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4 雛本一族の事情
25 月日と和宏の勘違い
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「手土産どうする?」
二人は目的の駅で降りると、エスカレータに乗り込み階上を目指す。
「今日も暑いしね」
と優人に言われ、そうだなとすれ違う客に和宏は目をやった。
可愛らしいチャイナ服の女性とすれ違い、和宏は思わず目を奪われる。しかし、彼女の眼は優人に釘付け。
その視線に気づいた優人が彼女に微笑みかけた。
『これがモテ男と非モテ男の違いか?!』
と和宏は思わず決断力のポーズを取りそうになり、その手をもう片方の手で抑えたのだった。
階上へ上がると何件か店が並んでいた。コンビニとジャンクフードなど手軽に食べられる飲食店と土産物である。
土産物店に立ち寄り棚を眺めていると、天井から吊るされているテレビから流れているニュースに目がいった。
「兄さん、煎餅とクッキーにしよう」
「あ、ああ」
どんなニュースなのか非常に気になったが、夜にもやるだろうと再び優人の手元に視線を戻す。
「冷やして美味しいクッキーだって」
「じゃあ、それで」
優人のスマホにも生活費用の支払い口となる銀行は紐づけされている。
支払いを彼に頼むと、和宏は再びテレビを見上げた。どこかの林のような場所で、事件か事故が起きたようだが、消音なため詳細がわからない。
「どうしたの? 兄さん」
「また何かあったようだ」
顎でテレビ画面の方を指すと、それが区内であることに気づいた彼が、
「物騒だね」
と漏らす。
「気になるの?」
優人にそう問われ、『見たことがある場所のような気がする』と言えば驚いた顔で、
「後で調べてみようよ」
と提案された。
「そうだな」
同意はしたものの和宏は、後ろ髪を引かれる思いで彼に続いたのだった。
改札を出ると、既に日差しは強くなっている。
「ここから本家までどれくらい?」
と優人に問われ、
「徒歩で三十分かな」
と返答すると、途中までバスで行こうという算段になった。
平日のこの時間に駅から市街地に向かう客がいないのか。それとも暑いためタクシーを使う客が多いのか、バス停で待っているのは自分たち二人きり。
行った先で混乱が生じないように、ざっと状況を確認しようとした和宏だったが。
「何言っているの? 兄さん」
どうやら自分はとんでもない勘違いをしていたようである。
「いや、だから……こっちに来た時、俺が高三でカナが高一、優人が中二だったよなって」
「中学一年だよ。五個下なんだから」
困った人だなと言うように、眉を寄せる優人。
「時渡をしていろいろ混乱しているみたいだけれど。俺は今年で十九。ここへ来て六年という計算だよ」
「俺たち、時渡をして六年も経っているのか⁈」
いろいろと衝撃を受けた和宏。
両親が亡くなってからも六年ということだ。
月日の感覚がなくなるほどに、今までがむしゃらに生きてきたのだともいえる。
その間、弟は自分を支えてくれていたと思う。
まだ中学生になったばかりで、寂しい想いもしたかもしれない。
それなのにわがままも言わず、今までついて来てくれたのだ。
互いしか頼れるものがおらず、反抗期もあったはずなのに。彼はそんな素振りすら見せなかった。学校に呼ばれたこともないし、三者面談でも担任に褒められるような、模範的な生徒だったのである。
自分はなんて不甲斐ない兄なんだと思うと、情けなくて涙が出た。
「何、突然泣きだすの⁈」
とぎょっとする優人。
「年齢間違えたくらいで、そんな泣かなくても……」
彼はワイシャツにベージュのチノパン、麻混合の茶のサマーカーディガンといういで立ち。
そのカーディガンのポケットからハンカチを出すと和宏の目元にあてた。
毎度のことながら、世話の焼ける兄である。
「いや、お前に反抗期も迎えさせてあげられなかったと思うと……」
「兄さんは別に親じゃないし」
優人が困った顔をしていたところに定刻のバスが入ってくる。
「もう、泣かないでよ」
と呆れ顔をされ、理不尽だなと思う和宏であった。
二人は目的の駅で降りると、エスカレータに乗り込み階上を目指す。
「今日も暑いしね」
と優人に言われ、そうだなとすれ違う客に和宏は目をやった。
可愛らしいチャイナ服の女性とすれ違い、和宏は思わず目を奪われる。しかし、彼女の眼は優人に釘付け。
その視線に気づいた優人が彼女に微笑みかけた。
『これがモテ男と非モテ男の違いか?!』
と和宏は思わず決断力のポーズを取りそうになり、その手をもう片方の手で抑えたのだった。
階上へ上がると何件か店が並んでいた。コンビニとジャンクフードなど手軽に食べられる飲食店と土産物である。
土産物店に立ち寄り棚を眺めていると、天井から吊るされているテレビから流れているニュースに目がいった。
「兄さん、煎餅とクッキーにしよう」
「あ、ああ」
どんなニュースなのか非常に気になったが、夜にもやるだろうと再び優人の手元に視線を戻す。
「冷やして美味しいクッキーだって」
「じゃあ、それで」
優人のスマホにも生活費用の支払い口となる銀行は紐づけされている。
支払いを彼に頼むと、和宏は再びテレビを見上げた。どこかの林のような場所で、事件か事故が起きたようだが、消音なため詳細がわからない。
「どうしたの? 兄さん」
「また何かあったようだ」
顎でテレビ画面の方を指すと、それが区内であることに気づいた彼が、
「物騒だね」
と漏らす。
「気になるの?」
優人にそう問われ、『見たことがある場所のような気がする』と言えば驚いた顔で、
「後で調べてみようよ」
と提案された。
「そうだな」
同意はしたものの和宏は、後ろ髪を引かれる思いで彼に続いたのだった。
改札を出ると、既に日差しは強くなっている。
「ここから本家までどれくらい?」
と優人に問われ、
「徒歩で三十分かな」
と返答すると、途中までバスで行こうという算段になった。
平日のこの時間に駅から市街地に向かう客がいないのか。それとも暑いためタクシーを使う客が多いのか、バス停で待っているのは自分たち二人きり。
行った先で混乱が生じないように、ざっと状況を確認しようとした和宏だったが。
「何言っているの? 兄さん」
どうやら自分はとんでもない勘違いをしていたようである。
「いや、だから……こっちに来た時、俺が高三でカナが高一、優人が中二だったよなって」
「中学一年だよ。五個下なんだから」
困った人だなと言うように、眉を寄せる優人。
「時渡をしていろいろ混乱しているみたいだけれど。俺は今年で十九。ここへ来て六年という計算だよ」
「俺たち、時渡をして六年も経っているのか⁈」
いろいろと衝撃を受けた和宏。
両親が亡くなってからも六年ということだ。
月日の感覚がなくなるほどに、今までがむしゃらに生きてきたのだともいえる。
その間、弟は自分を支えてくれていたと思う。
まだ中学生になったばかりで、寂しい想いもしたかもしれない。
それなのにわがままも言わず、今までついて来てくれたのだ。
互いしか頼れるものがおらず、反抗期もあったはずなのに。彼はそんな素振りすら見せなかった。学校に呼ばれたこともないし、三者面談でも担任に褒められるような、模範的な生徒だったのである。
自分はなんて不甲斐ない兄なんだと思うと、情けなくて涙が出た。
「何、突然泣きだすの⁈」
とぎょっとする優人。
「年齢間違えたくらいで、そんな泣かなくても……」
彼はワイシャツにベージュのチノパン、麻混合の茶のサマーカーディガンといういで立ち。
そのカーディガンのポケットからハンカチを出すと和宏の目元にあてた。
毎度のことながら、世話の焼ける兄である。
「いや、お前に反抗期も迎えさせてあげられなかったと思うと……」
「兄さんは別に親じゃないし」
優人が困った顔をしていたところに定刻のバスが入ってくる。
「もう、泣かないでよ」
と呆れ顔をされ、理不尽だなと思う和宏であった。
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