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最終章 君を探して
0・その意思を継ぐもの
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あの日、兄が図書館へ向かわなければ、姉の居場所は分からないままだったと思う。
図書館の近くに突如現れた焼死体。
あれが誰のものなのか?
それが事件を解くカギだった。
優人の中ではある一つの推理が出来上がっている。
それはにわかには信じがたい事実ではあるが。
雛本一族の持つ異能力、タイムトラベルの概念は本家で聞いた通りだと思う。
彼らは自分たち兄弟のように幼いころから、危険が起きた時には時間を超えることを学んだ。
逃げる先は『未来』。
過去へ飛ぶのは『時越えの子』。
ただし二人以上で飛ぶことが厳守されており、一人で飛ぶのは『責任を果たす時のみ』。
人数が多い方が安定するが、二人でも精度が高かったのは自分たちが『始祖直系の血』を持っているから。
幼児以外で過去に飛ぶものはほぼいない。
それは雛本一族は過去を変えるためにその能力を所持しているわけでないから。それと、過去は変えられない。分岐を増やすだけに過ぎないから。
優人は兄と手を繋ぎ、時間を越えた。
以前は二人で飛ぶことなど考えられなかったが、もう不安はない。
あの時代に姉はいない。
もう自分たちを縛るものは何もないから。
──お姉ちゃん、待っていて。
必ず助けるから。
優人たちは今、Yの分岐点にいる。
ここから姉を助け出し、未来へ戻ろうとしてた。
今度こそ兄を守ろうと決めた時から、優人は和兄と呼ぶのを辞めた。
心はあの日に戻っていたから。
『優人。和宏を助けてあげてね。あの子は繊細だから』
母の意図を組み、ずっと弟らしくあり続けた。
両親を喪い、姉を失って、兄は壊れそうになっていたのだ。
兄でいることで自分自身を支えている。
助けるということが、手を差し伸べるだけではないことを知った。
──片織さんがいるうちは、それでもバランスが保たれていた。
あの人は俺たちを年下の兄弟のように思っていたから。
それが自分の兄妹と重ねていたことに気づき何故、自分たちを探しているのか理解した。あの人は自分たちに事件を託すために探していたのだと。
彼女はきっとYの向こう側で自分たちを待っているだろう。
その選択すべき時を違えてはならない。
「なあ。本当にここで合っているのか?」
無事に飛んだ先で兄、和宏があたりを見回した。
「大丈夫だよ。鉢合わせしないように着地点をずらしたでしょう?」
「それは分かるんだが、何故ここなんだ?」
その疑問は無理もない。
何故ならこの時代は……優人たちにとってのスタート地点だったから。
「兄さんの言いたいことは分かる。でも俺を信じて。お姉ちゃんはここにいるんだ」
行くよと言って優人は走り出す。
自分たちが片織から詳しく話を聞いたのは、自分たちがここで誰とも鉢合わせをせずに、無事に事に及ぶことが出来るための布石だったのだと信じるしかない。
「運命を信じよう、兄さん。偶然は必然というでしょう?」
今から向かう先に真実があり、兄はそれに気づかないであろう。
でも優人は確信していた。
それしか考えられなかったから。
「見えてきたよ」
「そうだな」
かつて我が家だった場所。
まだ火の手は見えない。これからきっと火を放つのであろう。
みんな救えたならどんなによかっただろう?
けれども、自分たちが救えるのはたった一人。
生きている者を生かすためのYを作ることだけなのだ。
Yとは分岐。
Iとは真っ直ぐな時間。
Xとは交差を指す。
──俺たちは過去の自分たちと交差して、分岐を派生させようとしている。
恐らく、ここへ飛ぶこと自体は、過去と変わらない。
優人たちがこれから作ろうとしているYとは、焼死体の出現しない未来。
もし、間違ってしまえば自分たちは同じ未来を辿ったことになる。
過去の自分たちは何処で選択を間違えたのだろう。
「着いたね。急ごう」
犯人と対峙するかも知れない。
二人はドキドキしながら、雛本家の門をくぐったのだった。
図書館の近くに突如現れた焼死体。
あれが誰のものなのか?
それが事件を解くカギだった。
優人の中ではある一つの推理が出来上がっている。
それはにわかには信じがたい事実ではあるが。
雛本一族の持つ異能力、タイムトラベルの概念は本家で聞いた通りだと思う。
彼らは自分たち兄弟のように幼いころから、危険が起きた時には時間を超えることを学んだ。
逃げる先は『未来』。
過去へ飛ぶのは『時越えの子』。
ただし二人以上で飛ぶことが厳守されており、一人で飛ぶのは『責任を果たす時のみ』。
人数が多い方が安定するが、二人でも精度が高かったのは自分たちが『始祖直系の血』を持っているから。
幼児以外で過去に飛ぶものはほぼいない。
それは雛本一族は過去を変えるためにその能力を所持しているわけでないから。それと、過去は変えられない。分岐を増やすだけに過ぎないから。
優人は兄と手を繋ぎ、時間を越えた。
以前は二人で飛ぶことなど考えられなかったが、もう不安はない。
あの時代に姉はいない。
もう自分たちを縛るものは何もないから。
──お姉ちゃん、待っていて。
必ず助けるから。
優人たちは今、Yの分岐点にいる。
ここから姉を助け出し、未来へ戻ろうとしてた。
今度こそ兄を守ろうと決めた時から、優人は和兄と呼ぶのを辞めた。
心はあの日に戻っていたから。
『優人。和宏を助けてあげてね。あの子は繊細だから』
母の意図を組み、ずっと弟らしくあり続けた。
両親を喪い、姉を失って、兄は壊れそうになっていたのだ。
兄でいることで自分自身を支えている。
助けるということが、手を差し伸べるだけではないことを知った。
──片織さんがいるうちは、それでもバランスが保たれていた。
あの人は俺たちを年下の兄弟のように思っていたから。
それが自分の兄妹と重ねていたことに気づき何故、自分たちを探しているのか理解した。あの人は自分たちに事件を託すために探していたのだと。
彼女はきっとYの向こう側で自分たちを待っているだろう。
その選択すべき時を違えてはならない。
「なあ。本当にここで合っているのか?」
無事に飛んだ先で兄、和宏があたりを見回した。
「大丈夫だよ。鉢合わせしないように着地点をずらしたでしょう?」
「それは分かるんだが、何故ここなんだ?」
その疑問は無理もない。
何故ならこの時代は……優人たちにとってのスタート地点だったから。
「兄さんの言いたいことは分かる。でも俺を信じて。お姉ちゃんはここにいるんだ」
行くよと言って優人は走り出す。
自分たちが片織から詳しく話を聞いたのは、自分たちがここで誰とも鉢合わせをせずに、無事に事に及ぶことが出来るための布石だったのだと信じるしかない。
「運命を信じよう、兄さん。偶然は必然というでしょう?」
今から向かう先に真実があり、兄はそれに気づかないであろう。
でも優人は確信していた。
それしか考えられなかったから。
「見えてきたよ」
「そうだな」
かつて我が家だった場所。
まだ火の手は見えない。これからきっと火を放つのであろう。
みんな救えたならどんなによかっただろう?
けれども、自分たちが救えるのはたった一人。
生きている者を生かすためのYを作ることだけなのだ。
Yとは分岐。
Iとは真っ直ぐな時間。
Xとは交差を指す。
──俺たちは過去の自分たちと交差して、分岐を派生させようとしている。
恐らく、ここへ飛ぶこと自体は、過去と変わらない。
優人たちがこれから作ろうとしているYとは、焼死体の出現しない未来。
もし、間違ってしまえば自分たちは同じ未来を辿ったことになる。
過去の自分たちは何処で選択を間違えたのだろう。
「着いたね。急ごう」
犯人と対峙するかも知れない。
二人はドキドキしながら、雛本家の門をくぐったのだった。
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