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68・燃得の告白、つき合ってください!

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 今日、雨降り、うっかりすると憂鬱になりそうな天気だ。そん中、2時限目と3時限目の間に燃得へラインメッセージが届いた。それは愛しの椎名からであり、昼休みに話があるから音楽室の前へ来るようにという指示だった。

(うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)

 燃得、今日はキブンがあまり乗らないとか思っていたらこれかよ! とかなり焦った。椎名からのメッセージは何を意味するのか? といえば、他でもない小説の返事である。そしてあの内容からするとビンタされる可能性が高い。でも燃得としてはたとえビンタされても言わねばならない事がある。よって早急にテンションを上げねばならないと、内面の温度を早急に上げていく。

(絶対ビンタされる……よくもあんな小説を書いたな! って怒られる、失望したとか言われても不思議じゃない。だけどそうなるとわかっていたんだ、がんばれおれ、何があっても言うべき事を言ってこのイベントを乗り切るんだ)

 こうして燃得は静かになりたいと脳に訴えてくるからだに、ジッとしている場合じゃねぇ! いうメッセージを脳から体に送り返す。そうなのだ、暗い自分が好きな女子の声を聞くわけにはいかないのだと……として。 

 (いよいよだ)

 燃得、昼休みに入ると他の事はすべて頭から追い払い、椎名のことだけ考えて音楽室に向かう。使用される頻度が低いゆえ、音楽室の周辺は常にひっそりしている。朝から降り続ける雨とか外は薄暗くて校舎内は明るいという対比、それらが燃得のドキドキを加速させる。

「あ……」

 早めに来たと思ったら椎名の方が先着だった。だから思わず声を出すと、校舎内だからいらぬお世話として響く。

「お、遅れました、ただいま参上しました」

 燃得が言うと、椎名はまず立ち位置を変えようと言う。つまり廊下の突き当りにある音楽室の入り口を背にして立つのは燃得とすれば、椎名は獲物を追い詰め仕留める寸前のハンターみたいであれる。

(ぅ……)

 背中が開かない音楽室のドアに当たると緊張感が増幅。逃げられない、もう逃げられない、ハンターに銃口を向けられる動物にでもなったようなキブンが燃得の中で踊りだす。

「燃得」

「は、はい……」

「あんたの小説読んだわ」

「そ、それで……」

「まず、わたしが感想を言うんだからあんたはだまって!」

「はい!」

 椎名、顔を赤くするとテレ隠しみたいな感じで腕を組んで豊かな胸に当てる。それを見る燃得、その胸に当たるその腕になりたいとか思ったりするが、そういう事はもちろん表に出さない。

「燃得、あの小説って……中身がないじゃん。いきなり濡れ場から始まって、後はひたすらエロばっかり。それってもう小説じゃなくて、あんたのエロ好きと妄想が混ざり合った駄文。あんた確かわたしに自分が書いているのはちょいエロとか言ってたよね。でもあれってすごいドエロ。18禁フィルター無しで発売されたら犯罪になるようなレベル。よくもわたしをだましてくれたわね」

「だましただなんて……だって……ちょっと恥ずかしかったんです」

「恥ずかしかった?」

「心がピュアだから」

「なにがピュア……」

「で、でも……」

「なによ」

「あ、いや……いいです」

「言えつーんだよ!」

「自分で言うのはなんですけれど、思いっきり熱意を込めました。だからその、ストーリーはなくても、読んでドキドキするって事はさせると少し自信はありました」

「そ、そうね、わたしも思わず女の時間をやってしまったし」

「え! いまなんて?」

「あぅ! く……ぅ」

 椎名、うっかり自ら自分の恥を告白してしまった。こうなるともう燃得を張り倒す以外に自分のプライドを守るすべはない。

「燃得、よくもわたしに言いたくない事を言わせたな!」

「そんな、お姉さんが自分で言ったんじゃないですか」

「問答無用!」

 椎名がグッと接近、そしておまえは地獄に落ちやがれ! と、ものすごい勢いで右腕を上げた。もしそれでビンタをしたら、燃得の首が吹き飛ぶのではないかと誰もが心配するだろう。

「好きです!」

 首が吹き飛ぶかもしれないってその寸前、燃得が椎名に告白した。真っ赤な顔したピュアな男の子全開に思いを声にした。

「う……く……」

 もう少しで椎名の手が鬼のようなビンタを燃得の顔面にかますところだった。燃得は椎名に赤い顔を見せながら少し汗を流し、もうちょっとで首が飛ぶところだったと内心大いにホッとする。

「燃得、いまなんて言った」

「好きです、お姉さんが好きです」

 もしここで燃得が恥ずかしがって言えなかったりすれば、椎名の勢いが再始動となり、燃得の首が地面に転がるほど激烈なビンタがかまされただろう。だが真剣な即答をされると椎名の女子力に軽いエラーが生じる。

「な……」

 椎名、顔を赤くするとスーッと少し後ずさり、それからまたふっくらやわらかいDカップの胸に腕組みを当てたが、どうしたらいいのかわからないと表情をゆがめたりあっち向いたりこっち向いたりと落ち着かない。

「好き? わたしが?」

「はい……だって……」

「だって?」

「あのエロ小説には、お姉さんが好きだ! という思いを天元突破のごとく盛り込みました。お姉さんが好きだ! という思いを盛り込んだからこそ書けたんです。確かにエロいモノですけれど、そこに情熱がなければ……あんなの書けません。あれはおれのお姉さんに対する真心があってこそ書けたモノなんです」

「む……ぅ……」

「自分とかお姉さんの名前を使ったことは謝ります」

「っていうか、椎名がDカップの巨乳とか、名前以上の事も使いまくってるでしょうが」

「ご、ごめんなさい……でも……お姉さんの事を考えてせつなくなったら、止まらない思いがリアリティを求めちゃって」

「リアリティって……」

「つ、ついでだからもうちょい聞いてもらってもいいですか?」

「言いなさい」

「じつはその、おれは最初こう思っていたんです。佐藤翠名みたいな、あんな感じの巨乳と付き合ってみたいなぁとか」

「あんたと翠名は似合わないわよ」

「はい、今はそう思います。そしてそれがすごく哀しいとも思いません」

「なんで?」

「お、お姉さんの方が好きだから……それに、もしかしたらおれとお姉さんはお似合いかもと勝手に思ったりもしていて」

「何をひとり勝手に思い込んでいるのやら」

「いけませんか? お姉さんが好きだからこそ、お姉さん……って色々考えてしまうことが、それがそんなにいけない事ですか?」

「ん……ぅ……」

 椎名、眼前のエロ男子こと燃得が急にちょっとかわいく見えたりしてきた。そんなに言うならわたしが仮の相手になってあげようか? と言いたくなってきたりもする。それは椎名にちょっとばかりの悔しさと奇妙な甘い感じをもたらす。

「燃得ってエロいしなぁ……」

「はい、エロいです。でも、エロいけれど……まっすぐな心の持ち主です」

「わたし、翠名みたいに甘い女子じゃないんだけれど」

「いいです。甘辛くておいしさが止まらないって方が魅力的です」

「そんな風に例えるか……でも、わたし……今のところは一応巨乳に入るかもしれないけれど、翠名のボリュームには負けているけれど?」

「いつだって思っています。お姉さんの豊かな胸に思いを届けられたらどんなにいいだろうかなぁて」

「ったくもう……」

 話せば話すほど椎名は自分が弱体化していくみたいだと思った。恥じらいがジャムを煮込むみたいにドロついていく。年上の崇高なる自分の調子が狂っていくという不安が勢いよく上昇。こうなるともう解決策はひとつ、やはり燃得にドハデなビンタをお見舞いするしかない。

「燃得!」

「え……」

「今こそ暗闇に還れ!」

 恥じらいを乗り切るためにビンタしようというのだから、腕を振り上げた椎名が見せる勢いはすさまじく、燃得は思った。あ、ダメだ……これで自分は死ぬんだ……と。

 しかしここで思わぬ事が起こった。今まさに燃得の首をぶっ飛ばそうと思っている椎名が、勢いありすぎて足を滑らせた。それはきっと恋の神さまが2人に言っているのだろう、争いではなく愛し合うようにと。

(え……)

 ドアを背にギョッとした燃得、少しばかり態勢が崩れたら椎名の顔が向かってくると見た。そしてその一瞬はいかなる反射神経を持ってしても避けられず、とてつもなく甘いイベントにつながる。

「あんんぅ!」

「んぐぅ……」

 急に動きが止まった時、2人の唇は重なり合っていた。チューチューチューチューチューチューチューチューチューチュー、恋の事故チュー!

(ん……)

 椎名、あまりの事に頭が真っ白になってしまう。

(ん……ぅ……)

 燃得、あまりの事に頭が真っ白になってしまう……が、とてもいいニオイに包まれると同時に、椎名の唇がやわらかくて甘いって事実に脳がとろける。心地よい夢に導いてくれる女神のフルーツみたいだと思わずにいられない。

「んん……」

 椎名、真っ赤な顔して立ち上がろうとするが、思いっきりひっくり返った頭はすぐに戻せない。だから立ち上がろうとしたらまた足を滑らせた。だから焦って両手をドアにつけたはいいのだが、さらに態勢を崩してしまった燃得に向かって……ムニュウっと豊かなふくらみを押し付けてしまった。

「はんぅ……」

 甘え死にするみたいな声を出す燃得、制服状態であっても大きくてやわらかいキモチよさって弾力が顔に当たってきて脳みその温度が沸騰寸前まで上がってしまう。

 幸せ、幸せ、幸せ、めっちゃ幸せ! 燃得は思う、こんなに幸せだと今日の帰り道に不幸が襲ってきて交通事故とか何かで天に還されてしまうのではないかと。

「んんんぅぅ!!」

 椎名、今度はちゃんと立ち上がった。まったくなんという、なんてこと! と、グルグル巻きにされたみたいな感情を必死に落ち着かせる。

「燃得」

 言って男子の方に目を向けると、幸せ過ぎて態勢崩したまま動けないけれど、顔だけは夢を見てニヤニヤって絵姿がある。

「アホか、さっさと目を覚ませ」

 椎名、今のは自分にも非があるということで思いっきりビンタはしない。だが片手で燃得の首元をつかみ、反対の手で軽くピシャピシャっと打つくらいはする。

「ほら、いつまでもデレっとした顔しない、シャキッとする」

「は、はい……」

 椎名に言われて立ち上がる燃得だが心の中では、あのキモチ良さで冷静をキープできるわけないじゃんと思ったり、神さまありがとう! とお礼を言ったりする。
 
「燃得、話の続き……あんたほんとうにわたしが好きなの?」

「はい、この心にある情熱に誓って大好きです」

「じゃぁ、聞くけれど……あんたいい男になれるの? うん?」

 椎名、ちょいと意地悪な目を燃得に浮かべる。言い返せるモノなら何か言ってみろよという、女子が残酷な生き物と証明するよう目つき。

「はい、なれます!」

 燃得が即答したから椎名は思わずズッコケそうになる。ったくこいつは……とイラつくが、どういう風にどうなるのか説明してみやがれ! と命令した。

「おれ、ものすごく真剣に思ったんです」

「なにを?」

「こ、これほんとうにマジメな話だからマジメに聞いてもらっていいですか?」

「聞こうじゃない、その代わりマジメじゃなかったら首を飛ばすからね」

「お、おれ……エロ小説を書きながら、熱を注ぎながら書いたらすごい興奮しちゃって、たまらずオナニーしたんです」

「ん……」

「めちゃくちゃ興奮して……でもそこでふと思いました」

「何を?」

「もしかして……おれってエロい小説を書く才能があるかもって」

「ま、まぁ、よくあんなの書けるなとわたしも思いはしたけれど」

「ですよね! だから決めました。おれエロ小説で生計を立てようかなって。だってほら、自分がこれだけ興奮するって事は、他人の股間にも放火できるはずだから」

「それ本気で言ってるの?」

「はい、そして思うんです。人に迷惑なんかかけていないから、お金になればいいのだ、金を稼げないのが悪であり、金を稼げればそれは正義であると」

「おぉ……それはその通りって思うわ」

「ですよね! そしておれは続けて思うのです。ドエロで金を稼げる力だけじゃなく、一般でも売れる小説を書けるようになれば鬼に金棒だって。今から必死に練習すれば、この思いは叶うはずと、けっこう本気で思っていて」

「金を稼いだらどうするの?」

「第一にお姉さんにプロポーズします」

「ん……第二は?」

「大きくて白い家に1台数億円くらいの高級車を買います。そして……」

「そして?」

「お姉さんと1万回以上愛し合って、子どもを20人くらい作ろうかなって」

「20人も産ませる気かよ!」

 こんな会話をやっていたら2人の間の雪解けみたいなフンイキが漂いだした。そこで椎名、ついさっき事故チューだのラッキースケベだのが起こった事を今は忘れて……として、燃得に右手を差し出す。

「え?」

「と、とりあえず……友だちみたいな感じの友だちから付き合ってみようか」

「付き合ってくれるんですか!」

 燃得はバカみたいな素直を体現できる。椎名に言わせれば素直すぎてズルいと言いたくなるが、今はそれを良しとして伝える。

「その代わり、ちゃんといい男になりなさいよ。あと、エロでも一般でもなんでもいいから小説家になりなさいよ。わたしの期待を裏切ったらひどいんだからね」

「この火高燃得、世間に背を向けることはあってもお姉さんを裏切ったりはしません」

「いやいや世間にも背を向けたらダメなんだってば……」

 椎名、燃得と手を合わせたら、こいつはわたしの彼氏なんだ……と自分に言い聞かせ、くぅっとやさしく握ってやる。そしてここに佐藤椎名と火高燃得の2人ってカップルが誕生したのであった。
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