19 / 73
19・椎名と燃得が相合傘1
しおりを挟む「なんで雨が降ってるんだよ……おれ、何か悪い事したか?」
午後4時半頃、図書室を出た燃得は廊下の窓を見てぼやかずにいられなかった。天気予報によれば本日の降水確率は10%、だからして実際に朝はきれいな晴天。それで傘を持っていこうなんて気になるはずはない。あげく図書室に入った午後3時頃までは晴れていたのだ。それでこうなると天に向かってツバを吐きたくなる。
「ったくムカつく……」
めずらしく図書室に入っていた燃得であるが、いったい何を読んでいたのか? それは「好みの女を落とす必勝マニュアル」という、中学校に置いてあるのが不思議としか思えないようなモノだった。
「望め……まだ佐藤と破局しないのかよ……あれかなぁ、ラブラブなのかなぁ……佐藤の巨乳にもうすでに甘えているのかなぁ……パイズリとかしてもらっているのかなぁ」
いかにも男子らしい嫉妬を抱えながら、燃得は涼しいというよりは寒いという感じすら漂う階段を降りていく。そしてザーザーって無慈悲な音が強まってくる。
「くっそぉ、今まで数人の女と付き合ったことがあるのに、なんで佐藤みたいな女とは縁がないんだろう。なんで世の中ってうまく回らないんだろう」
そんな事をつぶやきながらで入り口に立つ。そうすると猛烈な勢いで上から下に落ちる無数の縦線が目に入る。
「仕方ない、濡れるか……水も滴るいい男って言うもんな」
自分のセリフで自分を慰めてから、今まさに大雨の中に飛び出さん! と動きかけた。そのとき、不意に後ろから燃得に声がかかる。
「そこの男子」
それは女子の声だった。それは初めて聞く声だと思ったが、なぜか妙な感じが印象的だったから、立ち止まった燃得がくいっと振り返る。
「あ、あれ?」
本来なら女子に向かって、おまえ誰? とかいう所。だが傘を持って迫ってくる女子を見ると、あれ? あれ? あれ? としか思えなかった。
(さ、佐藤?)
燃得はやってくる女子の顔と同時に、もしかすればそれ以上に制服に浮かぶ豊かなふくらみって部分を見る。おぉ、けっこうなボリューム、それって巨乳じゃん! と言えるが、佐藤翠名にはちょっと届かない。しかし顔が……佐藤翠名そっくりなので、脳が軽いエラーを長く続ける。
「あんた学年は?」
「おれは2年だけど……」
「そう、わたし3年生なんだけれど……あんた傘持ってないんだ? ミジメだよね、哀れだよね、だから心優しいわたしは思った。途中まででも入れてあげようか?」
「え、おまえってやさしい巨乳なの?」
「やっぱりやーめた」
「なんだよそれ」
「わたし3年だって言ったでしょうが、年上への礼儀がなっていないやつなんて雨に濡れて風邪ひいて光熱出してその勢いで死ねばいいんだよ」
「きっつ! じゃぁなんて言えばいいんだよ……じゃなくて、なんて言えばいいですか?」
「そうだなぁ、まずはお姉さんかな」
「巨乳っぽいお姉さんでいいですか?」
「やっぱりやーめた」
「え、なんで? いまの何がいけなかったんですか?」
「わたし中3でDカップなんだよ、巨乳なんだよ。同じ女から巨乳っぽいって言われるなら気にしないけれど、男子から巨乳っぽいとか言われると殺意すら抱くんだよ」
「Dカップ! それってけっこうなボリューム」
「あ、もしかして事の本質をちゃんとわかってる?」
「おっぱい85cmくらいとか?」
「あんたおっぱい星人なんだね……」
「だって、だって……」
「だって、なによ?」
「同じクラスにすごい巨乳がいるから……あんなボリュームを見ていたらおっぱい星人にならない方がおかしいわけで」
「巨乳? それの名は?」
「佐藤翠名って言うんだけれど……」
「やっぱり……っていうか当然か。それわたしの妹、わたしは翠名の姉だから」
「えぇ! お、お姉さまだったのですか!」
「なによ急にキモイ言い方して」
「い、いや……お姉さんもやっぱり魅力的な女子だなぁと思って、けっこう好みだからドキドキしちゃって」
「わたしみたいな女子が好みだと?」
「はい! まぁ、乳のボリュームは妹に少し負けてはいるけれど」
「やっぱり入れてやらない、おまえは雨に濡れて帰れ!」
「ごめんなさい! 以後気を付けますよって、どうか傘に入れてください!」
燃得は何が何でも登場した巨乳女子と相合傘がしたいと思った。乳のボリュームは若干妹に負けるが、それでもなかなか豊かでやわらかそうだし、顔もかわいいし、キャラもなかなか好みの部類。そんな女子と相合傘をしたいと思わない男などいるわけがない。そして相合傘をすれば、豊かなふくらみが当たってキモチいい! ってラッキースケベが発生するかもしれないと、男子らしい妄想の膨れ上がりを止められるわけもない。
「あんた名前は?」
「火高燃得です。お姉さまは?」
「椎名だけれど」
「椎名お姉さまとか言っていいですか?」
「なんかうざいなぁ、ふつうにお姉さんでいいよ」
椎名、シュパ! っと折り畳みが傘を開いた。それはちょっと小さめで、2人をまったく濡れないように守ってくれる気がしない。でもだからこそ、密接のイチャイチャができるんじゃないか! と、燃得は心の中でうひひ♪ っと男らしくよろこぶ。
「ほら、おいで、途中までいっしょに帰ろう」
なんだかんだ言ってもやさしいって感じの椎名、傘を持っていない反対側の色白な手をクイクイっと動かし男子を誘う。
(やった、巨乳と相合傘ができる!)
えへへっと素直な笑いを隠せない燃得、これはすんごいラッキーだと興奮する。佐藤翠名そっくりで、佐藤翠名には少し劣るが巨乳って女子とイチャイチャできるなんて、まったく思いもしなかったのだから。
「では、よろしくお願いしまーす」
デレデレしながら椎名の横に位置した燃得、転がってきた甘いラッキーみたいな相合傘をしながら、きつい雨が降る外へと出た!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる