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42・椎名に直接当たれ2

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(お姉さん……)

 いま、燃得は一つ上の学年が生息する校舎に足を踏み入れている。それは聖域へ踏み込むみたいな感じで炭酸ドリンクがジュワっとなる手前みたいな緊張を誘う。

(やめようかな……)

 燃得は弱気イコール正義みたいな気がしてならなくなってきた。こんな事をしてお姉さんに嫌われたらどうする! と、きっとそれが正しいのだと半分は思う。しかし残りの半分はこんな風に思う、やってみなきゃわからない! と。つまり椎名に嫌われるかもしれないけれど、椎名との距離が縮まるかもしれないって、言うなればそれ虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 長い廊下を正面にすると、早くも廊下上の人間数人がこっちを見る。このまま何もしないのはただの不審者であり、もしかしたら悪意ある者に絡まれるかもしれない。そこで燃得は勇気を出して前に進み、椎名がいる教室の前に立った。

「きみ、どうしたの?」

 教室前に立っていた女子が見慣れない顔の燃得に聞いた。どうやら年下だとすぐに分かったらしい。

「えっと、佐藤さん……いますか?」

 ここはちょっとかわいく振舞う必要ありと心得ている燃得、ぼくは今すっごくドキドキしているんです! という、かわいい子犬ってオーラを身に纏う。

「佐藤って椎名のこと?」

「はい」

「弟じゃないよね、あ、もしかして彼氏!?」

「え……」

「そうか、ちょっと待っていて」

 にんまり笑った年上女子が教室に入って行ったのを見て、これはもう逃げられない、腹をくくるしかないと燃得は大急ぎで自分の心を引き締める。

「椎名」

 友人に呼ばれた椎名、机に向かって座りノートを見ていたが、その顔を動かし何? と聞く。すると実にイヤらしくニヤニヤする友人がとんでもない事をイッた。

「彼氏が来てるよ」

「ブッ!」

 椎名、思わず座ったままズッコケてしまう。だからDカップって胸のふくらみが、ちょっときつめに机へ当たったりもしてしまう。

「か、彼氏? 誰それ」

「またまた、年下の彼氏じゃん。だいたい椎名みたいな巨乳に彼氏がいないとかおかしいと思っていたんだよねぇ」

「年下?」

 椎名がドアの方を見ると、もう開き直るしかない! と思った燃得が顔を赤らめながら小さく手を降っている.

「ったく……」

 イラだった椎名が立ち上がると、周囲からドワー! っと茶化しの大歓声が沸いた。男子たちはおぉー! となるだけだが、女子はたちはあれこれ言う。

「椎名、巨乳なんだから彼氏にはやさしくしてあげなさいよ」

「椎名、公衆の面前でイチャラブする時は控えめにね」

「椎名、女子力を燃やす夜はほどほどにするんだよぉ」

「うるさい!」

 顔を赤くしていら立ちフルマックスな椎名、教室から出ると燃得の腕をつかんで、あっちで話をしようと歩き出す。すると教室から茶化しが沸き上がり、「おぉ、2人はラブホに直行か!」なんて声も出たりする。

(ったく、どいつもこいつも……)

 めちゃくそ不機嫌になった椎名、階段のところへたどり着くとパッと手を離す。そして、何か言おうとした燃得にズイっと接近。

(ぅ……)

 燃得、目の前の相手がご立腹なので焦る。しかし焦りながらも……接近してきた椎名から流れてくるいいニオイにデレっとなる。そして目を少し下げて、お姉さんもおっぱいは大きい、揉んでみたい、その胸に抱きついて甘えてみたいと思ったりする。それはまさに男子の職人的人生の模範というモノ。

「燃得、わたしが前に言ったこと忘れた?」

「え?」

「うちの教室には来るなって言ったでしょうが、しかもそれそんなに前じゃない。なに、あんた認知症なの? 安っぽい紙みたいに記憶力がないの?」

 椎名、きつい表現をムッとした顔で言う。それは椎名が周囲の男子から、あいつはかわいいし巨乳だけれど性格が悪いよなと言われたりしている要因のひとつ。

「じ、実はその、お姉さんに聞いて欲しいとか聞きたいって事があって」

「だったらラインで送ればいいじゃん、学校が終わってからの話でもいいじゃん。ねぇ、なんでわざわざ教室まで来るわけ? なんで? どうして? 頭おかしいの?」

 不機嫌になった椎名のコンボ攻撃は威力がつよい。それはガンダムのハイパーバズーカーを連発で食らわせるようなモノかもしれない。

「そんなにいけませんか?」

 燃得、椎名の攻撃が力が強すぎるため、反撃には逆ギレしかないと踏んだ。そしてそれはまちがいではなかった。

「む……なによ開き直ったりして」

 椎名、相手を勢いよく押し殺すつもりだったが、そんなにいけませんか? なんて言い方をされると気になる。そんな態度に出るなら聞くだけ聞いてやろうかって感じになる。

「おれ……すごくマジメなんです」

「あんたのどこがマジメなキャラなのよ」

「違います、いまここで言いたい事がマジメな話ってことです。それとも、お姉さんは人のマジメな話とかいうのすら聞いてくれない人なのですか?」

 燃得がうまく攻める。攻め入るのがむずかしい入り組んだところを、うまく突き進むように攻め込む。

「ん……よし、だったら聞いてあげる」

「ほ、ほんとうですか、やった!」

「その代わり、話の内容が糞だったら……そのときは首を絞めて殺すから、そのつもりで話をしなさいよ?」

 話を聞いてくれる、でも脅迫めいた感じが怖い……そんな椎名だが、燃得もここでもうまくやってのける。

「わかりました、まっすぐな話をするためウソや偽り、そして話を濁すとかやりません。お姉さんにまっすぐぶつかります」

 こう言うと椎名は……その姿勢を評価した。だから燃得は話がしやすくなる。場の空気は椎名が支配しているが、そのスキマを燃得がうまく泳ぎ回っているみたいな感じが混ざっていく。

「お、おれ……」

「なによ、早く言いなさいよ」

 燃得、ここで言おうとした、最近はドエロ小説を書くことにハマっている! と。しかし、ドエロというところにビビってしまった。椎名に嫌われたくないって思いも動いてしまった。だからつい濁してしまう。

「ちょっぴりHな小説を書くのにハマっているんです」

「小説? ほんとうに?」

「ちょっぴりHなんですけれど……」

 燃得、ここで心臓のドキドキを高める。先ほど、妹の方はエロい小説を書いていると言ったら意外と評価してくれた。でも姉はどうだろう、つめたい目と口調を向けてくるのではないと不安がすごい速度で巨大化する。

「いいじゃん」

「え?」

「小説を書くっていい趣味じゃん。それって恥ずかしがる必要は全然ない」

「で、でも、ちょっとHで……」

「男子が書く小説なんてそんなモノでしょう。全然エロくない小説を書いている男子の方がおっさん臭くてシラケるわ」

 椎名のさっぱりしたオーラと理解、それは太陽を背にした女神さまみたいだった。もし可能であるならお姉さん! とか言って、豊かな胸のふくらみに顔を押し当て抱きつきたいとか思う燃得だった。

「で、なによ、早く話の本題を言いなさいって」

「で、では言わせてもらいます。お、お、お姉さん、お姉さんのおっぱいが何cmか、そしてブラジャーが何カップか教えてください!」

 言った、燃得はすごい、すごすぎる! って質問を椎名に投げかけた。言ってしまった以上、もう引っ込められない、後には戻れない。
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