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5 未来を託された少女
18・母との別れ
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佳奈はその後、母に着地点へ連れていかれた。
時間を越えることは可能でも、飛ぶ先のイメージがないとそこに着地することは難しい。
「手を繋いだまま、自分だけ別の場所へ飛ぶことは可能なの?」
と佳奈。
そこが一番不安な部分だ。
「それは大丈夫。繋ぐことで三人の力は一律になるから安定して飛べるはずよ」
それは暴走を起こさないという意味だ。
「わたし、お兄ちゃんを上手く説得できるかしら?」
「きっと大丈夫よ」
佳奈は深呼吸をすると、景色を目に焼き付ける。
「和宏には事前に、色々とこの先どうするか話しておいた方が良いかの知れない」
あの子は”お兄ちゃんでいたい子だから”と母続けた。
佳奈にとって兄は初恋の相手。
血が繋がっていないなら、変ではないのだろうと思う。
「和宏が心配?」
「うん」
佳奈は素直に頷いた。
いつでも佳奈や優人を優先し、守ろうとする和宏。まるで兄でないと自分に価値がないように思っている彼。
もし転移先に自分がいなかったら、自分のせいだと思うに違いない。
「心配いらないわ。優人がいるから」
母はそう言って微笑んだ。
その信頼と安心は何処から来るのだろう?
「優人はまだ中学生になったばかりだし、甘えん坊だよ?」
と佳奈。
「あなたにはそう見えるの?」
母はクスッと笑うとベンチに腰かけた。
「優人はあなたたちが大好きで、大切だからそうしているだけよ。本当は誰よりも頼りになる」
確かに弟は、自分たちが習い事をし始めると自分もやると言ってきかなかった。そして誰よりも器用にこなし、追い抜いていく。そんな彼を羨ましいなと思う反面、嫉妬せずに済むのは自分たちに懐いてくれているからだ。
兄や姉に褒められたいから頑張っている。そう見えるから。
「優人はあなたたちのことが大好きなのと同時に、対等でいたいの。お荷物になりたくないのよ。一緒にいたいから」
そう言って母は遠い目をし、景色を眺めている。
「二人が大切だから、必ずあなたの居場所を突き止める」
それは和宏の為であり、佳奈の為。
「信じて」
どうしてそこまで信じることが出来るのだろう。
「風が出てきたわね」
そういうと母は立ち上がり、車へ戻ろうと言う。
帰りに夕飯の買い物を一緒にしようと付け加え。
その夜は父が早く帰宅し、久々の一家団欒となった。
和宏と優人は明日のことを知らない。
佳奈自身もまだ実感が湧かない。
夕飯を食べ終え、部屋に戻ると兄に話すためのことをメモに残した。自分がいなくなった後、時代を超えた後にどうすべきか。
きっと飛んだ先に自分が居なければ彼は動揺してしまうに違いない。
ちゃんと判断できない状況で、まともなことは考えられないだろう。メモを見るだけで行動できるようにと、詳細に丁寧にメモを書き連ねていく。
母は重要な事項として彼らと同じ時代に自分がいるように見せなければならないと言っていたが、それは力の干渉があるから心配せずともいいとも言われた。力の干渉とはなんなのか?
『あなたから流れた力は、しばらく二人の中に残り続けるの』
それは次に佳奈が二人のいる時代に飛ぶまで続くそうだ。
そんな状況で、二人が佳奈の居場所に辿りつけるというのだろうか?
まだ見えない未来に不安さえ感じる。
だが今は、母や和宏たちを信じるしかないのだ。
そしてあの日、自分たちは時を超えた。
母の言いつけを守り、何とか兄を言いくるめ。
林に引き返すとき、優人が何度も家の方を振り返るのが気になった。
彼はまだ中学生になったばかりなのだ。反抗期も迎えていない彼が、その時期すら待たず両親を失い兄と二人きりにされる。
この先の成長を佳奈もとても楽しみにしていた。
それは両親とて同じであろう。
『二人を信じて。必ず会えるわ』
母の言葉はまるで願いにも感じた。
そうなる未来を迎えて欲しいとでも言うように。
時間を越えることは可能でも、飛ぶ先のイメージがないとそこに着地することは難しい。
「手を繋いだまま、自分だけ別の場所へ飛ぶことは可能なの?」
と佳奈。
そこが一番不安な部分だ。
「それは大丈夫。繋ぐことで三人の力は一律になるから安定して飛べるはずよ」
それは暴走を起こさないという意味だ。
「わたし、お兄ちゃんを上手く説得できるかしら?」
「きっと大丈夫よ」
佳奈は深呼吸をすると、景色を目に焼き付ける。
「和宏には事前に、色々とこの先どうするか話しておいた方が良いかの知れない」
あの子は”お兄ちゃんでいたい子だから”と母続けた。
佳奈にとって兄は初恋の相手。
血が繋がっていないなら、変ではないのだろうと思う。
「和宏が心配?」
「うん」
佳奈は素直に頷いた。
いつでも佳奈や優人を優先し、守ろうとする和宏。まるで兄でないと自分に価値がないように思っている彼。
もし転移先に自分がいなかったら、自分のせいだと思うに違いない。
「心配いらないわ。優人がいるから」
母はそう言って微笑んだ。
その信頼と安心は何処から来るのだろう?
「優人はまだ中学生になったばかりだし、甘えん坊だよ?」
と佳奈。
「あなたにはそう見えるの?」
母はクスッと笑うとベンチに腰かけた。
「優人はあなたたちが大好きで、大切だからそうしているだけよ。本当は誰よりも頼りになる」
確かに弟は、自分たちが習い事をし始めると自分もやると言ってきかなかった。そして誰よりも器用にこなし、追い抜いていく。そんな彼を羨ましいなと思う反面、嫉妬せずに済むのは自分たちに懐いてくれているからだ。
兄や姉に褒められたいから頑張っている。そう見えるから。
「優人はあなたたちのことが大好きなのと同時に、対等でいたいの。お荷物になりたくないのよ。一緒にいたいから」
そう言って母は遠い目をし、景色を眺めている。
「二人が大切だから、必ずあなたの居場所を突き止める」
それは和宏の為であり、佳奈の為。
「信じて」
どうしてそこまで信じることが出来るのだろう。
「風が出てきたわね」
そういうと母は立ち上がり、車へ戻ろうと言う。
帰りに夕飯の買い物を一緒にしようと付け加え。
その夜は父が早く帰宅し、久々の一家団欒となった。
和宏と優人は明日のことを知らない。
佳奈自身もまだ実感が湧かない。
夕飯を食べ終え、部屋に戻ると兄に話すためのことをメモに残した。自分がいなくなった後、時代を超えた後にどうすべきか。
きっと飛んだ先に自分が居なければ彼は動揺してしまうに違いない。
ちゃんと判断できない状況で、まともなことは考えられないだろう。メモを見るだけで行動できるようにと、詳細に丁寧にメモを書き連ねていく。
母は重要な事項として彼らと同じ時代に自分がいるように見せなければならないと言っていたが、それは力の干渉があるから心配せずともいいとも言われた。力の干渉とはなんなのか?
『あなたから流れた力は、しばらく二人の中に残り続けるの』
それは次に佳奈が二人のいる時代に飛ぶまで続くそうだ。
そんな状況で、二人が佳奈の居場所に辿りつけるというのだろうか?
まだ見えない未来に不安さえ感じる。
だが今は、母や和宏たちを信じるしかないのだ。
そしてあの日、自分たちは時を超えた。
母の言いつけを守り、何とか兄を言いくるめ。
林に引き返すとき、優人が何度も家の方を振り返るのが気になった。
彼はまだ中学生になったばかりなのだ。反抗期も迎えていない彼が、その時期すら待たず両親を失い兄と二人きりにされる。
この先の成長を佳奈もとても楽しみにしていた。
それは両親とて同じであろう。
『二人を信じて。必ず会えるわ』
母の言葉はまるで願いにも感じた。
そうなる未来を迎えて欲しいとでも言うように。
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