【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』

３ 新聞社の女

６・要人と雛本医院

　その情報をくれたのは、友人であり雛本医院の患者であった。
　雛本医院は総合病院でありながら、たくさんの患者の受け入れをし儲けようとしているようには感じない不思議な病院である。
　まるで身内のためにあると言っても過言ではない。
　一応外来も受け付けはするが、泊りになるような大きな手術を必要とする患者は他の病院に回されるという。
　そこに例の要人が関わっているというのであれば、何かあるに違いない。

──これは勘でしかないけれどね。

　数日前にネットで見つけた小さな記事を思い出す。
　その要人には子供はいない。
　だが確かにおめでたいニュースがあった。
　あれから数年経つが、子供の話しは一切聞かずなかったことにされている感がある。

　そのニュースはまるで削除し忘れたとしか言いようがない。何故なら、もし事故などで子の命が絶たれたというならば、その記事も載るはずだと結城は思ったからだ。
　要人はその頃には既に議員であり、有名だったという理由もあげられる。

──例えばそれが、愛人の子でスキャンダルというならば消された理由もわかるのよね。本妻の子が生まれたことをなかったことにするかしら？
　生まれながらに病を持った子だったとしても……。

　記事をあげた社に問い合わせてみたものの、本人でさえ上げた記憶がないという。スクリーンショットを取っておいたため、記事が存在したことだけは証明できるが、問い合わせ先ではその後《ご》記事が削除された。

　もちろん、”その要人に子が生まれた事実があるのか”をその記事を書いた本人に問い合わせもしたが、書いた記憶がないどころか『別の誰かと間違って書いてしまい、手違いでそのまま記事として送信してしまったのではないか』と言う。
　そんなことがあって良いものだろうか？

　あまりにも気になるため、その記事のコメント欄にコメントを残していた人に連絡を取ろうとした。すると、その中に雛本医院に通院する友人のIDを見つけた次第だ。

　彼女は結城の大学時代の友人であり、その要人のファンであるという。
　たまに議員にも熱狂的なファンがつくことは知っていたが、彼女もその一人であり現在骨折のため、住まいの近くにある雛本医院の整形外科に通っているらしい。
　その要人に関しての記事は全部スクラップしてあるので、見たいなら家に寄ってとも言われていた。

──汚職が疑われていようが、人には良い面も悪い面もある。
　彼女のようにファンだっているはず。

　世の中にはいろんな人がいる。
　それが良いことか悪いことか別として、絶対的な悪を崇拝するような人だっているのだ。こんなに有名な人物であればなおのこと、憎むものだっているだろうし逆にファンだっているに違いない。
　
　雛本医院は妙な立地にあった。
　歩いていくには少し遠いが、タクシーを使うには近すぎる。
　そんな中途半端な場所に建てるなんて相当捻くれた性格なのか、人を避けているのではないかと疑ってしまう。

──人は信じたいものを信じるとは言うけれど。
　疑いだすとなんでも怪しく感じるのもまた、人間の性《さが》よね。

　結城はスクープを狙っているわけでも、汚職の事実を追求しようとしているわけでもなかった。好奇心が自分を突き動かしていると言っても過言ではない。

　双子の兄と自分は昔からミステリーが好きだった。
　新聞社に勤めたのも、事件の記事がどのようにして書かれるのか興味があったからに過ぎない。結果として勤務しているのであって、記事を書くことに情熱があるならむしろ雑誌社へ行くだろう。
　事実がどうなのかはわからないが、新聞とは情報を正しく発信するものであり、雑誌とは事実を過大に表現し人を惹きつけることを目的としていると感じていた。
　結城が雑誌社と新聞社どちらを選ぶか考えた時、正しく物事を知りたいと思い新聞社を選んだに過ぎない。

「こんな時、兄がいたならな……」
　誰よりも信頼し、相棒のように思っていた双子の片割れのことを思い、結城はため息をついたのだった。