翠名と椎名の恋路(恋にゲームに小説に花盛り)

jun( ̄▽ ̄)ノ

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35・縁日デートしよう(女子力の補充)9

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「じゃぁ、これ2人分」

 男はゲーミングPCでの対戦を提供しているお店に2000円を払う。一勝負ひとり1000円だから2000円払った。なぜ対戦相手である望の分も払ってやったのか? といえば理由は2つ。ひとつは自分が年上だから良い格好がしたい。そしてもうひとつは、この勝負に勝って翠名という巨乳女子をゲットする自信があるから、彼女を失う望を哀れんでの支払いという思い。

「まさか縁日で、見知らぬ他人に見つめられながらデス・アスファルトをやるんえ考えたことなかったぜ」

 イスに座った男、110インチのモニターを見つめコントローラーを手にし、早くやりたいぜ! と興奮しながらゲームを画面を呼び出した。そしてプライベートルームに入って設定をやり始める。

「おい、少年、おまえどの車を使うつもりなんだ?」

「おれは……ACRです」

「ACRか無難なところだな」

 設定していく男にとってみれば、ACRはたしかに魅力的なマシーンである。が、抜きんでた特徴こと個性があるわけではない。ハンドリングの良さは大変にすばらしく加速もニトロも良い。だが最高速度は控えめだし死を覚悟するように突進した爆走がやりやすいわけでもない。

(ACRみたいな無難なマシーンを選ぶってことは……こいつさほど上手くないんだ。絶対にそうだ、腕に自信があるならハンドリングより速度とか馬力を選ぶ、たとえばフェラーリの類とかな。勝てる、この勝負、まちがいなく勝てる)

 余裕の笑みが浮かんだ男、ステージはどうするよ? と聞いたが、ヘタクソであれば直線の多いスコットランド辺りを選ぶだろうと思った。

「おれが選んでもいいんですか?」

「あぁ、いいぞ、スコットランド辺りか?」

「いや、大阪で」

「なに、大阪?」

 男は少し驚いた。大阪は快速できる直線が全体の3割くらいしかなく、メインとなるのはショートカーブと切り返しの連続。そして残りが中距離くらいの直線とカーブが半々。つまり大阪は上級者好みの色合いがつよいのだ。

(大阪を選ぶか……あ、待てよ……ACRはハンドリグがいいからな、それで強引に押し切るって考えじゃないか? 強引に押し切るっていうのはヘタクソだ、そうだ、まちがいない、やっぱりこいつはヘタクソなんだ)

 頭の中に翠名をベッドに押し倒して豊かな乳を求めるシーンが浮かんでくる男であったが、ひとまずは冷静になれと自分に言い聞かせてから、となりにいる望にプレッシャーを与えるため、心配そうな顔で戦いを見ようとしている翠名の方に向かって一言。

「彼女、今宵はおっぱいで2回、中で3回くらいイカせてもらうから、よろしくね! 今夜は寝かさないぜ!」

 そして男が振り向くと、いよいよバトルレースが始まる。巨乳女子こと佐藤翠名を賭け戦いがいま始まった。

 ゲーミングPCはデカいスピーカーにつなげられているため、ACR2台が走り出すとすごいエンジン音が発生。しかもバカみたいにデカいモニターに戦いが映し出されているので、ギャラリーがどんどん増えていく。

(真ん中走りか……)

 男は望のACRが中央を過不足なく走る様を見て、まぁ、問題は名物カーブだよなと思った。男としては望が名物カーブでヘタクソという事実をさらけ出した後、そこで抜き去り徹底的に叩きのめすつもりだった。

(まずは中距離カーブと直線の連続、ひとまず腕を見せてもらおうかい)

 望をヘタクソだと思い込んでいる男、 後ろから望の走りを見ながらあれこれ思ったりする。しかしその余裕かました表情にちょっとしたおどろきが生じる。

「なにぃ……」

 望のACRはドリフをかけるタイミングがうまい。まるで天性のごとくジャストミートできれいにカーブへ突入。だがそれ以上に優れていたのは、くぅーっと流れる感じを殺すことなく、突如スムーズな加速でコーナーから飛び出すって事。まるできれいな魚が光り輝く水面からあざやかに飛び出すかのごとく。

(う、うまい……)

 男が思わず声を出したかけたら、ジワっと前と後ろのACRに距離がつく。もちろんそれは大幅なモノではないが、積み重なると大差につながる。

(やべ……)

 男のACR、慌てたゆえカーブからの抜け出し時に姿勢を崩す。これが2台の距離を少しだが確実にまた広げた。

(おちついて、おちついて……)

 望は自分の心が跳ねまわったりしないよう自分に言い聞かせていた。勝負はたったの1周。どんなしくじりでも命取りになりかねない。だからいまは翠名の事すら考えず、ただひたすら自分の運転技術をすべて出し切るだけ。

(まだ大丈夫だ……もうすぐ大阪名物のコーナーだ。あそこで必ず減速するはずだ。そうすれば並べる、そしてラストスパートで抜く!)

 2台が爆走してついに大阪名物とされるショートカーブの連続ってところにやってきた。ここは工場内に突入して小さい連打みたいなカーブを抜け続けるるってところだ。ドリフトをかけてカーブに入り、抜けてすぐ次のカーブへドリフトをかけて入るがくり返される。素早くドリフトをかける。そしてクッと体勢を立て直したら、すぐさま抜群のところで再びドリフトをかける。目が回りそうなそれをやった後、勢いよく工場から飛び出すというのが理想のだが、細かい集中力が連発で要求されるためクラッシュの発生率が高い。これがゲームではなく実際の話なら、まさに自殺名所と言われる事だろう。

(なにぃ!)
 
 男は見た。望のACRがクィクィっと見事な素早さで曲がり進んでいくサマを。それはまるで天から降りてきたエリートな金魚が、美しすぎる固い動きと快速で遠ざかっていく魔法みたいな絵だった。

(と、遠ざかっていく……)

 望ACRが天に帰ろうとする金魚みたいな勢いで遠ざかっていくと見えたら、男が冷静でいられるわけがない。心の焦りはコントローラを持つ手に不安、焦り、怒りなどを与える。よって動かす車は負の走りしかできない。

 ガシガシっとにぶい音がするのは、男のACRが左右のカベにぶつかりまくっているせいだ。そして男が一瞬ドキッとしたとき、勝負を決める悲劇が発生。

―どしゃー

 すさまじい音がして男のACRがクラッシュ。砕け転がり回るそのサマは気の毒以外の何物でもない。勝負が一周である以上、そしてこの地点からゴールまでが残り15%しかない事を考えたら、男はもう抜き返せない。

「あ、勝負あったな。少年の勝ちだわ」

「大阪はむずかしいから仕方ない」

「ゲームなんていうのは若い方が勝つように出来ているもんな」

 大勢いるギャラリーからそんな声がした。そうなると、男は逆ギレして叫びまくってもう1回勝負だ! と駄々をこねたりが出来なくなる。

「よ、少年かっこういいぞ」

「おまえ将来はゲーマーになれよ」

 そんなギャラリーの声と温かい拍手を受けながら、望は大きく息を吐いて……ちゃんと責任を果たせた、彼女を守ることができたと安堵する。すさまじい緊張の後にやってくるそれは、まさに殺し合いの戦場から帰還したって話に匹敵するレベルだった。

「勝った……勝ったんだ……」

 立ち上がった望がふらつく。あまりにもきつい戦いをやり終えると、極度の張りつめが一気に緩む。その結果、まるで筋肉が溶け落ちたみたいになって体にしっかりと力が入れられない。

「勝った……ちゃんと……無事に勝ったよ」

 疲れ切った表情の望が翠名の前に立つ。

「望……」
 
 ゆっくり近づいた翠名、そっと左手を動かしたら……その平を望の胸に当ててから、ゆっくりと密接と移行。そしてまっすぐギュウっと望に抱きついた。

「ぅ……」

 むっふわーと広がるいいニオイ、でもって甘くやわらかい抱き心地、その中でもとりわけやわらかい弾力に満ち溢れえたムニュウっと伝わる気持ち良さ、それらは戦いを終えたばかりの望には天国にたどり着いたご褒美みたいな心地よさ。

「望……」

 翠名が望の肩辺りに軽く額を当て、声を震わせ始める。

「わたし……望が勝つって思ってた、こうなるって信じていた。信じていたよ、だけど、だけど、やっぱり怖かった、怖かったよぉ……」

 翠名がグスっと泣いて肩を震わせると、望……ドキドキしながら両手を動かし、彼女を抱きしめる。でもここではキモチいいと惚ける事はなかった。なぜなら翠名と同じようにせつなくて、自分の目からも涙が当たり前のように流れ出てきたから。

「ぅ……翠名ぁ……」

「ぅんふぅ……望ぃ……」

 望と翠名の2人が抱き合って泣き合い始めた。でもそれはどこかうつくしい絵でもあって、だから少し離れたところから見ている椎名は、おいおい! とか言って2人を引き離すような事をしたいと思ってもできなかった。

(チッ……愛情が深まってしまったか……でもまぁ、妹が無事でよかった。その点では望を評価しなきゃいけないか)

 やれやれと椎名が思ったら、燃得が腕をツンツンとやる。そして真っ赤な顔をして両腕を広げる。

「はぁ? 何それ?」

「お姉さん、おれたちも抱き合いましょう、おれたちもキモチを共有しましょう!」

「む……」

 椎名が近づいてきた。だから燃得は思いっきりドキドキして思う。うぉ、これはもしかして真正面から抱き合えるのか? お姉さんをギュウっとして巨乳がムニュウってキモチよさを味わえるのか! という風に。

「燃得」

「はい! もう心の準備はできています!」

「バーカ!」

 言った椎名の指先がエロボケモードな男子の額にピーン! と弾かれ痛みを与えるのだった。こうして縁日の夜は無事に甘く流れて行ったのだった。
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