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6 見える糸を手繰り寄せ
33 兄、ご乱心
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週末の夜。
人生初の合コンに緊張をしていた和宏だったが、図書館のお姉さんのある言葉で、場の雰囲気はがらりと変わった。
「この間の事件知ってる? 林のようなところで見つかった焼死体の」
その話にいち早く反応したのはもちろん、雛本兄弟である。
「あれ、図書館の裏手の公園の敷地内だったのよ」
発見したのは彼女ではないが、あの後取材などが入りとても大変だったのだという。
一昨日、土産物屋のテレビモニターで映し出された事件は、意外と近場で起っていたのだと知り、少し怖くなった。
そしてお目当ての新聞社の女性が詳しくその事件について話してくれたのである。それは思わぬ収穫でもあるが、和宏はその遺体の着ていたものについて、何か思い出せそうな気がしていた。
「優人は相変わらずだな」
三人の合コン相手の女性たちと別れると、平田がそう言って優人の方に目を向ける。
「何が?」
とスマホのメッセージアプリにIDを登録しながら返事をする、優人。
「しっかり、新聞社ちゃんたちの連絡先ゲットしてるじゃないよ」
「なに、ひがみ?」
「殴るよ」
と平田。
「まあ、これはお姉ちゃんを探すためだし」
新たに二人の連絡先を登録しメッセージを送り終えた優人は、そう言って尻のポケットにスマホをしまった。
「平田はこのあとどうする?」
と優人。
「あとは帰るだけかな」
時刻は二十二時を回っている。
賑やかな場所から一人暮らしの家に帰る週末の夜は、どことなく寂しさを感じた。
「平田君は、ここから近いの?」
と和宏。
「うちよりは遠いかな」
答えたのは優人のほうだ。
「じゃあ、うちに泊まっていけば?」
と和宏。
和宏の提案には二人とも驚いているようであった。
「そういえば、片織さんとはどうなってる?」
家に着くと、優人が平田に着替えを渡しながら和宏にそう問う。
和宏は元気ケトルでお湯を沸かしながら、カウンターの向こうに見えるテレビモニターをぼんやりと眺めていたところだった。
「ああ。そういえば連絡が来たよ」
平田がバスルームに行くのを確認し、『片織は自分たちを疑っているように見えたが、思い過ごしかも知れない』と告げると、
「何故そう思うの?」
と優人。
「これは俺の仮説だけれど。もし、片織がずっと犯人を追っていたなら、あの現場へは何度も足を運んでいるはず」
十年後にもう一度足を運ぶ人物よりも、もっと何度も見かけている相手がいるのではないか?
その人物は片織を張っていて、その人に聞かれたくないからメモを渡したのではないだろうか。
そのように説明すると、
「辻褄《つじつま》は合わないことはないけれど、今のところは何とも言えないね。片織さんは近々うちへは来るの?」
優人の質問に肯定の意を示すと、いつ? と聞かれる。
「明日の午後と言ってたな」
和宏はメッセージを見せるために画面を優人に向けながら。
「明日は日曜日か。俺も家にいるよ。兄さんが心配だし」
「午前中はどうする?」
「新聞社の子に話を聞きたいね。先日のあれについて」
あれとは事件のことかとも思ったが、片織に渡されたメモの方だと気づく。
いつの間にか毎日慌ただしく、時間感覚がおかしくなっているようにも思える。
「お湯ありがとう」
風呂から上がった平田は水も滴るいい男と言うヤツであった。
「俺もシャワー行ったら部屋に行くから、先寝ててよ」
と優人。
「待て、一緒に寝るのか?」
和宏は慌てた。
「一緒に寝るって、別に同衾するわけじゃないよ? こんなデカいのと同じベッドで寝れないし」
と優人。
──平田って確か、優人に気があったよな?
お兄さんはそんなの許しませんよ?!
優人が彼の家へしょっちゅう泊まりに行っていることも忘れ和宏は、親心を丸出しにした。
「優人は俺の部屋で寝ろ。いいな?」
その言葉に平田が肩で笑っている。
「は?」
と優人。
兄の般若のような顔を見て、
「女じゃあるまいし……」
とブツクサ言いながらも優人はバスルームへ向かっていったのだった。
人生初の合コンに緊張をしていた和宏だったが、図書館のお姉さんのある言葉で、場の雰囲気はがらりと変わった。
「この間の事件知ってる? 林のようなところで見つかった焼死体の」
その話にいち早く反応したのはもちろん、雛本兄弟である。
「あれ、図書館の裏手の公園の敷地内だったのよ」
発見したのは彼女ではないが、あの後取材などが入りとても大変だったのだという。
一昨日、土産物屋のテレビモニターで映し出された事件は、意外と近場で起っていたのだと知り、少し怖くなった。
そしてお目当ての新聞社の女性が詳しくその事件について話してくれたのである。それは思わぬ収穫でもあるが、和宏はその遺体の着ていたものについて、何か思い出せそうな気がしていた。
「優人は相変わらずだな」
三人の合コン相手の女性たちと別れると、平田がそう言って優人の方に目を向ける。
「何が?」
とスマホのメッセージアプリにIDを登録しながら返事をする、優人。
「しっかり、新聞社ちゃんたちの連絡先ゲットしてるじゃないよ」
「なに、ひがみ?」
「殴るよ」
と平田。
「まあ、これはお姉ちゃんを探すためだし」
新たに二人の連絡先を登録しメッセージを送り終えた優人は、そう言って尻のポケットにスマホをしまった。
「平田はこのあとどうする?」
と優人。
「あとは帰るだけかな」
時刻は二十二時を回っている。
賑やかな場所から一人暮らしの家に帰る週末の夜は、どことなく寂しさを感じた。
「平田君は、ここから近いの?」
と和宏。
「うちよりは遠いかな」
答えたのは優人のほうだ。
「じゃあ、うちに泊まっていけば?」
と和宏。
和宏の提案には二人とも驚いているようであった。
「そういえば、片織さんとはどうなってる?」
家に着くと、優人が平田に着替えを渡しながら和宏にそう問う。
和宏は元気ケトルでお湯を沸かしながら、カウンターの向こうに見えるテレビモニターをぼんやりと眺めていたところだった。
「ああ。そういえば連絡が来たよ」
平田がバスルームに行くのを確認し、『片織は自分たちを疑っているように見えたが、思い過ごしかも知れない』と告げると、
「何故そう思うの?」
と優人。
「これは俺の仮説だけれど。もし、片織がずっと犯人を追っていたなら、あの現場へは何度も足を運んでいるはず」
十年後にもう一度足を運ぶ人物よりも、もっと何度も見かけている相手がいるのではないか?
その人物は片織を張っていて、その人に聞かれたくないからメモを渡したのではないだろうか。
そのように説明すると、
「辻褄《つじつま》は合わないことはないけれど、今のところは何とも言えないね。片織さんは近々うちへは来るの?」
優人の質問に肯定の意を示すと、いつ? と聞かれる。
「明日の午後と言ってたな」
和宏はメッセージを見せるために画面を優人に向けながら。
「明日は日曜日か。俺も家にいるよ。兄さんが心配だし」
「午前中はどうする?」
「新聞社の子に話を聞きたいね。先日のあれについて」
あれとは事件のことかとも思ったが、片織に渡されたメモの方だと気づく。
いつの間にか毎日慌ただしく、時間感覚がおかしくなっているようにも思える。
「お湯ありがとう」
風呂から上がった平田は水も滴るいい男と言うヤツであった。
「俺もシャワー行ったら部屋に行くから、先寝ててよ」
と優人。
「待て、一緒に寝るのか?」
和宏は慌てた。
「一緒に寝るって、別に同衾するわけじゃないよ? こんなデカいのと同じベッドで寝れないし」
と優人。
──平田って確か、優人に気があったよな?
お兄さんはそんなの許しませんよ?!
優人が彼の家へしょっちゅう泊まりに行っていることも忘れ和宏は、親心を丸出しにした。
「優人は俺の部屋で寝ろ。いいな?」
その言葉に平田が肩で笑っている。
「は?」
と優人。
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「女じゃあるまいし……」
とブツクサ言いながらも優人はバスルームへ向かっていったのだった。
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