【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』

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3 新聞社の女

5・動き出した歯車

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 片織の双子の妹、結城聖ゆうきひじりはチラリと人々の集まる方へ視線を向ける。

「最近、近隣国家が騒がしいわね。戦争でもおっぱじめる気かしら?」
 その日、新聞社ではそんな会話が飛び交っていた。
 外交なんてものは、キツネとタヌキの化かし合いのようなもの。
 しかしそれで自国の安全を守っていると言っても過言ではない。

「日本は戦争をしない国。それをいいことに脅しにかかっているのよ。毅然とした態度を貫くべきだわ」
 結城はそう言って社を出る準備にかかる。 
 結城は社内で少し浮いた存在だった。別に嫌がらせをされたり、無視をされているわけではない。自分を貫く、意見を曲げないその頑固さゆえに浮いていたのである。

 先日、双子の兄が婚姻をした。
 憂鬱でならない。

 結城にとって兄は特別な存在だった。
 唯一、自分を理解してくれる人。
 そんな風に思っていたのに。

──確かに何度も邪魔はしたわ。
 でもあんなに怒ることないじゃない。

 結城は愛用のキャリーケースを引きながら出入り口に向かう。
 この新聞社は二階建て。一階が印刷所になっている。
「結城、出るの? 直帰でいいわよ」
 結城はここ最近、ある要人の汚職について調べていた。
 上司にそう言われ、名札を黒から赤へひっくり返す。
 片手をあげ分かったというジェスチャーをすると、部屋からでた。

 確かに最近、近隣国家から戦闘機やら戦艦が領海侵犯を行っている。
 自衛隊がその度に追い返しているらしいが。
 どうせ死ぬときは死ぬのだそんなことを思いながら、結城はエレベーターの箱に乗り込む。
 
 今回の汚職事件。良くある話で、これを記事にしたところで大したスクープにもならなそうだ。新聞は週刊誌とは違う。
「今時、紙の新聞取っている人なんてそうそういないしね」

 時は5×××年。
 ほぼモバイル媒体に移行してしまっている。
 一階に設置されている印刷機も過去の産物。
 図書館へ寄贈する目的でしか使われてはいない。

 それでもデジタルと紙には大きな違いがあり、重宝されているのも事実。
 デジタルならいつでも改ざん出来るし、直ぐに消すことも可能。
 紙はそういうわけにはいかない。
 証拠として残せるのはやはり紙なのだ。

 一階に辿り着くと、チンと子気味良い音がする。
 この音は何千年と変わらないと聞いたことがあった。
 エレベーターには何種か音はあるが、性能は良くなっても慣れ親しんだ音がずっと使われていく。そう言えばTVのニュース速報も音が変わらないなと思いながら、結城はキャリーケースを引きずり箱の外へ出た。

 日差しが容赦なく照り付ける。
「誰だよ、オゾン層を破壊したのは」
 何千前もの人類に恨み言を漏らしながら、駅に向かって一歩を踏み出す。

 人間の寿命はこの膨大な時の流れに置いて、短い。
 仮に百年生きようが短いのだ。

──誰も彼もが汚職するわけじゃないとは思うけれど。
 やっぱり、議員になるとお金が紙切れみたいに見えるのかしらね。

 血税を自分たちの取引のために使うこと自体、許せることではないがそれを何に使っているのか、とても気になるところだ。
 彼らの金のやり取りは、贅沢の為とは思えない。
 自分が一生かかっても使いきれない額をもし自分の性欲のためにキャバクラなどで使っているのだとしたら、それはかなり低俗だ。
 できればもっとマシな使い方をして欲しい。

「国民はみんな貧乏なのにね」
 結城はそんなことを呟きながら、改札口にスマホをあてる。
 好きでやっている仕事とはいえ、薄給はっきゅう。都内に住んでいるならなおさら、車は不要。駐車場代が高くつく。
「とりあえず、情報通り雛本医院に向かってみようかしら」
 電光掲示板と手元のメモを見比べ、結城は乗るべき路線を思案していたのだった。
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