80 / 84
最終章 君を探して
4・運命の日、あの場所で
しおりを挟む
母こと姉。
優麻であり佳奈は、十年前に起きたことから説明を始めた。
ことの発端は十年前に殺された要人、議員のある男と雛本一族の女性の婚姻にある。
一族は子を持たないという条件つきでその婚姻を容認した。
そして男には、一族に迷惑をかけないという誓約を指せていたのである。
彼らは結果的にどちらの条件も満たすことはなかった。
夫となる男には、彼女が子宮に問題を抱えており子ができ辛く、命に係わることもあるから避妊をするようにと言い聞かせていたのだ。
だが懸念していたことが起きてしまう。
彼女は妊娠した上に、その事実を一族に隠したまま子を産んだのである。
一族がその事実を知ったのは記事によって。
そして恐れていたことが起きてしまう。
その子が『時越え』をし、いなくなってしまったのである。
初めは誘拐も疑ったが、彼から子の記憶が失われたこと。
彼女の証言を元に精査した結果、『時越え』と断定された。
雛本一族はこの記事に関しては、何もしてはいない。
誤報として各社が自ら削除したのである。
だからすべてにおいて確認したわけではないのだ。
どこの会社にも無能な奴はいる。削除し忘れた記事が後に問題となるとも思わずに。
それでも彼の汚職疑惑の話しが出るまでは、平和だったと思われる。
彼女は雛本医院にて、二度と子のできない身体となったが。
汚職については真実は闇の中。
死人に口なし。
だが雛本一族にとって、彼が汚職しているかどうかは関係ない。
一族に迷惑が掛かることが問題なのだ。
案の定、新聞社の女『結城』はその議員のことから雛本一族との繋がり、果ては秘密を暴こうとした。
一族にとっては危機である。
雛本医院へは何度か来訪しており、その応対を優人の父で和史が担当した。
和史は一族の中でも一番の切れ者と名高い。女性にはモテなかったが。その彼に任せることで、一族は危機を乗り切ろうとしたのである。
「わたしはあの日……銃の音で全てを思い出したの」
母に過去へ行けと言われたこと。
それは未来へ向かおうとする力と逆行する為、とても負荷がかかるということ。けれど、必ず辿り着くから信じて欲しいと。
「母に一枚の地図を渡されたの」
それは雛本本家への地図であり、飛ぶ前の地点の地図だった。
過去とは情景が変わるのではないか? と言えば、
『未来からきた証拠になるから、それでいいのよ』
と母は言う。
母である優麻は、将来の自分だったのである。
でも彼女はそのことを話さなかった。
いずれ分かるからと言って。
「でも、今ここにいる未来は母が成しえなかった未来なのよね」
ありがとうと微笑む彼女。
やっと時のループ地獄から解き放たれたのかもしれない。
「そして議員の彼が撃たれた日わたしは全てを思いだし、娘である佳奈に伝えるべきことを伝えた」
翌日の為に。
「ただ、その後がどうなるのかわたしにも分からなかったの。佳奈の記憶では、逃げろと言われた先を知らない。父が亡くなったのだろうということをぼんやり覚えているだけ」
彼女は結城が来た時、別の部屋にいるように和史から指示を受けたらしい。
「一族の女性が無理やり『時渡』をさせられ、議員の彼との婚姻の事実が人々の記憶から抜け落ちる中、結城はしっかりと覚えていたの」
雛本一族が何かしているのではないかと思い、話を聞きに来たようだが当の和史の記憶からも抜け落ちていたため、余計に変だと思われたらしい。
「どうしてキャリーケースを外に投げたの? 一緒に燃えてしまえば結城さんが来たという事実を隠滅できたかもしれないのに」
と優人。
「大きな音がして、二人のいる部屋に近づいたの。そしたら……」
彼女の兄がこちらに向かっているという結城の発言が耳に入ったかららしい。
「事件に彼女が関わっていると分かれば、そのお兄さんも事を荒立てたりしないと思ったの。だから燃やすわけにはいかなかった」
その時、玄関のチャイムが鳴った。びくりとする二人。
「誰だろう?」
二人は恐る恐る玄関へ向かったのだった。
優麻であり佳奈は、十年前に起きたことから説明を始めた。
ことの発端は十年前に殺された要人、議員のある男と雛本一族の女性の婚姻にある。
一族は子を持たないという条件つきでその婚姻を容認した。
そして男には、一族に迷惑をかけないという誓約を指せていたのである。
彼らは結果的にどちらの条件も満たすことはなかった。
夫となる男には、彼女が子宮に問題を抱えており子ができ辛く、命に係わることもあるから避妊をするようにと言い聞かせていたのだ。
だが懸念していたことが起きてしまう。
彼女は妊娠した上に、その事実を一族に隠したまま子を産んだのである。
一族がその事実を知ったのは記事によって。
そして恐れていたことが起きてしまう。
その子が『時越え』をし、いなくなってしまったのである。
初めは誘拐も疑ったが、彼から子の記憶が失われたこと。
彼女の証言を元に精査した結果、『時越え』と断定された。
雛本一族はこの記事に関しては、何もしてはいない。
誤報として各社が自ら削除したのである。
だからすべてにおいて確認したわけではないのだ。
どこの会社にも無能な奴はいる。削除し忘れた記事が後に問題となるとも思わずに。
それでも彼の汚職疑惑の話しが出るまでは、平和だったと思われる。
彼女は雛本医院にて、二度と子のできない身体となったが。
汚職については真実は闇の中。
死人に口なし。
だが雛本一族にとって、彼が汚職しているかどうかは関係ない。
一族に迷惑が掛かることが問題なのだ。
案の定、新聞社の女『結城』はその議員のことから雛本一族との繋がり、果ては秘密を暴こうとした。
一族にとっては危機である。
雛本医院へは何度か来訪しており、その応対を優人の父で和史が担当した。
和史は一族の中でも一番の切れ者と名高い。女性にはモテなかったが。その彼に任せることで、一族は危機を乗り切ろうとしたのである。
「わたしはあの日……銃の音で全てを思い出したの」
母に過去へ行けと言われたこと。
それは未来へ向かおうとする力と逆行する為、とても負荷がかかるということ。けれど、必ず辿り着くから信じて欲しいと。
「母に一枚の地図を渡されたの」
それは雛本本家への地図であり、飛ぶ前の地点の地図だった。
過去とは情景が変わるのではないか? と言えば、
『未来からきた証拠になるから、それでいいのよ』
と母は言う。
母である優麻は、将来の自分だったのである。
でも彼女はそのことを話さなかった。
いずれ分かるからと言って。
「でも、今ここにいる未来は母が成しえなかった未来なのよね」
ありがとうと微笑む彼女。
やっと時のループ地獄から解き放たれたのかもしれない。
「そして議員の彼が撃たれた日わたしは全てを思いだし、娘である佳奈に伝えるべきことを伝えた」
翌日の為に。
「ただ、その後がどうなるのかわたしにも分からなかったの。佳奈の記憶では、逃げろと言われた先を知らない。父が亡くなったのだろうということをぼんやり覚えているだけ」
彼女は結城が来た時、別の部屋にいるように和史から指示を受けたらしい。
「一族の女性が無理やり『時渡』をさせられ、議員の彼との婚姻の事実が人々の記憶から抜け落ちる中、結城はしっかりと覚えていたの」
雛本一族が何かしているのではないかと思い、話を聞きに来たようだが当の和史の記憶からも抜け落ちていたため、余計に変だと思われたらしい。
「どうしてキャリーケースを外に投げたの? 一緒に燃えてしまえば結城さんが来たという事実を隠滅できたかもしれないのに」
と優人。
「大きな音がして、二人のいる部屋に近づいたの。そしたら……」
彼女の兄がこちらに向かっているという結城の発言が耳に入ったかららしい。
「事件に彼女が関わっていると分かれば、そのお兄さんも事を荒立てたりしないと思ったの。だから燃やすわけにはいかなかった」
その時、玄関のチャイムが鳴った。びくりとする二人。
「誰だろう?」
二人は恐る恐る玄関へ向かったのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
乳酸飲料なダンディ
鈴木りん
ミステリー
「中川総一郎、45歳、独身。志望の動機は、御社の素晴らしい商品とともに、私のとびきりの笑顔をお客さまに届けたいと思ったからですっ!」
乳酸飲料「ミクリル」の訪問販売の職を得たその男は、ミクリル・ダンディとしての生活を始めたが――
Episode1「宅配業者は二度鼻を鳴らす」連載終了しました(2018.01.14)。
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
イノリβ
山橋雪
ファンタジー
これは一体……確実に僕は死んだはずなのに――。
友人のセリナに巻き込まれる形でビルから転落した主人公コウタは、自身が不死になっていることに気付く。
自らの不死の謎を解き日常に戻るため、コウタはセリナの知人が営む霊障コンサル事務所に転がり込むが、妖しく暗い欲望渦巻くイノリの世界に飲み込まれていく。
陰鬱陰惨、じめじめと。けれど最後はそれらを吹き飛ばす怒涛の展開。
オカルトテイストなファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる