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41・椎名に直接当たれ1

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(ちょい緊張するな……)

 本日の昼休み時間、燃得は教室の隅っこ席に固まっている女子数人の方へ目を向ける。その中のひとり、佐藤翠名にちょいと話があって声をかけたい。だが女子が固まっているとか、翠名が望の彼女とかそういう要素が加わると変な緊張が胸に沸く。ちなみに望はただいまは友人とバスケットをやって遊んでいたりする。

「佐藤」

 燃得が声をかけると女子数人がクイっと声の方に向く。女子の団結力みたいなその流れには緊張させられるが、それを突き破らんと申し出る。

「ちょ、ちょっと聞いて欲しい話があって」

「なに?」

 男子の燃得は2人で話がしたいとオーラを立てるが、女子の翠名はここで言えばいいじゃん! とさっくりなオーラを立てる。

「いや、ここではちょっとダメなんだよ、外で……」

「なんで?」

 かわいくキョトンとして決してかんたんに応じない翠名を見たら、燃得としてはこう思わずにいられない。女ってどうしてこうも人のキモチに鈍いのだろう……とか。

「だって……大事な話なんだもん、他のやつに聞かれたくないんだもん、だからこうして一生懸命訴えているんだもん!」

 燃得は甘えた作戦に出た。これは、子犬が一生懸命甘えながら訴えるような感じを出せば、自分の評価は少し下がってしまうが女子の心はつかみやすいという、ちょっとした捨て身テクニック。

「わかったよ……」


 燃得の甘えた作戦が勝利した、だから翠名が仕方ないとため息を落としながら立ち上がる。すると周りの友人たちが冗談とも少し本気とも取れるような声で翠名に言ったりするのだった。

「翠名が浮気!」

「あ~あ、望……かわいそうに」

「アバンチュール劇場かぁ、死人が出なきゃいいけれど……」

 言われた翠名、右手をにぎってつぶやかずにいられない、アホか! と。一方の燃得は冷静な顔しながら心の中でこう思う。お姉さんが恋人で妹が愛人でたのしめたら最だよなぁと、いかにも男らしい事を。

「で、なによ話って」

 教室から出たらすぐさま話をしようとする翠名。その姿勢からは、うざい事はとっとと終わらせたいって女子のクールさとも残酷さとも言える心が浮かんでいる。
 
「いや、階段のところで……人に聞かれたくないから」

「まさかいかがわしい話をするつもりじゃないでしょうね」

「ちゃんとマジメな話だつーの」

 ひんやりとした階段のところ、人目は可能な限り避けられますってところに到着したら、急に燃得がモジモジやり始めた。言おうとすることに少し恥じらっているらしいが、翠名はそれをめずらしい光景だと見る。

「火高が恥ずかしがるなんて、明日は地球最後の日かも……」

「お、おれだってほんとうはテレ屋なんだぞ、望よりおれの方がずっと繊細なんだ」

「うっそぉ……」

 そんなやり取りをして咳払いをひとつかましてから燃得は切り出した。最近は小説を書くのにハマっているんだと。

「は? 小説? 誰が?」

「おれ」

「それなんの冗談?」

「冗談なんかじゃねぇよ、ま、まぁ……書いているのはエロい小説だけれどな」

 燃得、ここでちょっと緊張を高める。エロい小説を書いていると言ったら、正直でよろしいけれど自分の評価が徹底的に貶められるかもしれない。目の前にいる巨乳女子、佐藤翠名はどう評価するかちょいと心配。

「ま、まぁ、いいんじゃない? 何かをやっているっていい事だと思うし、悪い事をするよりはエロ小説書いている方がずっと立派だしね」

 やった、だいじょうぶだった! と安心した燃得、当然のごとく気が大きくなる。だからいきなりズケズケっと言いながら攻め込むような事をしてしまう。

「佐藤、おまえってマジで乳がデカいよな、すごい巨乳だよな」

「はぁ?」

「それで、教えて欲しいのだけれど、おまえのブラジャーって何カップ?」

「急に何言ってんの? バカじゃないの? 人がマジメに話を聞いてあげようと思ったらこれだ、やっぱり火高ってバカなんだね」

「いや、これすっごいマジメな話なんだよ。なぜならその……エロい小説で巨乳が登場するわけだけど、乳とかブラジャーのサイズがわからないからクオリティが上がらない。わかるだろう? 一生懸命に取り組んでいたら、こういう問題が発生するって、それはすごく切実でたいへんな事なんだって、佐藤ならわかってくれるだろう? これは真剣に生きているからこそ起こる問題なんだ」

 燃得、今度はまっすぐに生きる男子という姿を熱入れて演じる。これなら佐藤翠名は教えてくれると思って。

「ん……」

「頼む、乳が何cmって事だけでもいいから」

「教えるかバカ!」

 顔を赤くしてチッと舌打ちした翠名、おっぱいが何cmとかブラが何カップとか、そんな個人情報を女子が男子に教えるわけがない! と言い切った。が、すぐよりいっそう顔を真っ赤にして付け足す。

「ま、まぁ……彼氏とかいう存在になら教えてもいいっていうか……知って欲しいとか思っちゃうけれどね」

 エヘっと色ボケな翠名を見た燃得、くっそぉ! 翠名と望の2人はこの世から消えてしまえ! などと怒りを抱く。

「チッ……佐藤なら人としてのマジメな話を理解してくれると思ったのに……結局女っていうのは一生懸命生きている人間を理解しようとはしない生き物なんだ」

 燃得、今度は女子が持つ母性を突くために拗ねて見せる。それは通称「拗ね拗ね戦法」であり、当たる時は当たるってモノ。

「ん……」

 翠名が一瞬考えた。それを見た燃得、これはイケた、ちょろいぜ! とこっそり両手を握ってガッツポーズ。しかし翠名から出てきた言葉は燃得の期待通りではなかった。

「あ、そうだ!」

「え、なんだ?」

「火高、あんたお姉ちゃんと仲がいいじゃん。だったらお姉ちゃんに聞けばいいよ」

「は、はぁ?」

「そうだよ、それで解決」

「お、お姉さんに……」

 燃得、ここで特別仕様みたいなドキドキが沸騰し始めた。本音として、椎名に聞けるなら聞いてみたい。それで愛情が深まるならめちゃくそハッピーと思う。だが椎名の性格を考えたら、ビンタされて二度と相手にされなくなるのでは……という恐怖の方がつよい。

 ここで翠名がズイっと燃得に近づいた。ドキッとした燃得、当たり前のことだが翠名の胸を見て、やっぱりこいつの乳ってデカい……やわらかそう、揉んでみたい、顔を埋めて甘えてみたいとか、男なら当然っしょ! って事を忙しく思ったりする。

「火高……」

「な、なんだよ……」

「アニモ!」(スペイン語、がんばれー)

 言った翠名、ニコっとひとつ微笑んですぐさまクルっと回れ右。後は知らないよ、勝手にやって! という声が後ろ姿に見えない文字で書かれている。

「なんだよアニモって意味がわかんねぇよ……」

 翠名に見捨てられたと思った燃得だったが、ここで怒り心頭になるはずだったが、椎名に直接聞いてみたらどうだろう? って考えが胸の内から離れない。

「お、お姉さんに聞くってか……めちゃくちゃ怒られて嫌われそうって気がする。だ、だけど、お姉さんをエロ小説に登場させるとき、おっぱいとかブラジャーのサイズを知っている方がクオリティを高められるのはまちがいない。それに妹とちがってお姉さんだったら、もしかしたら……このキモチ、わかってくれるかもしれない」

 燃得、どうする? どうするよ? と自分に言い聞かせながら、椎名のクラスがある校舎へ向かって歩き出していた。ものすごい緊張と同時に、ものすごく甘い想像を抱きながら翠名のいる場所へと向かっていく。
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