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5 雛本一族本家の秘密

27 雛本一族本家

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「あら、よく来たわねえ」
 大きな引き戸の前でチャイムを鳴らすと、脇の開き戸から四十代くらいに見える女性が顔を出す。
 お手伝いさんなのかと思ったら、本家の次男の娘だという。なるほど、何世帯もこの中で住んでいるから、この広い敷地なのだろうかと思った。
 彼女に自分たちの素性を明かすと、
「二人だけで来たのね」
と言われた。

 愁いを含んだ声音。
 何かを察したように、両親のことや妹について聞かれることはなかった。
 身分証を提示した方が良いかと問えば、彼女は和宏と優人を交互に見比べて、
優麻ゆまちゃんと和史かずひとにそっくりね」
と目を細めたのだった。


 雛本本家は想像以上に広かった。
 その理由については、後ほど知ることになる。
 招かれて中に足を踏み入れると、
「あの引き戸の入り口の方は敷地内の入り口には違いないけれど、車専用なのよ」
と説明される。
 
──どおりで人が出入りするには、大きな入り口だと思った。

 それは横に広がって五、六人はゆうに通れる広さ。車が同時に行き来できる広さであった。つまりそれだけの人数がこの屋敷内に暮らしているとみて良いだろう。

 車用の石が敷き詰められたアプローチは車庫へと続いている。その脇には花壇があり車用と歩道を隔てる役割を果たしていた。
 ちらりと優人のほうに視線を向けると、彼は険しい顔をしている。また何か考え事をしているのだろうか?

「あら、いらっしゃい」
 屋敷は旅館のような造りであった。中に入ると、赤いじゅうたんが中央の壁まで続いており、そこから左右へ分かれ続いている。
 上り口はスロープになっており、右側に靴箱があった。箱の数は家族用とは思えない量。
「母さん、和史のところの……」
 案内してくれた女性が、出迎えてくれた女性に説明をしてくれた。
 その間、二人の注意がそれたため和宏は気になっていることを優人に耳打ちする。

「険しい顔をしているが、どうかしたのか?」
「うん……ちょっと変だなと思って」
 続けて聞こうとしたが、彼女が振り返ったので、二人は誤魔化すためにニコッと微笑んだ。
「靴は好きなところに入れて上がって。スリッパのあるところが空いているわ」
 ざっと見て三十以上はある靴箱。
 高そうなスリッパが並べられているが、こんなにあるのは一族が揃うからだろうか? 

 だがすぐに、その想像が間違っていることに気づく。
 本家に出入りが許されるのは、成人のみ。しかも用がない限り来ることもない。その事実に気づいた時、この家は何か秘密があるのだと思った。
「今日は泊っていきなさいな。話が長くなると思うし」
と案内してくれた女性。
 彼女の母は昼の支度があると言って、奥へ姿を消してしまった。

 彼女ついて屋敷の奥へ入っていくと、広い日本庭園が中庭を圧倒している。
 口の字に廊下が連なり、更に奥へ続いているように見えた。式面積から考えて屋敷はここだけではないと思われた。
 平屋の日本家屋は趣があり、板張りの廊下に敷かれた赤い絨毯が華やかさを演出している。
「家屋はここだけなのですか?」
 念のため聞いてみると、
「奥にも数棟あるわ。後で案内してあげる。私の部屋もそっちにあるの」
と彼女は品の良い笑みを浮かべた。

「ここで待っていて」
 二人は広い和室の一室に通される。
 まるで旅館のように調度品などが揃えられた品の良い部屋であった。
 漆塗りのテーブルの上には茶菓子とお茶。
 彼女が立ち去る前に手土産を渡すと、
「あらクッキーとお煎餅ね。子供たちが喜ぶわ」
と微笑んだ。

 そして、
「あなたたちも甘いものはお好き?」
と問われる。
「も?」
 思わず聞き返した和宏に、
「和史は甘いものが好きだったのよ」
と懐かしむように目を細めたのだった。
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