29 / 84
5 雛本一族本家の秘密
27 雛本一族本家
しおりを挟む
「あら、よく来たわねえ」
大きな引き戸の前でチャイムを鳴らすと、脇の開き戸から四十代くらいに見える女性が顔を出す。
お手伝いさんなのかと思ったら、本家の次男の娘だという。なるほど、何世帯もこの中で住んでいるから、この広い敷地なのだろうかと思った。
彼女に自分たちの素性を明かすと、
「二人だけで来たのね」
と言われた。
愁いを含んだ声音。
何かを察したように、両親のことや妹について聞かれることはなかった。
身分証を提示した方が良いかと問えば、彼女は和宏と優人を交互に見比べて、
「優麻ちゃんと和史にそっくりね」
と目を細めたのだった。
雛本本家は想像以上に広かった。
その理由については、後ほど知ることになる。
招かれて中に足を踏み入れると、
「あの引き戸の入り口の方は敷地内の入り口には違いないけれど、車専用なのよ」
と説明される。
──どおりで人が出入りするには、大きな入り口だと思った。
それは横に広がって五、六人はゆうに通れる広さ。車が同時に行き来できる広さであった。つまりそれだけの人数がこの屋敷内に暮らしているとみて良いだろう。
車用の石が敷き詰められたアプローチは車庫へと続いている。その脇には花壇があり車用と歩道を隔てる役割を果たしていた。
ちらりと優人のほうに視線を向けると、彼は険しい顔をしている。また何か考え事をしているのだろうか?
「あら、いらっしゃい」
屋敷は旅館のような造りであった。中に入ると、赤いじゅうたんが中央の壁まで続いており、そこから左右へ分かれ続いている。
上り口はスロープになっており、右側に靴箱があった。箱の数は家族用とは思えない量。
「母さん、和史のところの……」
案内してくれた女性が、出迎えてくれた女性に説明をしてくれた。
その間、二人の注意がそれたため和宏は気になっていることを優人に耳打ちする。
「険しい顔をしているが、どうかしたのか?」
「うん……ちょっと変だなと思って」
続けて聞こうとしたが、彼女が振り返ったので、二人は誤魔化すためにニコッと微笑んだ。
「靴は好きなところに入れて上がって。スリッパのあるところが空いているわ」
ざっと見て三十以上はある靴箱。
高そうなスリッパが並べられているが、こんなにあるのは一族が揃うからだろうか?
だがすぐに、その想像が間違っていることに気づく。
本家に出入りが許されるのは、成人のみ。しかも用がない限り来ることもない。その事実に気づいた時、この家は何か秘密があるのだと思った。
「今日は泊っていきなさいな。話が長くなると思うし」
と案内してくれた女性。
彼女の母は昼の支度があると言って、奥へ姿を消してしまった。
彼女ついて屋敷の奥へ入っていくと、広い日本庭園が中庭を圧倒している。
口の字に廊下が連なり、更に奥へ続いているように見えた。式面積から考えて屋敷はここだけではないと思われた。
平屋の日本家屋は趣があり、板張りの廊下に敷かれた赤い絨毯が華やかさを演出している。
「家屋はここだけなのですか?」
念のため聞いてみると、
「奥にも数棟あるわ。後で案内してあげる。私の部屋もそっちにあるの」
と彼女は品の良い笑みを浮かべた。
「ここで待っていて」
二人は広い和室の一室に通される。
まるで旅館のように調度品などが揃えられた品の良い部屋であった。
漆塗りのテーブルの上には茶菓子とお茶。
彼女が立ち去る前に手土産を渡すと、
「あらクッキーとお煎餅ね。子供たちが喜ぶわ」
と微笑んだ。
そして、
「あなたたちも甘いものはお好き?」
と問われる。
「も?」
思わず聞き返した和宏に、
「和史は甘いものが好きだったのよ」
と懐かしむように目を細めたのだった。
大きな引き戸の前でチャイムを鳴らすと、脇の開き戸から四十代くらいに見える女性が顔を出す。
お手伝いさんなのかと思ったら、本家の次男の娘だという。なるほど、何世帯もこの中で住んでいるから、この広い敷地なのだろうかと思った。
彼女に自分たちの素性を明かすと、
「二人だけで来たのね」
と言われた。
愁いを含んだ声音。
何かを察したように、両親のことや妹について聞かれることはなかった。
身分証を提示した方が良いかと問えば、彼女は和宏と優人を交互に見比べて、
「優麻ちゃんと和史にそっくりね」
と目を細めたのだった。
雛本本家は想像以上に広かった。
その理由については、後ほど知ることになる。
招かれて中に足を踏み入れると、
「あの引き戸の入り口の方は敷地内の入り口には違いないけれど、車専用なのよ」
と説明される。
──どおりで人が出入りするには、大きな入り口だと思った。
それは横に広がって五、六人はゆうに通れる広さ。車が同時に行き来できる広さであった。つまりそれだけの人数がこの屋敷内に暮らしているとみて良いだろう。
車用の石が敷き詰められたアプローチは車庫へと続いている。その脇には花壇があり車用と歩道を隔てる役割を果たしていた。
ちらりと優人のほうに視線を向けると、彼は険しい顔をしている。また何か考え事をしているのだろうか?
「あら、いらっしゃい」
屋敷は旅館のような造りであった。中に入ると、赤いじゅうたんが中央の壁まで続いており、そこから左右へ分かれ続いている。
上り口はスロープになっており、右側に靴箱があった。箱の数は家族用とは思えない量。
「母さん、和史のところの……」
案内してくれた女性が、出迎えてくれた女性に説明をしてくれた。
その間、二人の注意がそれたため和宏は気になっていることを優人に耳打ちする。
「険しい顔をしているが、どうかしたのか?」
「うん……ちょっと変だなと思って」
続けて聞こうとしたが、彼女が振り返ったので、二人は誤魔化すためにニコッと微笑んだ。
「靴は好きなところに入れて上がって。スリッパのあるところが空いているわ」
ざっと見て三十以上はある靴箱。
高そうなスリッパが並べられているが、こんなにあるのは一族が揃うからだろうか?
だがすぐに、その想像が間違っていることに気づく。
本家に出入りが許されるのは、成人のみ。しかも用がない限り来ることもない。その事実に気づいた時、この家は何か秘密があるのだと思った。
「今日は泊っていきなさいな。話が長くなると思うし」
と案内してくれた女性。
彼女の母は昼の支度があると言って、奥へ姿を消してしまった。
彼女ついて屋敷の奥へ入っていくと、広い日本庭園が中庭を圧倒している。
口の字に廊下が連なり、更に奥へ続いているように見えた。式面積から考えて屋敷はここだけではないと思われた。
平屋の日本家屋は趣があり、板張りの廊下に敷かれた赤い絨毯が華やかさを演出している。
「家屋はここだけなのですか?」
念のため聞いてみると、
「奥にも数棟あるわ。後で案内してあげる。私の部屋もそっちにあるの」
と彼女は品の良い笑みを浮かべた。
「ここで待っていて」
二人は広い和室の一室に通される。
まるで旅館のように調度品などが揃えられた品の良い部屋であった。
漆塗りのテーブルの上には茶菓子とお茶。
彼女が立ち去る前に手土産を渡すと、
「あらクッキーとお煎餅ね。子供たちが喜ぶわ」
と微笑んだ。
そして、
「あなたたちも甘いものはお好き?」
と問われる。
「も?」
思わず聞き返した和宏に、
「和史は甘いものが好きだったのよ」
と懐かしむように目を細めたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
量子幽霊の密室:五感操作トリックと魂の転写
葉羽
ミステリー
幼馴染の彩由美と共に平凡な高校生活を送る天才高校生、神藤葉羽。ある日、町外れの幽霊屋敷で起きた不可能殺人事件に巻き込まれる。密室状態の自室で発見された屋敷の主。屋敷全体、そして敷地全体という三重の密室。警察も匙を投げる中、葉羽は鋭い洞察力と論理的思考で事件の真相に迫る。だが、屋敷に隠された恐ろしい秘密と、五感を操る悪魔のトリックが、葉羽と彩由美を想像を絶する恐怖へと陥れる。量子力学の闇に潜む真犯人の正体とは?そして、幽霊屋敷に響く謎の声の正体は?すべての謎が解き明かされる時、驚愕の真実が二人を待ち受ける。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した
独立国家の作り方
ミステリー
刺激の少ない大学生活に、一人のインテリ女子が訪れる。
彼女は自称「未来人」。
ほぼ確実に詐欺の標的にされていると直感した俺は、いっそ彼女の妄想に付き合って、化けの皮を剥ぐ作戦を思いつく。
そんな彼女は、会話の所々に今この時を「戦前」と呼んでいる事に気付く。
これは、それ自体が彼女の作戦なのか、そもそも俺に接触してくる彼女の狙いは一体何か。
くすぐりジャック
藍子
ミステリー
街中で女の子を襲うくすぐり男。そのくすぐり男に憧れる高校生。事件の報告を受けては興奮する警察官。担当クラスの女子生徒が襲われた教師。同僚をくすぐりたい独身男。くすぐりに興味がある小学生。
女の子をくすぐって襲う【くすぐりジャック】が街に出現。捕まらない犯人の驚くべき能力は記憶を消す能力。その威力は興奮すればする程増していく。
そして増えていくくすぐりジャックの仲間、信者達。くすぐりが弱い女の子を集団でくすぐる!!
2024 2月より
→【くすぐりが弱い栗原さん】をこちらでアップします。
妻の失踪
琉莉派
ミステリー
友部海斗(23)は、苦難の時期をささえてくれた純粋無垢な恋人・片山桜織を捨て、大金持ちの娘・奥平雪乃と結婚した。
結婚から二年が過ぎた頃、海斗は政治家になるべく次期市議選への出馬準備を進めていた。そんな折、弟の凌馬が深夜に突然やってきて、真っ青な顔で殺人を犯してしまったと告白。露見すれば海斗の政治生命が絶たれると考えた雪乃は、殺人の隠ぺいを提案。凌馬とともに遺体処理に向かうが、その翌日、雪乃は忽然と煙のように姿を消してしまう。
妻の行方を追う海斗がたどりついた、驚愕の真実とは……。
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる