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4章 入学試験編 1次試験

34話 蟠り

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  次の日、朝起きると木々の葉っぱに朝露が輝いており薄い霧が辺り覆いとても気持ちの良い朝だった。



 昨日の夜若干雨が降り明日どうなるか心配だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。地面が若干湿って気をぬくとこけるくらいどろっとしているがまぁ許容範囲内だろう。

 俺は出先での雨はあまり好きじゃない、家にいる時、室内にいる時に降る雨はなんか風流っぽくていいんだがな……みんなそんなもんかーー

 森の中で目を覚ます心地よさをここ2、3日で感じていた。元の世界ではベットで寝るのに苦痛を感じることもあったが、今はベットで寝る時より寝つきがいい。

 ま、まだまだ寝足りなさは否めないけど……

 まだ、この時間帯の見張り役のトルスに寝るよう伝える。



「トルス交代の時間だ、変わるぞ~」



「そうか、了解したあと頼んだ」



 トルスは俺に言われるとそのままテントの中に入って行った。



 あ~眠い、OOPARTSオンラインでもよく使っていたアイテムを取り出す。人の形をかたどってあり、どことなく小さなダビデ像みたいな雰囲気の像をテントの前、本来俺が見張る時に座る位置に置く。

 このアイテムは<代わり者/デコイ>で、OOPARTSオンラインでは低級モンスターからたまにドロップする、もしくは道具屋や商人からも買うことが出来る普通のアイテムだ。このアイテムはこういった見張りの時、置いておくことでこのアイテムを中心に半径50m以内に敵が入ると知らせてくれる便利な効果を持つ。
 
 OOPARTSオンラインでは遠隔起動型の魔法を使う際に使われていた。遠隔起動の魔法は本当に操作がうまい人がやらないと誤って味方にぶつけてしまったりするので使う人は玄人が多かった。

 俺はちょっと朝の散歩を楽しみたいので基本見張りの時はこれを置いていた。朝の見張りの人はご飯準備が始まるまで寝ていられるのでトルスもあと1時間半は寝ているだろうし他の人も起きて来ることはないだろう、ばれないばれない。
 俺は音を立てないようそのまま森の奥へどうせ準備しなきゃならない薪を拾いに行く。

 木々を搔き分けるたびに朝露が飛び散り濡れる……あまり濡れないよう四苦八苦しながらさらに雨が降ったせいで乾燥した枝が見つからない。どれも湿っており、なかなかいい枝が見つからないので少し注意深く探しているとーー





「やあ!おはよう」





 ツっ





 俺は即座に振り向き、後方へ跳び魔法の準備をしながらアイテムボックスからガントレットを装備し着地する。





「そんなに驚かないでくれよ~」





 俺は無意識的にそいつを睨んでいたようだ。敵意がないのを確認すると俺はとりあえずそいつの方へ少し近く。
 
 枝を探すのに気を取られていたとはいえ、気づけなかった。相手に攻撃の意思があったら初撃を避けられなかっただろう……それに普通に構えている筈なのに隙がないうえ威圧感がそいつからは湧き出ている。初めてウタゲ先生にあった時よりも下手したら威圧感があるかもしれない。





「なにか……ご用でしょうか公爵様」





 それを聞くと眉を少し動かすがすぐ笑顔で対応する。





「やだなぁ~公爵はやめてくれよ、この学園の試験を受けている同士じゃないか気軽にハヤトって呼んでよ」





 完璧な強化外骨格を持ってやがる。そう、あの時庭で見た女に囲まれていたイケメン公爵、シロネが今回の試験で一番強いと言っていた人物だ。



 こんなところまで来るってことは何か話しがあるのか、それとも俺たちを潰しにきたのかーー



「俺はアキトっていうんだ、よろしくなハヤト」



 ぶっきらぼうに警戒心全開で適当に挨拶を交わす。



「僕のチームはもうゴールの手前にいるんだけど、ちょっと気になって会いにきたんだ君に」

 いつもなら、なんの愛の告白だよと心の中でボケているところだが今は相手の会いにきた意図がわからないのでその余裕がない。



「俺、何かやらかしたか?」



「いやいや、そうじゃなくてね。単純に今回の試験の中で僕の次に強いのが君だったから……敵情視察だよ」

 僕の次ねぇーーその言葉に俺は若干の不快感を覚える。

「2番だなんて光栄だね、これまで何やってもトップ3なんかに入ったことなんてなかったんだがな」


 ま、OOPARTSオンライン以外でだが……



「ごめんごめん君を僕の次にしたのには悪気はないんだ。ただ、殺り合えば分かると僕は思うんだーー」





 さっきまでの柔らかく鋭かった威圧感の質が硬く雑な威圧感へ変わる。俺は再度戦闘体勢をとるが相手は一切動かない。



「いや、今ここでやり合うのは僕的にナンセンスだ。2次試験、機会があれば白黒はっきりさせよう」



「意外と、冷静なんだな。てっきり平民だからって潰しに来たのかと思ったんだがな」



「あ~僕はそういうの興味ないんだ……僕の1番の弊害になるものには興味があるけどそれ以外のことに基本興味ないから」



 そう言うと目を伏せ、腕を組み少し考えるふりをする。そして、何かを思い出したかのように顔を上げる。



「もうそろそろ見張りの時間の交代だ、それじゃまたねアキトくん」


 そのまま踵を返しそそくさと森の奥へ消えて行ってしまう。

 たっく、なんだったんだか。2次試験か……そんなこと考える前にまずは目の前の1次試験の突破だ。

 俺はこのことを心の隅に置き、薪拾いを再開する。







**







 時刻は昼過ぎ、多分。まぁだいたい太陽がてっぺんに来ているので大体そうだろう。
 
 ゴール到着は夕方前くらいになるだろうとメガネくんが言う。昼は非常食(森に生息している果物を干したもの)を口にしながら進む。
 
 朝は気温が比較的低かったのだが、今はかなりあったかいというか暑い。

 火属性使いなのに暑い暑いと愚痴をこぼすバルトの尻をユイが蹴り進ませる。ほんと仲いいのな~と後ろで繰り広げられるバトルを聞きつつぼーっと歩いていた。



「アキトも食べるかい?」



 するとメガネくんが非常食をくれる、俺は遠慮がちにもらい口にする。形は干して元の果物とは思えない色になっているが、一口食べると最初に梅干しなみの酸味が広がり、後から少しずつ甘みが出てくる。歩き疲れた体にはよく染みる一品である。



「どっか痛めてるのか?元気ないけど」



 そう、メガネくんだけじゃなくトルス、エーフまでもゴールに近くに連れ最初の頃よりかなり口数が減っていた。最初は疲れからかなとも思っていたが、3人とも同時ってのもおかしいし、しっかり休みは取れている筈なのでその線はない。

「いや……大丈夫、ちょっと暑さにやられてねーー」



「そうかなら少し休憩を……」



「いやいや大丈夫だよ、暑さにやられたと言ってもバルトじゃないけど愚痴が行動に出ちゃってるだけだから」

 そう笑って誤魔化す、メガネくん。

「きつくなったらちゃんと言うんだぞ」



 ちゃんとくぎを刺しておく。熱射病とかになられても困るからな。

「うん、気遣いありがとね」


 そして、なんだかんだうだうだ歩いていると、ゴールが見えて来る。ゴールの旗、試験官の監視塔や簡易宿舎が立っており、森を抜けた先にある200mほどの草原を歩くともうゴールだ。

 ゴールには試験官や先に着いている貴族達であろう人たちがいるのが見える。遠いのでまだ点でしか見えないが……


 だが、


 不可解な点が1つ、ゴールしている奴らはわかるんだが……一部ゴールしていない連中も見える。



 そう、ゴール手前で何かを待ち構えるかのように佇んでいるのだ。



 まぁ何はともあれゴールはゴールだ。俺たちはそちらの方へ歩き出す。


「走って!!」


 後ろからユイの焦りの含まれた怒号が飛んで来る。それを聞いた俺たちは即座に森の方へ全力で走る。











 すると、20秒後この一帯は火の海となっていた。

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