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72.喜び

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「王女殿下の体ですか?」

「ええ。私の時間を戻していた時、私の体が小さくなって衣服がずれる感覚がしました。その時に、み、見たのではないですか?」


 た、確かに見えた。でもすぐに目を逸らしたから、ちゃんとは見ていない。それに衣服がずれるという事は子供の頃に戻っていたという事だ。幼女とまではいかないけど、その若さの女の子に欲情はしない。だから正直、見たところで…って感じだ。でも王女からしたら、そうではないんだろうな。


「すみません。ですがすぐに目を逸らしたので、ちゃんとは見ていません」

「…それは本当みたいですね」


 どうして本当だと分かったんだろうか?そういうスキルだろうか。


「だから私達の距離は縮んでいると思うんです」

「どうして私との距離を縮めたいんですか?」

「そ、それは、その…」


 そう呟くように言うと、王女の顔は赤くなり、黙ってしまう。…ん?この反応は…いや、でも、まさかそんな事はないか。


「と、とにかく、今までの関係ではなく、もっと仲良くなりたいんです。他に友達もいませんし…」


 っと、そういう事は言わせたらまずかったか。王族なら友達も出来づらいだろうし。


「分かりました。名前で呼ばせて頂きます」

「はい!」


 王女が喜んで微笑む。


「えっと…クリス様」

「はい♪でも様も要らないですよ」

「それは厳しいです」

「ですよね。だからそこは無理を言いません」

「ありがとうございます。それでは私はラソマさんと呼んでも良いですか?」

「勿論です。それでは、そろそろ陛下を部屋にお入れしてもよろしいですか?」

「もう少しラソマさんと二人きりでお話をしたかったんですけど、仕方ないですね。それはまたの機会にします」

「その時を楽しみにしています。それでは結界を解除します。………陛下、終わりました」


 防音の結界を解除したので、国王に声をかける。


「おう!終わったか!」


 扉を開けて、そう言いながら国王と第一王子、それに第二王子も入ってくる。それと知らない女性も一緒に入ってきた。


「お父様、お母様、それにお兄様達も!」


 知らない女性は王妃か。


「クリス…なのか?」

「はい」

「あぁ、クリス!!」


 そう言ってクリスを抱き締めた王妃は泣いている。素顔を見たのも久し振りなんだろうな。


「…ラソマ伯爵、成功したのだな。感謝する」

「陛下!頭を上げてください!」


 国王が頭を下げてきたので驚いた。頭を上げるようにお願いすると、頭を上げてくれた。


「ラソマ伯爵には本当に感謝している。まさか呪いを解く事ができるとは思っていなかった。ラソマ伯爵を疑っていたわけではないのだがな」

「いえ、気持ちは理解できます。今まで呪いが解けなかったのですから」


 国王と話をしていると、クリスから離れた王妃がこちらを向く。


「初めて会うわね。私がクリスの母親よ」

「お会いできて光栄です、王妃殿下」
「ラソマ伯爵、クリスの事は本当にありがとう。私が生きている間にクリスの顔を見れるとは思っていなかったから、とても嬉しいわ」

「魔王を倒せるだけではなく、呪いも解けるなんて、本当にラソマ伯爵は素晴らしいな!」


 第一王子が楽しそうに言う。


「本当に、全てラソマさんのお陰です」

「クリス様の呪いが解けて良かったです」

「あら?なんだか砕けた呼び方になっているわね」

「そうだな。クリス、伯爵と呼ばなければならんぞ?それにラソマ伯爵も普通は王女殿下と呼ぶものだが…いや、さっきまではそう呼んでいたな」

「も、申し訳ありません!」

「良いんです。私がそうして欲しいと言ったんですから」

「クリス?」

「はい。私、ラソマさんともっと仲良くなりたいんです」

「ほう?」

「あらあら」


 王妃が口元に手を当てて微笑む。


「クリス、それはもしかして…」

「お兄様、それ以上は口にしないで欲しいです」

「そうだな」


 少し顔を赤くしたクリスに止められて第二王子は口を閉じた。


「少し気になっていたんだが、これは何だ?」


 第一王子が指差して言ったもの。それは結界で囲っている呪いだ。


「それがクリス様を蝕んでいた呪いです」

「何だと!?」

「お、落ち着いてください。今は結界で囲っているので、呪いが何かに影響する事はありません」


 第一王子が腰に差していた剣を抜こうとしたので止める。他の皆も驚いてるな。


「この呪いをどうするつもりだ?」

「呪いをかけた本人に返そうと思います。勿論、返る呪いを追跡して、誰が犯人かを突き止めます」

「それもできるのか?」

「はい」

「分かった。クリス、今はひとまず休んでいなさい。あとでゆっくり話そう」

「犯人の居場所に向かうのですね?」

「うむ。お前をあんな目に遭わせた者だ。絶対に赦す事などできんからな」

「ラソマさん、気をつけて下さいね?」

「はい」

「クリス、余には言ってくれぬのか?」

「あ、はい!お父様もお気をつけて」

「うむ…」


 取ってつけたような王女の言い方に国王ががっかりしている。それを見て王子達が笑っているし、王妃は苦笑いしている。しかし王子達は国王に睨まれると、笑う事を止めた。


「それでは呪いをかけた本人に反射します」

「反射か。そうすると、どうなる?」

「呪いに詳しくないので、実際には分かりませんが、おそらく、呪いをかけられた状態になるかと」

「呪いをかけた犯人だ。それなら何の文句もないな」

「はい」


 本当に赦せない。俺は王女とは何の接点もない、お茶会をしたくらいの仲だ。でも、女の子にあんな呪いをかけるなんて絶対に赦せない!


「…ラソマ伯爵、もしかしてかなり怒っておるのか?」

「はい。クリス様にあのような呪いをかけた者が赦せません。も、勿論、分を弁えているので私に、赦せない、などと言う権利がないのは分かっているのですが」

「良い。王女の為に怒ってくれているのだ。咎める事はせん」

「ありがとうございます」

「不謹慎かもしれないけど、ラソマさんが私の為に怒ってくれている事が嬉しいですね」

「く、クリス様…」

「ラソマ伯爵…父親の余の前では仲良くするのは止めてくれぬか?分を弁えるより、時と場所を考えてほしいのだが」

「す、すみません」


 いや、いちゃついてたわけじゃないよ?俺にはアミスっていう大切な人がいるんだから、他の女性に目移りするわけがない。とは思っても言える雰囲気じゃないな。


「それでは呪いを反射します」

「うむ」


 国王の許可を得て、呪いを、かけた本人に反射する。


「む?呪いがゆっくり動いていくな」

「はい。一気に反射するとついていけない可能性がある為、呪いの時間の流れを遅くしています」

「何でもアリだな」


 そう言って第一王子が笑う。


「もしラソマ伯爵と闘う事になっても一方的に負けそうだ」

「確かに…ラソマ伯爵とは敵対しない方が良いね」

「うむ。それならクリスを嫁がせるのも良いな。娘は大切だが、本人もそれを望んでいそうだし」

「お父様!」


 国王の言葉にクリスが声を荒げる。本人達を前にして言う事じゃないと思うんだけど、たぶん冗談で言ってるんだろう。仲が良いんだと思う。


「さて、では犯人の居場所まで行くか。クリスとお前は残っていなさい」

「はい」


 クリスが返事をし、王妃も頷く。


「お前達はどうする?」

「勿論、行きます!」

「妹を苦しめた犯人に何か言わないと気が済まないので」

「そうだな。だが手は出すなよ?きちんと法にのっとって裁きにかけるからな」

「はい」

「それでは少し動きを早めます」


 俺はそう言って呪いの動きを早くする。少しゆっくり過ぎたからな。俺と国王、それに王子達がついて行く。さて、どこに行くのか。
 しばらく城内を歩いていると、呪いがとある部屋の扉の前で止まった。そして扉を通り抜けるようにして中に入って行った。


「この部屋に犯人が居るという事か?」

「おそらく…いえ、間違いなくそうですね。今、犯人らしき人物に呪いが入りました」

「見えるのか?」

「いえ、結界内の出来事は認識できるので」

「成程、凄まじいな」

「陛下、この部屋は…」

「うむ、奴の執務室だ。ラソマ伯爵、この中に人は何人いる?」

「1人だけです」

「それでは間違いなく、奴だな」


 国王達の顔が険しくなっていく。迫力が凄いな。事情を知っているから怒っている理由も分かるし、共感もしている。それでも迫力がある。これが本当の王族の迫力なんだろうか。


「ギャーーーーーッッッ!!!」


 いざ部屋に入ろうとした時、部屋の中から大きな叫び声が聞こえた。
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