翠名と椎名の恋路(恋にゲームに小説に花盛り)

jun( ̄▽ ̄)ノ

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26・スランプに陥ったら

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「ダメだ……不思議なくらいうまくできない……」

 ただいまは夜の9時過ぎだが、部屋の中でレースゲームをやっていた望がとても疲れた声を出した。コントローラーを机の上に置くと、すごい脱力って顔を天井に向け、イスを背中でグイグイ押したりしてため息をくり返す。

 彼女こと翠名の姉、つまり椎名が登場しプレッシャーをかけられた。すると、それが引き金という感じでゲームが絶不調になってしまった。

 ひたすら真ん中を走る。抜群のタイミングでドリフトをかけカーブに入ったら、そこを車が正面を向くちょっと前に中ニトロをかける。そうすれば速く走れるはずだが、なぜか急にへたくそ感が漂うようになってしまった。

「くっそ……」

 奇妙な焦りみたいなモノが魔物として望にとりつく。ちょっと上手くなったら、いきなりそれの調子が狂うってトンネルが発生し、なかなか抜け出せなくなる。

「なんでだろう……近いうちに3位を取るとか思っていたのに、よくて6位しか取れない。なんでだろう、なんでこんなにヘタクソなんだろう」

「くっそぉ、ふざけやがって、他のやつ……全員死ねよ、おまえらほんとうに胸糞悪いんだよ!」
  
 対戦をやっていたら暴言が出てきた。するとここで椎名という女子の事が自然と思い浮かんでしまう。

―ゲームで燃えると暴言を吐くって熱いキャラクターを普段は表に出していないー

 椎名に言われた事が椎名の声で脳に響く。すると暴言を吐く自分がみじめで情けないって、ゲーム不調と相成れば死にたくなってしまう。

「ダメだ……熱くなっても……勝てないモノは勝てない……」

 ボソッとつぶやく望の目は、自身の車が8位より上にはもうなれないという気の毒なレースの最終展開。

「ダメだ……これでゲーマーになってお金を稼ぎたいとか……できるわけない。プロになりたいとか思ってもムリなんだ」

 望、力尽きた老人みたいにフラフラっと立ち上がると、もうダメだ……もう生きていても希望なんか持てるわけがないなどと言いながら床に寝転がった。

「おれって……何にもできない……」

 すっかりイジけてしまった望だったが、ここでスマホに着信あり。ラインで翠名から電話がかかってきた。

「ん……」

 スマホの画面に翠名と表示されると、弱っている自分の胸にはクゥっと染み込むモノがあった。だがそうなるとまた椎名の顔が浮かび、情けないやつ……と言われているみたいな気がしてしまう。

「もしもし……」

「あ、望、やっほー、翠名ですよ。もしかしてゲーム中?」

「いや、休憩中」

「どうした、声が暗いよ? 悩みがあるなら聞くよ」

 翠名のかわいい声を聞いていると甘えたくなってしまう。でもそすうると椎名の顔が浮かんで脅迫されているみたいに感じてしまう。

「翠名……」

「どうした? わたし翠名は彼氏の話ならなんだって親身に聞いちゃうから。だから遠慮せずガシガシ言って、その方がわたしとしてもうれしいから」

「あのさぁ、さっき対戦やっていたらさぁ、やっぱりその、熱くなって暴言がでちゃったんだ」

「死ねとかボケとかくたばれ! とか?」

「ま、まぁ……そんな感じ」

「いいじゃん、ゲーマらしくていいと思うよ。大マジメな顔で何にも言わないゲーマーよりずっと人間らしくていいと思うけど?」

「ある人がさぁ、言ったんだ……」

「なんて?」

「かんたんに言うと……ゲームで熱くなっているときは暴言が出るようなキャラなのに、普段はそれが表に出ないから根性なしって」

「誰がそんなこと言ったの?」

「ま、まぁ、翠名は知らない人」

「それはちがうよ、まちがってるよ」

「まちがってる?」

「望、普段のすべての時間で心が燃えてたら人間死んじゃうってば。大事なのはここぞというときにしっかり心を燃やせる人なのだと思う。もし望が普段しょっちゅ、死ねとかボケとかくたばれとか言っていたらわたしはドン引きする。でもほら、好きな事をやるときにほんとうの自分が出てくるって変身なら、わたしは逆に評価する」

「どこを評価するの?」

「あ、ちゃんと必要なときに心を燃やせる人なんだ、よかった……って、わたしはそう思う。だから望、誰に言われたのか知らないけれど、それは気にしなくてもいいんだよ、わたしの言う方を信じたら望はきっと幸せになれるよ」

 望、彼女の声を聞きながら……たまらず何度となく胸にズキュン! と弾丸を食らっていた。あぁ、なんて感動的だろう、いとしい彼女に応援してもらうことがこんなにもうれしく胸に突き刺さるなんて……と、望の目にほんのり涙が浮かぶ。

「翠名……」

 いま、望はたまらず声が震えてしまった。翠名と彼女の名前を口にした時、不本意に揺れてしまったが、それはあきらかに甘えたいと願うような音色。それを恥ずかしいと思った望、慌てて訂正しようとしたが遅かった。

「望……」

「な、なに……」

「甘えん坊」

「ん……」

「でもね、でもね望……つらい事とかあったら、わたしに言って。そのための彼女だよ。そして甘えたいって思うなら、そういう自分をちゃんと表に出して」

「す、翠名……」

「それにさ、わたしがつらいって時に、望に甘えたいって思ったとき、望がそのわたしを受け止めてくれたらお互いさまになるじゃん。ね? 2人でいっしょに歩んでいこう。そうやって愛を育んでいこう」

「う、うん……」

「望、世界で誰よりも応援しているから……だからがんばって」

「あ、ありがとう……すごくうれしい」

 こうして電話を切ると望は感極まってしまった。だからスマホを床に置くとやわらかい抱き枕をつかみ顔を押し付けると、翠名、翠名、翠名と彼女の名前を何回か言った後、けっこう大きな声で泣き出してしまっていた。

「うわぁぁぁぁ……ぅう……」
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