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6 事件を見届けし者

23・突如現れた光

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 手がかりを見つけたのは偶然。
 妹の捜索を始めてから実に、四年の月日を要していた。
 その間に片織は妻を失ったが、悲しんでいる暇はなくもしこんな状況でなければ鬱になっているところだったと思う。
 貯金も心許ない状態になり、いよいよ職に就くかねばならないと思っていた時だった。手っ取り早く稼げる方法はないかと、ある雑誌に目を通したところある高校生が創作小説で受賞したとい記事を目にする。

 それはこれと言って珍しいことではない。
 しかし内容が気なった。
 あらすじを読むと三兄弟の末っ子が姉に似た人ばかりを好きになるが上手くいかない。それを兄の視点で描いた物語なのだ。
 第一に変わった構成だなと感じた。
 何故末っ子視点ではなく、あえての兄視点なのか?
 その記事には、申し訳程度に彼のブログのURLが添えられていた。

「これって……」
 ブログは少し変わっていて、彼の私生活について書かれているようなのがどう見ても子育て日記。
 誰かに向けて自分と成長していく弟のことを書いているように見えたのである。

──高校生……。
 彼に会ってみたいわね。

 四年も女装を続けた結果、片織はおねえ言葉も板について来た。
 元々女性の格好をすることに抵抗もなかったが。
 雑誌の巻末に目を向けると、社員募集の広告があった。働きやすく、未経験可、年齢不問とある。
 個人情報を聞き出すよりも、この雑誌社に入る方が早いと思われた。彼のファンでありブログも読んでいると言えば、少しは良い印象を与えるに違いない。

 早速履歴書を購入し、社に電話をかけてみるとすぐに面接に来て欲しいと言われた。よほど人手が足りないらしい。
 面接では彼のファンである旨を伝えたが、担当が片織を気に入った理由はそこではなく、女性の恰好をしていたことにあったようだ。

「ジェンダー差別がなくなった世の中とは言え、百パーセントじゃないでしょう? 記事を組むにも当事者の話しって聞きたいものなのよねえ」
 そう言われ、片織は非常に申し訳ない気持ちになった。
 女装はあくまでも、結城の兄とバレないようにしていただけ。都合上、トランス女性だと嘘をついてしまったが、実際のトランス女性の気持ちはわからない。

──これは、”人それぞれ”で乗り切るしかないわね。

 嘘がバレないようにするためにも、片織はファッションセンスを磨くことに余念がなかった。女性と言えば、メイクにファッション。そして美味しいお店を知っていて女子会を頻繁に開く。
 片織の女性に対してのイメージはそれであった。
 現に妻も妹もファッションセンスは良い方だと感じている。

 その上、ここは雑誌社。資料室にはいくらでもファッション雑誌が置いてあったのだ。
 嘘を突き通す為に始めたファッションの勉強は次第に実を結び、いろんな課の者たちから話しかけられるようになる。

 片織が社内で『雛本和宏』を見かけたのは入社して数週間だったと思う。
 彼を見かけた時はとても驚いた。
 それがあの受賞した高校生だと聞いた時、さらに驚いたのだ。
「彼がそうなのよ」
と社の先輩。
「本名は雛本和宏くん」
 探している人物と苗字は一致。
 そして何よりも、容姿があの『小児科医』とそっくりだったのだ。

──三人兄弟ということは一致するのだけれど、年齢がおかしくない?
 いや……高校生というだけで年はいっている可能性も。
 留年かしら?

 四年前も高校生、今も高校生ではその可能性は高い。
 小児科医も若作りだったのだ。
 その可能性は否定できない。
 だがさすがに弟が四年前も中学生で今も中学生となると、おかしいと思い始める。

──何か縁《ゆかり》はありそうな気はするんだけれど。
 どうにかして彼と接触できないかしら。
 
 片織はチャンスを伺うことにした。
  そしてチャンスは思わぬ形で訪れるのだった。
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