28 / 84
4 雛本一族の事情
26 気がかりなこと
しおりを挟む
バスから窓の外を眺めながら、気になっていることについて考える。
さすがに優人もバスの中ではスマホを弄らず、静かに音楽を聴いているようだ。有線で音楽を聴いている姿を見て、自分たち以外に乗客が居なくても、良識を優先するのだなと思っていた。
頭を支配するのは特に『真ん中』について。
その事を優人に確かめようとしたが、それについての知識は確かではないので本家で確認した方が確実だと言われてしまった。
カナが中間子と言うのとは無関係なのだろう。彼女は実の妹ではない可能性があるのだから。
他にも謎に思うのは父が『甘党』というTシャツを着ていたこと。
あの年は確かに○○党Tシャツが流行った。
恐らく母がふざけて買ってきたに違いないが、有名どころでは『紅茶党、無党(無糖)』お菓子の名前やSNSの名前というのもあったのだ。
何故そんなに自己主張する必要があったのかは謎だが。
あえてマイナーな『甘党』にしたのは何故なのだろう?
──父は甘党だったか?
なぜこんなに父のことを覚えていないのか?
あまり家に居なかったからだと思われる。
和宏たちの父は医者だった。
医者家系だったと聞くが、今思えばそれは雛本一族の存続のためだと想像できる。なるべく他者と関わらず、ひっそりと生きなければならないであろう雛本本家の人々の為。
そうなると仮に不倫をしていても、相手は雛本一族の誰かと言うことになるが、その考えは突飛だと思いたい。
母は父のことが大好きだったと思うから。
むしろ父の方が母を溺愛していたように思う。
『いいって言っているのに、遅くなる日はお休みコールを入れて来るのよ。あの人ったら』
と母が以前カナに対し惚気ていたのを聞いたことがあるからだ。
そして先ほど流れていたニュース。
音声があればどんなニュースか詳しく知ることが出来るだろうが、文字で出ていた『○○区の公園近く、焼死体』だけではわからない。
とても気になるのだから、後で調べた方が良いのだと思う。
人生は偶然と思われることが必然だったりすることが多い。
平田が言いかけたことの内容については、先ほど解決した。
『ああ、それなら……』
と優人が説明してくれたから。
和宏の、
『そうだな。君の方がモテそうなのに』
に対し、彼は返答を言い淀んでいる。
言及したわけではないが、とても気になったのだ。
優人はそれに対し、
『それは単に、平田が兄さんから嫌われていると思っていたからでしょ?』
と。
別に嫌っていたわけではない。
紹介してくれないし、ちょっと仲良過ぎなんじゃないか? と思うだけで。
──それによく彼の家に泊まりに行くし……って、俺は娘を心配する父親か!
心の中でセルフツッコミを入れつつ、赤くなったり青くなったりしているうちに、目的のバス停へバスが滑り込む。
バスから降りると、
「一人で百面相してたけれど、大丈夫?」
と優人に心配されてしまう。
見てたのか⁈ と顔を赤らめつつ、
「大丈夫だ、問題ない」
と返答する。
その実、全然大丈夫ではない。
「そういえば、兄さん」
「なんだ?」
和宏は黒のスラックスに白の半そでのワイシャツに、落ち着いた柄のネクタイといういで立ちをしていた。胸ポケットにはスマホ。
スラックスのポケットには家の鍵。尻のポケットにはハンカチを入れている。
「今日の持ち物は?」
「スマホと鍵とハンカチだ」
「うん、よろしい」
さすがの和宏も前回学んだのだ。
靴は一見革靴に見えるスポーツシューズ。いつでも走れるように、荷物は最小限にすべきだということを。
「何かあっても、平田に迎えに来てもらえるように頼んであるから」
と彼。
無事でありたいなと思いながら、二人は雛本本家に向けて一歩を踏み出したのだった。
さすがに優人もバスの中ではスマホを弄らず、静かに音楽を聴いているようだ。有線で音楽を聴いている姿を見て、自分たち以外に乗客が居なくても、良識を優先するのだなと思っていた。
頭を支配するのは特に『真ん中』について。
その事を優人に確かめようとしたが、それについての知識は確かではないので本家で確認した方が確実だと言われてしまった。
カナが中間子と言うのとは無関係なのだろう。彼女は実の妹ではない可能性があるのだから。
他にも謎に思うのは父が『甘党』というTシャツを着ていたこと。
あの年は確かに○○党Tシャツが流行った。
恐らく母がふざけて買ってきたに違いないが、有名どころでは『紅茶党、無党(無糖)』お菓子の名前やSNSの名前というのもあったのだ。
何故そんなに自己主張する必要があったのかは謎だが。
あえてマイナーな『甘党』にしたのは何故なのだろう?
──父は甘党だったか?
なぜこんなに父のことを覚えていないのか?
あまり家に居なかったからだと思われる。
和宏たちの父は医者だった。
医者家系だったと聞くが、今思えばそれは雛本一族の存続のためだと想像できる。なるべく他者と関わらず、ひっそりと生きなければならないであろう雛本本家の人々の為。
そうなると仮に不倫をしていても、相手は雛本一族の誰かと言うことになるが、その考えは突飛だと思いたい。
母は父のことが大好きだったと思うから。
むしろ父の方が母を溺愛していたように思う。
『いいって言っているのに、遅くなる日はお休みコールを入れて来るのよ。あの人ったら』
と母が以前カナに対し惚気ていたのを聞いたことがあるからだ。
そして先ほど流れていたニュース。
音声があればどんなニュースか詳しく知ることが出来るだろうが、文字で出ていた『○○区の公園近く、焼死体』だけではわからない。
とても気になるのだから、後で調べた方が良いのだと思う。
人生は偶然と思われることが必然だったりすることが多い。
平田が言いかけたことの内容については、先ほど解決した。
『ああ、それなら……』
と優人が説明してくれたから。
和宏の、
『そうだな。君の方がモテそうなのに』
に対し、彼は返答を言い淀んでいる。
言及したわけではないが、とても気になったのだ。
優人はそれに対し、
『それは単に、平田が兄さんから嫌われていると思っていたからでしょ?』
と。
別に嫌っていたわけではない。
紹介してくれないし、ちょっと仲良過ぎなんじゃないか? と思うだけで。
──それによく彼の家に泊まりに行くし……って、俺は娘を心配する父親か!
心の中でセルフツッコミを入れつつ、赤くなったり青くなったりしているうちに、目的のバス停へバスが滑り込む。
バスから降りると、
「一人で百面相してたけれど、大丈夫?」
と優人に心配されてしまう。
見てたのか⁈ と顔を赤らめつつ、
「大丈夫だ、問題ない」
と返答する。
その実、全然大丈夫ではない。
「そういえば、兄さん」
「なんだ?」
和宏は黒のスラックスに白の半そでのワイシャツに、落ち着いた柄のネクタイといういで立ちをしていた。胸ポケットにはスマホ。
スラックスのポケットには家の鍵。尻のポケットにはハンカチを入れている。
「今日の持ち物は?」
「スマホと鍵とハンカチだ」
「うん、よろしい」
さすがの和宏も前回学んだのだ。
靴は一見革靴に見えるスポーツシューズ。いつでも走れるように、荷物は最小限にすべきだということを。
「何かあっても、平田に迎えに来てもらえるように頼んであるから」
と彼。
無事でありたいなと思いながら、二人は雛本本家に向けて一歩を踏み出したのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
その人事には理由がある
凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。
そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。
社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。
そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。
その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!?
しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
心霊整体師 東條ちずる
nori-neko
ミステリー
東條ちずるは、身体のありとあらゆる痛みを訴える人々の痛む場所を瞬時に透視と手のひらから出る気によって
見つけ出し、その痛みを軽減させると言う整体を行っている整体師である。しかしその傍ら、この世に存在する
迷える魂を、天上界へと浄化してゆく役目を持つてこの世に生まれてきた、神が選べし霊能力者であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる