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16・ゲーマーへの道、まだまだ厳しく

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「ん……」

 望が腕組みをした。午後8時30分、机上のモニターを見つめながら、どうすれば順位を上げられるか? どうすればムカつく奴らを見返せるかと、レースゲームについて真剣に考えてみる。
 
 つい先日、ひたすら道路の真ん中を走ればオーケーだろう! と思い、確かにそれは少しの効果があると判明した。だが逆に言えば少ししかなく、望というプレーヤを躍進させるにはつながらなかった。

「真ん中を優雅な魚が泳ぐみたいに走り続ける、これはまちがっていないと思う。だったら何が足りないんだろうか」

 望、マウスをつかみユーチューブに切り替えた。そして他プレーヤーとかうまい奴のプレイ動画を見てみる。するとひとつ気になる事が発生する。

「中ニトロの連打?」

 画面に映る他プレーヤー動画を見ると、車を加速させるためのニトロには3つあって、もっとも威力が弱いけれどすぐに使える「弱ニトロ」と、それなりに加速する「中ニトロ」、そしてニトロゲージはすぐ無くなるけれど爆発のごとくスピードアップする「大ニトロ」と3つある。

 他プレーヤーは中ニトロを連発する。ニトロゲージがちょっとでも上がるとすぐ中ニトロを使う。

「え、これが速くなる秘訣? マジで?」

 早速、ゲーム画面に戻りお気に入りのACRを選択し練習ステージを呼び出した。が、しかし、動画で見たようにバカのごとく中ニトロを連打しても目に見えて早くなるという気はしない。数秒ごとに少しばかりの中ニトロ(ゲージがすぐにはたまらないから)をやって、ビシュン! と音がしても、まるで1cmの背伸びをする程度にしか伸びない。それは必死こいている気の毒な人という感じになっていく。

「え……やっぱりちがうよね、これが答えじゃないよね。確かに他のやつは中ニトロ連発で速く走っていたけれど、でも……やっていたらちがうという気がする。っていうかだんだんイライラしてきた」

 すんげぇフラストレーション! と思った望、ニトロゲージが最大になるまでガマンしてから、爆発の大ニトロを使う。

 ドン! っとナイスな効果音が鳴って車が変身したヒーローみたいに超スピードとなる。その一瞬はオーガズムに匹敵する快感。

「あ、やべぇ!」

 快感にブルっていた望、突然カーブが出てきて焦る。それはどぎついモノではなくゆるいモノであったがヤバいのだ。ニトロの爆走は終わっているが最高速度状態なので、このままでは曲がれずにクラッシュする! と望の命が緊張で冷える。

「あんぅ!」

 反射的に、とっさに、ゲーマーにふさわしい反射神経にて望の手がコントローラーのドリフトボタンを押した。いつもなら慎重に減速してからドリフトをするのだが、ここではそのままドリフト。だがそれが思いもしない発見につながった!

「え?」

 それは目覚めを誘う偶然だった。ハイスピードであったにも関わらず、ドリフト開始の位置がジャストミートだったのだ。それがハンドリング性能の良さと重なったことで、車は減速せずにクイっと……なんとうつくしい泳ぎ! という風にゆるいカーブを曲がった。

「うぉ……曲がれるんだ? ハンドリング性能の良い車なら減速しなくてもジャストミートでこんなきれいに曲がれるんだ? 今まで知らなかったよ、知らなかったよぉ」

 快感、めっちゃ快感、また再びオーガズムに匹敵する快感がこみ上げてきた。皮膚の皮が2枚ほど一気にめくれ新しい自分が出てきたぜ! という気もした。

「うっひょー曲がれるじゃん、今まで減速していたのがバカ丸出しって話じゃん。これ、これだよ、絶対にこれで飛躍的にアップするはずだよ」

 望は髪の毛が逆立つほどに興奮したが、それはムリもないこと。望にはドリフトをかけるジャストミートという感覚が優れていたのだ。ここでドリフト! とか教わる必要がなかった。これに関してはゲーマーらしい天性のモノ。

「さすがにどぎついカーブはムリか……だけど、それ以外ならドリフトをかけるタイミングを間違えなければ減速してからドリフトなんてやらなくてもいいんだ」

 こうなると人は試さずにいられない。人が積極的に命を燃やしたがる最大の理由は、自分の実力を試し、可能なら他者を地獄に蹴落としビクトリーしたいと思うから。

「よし今度こそ、おまえら全員地獄に落としてやるからな」

 他プレーヤーとの競争モードを選び、他の7人が選ばれるのを待つ。その間、望の心臓は早く戦いたいと疼きまくっていた。

「行くぜACR」

 望の声と同時にレースが始まった。偶然にもステージは太くて長い直線が多いステージが選ばれた。つまり全体にとてもゆるいカーブが多く、今の望が望むモノでしかないってこと。

「まず真ん中……真ん中を走るんだ……」

 勝てる……と思うから冷静になれ! と自分に言い聞かせる。だがどうしてかトップのやつはすぐ離れていく。2位のやつもそれを追いかけ離れていく。

「く……いつも思うけれど、あの速さはいったいなんだ……」

 なぜおまえらそんなに速いんだよ! といきなり腹が立ってきた。が、いまの望は5位くらいを安定してキープする。油断するとすぐ6位とか7位に転落するだろうが、そうでなければ4位から3位とかが普通に狙えるかもしれない。

「見ろ、この華麗なるドリフト!」

 吠える望のACRがカーブへ突入するが、減速せずにスーッと入っていくのは才能めいていた。追いかけてくる下位プレーヤーのドリフトと比較すると、望ACRのなめらかさはまぶしいと言ってもいい。

 それまでは減速してからドリフトというムダな事をしていた。だからいま、望の車は先行するモノをしっかり追いかけられそうだと思われた。コーナーに入って曲がっている間、その間は大いなる飛躍! だった。

 しかし……しかし……追いつけない! 3位の車ならもしかして……と、薄い希望が見えなくもないが2位は非常に遠く、1位にいたっては別の世界だ。

「あ!」

 なぜ追いつけないんだ! といら立っていたら、後ろからスーッと追い抜かれてしまう。とりあえず4位! とか思っていたら転落してしまった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 結局、終わってみれば望のACRは5位だった。6位じゃなくてよかったね……とか、ちょっとはマシになったじゃん! ではなく、 やっぱりその程度かよ! という悔しさが望にはげしく襲い掛かる。

「うあぁぁ、ふざけんな、ふざけんな! あいつら絶対イカサマだろう、おかしいんだよ、1+1は3とか言っているくらいおかしいんだよ、クソぉ! おまえら全員死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」

 望は部屋の中央で実にゲーマーらしく発狂していた。それはゲーマーに必要な熱い心であり、ゲーマーの暴言とはゲーマーのたましいであり生き様なのだ。

「ハァハァ……」

 散々に吠えまくったことで、湧き上がっていたゲーマーらしい殺意は収まった。そしてゲーマーらしい落ち着きを取り戻すと、なぜダメなんだ……と、また考えながら練習を始める。コントローラーを持ち、真剣な面持ちでプレイする

「ん……」

 いま、望は胸の内で思う。ムカつく他プレーヤーというのを見返し1位になりたいと同時にもうひとつ……彼女である佐藤翠名にかっこういい姿を見せたいと。すごいね! と翠名に言われ密かにデレデレしたいと思う望だった。
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