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6 事件を見届けし者
24・和宏と優人
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雛本和宏は一作賞を取り書籍化という形で世に小説を出したものの、創作に対して意欲の感じられない人物であった。
出版社とて慈善事業ではない。話題性があるうちに二作目を出して売り上げに繋げたいはずだ。
片織は和宏に対して疑念を抱いていた。
──何だろう?
彼は元々小説など書いたことがないのかもしれない。
たまたま書いたものが賞を取った、ただそれだけのことのように感じる。
どうも、小説家になりたくて小説を書いているとは感じられないのだ。
そんな時、片織は彼のブログに目をつける。
例のまるで誰かに宛てたような例のブログだ。
彼にエッセイを書かせてみてはどうかと思ったのである。
話題性がなくなってしまっては通らないかもしれない。推すなら今だと思った。自分も同じように妹を探している。彼が誰かを探しているというのなら、例の不可解な事件に繋がるかもしれない。
これは色んな意味で、一か八かの賭けだった。
片織が案を出すと、和宏のブログを確認した編集長は彼にエッセイの才能の可能性を見出したように感じた。
とりあえず何個かテーマを出し、彼に書かせてみろという。
自分が提案者だったため、その役は片織が引き受けることに。
そして雛本和史と関りがあるかもしれないと踏んでいた片織は、あの日持って行くことが出来なかったケーキを手に雛本宅へ訪れたのだ。
「わたし、片織って言います」
指定されたマンションに行ってみると、学生二人で暮らしているとは思えないほど広いマンションだった。
その理由について詳しく話を聞くと、親戚がタダで貸してくれているのだという。彼らは三人兄弟であったが妹が失踪し、親を事故で喪った孤児だという。
──合致しそうな気もするんだけれど、年齢がネックなのよね。
「これ、ショートケーキなんだけれど」
良かったら二人で食べてと言って渡すと、
「弟がここのケーキ好きなんだ。ありがとう」
と言って和宏は小さく微笑んだ。
彼とよく似ている雛本和史もそんな風に笑ったのだろうか?
そんなことを思いながら、彼を見ていた。初対面時にはあまり打ち解けてはくれなかったが、弟をとても大切に思っていることは伝わってくる。
その弟に会えたのは、二度目の訪問の時だった。
テーマに沿って書いて貰った原稿はとても読みやすく、時代に添う内容となっていた。若者向けの雑誌のコラムにちょうど良いと、そのまま起用となったのである。そんなわけで二度目に訪れたのは新規連載の打ち合わせのため。
片織は、彼のファンであると豪語していたことも功を奏したのか、そのまま彼の担当となった。
彼らのことを探りたいと思っていた片織。
このことは渡りに船であった。
弟がそのケーキを好むということを覚えていた片織は、再び同じケーキ屋のショートケーキを手土産に訪れる。一時間ほど並んだが、彼らと仲良くなれるならお安いものだ。
前回同様ケーキを和宏に渡す片織。
今回は弟である優人が在宅していた。いや、いるだろう時間を狙って訪れたのである。和宏からは事前に、その時間は弟がいるけれどいいのか? と尋ねられていた。
「初めまして。○○社の片織です」
片織はまだ中学生だという彼の弟に向かってバカ丁寧にお辞儀をし、名刺を差し出す。
「弟の優人です」
片織から名刺を受け取る彼をチラリと見やると、あの小児科医の妻の面影があった。だが驚いたのはそこにではない。
和宏が手洗いに立った隙に彼は近づいて来ると片織の耳元で、
「兄さんを弄ばないでね」
と忠告したのである。
思わず片織は優人を見上げた。
彼は体勢を立て直すと、
「ケーキありがとう」
と何事もなかったかのようにニッコリと微笑んだのである。
──この子は危険だわ。
二人のことを調べていること、気づかれないようにしないと。
片織は優人に対し、言い知れぬ恐怖を感じたのだった。
出版社とて慈善事業ではない。話題性があるうちに二作目を出して売り上げに繋げたいはずだ。
片織は和宏に対して疑念を抱いていた。
──何だろう?
彼は元々小説など書いたことがないのかもしれない。
たまたま書いたものが賞を取った、ただそれだけのことのように感じる。
どうも、小説家になりたくて小説を書いているとは感じられないのだ。
そんな時、片織は彼のブログに目をつける。
例のまるで誰かに宛てたような例のブログだ。
彼にエッセイを書かせてみてはどうかと思ったのである。
話題性がなくなってしまっては通らないかもしれない。推すなら今だと思った。自分も同じように妹を探している。彼が誰かを探しているというのなら、例の不可解な事件に繋がるかもしれない。
これは色んな意味で、一か八かの賭けだった。
片織が案を出すと、和宏のブログを確認した編集長は彼にエッセイの才能の可能性を見出したように感じた。
とりあえず何個かテーマを出し、彼に書かせてみろという。
自分が提案者だったため、その役は片織が引き受けることに。
そして雛本和史と関りがあるかもしれないと踏んでいた片織は、あの日持って行くことが出来なかったケーキを手に雛本宅へ訪れたのだ。
「わたし、片織って言います」
指定されたマンションに行ってみると、学生二人で暮らしているとは思えないほど広いマンションだった。
その理由について詳しく話を聞くと、親戚がタダで貸してくれているのだという。彼らは三人兄弟であったが妹が失踪し、親を事故で喪った孤児だという。
──合致しそうな気もするんだけれど、年齢がネックなのよね。
「これ、ショートケーキなんだけれど」
良かったら二人で食べてと言って渡すと、
「弟がここのケーキ好きなんだ。ありがとう」
と言って和宏は小さく微笑んだ。
彼とよく似ている雛本和史もそんな風に笑ったのだろうか?
そんなことを思いながら、彼を見ていた。初対面時にはあまり打ち解けてはくれなかったが、弟をとても大切に思っていることは伝わってくる。
その弟に会えたのは、二度目の訪問の時だった。
テーマに沿って書いて貰った原稿はとても読みやすく、時代に添う内容となっていた。若者向けの雑誌のコラムにちょうど良いと、そのまま起用となったのである。そんなわけで二度目に訪れたのは新規連載の打ち合わせのため。
片織は、彼のファンであると豪語していたことも功を奏したのか、そのまま彼の担当となった。
彼らのことを探りたいと思っていた片織。
このことは渡りに船であった。
弟がそのケーキを好むということを覚えていた片織は、再び同じケーキ屋のショートケーキを手土産に訪れる。一時間ほど並んだが、彼らと仲良くなれるならお安いものだ。
前回同様ケーキを和宏に渡す片織。
今回は弟である優人が在宅していた。いや、いるだろう時間を狙って訪れたのである。和宏からは事前に、その時間は弟がいるけれどいいのか? と尋ねられていた。
「初めまして。○○社の片織です」
片織はまだ中学生だという彼の弟に向かってバカ丁寧にお辞儀をし、名刺を差し出す。
「弟の優人です」
片織から名刺を受け取る彼をチラリと見やると、あの小児科医の妻の面影があった。だが驚いたのはそこにではない。
和宏が手洗いに立った隙に彼は近づいて来ると片織の耳元で、
「兄さんを弄ばないでね」
と忠告したのである。
思わず片織は優人を見上げた。
彼は体勢を立て直すと、
「ケーキありがとう」
と何事もなかったかのようにニッコリと微笑んだのである。
──この子は危険だわ。
二人のことを調べていること、気づかれないようにしないと。
片織は優人に対し、言い知れぬ恐怖を感じたのだった。
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