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3 新聞社の女
9・雛本医院の謎
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──奥様は不妊症……。
なぜそれがこんなにも引っかかるのか、結城には分からない。
しかし知りたい欲求が勝っている。
その後、記事もとに問い合わせるも記憶にないと言われてしまう。
完全に手詰まりとしか言いようがなかった。
そんな時、久々に双子の兄と会食する機会が訪れる。
「夢中になるのも良いけれど、ほどほどにしないと」
兄の言うことは正論だったと思う。
「何を調べようとしているのか、深くは聞かないけれど。踏み込み過ぎて消されるなんてことのないようにな。政界は怖いから」
と彼。
そんなドラマのようなことは起こらないだろうとも思うが、実際自殺に追い込まれた人もいるのだ。確かに政界は怖いイメージがつきまとう。
有名人にはプライバシーがないと思うのは、メディアのせいだ。あってしかるべきプライバシーを侵害し、それを正当だと言っているに過ぎない。
不正を正すことは必要だが、プライバシーを侵害していい理由にはならない。そんなことは分かっているのはずなのだが。
もしものことがないことを祈るが、兄には自分が雛本医院に出向いたことは告げておいた。何について調べているかを明かすことはなかったが。
兄と別れたあと、結城はあの小児科医が嘘を述べたことが気になり、雛本医院へ向かうことにしたのだった。
「いらっしゃい。また来たんですか?」
結城はすっかり雛本和史に覚えられてしまっていた。
「そういえば最初に来た時、先生はあの議員がここの患者さんだと言いましたよね」
実際にここの患者だったのは彼ではなく、妻。
何故噓をついたのかとても気になったのだ。
「ええ。それが何か?」
と彼。
この時、結城は彼に対し食えない人《やつ》と言う印象を受ける。
「先日、あの議員にここへ入院しているのは妻だということを伺いまして」
と結城。
「へえ。直接お話されたのですか。ですが医者にも守秘義務がありますから、プライバシーに関してはお話できませんよ」
何故嘘をついたのか。問う前にそう言われてしまう。
──こうなってくると、あの議員にというよりは雛本家に何か秘密があるように感じてしまう。
「この医院の小児科はお暇なのですか?」
結城は別の角度からアタックしてみようと思った。
「他の医院のことは知らないので分かり兼ねますが、この辺には何軒か小児科がありますからねえ。わざわざうちに来ることもないでしょう」
手が空いているから彼が選ばれたのか?
その回答となる返事は得られなかった。
彼と別れ、案内版の前に立ち驚愕する。
──やっぱり何かおかしいわ。この医院。
雛本医院を出てスマホを取り出す。
この辺りの地図を確認し、眉を顰《ひそ》めた。
この医院の敷地はとても広いのだ、その辺の大学病院などよりも格段に広い。それは平屋建てだからだとも考えられるが。
続いて病院の定義を調べてみた。
医療法により病院の定義は二十床以上の入院施設を持つ医療機関と定められている。つまり施設の大きさは関係ない。
こんなに広いのにと感じた疑問はすぐに解決された。
つまり雛本医院は二十床以下だということだ。
案内版を確認した限りでは総合病院と同じような施設、設備が整っている。もちろん患者百人以上の収容施設だ。総合病院となるには、都道府県知事の承認が必要だが、これだけの設備を備えているにも関わらず『医院』である利点は何だろうか?
クリニック、診療所、医院という名称は『病院』とは違い自由につけることが可能。その上、開設者が医師又は歯科医師個人であるか、非医師であるかは問われない。市町村や医療法人などの法人が開設することもあるらしい。
──うーん。雛本医院は一族が運営しているようだし、あれだけ医者がいるのだから、病院の定義に当てはまらなくて『医院のまま』とは考え辛い。
となると、あえてそうしているとしか思えないのだった。
なぜそれがこんなにも引っかかるのか、結城には分からない。
しかし知りたい欲求が勝っている。
その後、記事もとに問い合わせるも記憶にないと言われてしまう。
完全に手詰まりとしか言いようがなかった。
そんな時、久々に双子の兄と会食する機会が訪れる。
「夢中になるのも良いけれど、ほどほどにしないと」
兄の言うことは正論だったと思う。
「何を調べようとしているのか、深くは聞かないけれど。踏み込み過ぎて消されるなんてことのないようにな。政界は怖いから」
と彼。
そんなドラマのようなことは起こらないだろうとも思うが、実際自殺に追い込まれた人もいるのだ。確かに政界は怖いイメージがつきまとう。
有名人にはプライバシーがないと思うのは、メディアのせいだ。あってしかるべきプライバシーを侵害し、それを正当だと言っているに過ぎない。
不正を正すことは必要だが、プライバシーを侵害していい理由にはならない。そんなことは分かっているのはずなのだが。
もしものことがないことを祈るが、兄には自分が雛本医院に出向いたことは告げておいた。何について調べているかを明かすことはなかったが。
兄と別れたあと、結城はあの小児科医が嘘を述べたことが気になり、雛本医院へ向かうことにしたのだった。
「いらっしゃい。また来たんですか?」
結城はすっかり雛本和史に覚えられてしまっていた。
「そういえば最初に来た時、先生はあの議員がここの患者さんだと言いましたよね」
実際にここの患者だったのは彼ではなく、妻。
何故噓をついたのかとても気になったのだ。
「ええ。それが何か?」
と彼。
この時、結城は彼に対し食えない人《やつ》と言う印象を受ける。
「先日、あの議員にここへ入院しているのは妻だということを伺いまして」
と結城。
「へえ。直接お話されたのですか。ですが医者にも守秘義務がありますから、プライバシーに関してはお話できませんよ」
何故嘘をついたのか。問う前にそう言われてしまう。
──こうなってくると、あの議員にというよりは雛本家に何か秘密があるように感じてしまう。
「この医院の小児科はお暇なのですか?」
結城は別の角度からアタックしてみようと思った。
「他の医院のことは知らないので分かり兼ねますが、この辺には何軒か小児科がありますからねえ。わざわざうちに来ることもないでしょう」
手が空いているから彼が選ばれたのか?
その回答となる返事は得られなかった。
彼と別れ、案内版の前に立ち驚愕する。
──やっぱり何かおかしいわ。この医院。
雛本医院を出てスマホを取り出す。
この辺りの地図を確認し、眉を顰《ひそ》めた。
この医院の敷地はとても広いのだ、その辺の大学病院などよりも格段に広い。それは平屋建てだからだとも考えられるが。
続いて病院の定義を調べてみた。
医療法により病院の定義は二十床以上の入院施設を持つ医療機関と定められている。つまり施設の大きさは関係ない。
こんなに広いのにと感じた疑問はすぐに解決された。
つまり雛本医院は二十床以下だということだ。
案内版を確認した限りでは総合病院と同じような施設、設備が整っている。もちろん患者百人以上の収容施設だ。総合病院となるには、都道府県知事の承認が必要だが、これだけの設備を備えているにも関わらず『医院』である利点は何だろうか?
クリニック、診療所、医院という名称は『病院』とは違い自由につけることが可能。その上、開設者が医師又は歯科医師個人であるか、非医師であるかは問われない。市町村や医療法人などの法人が開設することもあるらしい。
──うーん。雛本医院は一族が運営しているようだし、あれだけ医者がいるのだから、病院の定義に当てはまらなくて『医院のまま』とは考え辛い。
となると、あえてそうしているとしか思えないのだった。
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