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第6話

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「はい。いましたけど、そんなに驚く事ですか?」
「勿論です!ゼルスさんがダンジョンに入らない事は有名ですから」

 そうだよな。でも、もしかしたらダンジョンの最下層を目指していたのかもしれない。そのくらい下層の魔物を倒せば、多くの経験値が手に入るかもしれないし。

「まあ、ゼルスにも色々あるんだと思いますよ」

 俺はそう言ってゼルスがダンジョンに行っていた理由を考えない事にする。他人がダンジョンに入っている理由を詮索しても仕方がないからだ。

「…そうですね」
「ところで、ギルドカードはどうやったら消せるんですか?」
「『ギルドカード、クローズ』と言ったら消えます」

 ルミンさんに言われた通りに言ったら、ギルドカードが消えた。

「ところで、ゼルスさんとの約束というのは何ですか?」
「試合で闘う事です。とはいえ、まだ俺のレベルで闘ってもゼルスは満足してくれないと思うので、その為にレベルを上げないといけないんです」
「タロウさんがゼルスさんに闘いを挑んだんですか?」
「いえ、ゼルスが俺と闘ってみたいと」
「ふざけるな!」

 ルミンさんと話していると、近くにいた男がそう怒鳴りながら俺に近づいてきた。

「誰ですか?」
「お前ごときにゼルスさんが闘おうなんて言うわけがないだろ!ゼルスさんの強さを知ったお前が闘いを挑んだんだろうが!」

 そう言って男は俺の胸ぐらを掴もうとする。それを俺はあっさりとかわした。

「お前にどう思われても気にしないけど、俺から挑んだわけではないぞ?」

 喧嘩腰でくるなら、俺も口調を変えないとな。俺もそこまで大人ではないからな。

「嘘をつけ!まだ駆け出しの冒険者だろうが!そんな奴にゼルスさんが声をかけるなど、ありえない!!」
「何を言っても無駄なようだから下がれ。お前と話しているほど暇ではないんだ」
「なんだと!?」

 俺の言葉に男は今にも腰に提げている剣を抜こうとしている。愚かだなぁ。

「それ以上は駄目です!ここで剣を抜けば、あなたから冒険者資格を剥奪します!」

 冒険者は、最低でも街中では冷静でいなくてはならない。そうしないとルミンさんの言うとおり、冒険者資格を剥奪される可能性がある。

「くっ!…それなら俺と試合をしろ!お前がゼルスさんと闘う資格があるかを俺が決めてやる!」
「お前に見極める力があるのか?」
「俺に勝てばゼルスさんと試合をしても良い!」
「…ルミンさん、この男は何者なんですか?」
「…ゼルスさんを尊敬している剣士です」
「なるほど。俺がゼルスに試合をしようと声をかけられたから、嫉妬してるんですね」

 俺はつい笑ってしまう。いや、つい、ではないな。挑発する目的がある。

「良いでしょう。試合をしてあげよう。感謝しろ」
「黙れ!」

 俺の挑発にあっさりと乗ってくる。手の甲のレベルを盗み見たけど、男のレベルは30。そこまで強くはないし、気配を探っても強くない。つまらない試合になりそうだ。でも、試合のルールなんかを知る事ができるから、丁度いいかな。

 それから俺はルミンさんに試合のルールを教えてもらった。その間、男はルールは大切だと言って待ってくれた。挑発に乗りやすい単純な人だけど、悪い人ではないんだよなぁ。
 どうして断言できるかと言うと、俺はその人の気配で善人か悪人かが分かるからだ。

 試合のルールは単純で、戦闘続行が不可能になる、降参する、審判が続行不可能だと判断されたら負けになる。殺してはいけない。剣や魔術は使っても問題がないというものだ。要するに加減さえすれば何をしても問題はないという事だ。

 それから俺とルミンさん、それに俺の相手をする男はギルドの裏手にある闘技場に行く。闘技場は円形になっており、中央には直径100メートルほどの空き地があり、その周囲を囲むように階段状に客席が設けられている。この闘技場の空き地の部分が試合をする場所だ。なぜ、こんなに広いのかというと、魔術師が広範囲の魔術を使用してもいいようにだ。とはいえ、このリング(と言って良いかは微妙だが)全体を使うような試合はあまりないらしい。

 俺と男はリングの中央に立つ。審判はギルド職員。試合はギルドの管轄だからだ。ルミンさんが来た理由はよく分からない。担当官が来なければならないという理由なら、男の担当官が来ていないのは不自然だからな。ちなみに男の担当官はルミンさんではない。

 客席には誰もいない。無観客試合なんて初めてだな。まあ、突然、決まった試合だから客がいないのも仕方がないか。とはいえ気は抜かない。ルミンさんが見ているからな。無様な試合だけはしてはいけない。

「それではウチニ対タロウの試合を始めます。両者共にルールを守るように。では試合、始め!」

 実況の言葉と同時に男は長剣を構える。さて、どんな試合をしようかな。

「おい、武器を構えないのか?」
「俺の武器は自分の肉体だ。道具は必要ない。気にしないで攻撃してくれ」
「そうか。拳士というのは珍しいな。だが、ゼルスさんの相手はさせん!」

 そう言って男は俺との距離を詰めると、右肩を狙って上から斬り下ろしてくる。その剣を俺は右手で掴んで止める。肉体を気で強化しているから刃で斬れる事はない。

「なっ!どうして斬れない?!離せ!」
「良いぞ。その前にリーチを削っておくか」

 俺は左手で剣先を摘んで折る。この程度の材質なら折る事も簡単だ。そして剣を離して俺は距離をとる。

「素手で折るだと…?」
「油断するな。早く来い」
「ちっ!」

 男は舌打ちをして向かってくる。そして俺との距離が縮まると攻撃してくる。その攻撃を俺は紙一重で避け続ける。

「なんで当たらない!?」

 攻撃が当たらない男は焦りの声をあげる。やっぱり、そこまで強くはなかったかな。終わらせるか。

 そう思って、俺は男の斬り下ろす剣を右の手刀で切断する。叩き折るのではなく切断だ。男はまた驚いている。その隙に俺は男の腹を殴った。俺の拳を避ける事もできず、腹を殴られた男はその場に倒れた。気絶している。

「そこまで!勝者はタロウ!」
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