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5 雛本一族本家の秘密
30 本家の役目と禁忌の子
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「末《すえ》?」
不思議そうな顔をしたのは曾祖父。
「おじいちゃん、ほら和くんのところは……」
と優人に絡んでいた女性が曾祖父に説明をしている。全てを話すまでには至らなかったが、曾祖父はその一言で何に気づいたように、彼女に『下がっていなさい』と告げた。
打ち明け話と言うよりは、真面目な話をするという雰囲気。
彼女は急に姿勢を正すと、礼をし速やかに部屋から去っていった。
その様子から、これから曾祖父が話すことは”雛本一族にとって重要なこと”もしくは”茶化すことが許されない大切なこと”なのだと想像する。
妹のカナに関することが、まさかそんな重要事項だったとは思わずに、和宏は迂闊に口に出さなかった自分を褒めたい気持ちになった。
「優麻は何処から来たか分からないとは申したが、わしらの能力には二つの名前があることをお話しようかの」
曾祖父は時計にチラリと目を向け、時間を確認すると再び二人の方へ向き直る。
「二つの名?」
反応したのは和宏。
優人は黙って話を聞いている。
「わしらが”任意”で時を渡ることを『時渡』ということは知っておるな? 行きたい場所、行きたい時間へ渡るためにはそれなりに練習が必要。そして、心が凪いでいないとズレが起こってしまうのが特徴じゃ」
力の強いものはそれを己のものにしてしまえば、自由自在に時を渡ることが出来る。ただしその反面、暴走も起こりうる。
「それに対し、勝手に飛んでしまうことを『時越え』というのじゃよ」
自分たちの力は”強い”と呼ばれることはなかった。つまり、一族の能力としては標準と言うことなのだろうか?
「おまいさんたちの兄弟。女の子じゃったかの。その子は『時越え』をした”禁忌の子”なんじゃ」
禁忌の子とは一体何なのか?
予備知識を持たない和宏は、衝撃と混乱でただ目を瞠《みは》るばかり。
曾祖父はそっと笑むと立ち上がり、先ほどの女性が閉めた障子を開け、中庭へ向かって立つ。
背で手を組み、
「広い中庭じゃろ」
と言う。
確かに中庭と言うには広すぎた。
日本庭園ではあるが、景観を整えるためだけにあるとは言い難い何かがそこにあるような気がする。中央には赤い橋が架かり、和の花が咲いていた。
「見せたいものがあるんじゃ。そこにサンダルがあるからついて来てくれんかの?」
曾祖父はそう言うと、板張りの床から中庭に降りていく。
和宏たちは顔を見合わせると、それに続いたのだった。
赤い橋の袂《たもと》へ辿り着くと、その橋の下には小さな祠がある。
とは言え、赤子一人くらいの広さ。奥には地蔵が祭られていた。
「ここは『時越えの祠』と呼んでいるところじゃ」
じっとその祠を見つめ、曾祖父は”禁忌の子”が何かについて話し出したのである。それは二人にとってとても興味深いことだった。
血統としての祖先は未来にいる雛本一族の始祖。
しかし時代と言う意味では、過去にも祖先はいる。
未来から過去へ送られた一族が過去に居るからこそ、自分たちがこの時代に生きているということ。
では何故、過去に送られたのか?
「送られたのではない。”禁忌の子”が『時越え』をしてしまったのじゃ」
その時越えをした子の子孫がこの時代にいる雛本一族たちだという。
「疑念を抱かんか? 通常は血が濃くなるとまともな子供が産まれなくなるはずじゃろ。なのに我が一族はそれを守っていることに」
確かにそうである。
「だがな、違うんじゃよ。わしらは”薄くなり過ぎない”ように一族同士で婚姻を繰り返して来たんじゃ」
禁忌の子、それは雛本一族と他の家系の間から生まれた子のこと。
雛本一族の血が薄くなると、その力は暴走してしまうというのである。
”強い力”とは化学反応を起こしたような状態と例えたならば、分かりやすいだろうか?
「そして、禁忌の子はこの祠に引き寄せられるようにやって来るんじゃ」
本家の者は何処からかやってきた禁忌の子を守り、一族を繁栄させるためにこの地を守っているのだった。
不思議そうな顔をしたのは曾祖父。
「おじいちゃん、ほら和くんのところは……」
と優人に絡んでいた女性が曾祖父に説明をしている。全てを話すまでには至らなかったが、曾祖父はその一言で何に気づいたように、彼女に『下がっていなさい』と告げた。
打ち明け話と言うよりは、真面目な話をするという雰囲気。
彼女は急に姿勢を正すと、礼をし速やかに部屋から去っていった。
その様子から、これから曾祖父が話すことは”雛本一族にとって重要なこと”もしくは”茶化すことが許されない大切なこと”なのだと想像する。
妹のカナに関することが、まさかそんな重要事項だったとは思わずに、和宏は迂闊に口に出さなかった自分を褒めたい気持ちになった。
「優麻は何処から来たか分からないとは申したが、わしらの能力には二つの名前があることをお話しようかの」
曾祖父は時計にチラリと目を向け、時間を確認すると再び二人の方へ向き直る。
「二つの名?」
反応したのは和宏。
優人は黙って話を聞いている。
「わしらが”任意”で時を渡ることを『時渡』ということは知っておるな? 行きたい場所、行きたい時間へ渡るためにはそれなりに練習が必要。そして、心が凪いでいないとズレが起こってしまうのが特徴じゃ」
力の強いものはそれを己のものにしてしまえば、自由自在に時を渡ることが出来る。ただしその反面、暴走も起こりうる。
「それに対し、勝手に飛んでしまうことを『時越え』というのじゃよ」
自分たちの力は”強い”と呼ばれることはなかった。つまり、一族の能力としては標準と言うことなのだろうか?
「おまいさんたちの兄弟。女の子じゃったかの。その子は『時越え』をした”禁忌の子”なんじゃ」
禁忌の子とは一体何なのか?
予備知識を持たない和宏は、衝撃と混乱でただ目を瞠《みは》るばかり。
曾祖父はそっと笑むと立ち上がり、先ほどの女性が閉めた障子を開け、中庭へ向かって立つ。
背で手を組み、
「広い中庭じゃろ」
と言う。
確かに中庭と言うには広すぎた。
日本庭園ではあるが、景観を整えるためだけにあるとは言い難い何かがそこにあるような気がする。中央には赤い橋が架かり、和の花が咲いていた。
「見せたいものがあるんじゃ。そこにサンダルがあるからついて来てくれんかの?」
曾祖父はそう言うと、板張りの床から中庭に降りていく。
和宏たちは顔を見合わせると、それに続いたのだった。
赤い橋の袂《たもと》へ辿り着くと、その橋の下には小さな祠がある。
とは言え、赤子一人くらいの広さ。奥には地蔵が祭られていた。
「ここは『時越えの祠』と呼んでいるところじゃ」
じっとその祠を見つめ、曾祖父は”禁忌の子”が何かについて話し出したのである。それは二人にとってとても興味深いことだった。
血統としての祖先は未来にいる雛本一族の始祖。
しかし時代と言う意味では、過去にも祖先はいる。
未来から過去へ送られた一族が過去に居るからこそ、自分たちがこの時代に生きているということ。
では何故、過去に送られたのか?
「送られたのではない。”禁忌の子”が『時越え』をしてしまったのじゃ」
その時越えをした子の子孫がこの時代にいる雛本一族たちだという。
「疑念を抱かんか? 通常は血が濃くなるとまともな子供が産まれなくなるはずじゃろ。なのに我が一族はそれを守っていることに」
確かにそうである。
「だがな、違うんじゃよ。わしらは”薄くなり過ぎない”ように一族同士で婚姻を繰り返して来たんじゃ」
禁忌の子、それは雛本一族と他の家系の間から生まれた子のこと。
雛本一族の血が薄くなると、その力は暴走してしまうというのである。
”強い力”とは化学反応を起こしたような状態と例えたならば、分かりやすいだろうか?
「そして、禁忌の子はこの祠に引き寄せられるようにやって来るんじゃ」
本家の者は何処からかやってきた禁忌の子を守り、一族を繁栄させるためにこの地を守っているのだった。
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