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5 雛本一族本家の秘密
28 愉快な曾祖父
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「さっき言っていたことだが……」
彼女が祖父を呼びに行くと言い部屋から姿を消すと、和宏は先ほどから考え事をしていると見受けられる、優人に視線を移した。
「俺たちにとっては曾祖父か」
「あ、ああ」
優人は和宏の話を聞いていなかったようで、顎に手をやり関係性をおさらいしている。
「ん? 何か言った?」
と和宏の視線に気づき、不思議そうな顔をする彼。
「玄関で言っていた、あれはなんだったんだと思って」
「それについては、直ぐに分かるとは思うけれど」
と彼は前置きをした上で、
「優麻ちゃんと和史って言い方、何か変じゃない? と思ってさ」
雛本優麻は母の名。当然、和史は父の名である。
両親の話しでは、母が本家の出、父が分家の出だという。
「分家なのだから一族には違いないけれど、普通は身内のほうを呼び捨てにしない?」
と優人は言う。
確かに正しい日本語としては、他者に紹介する時などは『こちらが僕の父と母です』と言い、『こちらが僕のお父さんです』などの紹介の仕方はしない。
”さんや様”などの敬称は他人に紹介する時、身内に使うものではない。
それはもちろん会社などに属する時、部下などを紹介する時も同じ。
普段その相手に対して敬意を払うことと、他者へ紹介する場面ではイコールにはならないということだ。
『わが社の社長』と他社の人間に紹介することはあっても、『我が社の社長様』ですなどと紹介する者はいないであろう。
「もしくは、優麻ちゃんと和史君と呼ぶなら違和感はないのだけれど」
と優人。
確かに言われてみればオカシイ気もする。
「もしかしたら、逆なのかなって思うんだ」
「逆?」
と、和宏はお茶を飲もうと湯呑に伸ばした手を止めた。
「そう、逆。本家の出身は父のほうなのじゃないのかなって」
「だとしたら、何故そんな嘘を……?」
「そこまではまだ分からないけれど」
そしてその嘘はわが家でのみだったのではないか? と彼は言う。
グルならば、呼び方は気を付けるだろうと。
「お待たせしてしてしまって」
和宏が優人の指摘について理由を解明しようとしたところで、年配の男性の声がした。
祖父とは言っていたが、背筋がしゃんとした若々しさを感じる男性。
「なにせ広いもんで、すまんね」
と愛嬌のある笑顔を和宏たちに向ける。
その笑顔はどことなく亡き父に似ているような気がした。
「こちらこそ、急にすみません」
和宏が雛本本家の家長に首を垂れると優人もそれに倣う。立った方が良いかと思ったが、そのままでと言うように彼がジェスチャーするので姿勢を正したに留める。
「なんといったかの。ほら体重をかけて操作して乗るあれは」
「バランススクーター?」
と優人。
「おお、それじゃ。廊下で使おうと提案したら『おじいちゃん、床が抜けるから止めて!』と家族らに反対されての。世知辛い世の中じゃ」
冗談とも本気ともつかない話に、和宏と優人は埴輪顔になる。
「ならば、床をコンクリートにしようと言ったのじゃがな『どこの世界にバランススクーターに乗るためだけに、床をコンクリートにする人がいるの! 景観が乱れるから止めて』って猛反対にあってのう。家長とはいっても意見が通らないこともあるんじゃな、と学んだわい」
どうやら本気だったらしい。
「お客様をお持たせしたら、いかんじゃろって反論したんじゃが……『うちにお客様が来ることはありません』って言われて、さすがのわしも諦めたわい」
愉快な人だなと感じていた。
それと同時に、この家には来客がないことを知る。
だとしても、子供がいる限り教師に家庭訪問などは行われるはずだ。
曾祖父には来客がないということなのだろうか?
それについて尋ねると、
「この屋敷の隣に二階建ての家が建っているのに気づかんかったか?」
と問われる。
この敷地に圧倒されて、気づかなかった旨を伝えると、
「隣に一般人のフリをするための家が建っとる」
と彼は笑ったのだった。
彼女が祖父を呼びに行くと言い部屋から姿を消すと、和宏は先ほどから考え事をしていると見受けられる、優人に視線を移した。
「俺たちにとっては曾祖父か」
「あ、ああ」
優人は和宏の話を聞いていなかったようで、顎に手をやり関係性をおさらいしている。
「ん? 何か言った?」
と和宏の視線に気づき、不思議そうな顔をする彼。
「玄関で言っていた、あれはなんだったんだと思って」
「それについては、直ぐに分かるとは思うけれど」
と彼は前置きをした上で、
「優麻ちゃんと和史って言い方、何か変じゃない? と思ってさ」
雛本優麻は母の名。当然、和史は父の名である。
両親の話しでは、母が本家の出、父が分家の出だという。
「分家なのだから一族には違いないけれど、普通は身内のほうを呼び捨てにしない?」
と優人は言う。
確かに正しい日本語としては、他者に紹介する時などは『こちらが僕の父と母です』と言い、『こちらが僕のお父さんです』などの紹介の仕方はしない。
”さんや様”などの敬称は他人に紹介する時、身内に使うものではない。
それはもちろん会社などに属する時、部下などを紹介する時も同じ。
普段その相手に対して敬意を払うことと、他者へ紹介する場面ではイコールにはならないということだ。
『わが社の社長』と他社の人間に紹介することはあっても、『我が社の社長様』ですなどと紹介する者はいないであろう。
「もしくは、優麻ちゃんと和史君と呼ぶなら違和感はないのだけれど」
と優人。
確かに言われてみればオカシイ気もする。
「もしかしたら、逆なのかなって思うんだ」
「逆?」
と、和宏はお茶を飲もうと湯呑に伸ばした手を止めた。
「そう、逆。本家の出身は父のほうなのじゃないのかなって」
「だとしたら、何故そんな嘘を……?」
「そこまではまだ分からないけれど」
そしてその嘘はわが家でのみだったのではないか? と彼は言う。
グルならば、呼び方は気を付けるだろうと。
「お待たせしてしてしまって」
和宏が優人の指摘について理由を解明しようとしたところで、年配の男性の声がした。
祖父とは言っていたが、背筋がしゃんとした若々しさを感じる男性。
「なにせ広いもんで、すまんね」
と愛嬌のある笑顔を和宏たちに向ける。
その笑顔はどことなく亡き父に似ているような気がした。
「こちらこそ、急にすみません」
和宏が雛本本家の家長に首を垂れると優人もそれに倣う。立った方が良いかと思ったが、そのままでと言うように彼がジェスチャーするので姿勢を正したに留める。
「なんといったかの。ほら体重をかけて操作して乗るあれは」
「バランススクーター?」
と優人。
「おお、それじゃ。廊下で使おうと提案したら『おじいちゃん、床が抜けるから止めて!』と家族らに反対されての。世知辛い世の中じゃ」
冗談とも本気ともつかない話に、和宏と優人は埴輪顔になる。
「ならば、床をコンクリートにしようと言ったのじゃがな『どこの世界にバランススクーターに乗るためだけに、床をコンクリートにする人がいるの! 景観が乱れるから止めて』って猛反対にあってのう。家長とはいっても意見が通らないこともあるんじゃな、と学んだわい」
どうやら本気だったらしい。
「お客様をお持たせしたら、いかんじゃろって反論したんじゃが……『うちにお客様が来ることはありません』って言われて、さすがのわしも諦めたわい」
愉快な人だなと感じていた。
それと同時に、この家には来客がないことを知る。
だとしても、子供がいる限り教師に家庭訪問などは行われるはずだ。
曾祖父には来客がないということなのだろうか?
それについて尋ねると、
「この屋敷の隣に二階建ての家が建っているのに気づかんかったか?」
と問われる。
この敷地に圧倒されて、気づかなかった旨を伝えると、
「隣に一般人のフリをするための家が建っとる」
と彼は笑ったのだった。
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