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本編
プロローグ
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神様なんていないから、私は旅に出ます。
青空の下で大好きなあなたが幸せでありますようにと、小さな祈りを込めて。
》プロローグ
それは昔々で始まる物語が忘れ去られた、未来での静かな短いお話でした。
「この世界に、魔法はあるのかな」
私が呟いた言葉に、教授は答えました。
「有ることを証明できない」
「じゃあ、無いのかぁ」
残念と言うと教授は首を横に振ります。
「無いことも証明できないのさ」
◇
それは、私が7歳の頃のある日。父が持ってきた小さな紙片でした。
「お父様、これはなぁに?」
国の官僚として働く父が家に仕事を持ち込むのはまぁよくある話なのですが、その紙片はあまりにも小さく薄汚れていて、ぐしゃりと枯れ葉のようでした。
そう、まだ幼かった私に父は語りかけます。
「これはね、古代文明の紙片なんだよ」
古代文明とは、歴史書が残されている最古よりもさらに昔。天災で全てが失われるよりも昔の文明のことです。
本を読むのが好きな私は喜んで、お父様見せてとせがみます。
紙片の中でも、これは状態が悪いものなのでしょう。研究済みのそれを父は貰ってきたのだろうと今ならそうわかります。
娘の嬉しそうな顔に、父も喜んで紙片を見せてくれました。
私は手を触れました。
先ほどまで、勉強をしていたのです。
先ほどまで魔法の、練習をしていたのです。
それはこの世界では当たり前の、幼い誰しもがやる練習でした。
魔法の力のこもった水を手にヒタヒタと浸していたのです。
私の魔力に反応した紙片から、みたことのない紋様が、こぼれて、あふれて、飲み込まれて。
それが全ての始まりでした。
◇
[高度に発展した科学は、魔法と区別がつかない]
これは私がこの場所に来てから教授に言われたことでした。
教授曰く、ここは科学の世界。私が紙片に落とされたのはこの科学の世界における学術関係機関に勤める“教授”のところでありました。
技術の発展したこの世界には魔法がなく、また紙片の技術を読み解くには、この国の今では出来ず、未来の技術が必要であろうこと。
ある日、私を拾った教授は謎の転移で世界を跨ぎ、それ故に故郷を想う私に、蓄えた髭を撫でながら言いました。
「そろそろ、この世界を学ぶ時間だ」
◇
「帰りたいなら学ぶことだ」
なぁに、科学も魔法も、高めて仕舞えば同じ事象を起こせるだろうよ。
だからリンデ、君にはこの学園に入る資格がある。
科学者になれ。科学者になる資格…いや、素養だな。それは一つだけあればいい。叶えたい願いが、今の科学で起こせないことを身に刻む者だ。
そう言って私は首都立科学特異研究院附属学舎へと投げ込まれた。
10歳の春だった。
青空の下で大好きなあなたが幸せでありますようにと、小さな祈りを込めて。
》プロローグ
それは昔々で始まる物語が忘れ去られた、未来での静かな短いお話でした。
「この世界に、魔法はあるのかな」
私が呟いた言葉に、教授は答えました。
「有ることを証明できない」
「じゃあ、無いのかぁ」
残念と言うと教授は首を横に振ります。
「無いことも証明できないのさ」
◇
それは、私が7歳の頃のある日。父が持ってきた小さな紙片でした。
「お父様、これはなぁに?」
国の官僚として働く父が家に仕事を持ち込むのはまぁよくある話なのですが、その紙片はあまりにも小さく薄汚れていて、ぐしゃりと枯れ葉のようでした。
そう、まだ幼かった私に父は語りかけます。
「これはね、古代文明の紙片なんだよ」
古代文明とは、歴史書が残されている最古よりもさらに昔。天災で全てが失われるよりも昔の文明のことです。
本を読むのが好きな私は喜んで、お父様見せてとせがみます。
紙片の中でも、これは状態が悪いものなのでしょう。研究済みのそれを父は貰ってきたのだろうと今ならそうわかります。
娘の嬉しそうな顔に、父も喜んで紙片を見せてくれました。
私は手を触れました。
先ほどまで、勉強をしていたのです。
先ほどまで魔法の、練習をしていたのです。
それはこの世界では当たり前の、幼い誰しもがやる練習でした。
魔法の力のこもった水を手にヒタヒタと浸していたのです。
私の魔力に反応した紙片から、みたことのない紋様が、こぼれて、あふれて、飲み込まれて。
それが全ての始まりでした。
◇
[高度に発展した科学は、魔法と区別がつかない]
これは私がこの場所に来てから教授に言われたことでした。
教授曰く、ここは科学の世界。私が紙片に落とされたのはこの科学の世界における学術関係機関に勤める“教授”のところでありました。
技術の発展したこの世界には魔法がなく、また紙片の技術を読み解くには、この国の今では出来ず、未来の技術が必要であろうこと。
ある日、私を拾った教授は謎の転移で世界を跨ぎ、それ故に故郷を想う私に、蓄えた髭を撫でながら言いました。
「そろそろ、この世界を学ぶ時間だ」
◇
「帰りたいなら学ぶことだ」
なぁに、科学も魔法も、高めて仕舞えば同じ事象を起こせるだろうよ。
だからリンデ、君にはこの学園に入る資格がある。
科学者になれ。科学者になる資格…いや、素養だな。それは一つだけあればいい。叶えたい願いが、今の科学で起こせないことを身に刻む者だ。
そう言って私は首都立科学特異研究院附属学舎へと投げ込まれた。
10歳の春だった。
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