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5 雛本一族本家の秘密

32 誰にも非はなく

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「優人は知ってたんだろ? どうしてあの時、教えてくれなかったんだよ」
 彼を責めるのは筋違いだ。
 あの日、自分が彼らとどんな会話を交わし、決断したのかすら思い出せないでいるのだから。
「あの時は知らなかったし、ここで話を聞くまでは仮説でしかなかったよ」
 でも、と彼は続ける。
「これで兄さんの記憶が一部改ざんされている理由はわかったよ」
 カナのちからの影響だと彼は説明を続けた。

 カナの力が暴走、または任意で和宏たちとは別な場所へ行こうとしたため、カナと和宏の力が干渉し合って記憶に影響が出たのではないか? と彼は言う。
「その証拠に、俺はなんの影響も受けなかった」
 論理的に説明はつく。しかしこの現状を納得することはできない。

「兄さんは、お姉ちゃんのこと好きなの?」
 月の綺麗な晩だった。
 開け放たれた障子。中庭は夜にはガラス戸が引かれ、ガラスを隔てた向こう側に美しい日本庭園が広がっている。
 カナはここに何処からかやってきた。
「おまえだって好きだろ」
 そう返せば、優人が肩をすくめこちらを振り返る。

 叶わない恋なのだ。
 きっと伝わることもなく、一生心に抱えていくのだろう。

「そういう意味じゃないよ」
 和宏はただじっと優人を見上げていた。
 分かっていると思いながら。
「まあ、気持ちなんてものは人に言う必要はないよね」
 応えることがないと理解したのか、彼は庭の方へ向き直る。

 もし、カナと共にいたら自分たちはどうしていたのだろうと思う。
 きっと秘密を知ることもなく、一族から婚姻相手をあてがわれ、普通に暮らしていたに違いない。

──優人はどうするのだろうか?
 彼女がいるのに。

「寝よう、兄さん。今後どうするかは、明日決めよう」
 まるで心を見透かしたかのように、彼はそう言って小さく微笑んだのだった。


 翌日、和宏たちは一旦自宅へ戻るべく駅へ向かっていた。
 電車が来るまで十五分あるというので、改札の中にあるファストフード店に立ち寄る。レジでアイスティーを二つ買い、全面ガラス張りのカウンターへ向かえば優人はスマホの画面を見ながら、肩ひじをつき顎をのせていた。
 向かい側は昨日、手土産を購入した土産物屋。
 今日も何かのニュースが流れていた。

「何か面白いものでも?」
と彼の目の前に一つストローの刺さったアイスティーを置く。
「いや、今週末は合コンだから。場所はどこが良いか平田とやり取りしてた」
「そうか。今日の講義は午後から?」
 数日前は、変わりない日常を送っていた。
 それなのに、一気に情報が流れ込んできで日常は非日常へと色を変える。
「うん。平田が迎えに来てくれるって」
 和宏はそうかと言うように微笑むと、向かいの土産物屋に目を向けた。

「昼は、構内で?」
 さすがにこの距離ではニュースの内容は理解しがたい。
「ん。一人が寂しかったら、一緒に来る?」
「別に寂しいとかじゃ……」
 今までなら気軽に片織と食事をすることもあった。
 自分たちを疑っていることを知って、一人でいることに恐怖を感じているだけ。

「一枠しかないし。その間、恩師にでも会ってくれば?」
 和宏は現在、優人の通う大学の卒業生だ。
 幼稚園から一貫のK学園は和宏たちが元の年代でも通っていた場所であり、この時代に来た時もそこへ通っている。
 四年くらい時間がズレているため、元の同級生と学ぶことはできなかったが。

──時渡ときわたりの力は不思議だ。
 いつの間にか自分たちが以前から、その時の流れの中にいたことになっているのだから。

「講義が終わったら、デパートでも行こう。兄さんの服を買いに」
「へいへい」
 何を着ても似合わないと言いながらも、自分を気にかけてくれる弟に感謝しつつ、この先どうするか思案するのだった。
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