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5 未来を託された少女
16・母から受け継がれたもの
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浜辺に降りると潮風が肌を撫でる。
病院に運ばれた要人の容体はどうなのだろうか?
それが自分たちの未来に関わるというならば、気になるところだ。
「わたしはね、ある時代から『時渡』をしてきたの」
母は、海を見ながら佳奈にそう告げた。
詳細は言えないが、自分に課せられた運命を全うするためだと言う。そして佳奈は未来から『時越え』をし、自分たちの時代へやって来たと。
『時渡』についてはどんなものなのか知っていたが、『時越え』というものについてはこの時初めて知った。
「時渡はあなたも知っての通り、任意で時を渡ること。危険が迫った時、『未来へ』飛ぶことが義務付けられているの」
『時渡』の力を持つ自分たち一族は幼い時は父母と共に、自分たちだけで飛べるようになってからは子供たちのみで、過去や未来へ飛ぶ訓練をさせられる。しかし『未来へ飛ぶことが義務付けられている』ことは、ここで初めて知った。
親は危険が迫らないうちは、多くの知識を子に与えることはない。
それは分家や本家から外に出た家庭でのことであり、徹底的に能力のことや一族の歴史について学ぶ本家の子らとは異なる部分だ。
「分家や我が家のように外にでた一族の者は、秘密を守ることが優先されるのよ。時には命を失う者もいる。本家の役割は……いずれあなたも知ることになるので、ここでは割愛するわね」
母の優しい声が、風と共に耳元を吹き抜けていく。
「何故未来なのか。それは時間を空けることで”存在しない時間を作るため”だと言われているわ。そうすることで一族の者以外の記憶から欠落した存在になる」
母の説明に、実際どうなるのか質問をすると、
「未来への『時渡』というのは、周りの感覚は引っ越してきた隣人のようなものよ」
と説明してくれた。
確かに引っ越して来た隣人の過去は知らないし、知らなくてもなんとも思わないだろう。言いえて妙な感じだ。
「『時越え』というのは母が雛本一族、父がそれ以外の家系の者との間に生まれた子に起こる現象なの。産まれて数日で起るとされていて、始祖のいる時代では意図的に行われている」
つまり、始祖のいる時代では過去に赤子を送るためにわざわざ一族の女系を他の家系の男性を婚姻させているということなのだろう。
「わたしもその時代でなにが起きていて、そんなことが行われているのか分からないから、それ以上のことは知らないの。けれども、あなたとわたしは近しい存在」
──子供のころから母とはとても似ていると言われてきた。
近しい? それは姉妹か何かなのだろうか?
母は何かを知っているように感じる。
その上で明言しないのだと、佳奈は判断した。
そして今聞くべきことではないのだということを。
「意図的に行われていることだけれど、わたしたちの間では禁忌とされているの。とても危険だからだと思うわ。先日制裁を受けた、あの女性のようにね」
佳奈は静かに母の話を聞いていた。
きっとたくさんの知識の中から必要なことだけを自分に伝えようとしているのだろう。それは、これから母が自分に指示を出すことに関係、もしくは理解するために必要だからだろう。
危険とは、一族にとってなのだということも理解した。
「ところで、『時渡』を一人ですることは危険だということは知っているわよね」
と母。
「うん」
「何故飛ぶ時は”いつも真ん中で”というのか知っているとは思うけれど、あの理由は実は嘘なの」
「え?!」
流石の佳奈もこのカミングアウトには衝撃を受ける。
確か母は『佳奈の力は強いので真ん中となり二人をサポートするように』と言っていたはずだ。それが嘘とは一体どういうことなのだろうか?
「『時越え』を行える一族の者は、一人で別の時間に飛ぶことが可能なの。ただし、無事に渡れるのは始祖直系の者に限る」
母の話しはここからが本題であり、一族の極秘事項なのだと佳奈は悟ったのだった。
病院に運ばれた要人の容体はどうなのだろうか?
それが自分たちの未来に関わるというならば、気になるところだ。
「わたしはね、ある時代から『時渡』をしてきたの」
母は、海を見ながら佳奈にそう告げた。
詳細は言えないが、自分に課せられた運命を全うするためだと言う。そして佳奈は未来から『時越え』をし、自分たちの時代へやって来たと。
『時渡』についてはどんなものなのか知っていたが、『時越え』というものについてはこの時初めて知った。
「時渡はあなたも知っての通り、任意で時を渡ること。危険が迫った時、『未来へ』飛ぶことが義務付けられているの」
『時渡』の力を持つ自分たち一族は幼い時は父母と共に、自分たちだけで飛べるようになってからは子供たちのみで、過去や未来へ飛ぶ訓練をさせられる。しかし『未来へ飛ぶことが義務付けられている』ことは、ここで初めて知った。
親は危険が迫らないうちは、多くの知識を子に与えることはない。
それは分家や本家から外に出た家庭でのことであり、徹底的に能力のことや一族の歴史について学ぶ本家の子らとは異なる部分だ。
「分家や我が家のように外にでた一族の者は、秘密を守ることが優先されるのよ。時には命を失う者もいる。本家の役割は……いずれあなたも知ることになるので、ここでは割愛するわね」
母の優しい声が、風と共に耳元を吹き抜けていく。
「何故未来なのか。それは時間を空けることで”存在しない時間を作るため”だと言われているわ。そうすることで一族の者以外の記憶から欠落した存在になる」
母の説明に、実際どうなるのか質問をすると、
「未来への『時渡』というのは、周りの感覚は引っ越してきた隣人のようなものよ」
と説明してくれた。
確かに引っ越して来た隣人の過去は知らないし、知らなくてもなんとも思わないだろう。言いえて妙な感じだ。
「『時越え』というのは母が雛本一族、父がそれ以外の家系の者との間に生まれた子に起こる現象なの。産まれて数日で起るとされていて、始祖のいる時代では意図的に行われている」
つまり、始祖のいる時代では過去に赤子を送るためにわざわざ一族の女系を他の家系の男性を婚姻させているということなのだろう。
「わたしもその時代でなにが起きていて、そんなことが行われているのか分からないから、それ以上のことは知らないの。けれども、あなたとわたしは近しい存在」
──子供のころから母とはとても似ていると言われてきた。
近しい? それは姉妹か何かなのだろうか?
母は何かを知っているように感じる。
その上で明言しないのだと、佳奈は判断した。
そして今聞くべきことではないのだということを。
「意図的に行われていることだけれど、わたしたちの間では禁忌とされているの。とても危険だからだと思うわ。先日制裁を受けた、あの女性のようにね」
佳奈は静かに母の話を聞いていた。
きっとたくさんの知識の中から必要なことだけを自分に伝えようとしているのだろう。それは、これから母が自分に指示を出すことに関係、もしくは理解するために必要だからだろう。
危険とは、一族にとってなのだということも理解した。
「ところで、『時渡』を一人ですることは危険だということは知っているわよね」
と母。
「うん」
「何故飛ぶ時は”いつも真ん中で”というのか知っているとは思うけれど、あの理由は実は嘘なの」
「え?!」
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確か母は『佳奈の力は強いので真ん中となり二人をサポートするように』と言っていたはずだ。それが嘘とは一体どういうことなのだろうか?
「『時越え』を行える一族の者は、一人で別の時間に飛ぶことが可能なの。ただし、無事に渡れるのは始祖直系の者に限る」
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