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三話・個別の追い込み指導(前編)

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(この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません)


三話・個別の追い込み指導(前編)


 獅子堂龍斗という少年がいて、やや気弱だの言いたい事がいいにくいだの欠点を有しつつ優しさを持っていた。小6の時、掃除で小1のクラスに出向いて大いに好かれ、彼は年下の幼いたちを可愛いと思ったわけである。よって龍斗はあれこれ経験し感じながら青年へと成長してくにおいて、いわゆる職業というモノに狙いを定めた。

「教師になろうと思うんだ」

 そう宣言した事に両親は嬉しさと納得を覚えるような顔で同意してくれた。それは親戚一同にも波及し、彼はつらくともやり遂げ夢を叶えた。

―そして今現在―

 あこがれの教師になって3ヶ月月が過ぎた頃、5年生を受け持つ彼は頭が割れるように激しいショックを受けてしまっている

「宇宙人か?」
 
 真剣にそう思い悩むほど教え子達が可愛くない。彼ら彼女たちは冷笑的な反逆ばかり向けてくる。
今現在の子供たちは龍斗たち先人とは違う遺伝子でつくられ生きている。恐ろしいほど早くから達観した目線や意識を覚えており、肝心要にあって幼稚園児でしかない。彼らと会話する時に感じる不気味さは龍斗をずいぶん悩ませた。

「どう解釈したらいいんだ」

 日記には不安な気持ち綴るページがずらりと並ぶ。3ヶ月月、たった3ヶ月で仕事がつらいとゲロ吐きしたくなっていた。明日は学校が休みだからと結構な量の酒を飲みながら、両親や親せきに腹の中をぶちまけられない辛さに耐えたのだった。

「獅子堂先生、今日空いてます?」

 本日の職後にふと誘われた。同じ学校に通う同じ教師、それは語り合える数少ない存在。龍斗は一瞬の間に助けを求めたい自分を受け入れ、話を聞いて欲しいからと誘いに乗る。そうして午後の7時半。とある居酒屋にて平井紋太なる先輩教師と向かい合った。双方共にビールで軽く乾杯し、冷たいモノをグッとノドに通してから会話が始まって行く。

「先生、最近悩んだりしてません?」

 紋太の声に龍斗は背中を押してもらったように感じ、タバコを取り出して緊張しつつも初めて口の外に出す。

「怒られるのかもしれませんが……」

「怒りませんよ、多分」

「理想と現実が違っていて、子供達が悪魔のように思えてしまって怖いんです」

 ついに本音を言った。言ってはいけないと思うことを言ったので、もう後に引けないとふたたび緊張する。

「いやいや、そんなの普通でしょう」

 意外な反応を浮かべる紋太はタバコを取り出して、そうでなきゃ嘘だとさえ平然とつぶやくのだった。

「あれのどこが可愛いんです、可愛いと思うガキなんか一匹もいないでしょう?」

 聞いた龍斗がドキッとするような言い回しで、たまらずタバコの灰をテーブルに落としかけてしまう。しかし紋太は冷静な面持ちであり、獅子堂先生のつらい気持ちは楽に感じ取れますよとする。まるで高等カウンセラーが神に昇格したようだった。

「それは多分、獅子堂先生とぼくがお互いが似ているからですよ」

「似ている?」

「なぜ教師になったかって話においてね」

 ちょっとした驚きと安堵が不思議な感情を湧き上がらせた。龍斗は目の前にいる紋太が、何ら臆せず子供否定な発言を繰り返す姿に衝撃。

「で、ここから話の本題」

 紋太は新しいビールをグッとやってから、ここの学校にいる教師達はみな情報を共有しているんだと明かす。校長だの教頭だのは省いて、いわゆる平の教職員たちだけでと。

「情報?」

「そうですよ、獅子堂先生も3ヶ月頑張った、だから参加してもらう権利と必要があるんです」

「権利と必要?」

「まぁまぁ落ち着いて話を聞いてくださいな」

 平井紋太が龍斗に教える所によれば、すべての教師は自分の教え子の8割を可愛くないと思っており、同時に激しく怯えてもいる。おそらくではあるが、教育と無関係の人間からは信じられないほどにおぞましいストレスでオドオドビクビクしている。

「そりゃそうですよ、あいつらは平然と大人をなぶる、それも小1の頃からね」

 吐き捨てた紋太はここで、共有する情報が何かを説明し始めた。

「すべての生徒、一人一人を細かく分析してデータベースに入力してください」

 言ってコピーと書かれたUSBメモリを差し出す。

「それね、他の先生が入力した情報すべて入ってます、他のクラスに他の学年、すべての情報」

 龍斗はUSBメモリを見ながら、自分がここに教え子の情報を入力した後にどうするのかと問うた。

「そしたら学校のパソコンに隠しデーターとして入れます」

「入れる?」

「後は先生たちが定期的にデーターを持ち出して確認なり上書きをしていくと」

「それは一体何のためなんです?」

「なんのため?」

 タバコを手にし龍斗を見つめる紋太。やれやれと少々あきれたような顔をしてから、説明を続ける。

「教師が生徒から身を守るとはどういう事か分かります?」

「わ、分かりません」

「こっちから攻撃する事も必要だって事なんです」

 いくぶん胸が落ち着かなくなってきて、震える手でタバコを取る。しかしドキドキしながらも龍斗は火を付けながら攻撃の意味を教えて欲しいと乞う。

「個別指導ですよ、ガキのためじゃなく、我々教師を守るためのね」

 また新しいビールをグッとやって、紋太は一括りにするのは教える方がダメになるとつぶやいた。可愛くない子供を個々に把握するのは大変であるが、それによってある事が可能となる。それはどの教え子をどう飼い殺すか。

「飼い殺すって」

「その言い方がダメなら、どうやって抑制教育するかって言い直しますよ」

 クスっと笑った彼は、今どきの子供は常にハンマーでたたき伏せないと安易に大人をなぶって世の中を甘く見ると力説。

「自分を天才だと勘違いしながら、10歳で20歳のような年寄りになりながら、それでいてやはりガキ止まり。これね、死ぬ寸前まで殴らないと理解できない下等生物ってて事なんですよ」

「そんなひどい言い方、教師がやってもいいんですか?」

「事実ですって、愛情であの動物めいたガキがお利口になると思うんですか?」

 紋太いわく、人間誰しも個々の資質がある。それは攻められて痛がる場所が異なるって事。。無視しても気にしない生徒もがいる一方で、一つ声をかけないだけで自殺しかねない生徒もいる。正義感に溢れる生徒がいるかと思えば、チンピラになる以外想像出来ない生徒もいる。

「一番性質が悪いガキっていうのは……なんだと思います、獅子堂先生」

「それは?」

「まぁ、一見大人しく利口ぶっているバカね。冷淡で残酷な幼稚園児ってやつ」

「平井先生、表現が過激です」

「教師だからこそです、第三者の偽善目線と一緒にされては困ります」

「先生は生徒を愛してないんですか?」

「愛していますよ、海のように深く」

「本当に?」

「愛の形は色々、まさか慰め褒めるだけが愛とか言うんですか?」

「いや、そういうわけでは」

「褒める慰める、そんな餌しか与えないから動物にしか育たない、間違ってますか? いまの世の中を見て、それでもぼくの言っている事が間違いだと反論できますか?」」

「では聞きますが、そういう生徒に対して何をどう攻めるんですか?」

「言ったでしょう、防衛と攻撃は表裏一体だって」

 ここで初めて、温厚な感じだった顔が少し引き締まる。紋太の手はタバコを取り、その表情はちょっとした痛い過去を蹴りたくなると主張しているように目に映る。
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