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84)曖昧なモーション

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 世の中にはさ、見栄を張って格好良い趣味を楽しむタイプと、本当に心から楽しいと思うことを趣味としているタイプに分けられるに違いない。
 で、僕は後者なんだろう。

 サーファーとか公園でバスケとかやっている連中とか、こじゃれた音楽とかが好きな奴らが前者なんです。
 こいつらはモテるために、そんなに楽しくないことを無理してやっている。

 本当の目的は違うところにある。
 「格好良い趣味を楽しんでいる、格好良い俺!」を演出するため。
 それもこれも結局、女性にモテるためである。異性の目を意識しながらの趣味なんだ。

 で、後者は電車が好きとか、カメラが好きとか、アニメとかアイドルとか、そういうのを追いかける奴ら。
 あの、いはゆるダサい連中だ。
 女子受けしない趣味。社会性のない自己中タイプが、自分のためだけに、あらゆる時間を犠牲にしている。
 別の真の目的なんて別にない。それだけで自己完結している連中。それが楽しいから異性にモテなくて構わないと思っているのかどうかわからないけど、他人なんて意識していない。

 しかし彼らはその趣味を楽しんでいることは確か。
 何ならばそういう趣味があるから恋愛なんて必要ないと思っているのかもしれない。その趣味自体に恋愛並みに興奮しているんだ。

 もちろん僕もそっち側である。

 「僕だって普段はその趣味を隠している。カッコイイなんて思ってない。たまたま君たちにはバレてしまっただけで」

 というわけで、僕は美咲ちゃんとゆかりちゃんに反論らしいものを試みてみる。

 「別にそれを自慢しているわけでも、誇っているわけでもないしさ・・・」

 「隠していたのに、正体がバレてしまったわけですね」

 「残念ながらそういうことだね」

 まあ、美咲ちゃんにはずっと前からバレていたはずだけど。なにせ僕は彼女の大ファンだったから。

 「君たちだって隠している趣味くらいあるだろ?」

 「え? まあ、確かにありますけど」

 「本当に?」

 僕は美咲ちゃんの回答にちょっとばかし驚いてしまう。美咲ちゃんにはそんなもの、ないのかと思っていた。
 美咲ちゃんは眩しいくらいの「女子」なのである。
 友達が多そうで、もしかしたら男友達なんかもいたりするかもしれなくて、というか絶対にいるはずで、二十歳になる前にお酒を飲みそうなタイプで、スノーボードとかも上手そうで。

 我々オタク族とは住んでいる世界が違うと思っていた。それなのに密かな趣味があるなんて! 

 「どんな趣味なの?」

 BLかな。それとも意外なことに切手とか集めていたりとか? 

 「言えませんよ、そんなの。隠しているんだから」

 「それはそうだね。でもだったら僕たちは似た者同士じゃないか」

 僕はそれをさりげない態度で言う。しかし内心、唇はぶるぶると震えるレベルの緊張感で。

 「そうかもしれませんね」なんて答えを期待していない。そんな回答が返って来ようものならば、それは「付き合ってもいいですよ」レベルの「イエス」だと僕は受け取ってしまうだろう。

 いや、実は僕は美咲ちゃんを口説いているつもりなんだ。「僕たちは似てるよね? 一緒にいたら楽しいかもよ」
 そういうニュアンスを込めたのである。

 その程度の会話で? 

 そうですよ。いや、僕はそれくらいにキモい人間なんだよ。

 どうせわかっているんだ。「似てませんよ、そういうこと言うのやめて下さいよ!」って言われることを。
 でも「ごめんなさい、付き合えません」と言われたらショックだけど、この返事くらいだったら、別にそこまではショックじゃないさ。

 いや、ショックだけども、まだ自分を慰められるレベルのショック度合いで、目の前が真っ暗になって、死にたくなるくらいまではいかないと思うのです。

 曖昧なモーションだからね。

 「確かに私たち、けっこう似てるかもしれませんよね?」

 しかし美咲ちゃんは言ってきたのだ。

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