上 下
15 / 39

十一話・思い出の中で生きろ(後編)

しおりを挟む
(この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません)

十一話・思い出の中で生きろ(後編)


 同窓会。それは確かに感動的だ。ドハデな成功をしたって者は一人もいないが、自分の人生を構築している真っ最中という話が飛び出すと、それはみんなで拍手する事ができた。それまさに同じ青春時代を過ごした者たちだけが持ち得る特殊な愛情。

「ちょっとトイレ」

 立ち上がった尽、冷えてうまい瓶ビールを飲み過ぎたという事もあったが、一度席を外したいと心が苦しくてつらかった。

「青井さん……」

 トイレに入ると一応ズボンとパンツは脱いで洋式便器にこしかける。だが勢いよく出るのは出るのは尿より深いためいき。それ時間が立つほど切なさの温度が上がるばかり。

「青井さん、青井さん!」

 ギュッと右手で左胸を掴む。あまりにも痛くて、あまりにもつらくて、両目からポロポロ涙が落ちていく。突然に特別な女の子を失うって物語が舞い降りた。その女の子、事もあろうに腐れなヤンキーと一緒になるのだという。同窓会の間ずっと2人は並んで座り、絶える事なくノロけている。それは結ばれた男女の特権ともいえる熱くてまぶしい輝き。

「なんで……なんで兵庫なんだよ」

 尽、泣きながら声を荒げる。青井祐奈は自分の女の子だと勝手に思っていただけなのに、兵庫に彼女を奪われたというカン違いが事実として自分の中に入っていく。

「青井さん」

 ボロボロこぼれる涙の量が増えていくと、尽は人生が崩壊していくような恐怖と悲しさに襲われる。しかしここで突然にこのまま泣いているだけでいいのか? 一度だけでも一回だけでも立ち上がるべきなのでは? という、弱虫を脱ぎ捨てたい願望が炎のように心を焦がし始める。

―そして同窓会が終了―

 尽は祐奈と兵庫の2人に、駐車場に来て欲しいと頼んでおいた。だからその場に行ったとき、周りに他の誰もいないって事に勇気づけられる。

「なんだ、尽、なんか用か?」

 うざいなぁおまえはと言いたげな顔をする兵庫が言う。

「兵庫……頼みがある。青井さんと別れて欲しい。だってそうだ、おまえみたいな腐れと青井さんがお似合いなわけがないんだ」

 言いながら尽はスーツの下に隠し持っていたビール瓶を取り出す。しかしそんなモノを取り出して何をするのか読めないこと、元ヤンキーで現在もまだヤンキー残りな兵庫にしてみれば、目の前にいる尽が脅威などに見えないなどあり、彼はなんら臆することなく尽に近づこうとした。

「近寄るな!」

 燃える尽が叫ぶ、そして彼は持っているビール瓶をすぐそばにあった車にぶつけガシャーンと音を立てる。するとどうだ、手に持つビール瓶は大変に危険な形となる。

「尽、おまえ青井が好きなのか? だったら言ってやる。おまえみたいな弱虫で何もできないチンカスに女は不要。おまえみたいな男が女を抱こうなんておこがましいんだよボケ! 尽、おまえみたいなみそっかすはリアルドールにチンポを突っ込でりゃいいんだよ」

 へらへらっと笑う兵庫が近寄ってきた。すると尽、何をされるのかとおびえると同時にバカにされた怒りがわいて我を見失う。

「人をバカにするななぁぁ!!!!」

 叫ぶ。そして右手のビール瓶をまっすぐ兵庫の顔面に突き刺す! グシュっと相手の顔がつぶれる音がした。ぶわーっと血が噴き出すと同時に抉られた肉片が地面に落ちる。いや、尽が興奮して刺した瓶先をグリグリ動かすから、兵庫の目玉がポロっと落ちる。そして兵庫はそのまま仰向けに倒れ……固い地面で後頭部を打って死んでしまう。

「きゃーーーーー」

 当然ながら祐奈は絶叫。おびえながら後ずさりを始める。

「ま、待って……話を聞いて、お願い!」

 尽がそう言ったところで祐奈がうんと言うわけがない。それどころか駐車場の出口へ向かって走り出す。

「待って、青井さん、待って、逃げないで!」

 追いかけていた尽、懐からもう一本隠していたビール瓶を取り出す。そんな事をする必要があったのかどうかはわからない。しかし冷静さを欠くという事は、信じがたい行動が選択肢に入るということ。

「青井さん、青井さん、青井さん!」

 尽の手が瓶を振り下ろす。ガーン! と……一切の冗談が通じないほどすごい音がした。するとどうだ、走っていた祐奈がばったりと倒れる。両目を開いたまま、口を開けたまま、まるでだらしない表情って感じでピクリともしなくなる。

「あ、青井さん……青井さん、ぼ、ぼく……ぼくは……ぼくは……」

 動かなくなった祐奈を抱える尽。その目には熱い涙が浮かんでいる。なぜなら彼は生まれて初めて、ずっとずっと気になっていた女性を抱くことができたのだ。

「青井さん……ぼ、ぼくはきみが好きだ……すごく、すごくシアワセだ」

 尽が泣きながらもうれしそうな顔をし、殺してしまった女に口づける。死んだばかりなのでいい匂いがふんだんに上がってくる。そして女体ならではの温かさとやわらかさが、口づける尽の心に寄り添う。

「あ、青井さん……青井さん……青井さん」

 大粒の涙を流しながら祐奈と唇を重ねる尽、彼にとってその時間はあまりにも静かでうつくしい時間だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...