに向かい、あ、よろしくお願いしますなどと言い、そのあと勝手に門を開け敷地に侵入。

(待ってろよ……デカブラ。必ずおまえを抱きしめてやる……必ず、ひとりの男して必ずな)

 彼は家の側面に回ると、隣家と間にあるブロックにのぼり、そこから屋根に向かっていくというアクション俳優顔負けの身軽さをやってみせる。彼が持っている能力のひとつは、いま犯罪のために使用されているのであった。そしてあっさりベランダに到達すると、彼は待ってくれていた恋人に歩み寄るかのように接近し、お目当ての白いフルカップに手を伸ばす。

「で、デカ……」

 それは彼のハートを震わせるほどの大物だった。両カップの間に楽勝で顔をうずめられる豊かさであり、背中の方を見て確認したらそのサイズはF100だと書いてある。

「F100……や、やった……恋人が手に入った」

 彼が喜んだそのときだった、突然二階にある一室のドアが開きひとりの女性が出てきたではない。

「ちょっと、何してるの!」

 それは30代後半くらいのとってもふくよかですごいグラマーな女性。まちがいない、この女性のふくらみを包み込んでいるのがF100だ。

「な、なんでもない」

 そんな事を言いながらF100というフルカップをしっかり握る。女性もそのままくれてやればよかったのである。それを何が何でも奪い返そうと強気の顔で男に近づくから抵抗されてしまう。

「あ……」 
 彼につよく押された女性の体がベランダから落ちる。そして彼女は屋根に落ちたら、そのまま滑るように落下。ドサ! っと庭に落ちたら頭をつよく打って死んでしまった。え、えぇ!? と驚いた彼、ただの下着泥棒がプラス殺人犯となってしまった。これはまずい、これは逃げるしかないとしっかりF100を握りしめたままその場から退散。

「捕まってたまるもんか……このデカブラだって……絶対に手放すもんか」

 屋根から家の下に向かうときだってしっかり豊満なブラジャーを手放さない。それは恋に恵まれない男の執念そのもの。そうして彼が家を出てドキドキしながら速足をやると、後ろから30代後半くらいの男性が追いかけてきた。

「まて、妻に何をした!」

 どうやらあのグラマーな女性の夫らしい。それを見た彼、毎晩あのようなステキな女性のあの豊満なおっぱいを求められてうらやましいなどと一瞬思いつつ、絶対デカブラは手放さないとして走り出す。

 ところが……足の速い彼に対して追いかける方はもっと足が速い。グイグイ距離を縮められたあげく、とうとう腕を掴まれた。

「は、離せ!」

 焦った彼、相手の手を振りほどこうと動き、そのついでに思いっきり押す! するとどうだ、ガン! とはげしく鈍いイヤな音が発生。

「え……」

 彼がドキッとして立ち止まる。でもすでに手遅れだった。追いかけていた男性は電柱で後頭部を打ったわけだが、よっぽどすごい激突だったのだろう。脳みそ一部が外に飛び出し電柱の下へ流れ落ちている。そう、彼は2人も人間を殺してしまった。

 そしてここに別の知らない男性がたまたま通りかかる。そしてその惨状を見て大声で叫びだす。

「殺人! そいつ人殺し!」

 それはそれはおどろくほど、まるで拡声器でも使っているのかと思うほどデカく通りのいい声。だから辺り一面にいきなり人が湧いてくる。

「ち、ちがう……」

 彼はF100を握りしめたまま青ざめ走り始める。

「待て!」

 正義に燃えた人間が前に立ちはだかる。はっきり言ってうざい人種というやつであり、危険を顧みないただのマヌケでもある。

「どけよ!」

 絶対に捕まえりたくない彼にタックルされると、立ちはだかっていた50代くらいの男は突き飛ばされ地面に倒れる。そこに勢いよく自動車が走ってきた。

「……」

 彼は見た、車が倒れている男の体を引いてしまう光景を。ぐぇ! って声が出た次の瞬間、男性は口から内臓をバーゲンセールのように噴き出し死んでしまった。

「な、なんで……なんでこうなる……」

 彼は必死になって逃げる。彼にしてみればただF100というグラマーサイズのブラジャーが欲しかっただけ。人を殺したいなどとは夢にも思わなかった。それなのに彼は今や3人を死に追いやった凶悪犯。

「止まれ!」

 叫んだのは前方に出現した警察官。なんと銃を彼に銃を向けている。ただしとっても気が弱そうであり、実際にはこわくて発砲など出来ないかもしれない。

「なんで、みんな邪魔するんだ!」

 彼はデカブラを握りしめたまま突進した。すると警官は思った通り発砲できなかった。しかし彼と揉み合いになりかけてしまう。そして不幸が発生。バーン! と弾丸が発生されると、ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!! とおそろしい叫び声が発生。それは大変にむごい内容によるモノだった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 泣き叫ぶ警官、どうやら発射された弾丸によって睾丸がつぶれてしまったらしい。ズボンの股間は血だらけになっており、それが周囲を赤い海に染めていく。

「い、いやだ……なんでこうなる……なんで、なんで!」

 彼は大粒の涙を流しながら、そして白いF100というすごい爆乳サイズのブラジャーを絶対手放さず逃げ続ける。でもそうやって逃げると、その道中においてどんどん人が死ぬ。気前よく人が死んで数字が積み上がっていく。

「ハァハァ……」

 彼がとあるビルの屋上にたどり着いたとき、すでに15人もの他人が命を失っていた。彼はすごいスピードで歴史に名を遺す殺人鬼に昇格。そしてビルの屋上なんかはまずいと思っても、追いかけてくる警察官がいる以上はもう後戻りはできない。

「へ、ヘリコプターまで……」

 そうなのだ、今どきは出来事の伝わる速度なんぞ光速。各テレビ局のヘリコプターが彼の行く末を悪趣味的に見守っている。

「こらぁ殺人鬼、もう逃げられないぞ、あきらめろ!」

 大量の警察官たちがビルの屋上に到達し、全員が銃を向けている。そしてボスらしいサングラスをかけた、警官ともヤクザともいえるような男が彼に言い放った。

「いったい世間にどんな恨みがあるというんだ。いかほどの恨みがあればこんな短時間で大量の殺人ができるというんだ」

 そう言われた彼はすさまじいショックを受ける。彼にしてみれば人を殺す気なんてなかったのである。ただ……巨乳とか爆乳女性と恋愛してみたいって思いがあり、それがゆえデカブラを見たら欲しくなっただけのこと。

「潔くこっちに来い。前に進んでも落下して死ぬだけだぞ!」

「お、おれは……ただ……巨乳とか爆乳って彼女が欲しかっただけなんだよ……だ、だからデカブラを見たらガマンできなかった、それだけなんだよ。なんで、なんで人殺しになったのかなんてわからないよ」

 彼が涙を浮かべて叫ぶと、サングラスの男はあきれたように、でも諭すような音色も交えて言う。

「デカブラが欲しいからって人を殺してもいいのか! でもやってしまった事は仕方ない。潔く逮捕されて自分の罪を償え。もっとも……おまえの場合はもう二度とシャバの空気は吸えないだろうがな」

 言われた彼は後ずさりしながらちょっと後ろを見る。もう少し下がったらビルから落ちることになる。周囲の光景からしてここは相当な高さ。落ちたら確実にあの世へ逝ける。

「死ぬな、生きて罪を償うんだ!」

 刑事に説得され一瞬そうしようかと思った。だが目の前にいる警察の大群、そして頭上で飛び交う何台ものヘリコプターなど、もはや冗談がつうじないレベルに話は拡大している。彼ただの下着泥棒で終わることはまずありえないと断言できる。

「どうせ……罪を償ったって……どこにも戻れない。仮に戻ったって……どうせ世間から相手にされず、一回たりとも好みの女性と親しくなれず……さみしく、つめたい人生を送るしかないんだ。だったらもう……もう生きている必要なんて……」

 彼は警官たちに背を向けると、最初で最後の一大劇場を展開させた。今まで一度だって世間から見向きもされなかった男が、世間の注目を浴びながら大空へ羽ばたこうとした。そしてそれは誰もおまえを必要としていないって、そういう重力に引っ張られ落下していく。そうして固い地面に体が抱かれ動かなくなったとき、自分の意思でそうなった彼は伝説にたどり着けたのである。
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