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5.守りのスキル

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『スキルの新たな超能力を解放します』

 それは嬉しいけど、夜中に止めてくれないかな。
夜更かしをしているわけでもないから、俺は寝ている。その時に脳内に響くものだから、かなり驚いてしまう。
 それにしても、1年前の予想通り、誕生日ごとに新しい超能力が解放されるのか?そうだとしたら嬉しいな。

「次の超能力は結界か」

 結界が超能力に分類されるのかは知らない。この世界では超能力に分類されるのかな。
 結界の効果は、対象に結界を張れる事。そのままだな。今後の確認事項は結界の強度と効果範囲、それから持続時間だな。

 翌朝。朝食の席で俺は結界という超能力が使えるようになった事を家族に話した。

「使えるスキルが増えたという事か?」
「はい」
「すごいわね!超能力なんて、どんなスキルなのか分からなかったけど、なかなかユニークなスキルなのね!」
「本当だな。もしかしたら今後も増えていくかもしれないな」

 父さんと母さんは喜んでいる。実はもう1つ、去年に超能力が解放されてるんだけどな。読心だから言わないけど。

「結界っていうのは、どういうスキルなんだい?」

 兄さんに聞かれたので、俺は効果について説明する。

「ただ具体的な効果は分かっていないので、今日から訓練して、具体的な効果を調べていきます」
「うむ、その方が良いな。自分のスキルは細かい部分まで理解しておくべきだ」

 父さんはそう言ってくれる。自分のスキルだもんな。名前と効果だけしか知らないという状況は避けたい。
 朝食後、俺はアミスと共に庭に来ていた。目的は勿論、結界の効果を知る事だ。その際、アミスにも結界という新たなスキルが解放された事を話しておく。

「物質操作だけでも凄いのに、さらにスキルが使えるようになるなんて、凄いですね!」
「うん、僕も驚いてる。今から結界の効果を知りたいから、協力してくれる?」
「勿論です!」

 さて、結界の効果を試してみるか!

「あの、結界はどういう効果があるんですか?」
「うーん、箱の形をした防御魔法だと思ってくれたら良いかな。その中にいる限り、安全っていう箱なんだ。実際に試してみるね」

 そう言って俺は自分に結界を張る。よし、できた。張った結界は物理的な攻撃を完全に防げる効果をつけている。

「それじゃあアミス、僕に小石を投げて?」
「え?!そんな事できません!」
「でも、それが効果の実験だから」
「私にとってラソマ様は大切な人です。いくら実験だとしても傷つけるような行為はしたくありません」

 アミスは断固として断る。考えたら当然か。雇われてる身で、雇い主の子供に対して攻撃的な事ができるわけないもんな。
 でも、それじゃあ実験ができないし…。

「あの、ラソマ様には今、結界が張ってるんですよね?」
「そうだよ」
「でしたら、私に結界を張ってください。そしてラソマ様が私に対して石を投げてください」
「女の人に石を投げるなんてできないよ。アミスは大切な人だし」
「フフフ、私もそういう気持ちだったんですよ?」
「…そうだよね。さっきはごめんね」
「いえ!そんな謝らないでください」
「よし!それじゃあ、この空間に結界を張ってみよう。そして石を投げて、弾かれたら結界を張れた証拠になる」
「そうですね!それが良いです」

 そうと決まれば、俺はすぐに何もない空間に結界を張る。

「よし!石を投げよう」
「はい!」

 俺たちは結界を張った場所に石を投げる。結界は透明だから、どこに張っているのか俺以外には分からない。まず俺が石を投げて、アミスが同じ場所に石を投げた。
 結果、石は何かに当たったように弾かれた。

「うん、成功だね」
「はい!大成功ですね!」

 物理的な攻撃を防ぐ事はできた。次は魔法攻撃を防げるかを試したいな。

「アミス、スィスルを呼びに行こうか」
「スィスル様ですか?」
「うん。魔法攻撃を防げるか試したいんだ。今日は魔法の勉強は休みだから時間はあると思うし。まあ、忙しそうだったら、別の誰かを探そう」
「はい」

 俺とアミスはスィスルの部屋を訪ねる。

「スィスル、いる?」
「ラソマ兄様ですか?すぐ開けます!」

 そう言ってスィスルはすぐにドアを開けてくれた。

「スィスル、今、時間はあるかい?」
「はい。ありますけど、何かご用ですか?」
「うん。スィスルに協力してほしいんだ」
「ラソマ兄様が私に!?」
「頼めるかな?」
「はい!」

 良かった。それから俺たちは庭に出て、事情を説明する。

「それじゃあ私はラソマ兄様の張った結界を魔法で攻撃すれば良いんですね?」
「できるかい?」
「はい!」

 スィスルが家庭教師に教えてもらっているのは、座学と実技。座学は部屋で行なっているから、俺は見た事がない。でも実技なら庭でするから、たまにスィスルが魔法を使っているのを見た事があった。
 スィスルの返事を聞いて俺は庭にある丸石の上に念動力で落ち葉を置き、丸石と落ち葉を覆うように結界を張った。

「それじゃあ、この葉っぱに向けて火の魔法を放ってみて」
「はい!」

 そう言ったスィスルは片方の掌を葉っぱに向ける。次の瞬間、掌の前から拳大の火の玉が葉っぱに向けて放たれ、結界に当たる。
 魔法は無詠唱で使う事が普通らしい。ただし、規模が大きかったり、難度が高い魔法は詠唱が必要だという。

「すごいな、スィスル」
「ありがとうございます!」

 俺が褒めると、スィスルは照れた顔をする。

「さて、どうなったかな」

 火が消えたのを確認して、俺は結界の中を見る。そこには燃えていない葉っぱが同じ状態で置かれていた。次に丸石に触れてみる。熱で熱くなっていないかを確認するためだ。…熱くなっていなかった。火だけでなく、熱さも防げるようだ。

「よし、成功だ。次は」

 念動力で拾った小石を岩にぶつける。魔法を防御するだけの結界だから、小石は丸石に当たる。次に結界の効果を変更して、同じように小石をぶつけようとする。でも小石は結界に弾かれた。

「何をされたんですか?」
「結界の効果を変更したんだ。最初は魔法を無効化する結界。だから小石は丸石に当たった。次は物理的な衝撃を無効化する結界。だから小石は弾かれたよね」
「同じ結界で効果だけを変更する事ができるんですね!」
「ラソマ兄様、すごいです!」

 俺の言葉に2人は絶賛する。

「自分で言うのも何だけどすごいと思う。あとは効果が及ぶ範囲と、効果の持続時間かな」
「どうやって調べるんですか?」
「自分に結界を張って、それを維持し続ける。それで結界が消えたら、そこまでが結界の効果時間だって分かる」
「なるほど」
「結界を張った状態で動けるんですか?」
「…そういえば、そうだね。やってみようか」

 自分に結界を張って歩いてみる。俺が移動すると、結界は俺を中心に動いた。

「うん、結界も一緒に動くみたいだ。これで実験ができるな」
「結果が楽しみですね」
「うん。今日はありがとう、スィスル」
「ラソマ兄様のお役に立てて嬉しいです!」

 その後、俺は自分に結界を張り続けた。

「おかしいな」

 1ヶ月後のある日の朝、アミスと一緒に庭に来ていた時に俺は呟く。

「どうしたんですか?」
「1ヶ月前、自分に張った結界が消えないんだ」
「一瞬でも消えないですか?」
「うん。それに念動力も使ってるから、結界が消えてもおかしくないと思うんだけど、まったく消えないんだ」
「効果時間に限界がないのでしょうか?」
「分からない。でも、まあこれは置いておくとして、今度は複数の結界を張り続ける実験をしようと思うんだ」
「大丈夫なんでしょうか?」
「さあ?でもやってみないと分からないし」

 実験結果を想像しても仕方がない。実際に試してみないと。

「何に張るんですか?」
「父様と母様と兄様とスィスル、それにアミス。特に大切な人に張ろうかなと思って」
「ご家族だけでなく、私にも張ってくれるんですか!?」
「うん、何かあったら悲しいからね」
「ありがとうございます!」
「そんな…泣かないでよ」

 アミスが泣きながらお礼を言うので、苦笑いしてしまう。
 その後、アミスに結界を張り、夕食どきに家族にも説明して、結界を張った。結界の効果は物理的な衝撃の無効化と、魔法攻撃の無効化。魔法を無効化してしまったら治癒魔法も効かなくなってしまうからな。

 さて、これだけ複数人に結界を張ってるんだ。スキルを使う時に消費するものが何かは分からないけど、これで結界を張っていられる時間が分かるだろう。

 それから数日。結界はまったく消えなかった。それでも結界は張り続けておく。

 訓練によって結界は四角い形状だけではなく、丸だったり、三角だったり、思った通りの形状にできる。さらに作った結界を動かす事もでき、その結界の中に人や物があった場合、一緒に移動する。
 結界の使い方は念動力と同じで、俺の想像力でどれだけでも可能性が広がりそうだ。

 ある日の朝。

「ねぇ、アミス?」

 いつものように着替えを手伝ってもらっている時、アミスに声をかける。

「なんですか?」
「前に街で食べたケーキが忘れられないって言ってたよね?」
「覚えていてくれたんですか?」
「勿論だよ。それで今日、一緒に行かない?」
「うーん、行きたいですけど、街は危ないかもしれないですよ?」
「どうして?」
「色々な人がいるからです。穏やかな人もいれば、暴力的な人もいます。ラソマ様をそのような場所に連れて行けません」
「僕が子供だから?」
「大切な人だからです」

 アミスの言葉に一瞬、ドキッとしてしまう。いや、そういう意味じゃない事は分かってるんだけどね。言った後にアミスも顔が赤くなるから、ついドキッとしてしまった。俺を好いてくれてるのは知ってるけど、恋愛の意味ではないだろう。仕えている身で、伯爵の子供を危険な場所に連れて行く事はしないだろう。

「だけどスキルがあるよ?結界を張っていれば安全じゃないかな」
「それはそうかもしれないですけど…」

 アミスは考え込む。

「まずは伯爵様に相談してみましょう。それで伯爵様が許可してくださったら出かけましょう」
「そうしよう!」

 そして朝食時、俺はアミスと共に街に出かけたい事を話した。

「何?街に出かけたい?」
「はい。駄目ですか?」
「いや、駄目ではないが、危険ではないか?」
「結界があります」
「まあ、そうだが……」
「アミスも一緒に行くのよね?」
「はい」

 悩む父さんの横から母さんが聞いてくる。

「エギルフ、アミスが一緒なら大丈夫じゃないかしら?」
「…うむ…そうだな」

 アミスが一緒だと街に出かける事に納得できるのか?

「アミスのスキルは護身術なんだ。大抵の攻撃はアミスに当てる事すらできない」
「そうなんですか!」
「アミス、ラソマを頼めるか?」
「はい!命に代えても、ラソマ様は守ります!」
「うむ。それなら許可しよう」
「ありがとうございます」

 礼は言ったけど、命に代えて守られても嫌だな。確かに俺はまだ子供だけど、スキルを使えば俺がアミスを守る事も可能なはずだ。
 何があってもアミスは守らないと!

 なんて思ってるけど、父様の領地の街に行くだけだから、何もないと思うけどな。
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