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6 見える糸を手繰り寄せ
34 あの日の恐怖
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「なるほど、そういうことだったのか」
翌日の早朝、平田を家に送り届け新聞社の女性に会った和宏と優人。
事前に聞きたい話について告げておいた為、すんなりと話を聞くことが出来た。彼女の家がある最寄り駅の喫茶店で話を終えた後、用事があると言うのでその場で別れたのだ。
昭和を思わせるシックな喫茶店。
漆塗りの赤茶のテーブルとイス。ポトスと呼ばれる観葉植物が、席を隔てる衝立の役割を果たしている。
軽快なジャズがかかっており、まだ昼前と言うことから客はまだらだ。
刑事ものに出てきそうな場所だよなあと思いながら、アイスティーのストローに口をつける。
「これでやっと繋がったね」
と優人。
二人が新聞社の女性から聞き出したのは、十年前の記事とそれに纏わることについて。
「記者の失踪は、俺たちの両親が殺される前だった可能性が出てきたね」
「そうだな」
片織から渡されたメモの人物を調べてみると、それは十年前の『雛本家の事件』の記事を書いた記者であった。
しかしその原稿は本人が直接社に持っていったわけではないという。
『体調不良でどうしても出社できないから』と身内が届けたらしい。
だが数日たってもその人物は出社しなかった為、自宅へ行ってみたらもぬけの殻。捜索願が出されたものの、未だに行方不明だという。
「その家族とは、もう連絡は取れないらしいって……」
和宏が片腕で頬杖をつき、クルクルとアイスティーをかき混ぜる。
「ご両親は亡くなったって話だが、兄弟がいるらしいね」
と優人。
「双子の兄、だよな。だが片織がこの事件を調べているのはどういうことなんだ?」
すると優人は『憶測に過ぎないけれど……』と自分の推理について述べる。
優人の推理では、片織はその失踪した人物の恋人か友人だったのではないか? と言う。
「恋人って説はかなり確率は低いのだけれど。その新聞記者が女性だということが分かって、そう思ったんだよね」
けれどと確率が低い理由について続ける。
「片織さんは自認は女性でしょ? 性志向もそうなら、女性が恋人と言うのは考え辛いし」
「女友達ってやつか?」
「もしくはお兄さんのほうと恋人で、その妹を探している……とも思ったんだけれど、それは却下した」
却下の理由について気になった和宏は『なぜ?』と問う。
「だって、考えても見てよ。それなら片織さんと生家跡で出会った時、その兄弟も一緒に居ると思わない?」
「たまたま、予定があったとか」
「それは考え辛いよ。だって兄弟とは連絡が取れなくなったと言っているんだよ?」
もしかしたら二人とも行方不明と言うことなのだろうか?
「それと気になるのは『犯人は現場に戻る』と言う言葉。片織さんは、”何かを見た”んじゃないかと思うんだよね」
優人の話を聞きながら、和宏はなんだかややこしくなってきたなと思っていた。
何かが繋がりそうで、繋がらない。
「ねえ、そういえばさ」
「うん?」
優人が何かを思い出したように、
「あの日、図書館で見た不審人物ってどんな感じだったの?」
と和宏に問う。
「ほら、不審だと思ったなにかがあったから、怖いと思ったんでしょ?」
何日も前の話しだ。そんなに鮮明に覚えているわけではない。
だが、言われてみればその通り。
和宏は恐怖を感じたあの日のことを思い出そうとする。
そして、ゾクリとした。
「そうだよ。このクソ暑いのに、全身真っ黒なカッコをしてたんだ。頭にはショールのようなものを被って」
店内は程よい温度なのに、思い出した恐怖からか身体が震える。
「男か女かは分からないの?」
「ああ。でも、まるで海外の映画に出てくる葬儀の時に着る様な、そんなカッコに見えたよ。一瞬だったけれど」
和宏の言葉を受け、優人は顎に手をやった。
何かを思案するように。
翌日の早朝、平田を家に送り届け新聞社の女性に会った和宏と優人。
事前に聞きたい話について告げておいた為、すんなりと話を聞くことが出来た。彼女の家がある最寄り駅の喫茶店で話を終えた後、用事があると言うのでその場で別れたのだ。
昭和を思わせるシックな喫茶店。
漆塗りの赤茶のテーブルとイス。ポトスと呼ばれる観葉植物が、席を隔てる衝立の役割を果たしている。
軽快なジャズがかかっており、まだ昼前と言うことから客はまだらだ。
刑事ものに出てきそうな場所だよなあと思いながら、アイスティーのストローに口をつける。
「これでやっと繋がったね」
と優人。
二人が新聞社の女性から聞き出したのは、十年前の記事とそれに纏わることについて。
「記者の失踪は、俺たちの両親が殺される前だった可能性が出てきたね」
「そうだな」
片織から渡されたメモの人物を調べてみると、それは十年前の『雛本家の事件』の記事を書いた記者であった。
しかしその原稿は本人が直接社に持っていったわけではないという。
『体調不良でどうしても出社できないから』と身内が届けたらしい。
だが数日たってもその人物は出社しなかった為、自宅へ行ってみたらもぬけの殻。捜索願が出されたものの、未だに行方不明だという。
「その家族とは、もう連絡は取れないらしいって……」
和宏が片腕で頬杖をつき、クルクルとアイスティーをかき混ぜる。
「ご両親は亡くなったって話だが、兄弟がいるらしいね」
と優人。
「双子の兄、だよな。だが片織がこの事件を調べているのはどういうことなんだ?」
すると優人は『憶測に過ぎないけれど……』と自分の推理について述べる。
優人の推理では、片織はその失踪した人物の恋人か友人だったのではないか? と言う。
「恋人って説はかなり確率は低いのだけれど。その新聞記者が女性だということが分かって、そう思ったんだよね」
けれどと確率が低い理由について続ける。
「片織さんは自認は女性でしょ? 性志向もそうなら、女性が恋人と言うのは考え辛いし」
「女友達ってやつか?」
「もしくはお兄さんのほうと恋人で、その妹を探している……とも思ったんだけれど、それは却下した」
却下の理由について気になった和宏は『なぜ?』と問う。
「だって、考えても見てよ。それなら片織さんと生家跡で出会った時、その兄弟も一緒に居ると思わない?」
「たまたま、予定があったとか」
「それは考え辛いよ。だって兄弟とは連絡が取れなくなったと言っているんだよ?」
もしかしたら二人とも行方不明と言うことなのだろうか?
「それと気になるのは『犯人は現場に戻る』と言う言葉。片織さんは、”何かを見た”んじゃないかと思うんだよね」
優人の話を聞きながら、和宏はなんだかややこしくなってきたなと思っていた。
何かが繋がりそうで、繋がらない。
「ねえ、そういえばさ」
「うん?」
優人が何かを思い出したように、
「あの日、図書館で見た不審人物ってどんな感じだったの?」
と和宏に問う。
「ほら、不審だと思ったなにかがあったから、怖いと思ったんでしょ?」
何日も前の話しだ。そんなに鮮明に覚えているわけではない。
だが、言われてみればその通り。
和宏は恐怖を感じたあの日のことを思い出そうとする。
そして、ゾクリとした。
「そうだよ。このクソ暑いのに、全身真っ黒なカッコをしてたんだ。頭にはショールのようなものを被って」
店内は程よい温度なのに、思い出した恐怖からか身体が震える。
「男か女かは分からないの?」
「ああ。でも、まるで海外の映画に出てくる葬儀の時に着る様な、そんなカッコに見えたよ。一瞬だったけれど」
和宏の言葉を受け、優人は顎に手をやった。
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