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第55話

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「どんどん進むぞ!」
「はい」

 そう言って俺たちは下に向かって突き進む。現在は3千階層に到達している。

「少しずつダンマスもどきが強くなっているな」
「そうですね」
「それに伴って取得できる経験値も多くなっている。取得経験値は10倍だし、どんどんレベルを上げる事ができるな」
「レベルがどんどん上がるのは楽しいですね!それだけ強くなってる証拠ですし」
「そうだな」

 俺は笑いながら応える。
 今回の予定としては、5千階層を目指している。そこに行くまでにレベルを1万4千にしておきたいな。この目標はそんなに高いものではないと思っている。普通に4千上げるのは大変だけど、ダンマスからの褒美にはとても感謝している。

 そして俺たちは5千階層に到達した。

「この階層からダンジョンは広くなっていくんですよね」
「そうらしいな。ダンマスも張り切ってるんだろう」
「そのぶん、強そうなモンスターが出現しそうですね」
「ああ。それが楽しみだ。ダンマスもどきも強いけど、そろそろ飽きてきたからな」

 実際、ダンマスもどきは、階層が深くなるにつれて強くなっていくけど、苦戦するほどではない。苦戦できないようなモンスターなら取得経験値も少ないだろうからな。欲を言えば、苦戦する程度の強さのモンスターに勝ちたい。そのほうが取得経験値が多くなるからだ。
 と言っても、いったん帰るけどな。今回の目標は5千階層。これより先には進まない。

「とりあえずレベル上げだな」
「そうですね」

 俺たちのレベルは1万3千。1万4千までもう少しだ。中途半端で帰るのは嫌だから、きちんと目標レベルに達成してから帰る。

 それからしばらくして、俺とソフィアのレベルは1万4千になった。

「帰るか」
「はい。瞬間移動の魔法で帰るんですよね?」
「ああ。ソフィアも瞬間移動の魔法が使えるようになったのか?」
「はい!キーサに教えてもらいました!」
「それなら簡単に地上に帰れるな」

「うぉっ!…っと危ない。こけるところだった」
「いや、お前、瞬間移動してきたタロウに驚いただけだろ」

 俺たちが瞬間移動魔法で現れた事により、兵士の1人が驚き、もう1人が突っ込んでいた。
 いつもの光景だ。

「まったく…少しは慣れる事を知らないのか?」

 兵士が驚いた兵士に対して言う。

「慣れ、か。慣れほど怖いものはない。油断してしまうからな」
「もっともらしい事を言ってるけど、この状況は慣れたほうが良いぞ?」

 そんな事を兵士達は笑いながら言い合っている。本当に仲が良いんだろうな。
 その後、俺たちはルミンに戻った事を報告するためにギルドに向かった。

「お帰りなさい!」
「ただいま」
「ただいま戻りました」

 出迎えてくれるルミンと挨拶をする。

「今回も少し長かったね」
「ゼルスたちとのレベル差を埋めたかったからな」
「どれだけレベルを上げてきたの?」
「1万4千だ」
「2人共?!」
「ああ」
「すごいね!」
「まあな。それからソフィア、話がある」
「な、なんですか?」
「これからは単独行動をしないか?単独行動というよりも、別々の階層でレベルを上げるんだ。そうしないと、倒すモンスターを2人で分ける事になり、結局、得られる経験値も通常の2分の1になってしまうからだ」
「…確かにそうですね。分かりました。寂しいですけど、それが師匠と私にとっての最善なら、それを選びます」

 少し寂しそうだったけど、ソフィアが納得してくれて良かった。キツイ言い方になるかもしれないけど、俺たちは仲良くダンジョン攻略をしているわけじゃない。レベルを上げる為にダンジョンに潜っているんだ。無理はしないけど、早く強くならないとな。

「お互いに強くなろうな!」
「はい!」

~?side~

「…ん?ここはどこだ?わしは死んだはずだが…」

 夕方の荒野で1人の男が呟く。そして近くにあった池に映る自分の姿を見て驚いた。

「な、なんだ、これは!?これが俺の顔!?」

 池に映る男の肌は灰色で、目は赤い。明らかに魔族の姿だった。

「儂は人間として生きていたのに…」
「お前は魔族になったのだ」
「誰だ!?」

 魔族の男が声のした方を見ると、そこには黒い人影が立っている。人影は真っ黒な人の形をしたもので、表情は無い。表情と言うより、顔のパーツが無い。完全に真っ黒な人型だ。

「貴様は何者だ?やけに禍々しい気配を纏っているが」
「我は魔神。魔族の神だ」
「魔族の神?そもそも魔族とは…そういえば儂の事を魔族だと言っていたな」
「そうだ。お前は魔族になった」
「だが、儂は魔族など知らんぞ」
「当然だ。この世界はお前の生きていた世界とは違う」
「つまり異世界という事か?だけど、どうして儂は異世界に?」
「覚えていないか?お前は交通事故で死んだはずだ」

 魔神に言われて男は考える。

「確かに儂は大型のトラックに四方から囲まれるようにして潰された。1台だけなら何とかなったが、4台に挟まれてはどうしようもなかった……やはり儂は死んだのだな…では、ここは死後の世界なのか?」
「いや、お前はこの世界に転生した。具体的に言えば我がお前の魂をこの世界に転生させた」
「貴様が!?それなら、この世界に儂を生まれ変わらせてくれた事に感謝しないといけないのか?」
「ククク…ハハハハハッ!」

 男の言葉に魔神は笑う。

「何がおかしい?」
「感謝する必要はない。我がお前を殺したのだからな」
「何だと!?」
「お前のいた世界で車を運転している人間を操り、交通事故を起こしたのだ。お前を殺す為にな」
「なぜ儂を?」
「お前の弟子が、この世界で魔王を殺したのだ。魔王は魔族、魔族は我の可愛い子たち。その可愛い子を殺したのだ。その者の師匠であるお前に責任を取ってもらう。自らの弟子を殺せ」
「儂の弟子………タロウか?」
「そう言う名の男だ。お前の弟子だろう?」

 魔神の問いに男は頷き肯定する。

「話は分かったな」
「つまり貴様は魔王を殺した者を、その者の師に殺させようと、儂を殺して、この世界に転生させたのか」
「そうだ」
「儂に弟子を殺せと言うのか!そんな事のために儂を殺すとは…赦さん!」

 怒鳴った瞬間、男の雰囲気が変わる。

「やはりあの男の師匠だな。その気の量、尋常ではない。お前を選んで間違いなかったようだ。だが止めておけ。我は魔神、魔族の神。魔族は我に傷をつける事はできん。今のお前は魔族だ。どれだけ頑張ろうと、お前は我を殺すどころか、傷をつける事すらできん。そもそも気配で叶わないと分かるだろう?」

 そう言った瞬間、魔神の気配が増幅する。その気配を感じて男は闘う気を失った。

「ククク、それで良い」
「儂は貴様に勝てないようだ。だがな、儂は弟子を殺さん。残念だったな」
「安心しろ。洗脳してやる。そうすれば弟子を弟子と思わずに殺す事ができるだろう」
「く…」

 魔神の言葉に男は悔しがる。その直後、男の足下に魔法陣が現れ、男を光が包む。

「ぐあっ!!」

 男は呻くが、体を自由に動かす事ができない。やがて光が消えると、そこには直立不動の男がいた。

「お前は魔人。名前はエイグス。分かったな?」
「はい、私の名前はエイグス。魔神様のしもべとして全力を尽くします」
「うむ。とはいっても、まずは魔法を使えるようになる事だ。それに伴って元々できる気を使った闘い方と魔法を使った闘い方を融合させていかねばな。ククク、良い駒を手に入れた。あとは2人だな」

 そう言って魔神は笑った。
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