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4 雛本一族の事情
21 父の記憶
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姉を探すためだと説明すれば、平田は渋々と言った形で合コンの件を承諾してくれた。糸口になるかどうかまだわからないが、一歩前進といったところか。
「兄さんはどう思う?」
帰宅したのは二十三時過ぎ。
長い一日が終わりを告げようとしている。
「カナさえ見つかれば、謎は全て解けるんじゃないかと思ってる」
母もカナも全て知っているのではないか?
和宏はそう思っている。
あの日、母は……
『和宏! 優人を連れて逃げなさい。早く』
と叫んだ。
ずっと引っかかっていたことがある。
何故、優人とカナと言わなかったのか?
カナは初めからこうなることを知っていて、逃げろという必要がなかったからではないのだろうか?
その謎もきっと、カナさえ見つけられたら分かることなのだろう。
「ところで、新聞社の友人がいるのは誰だったんだ?」
それは素朴な疑問。
お目当ての新聞社は、和宏たちの生家がある駅の傍に立っている。
となれば、ユニーもコンビニも漫画喫茶も範囲内。
だが返って来たのは、そのどれでもなかった。
「あれは、図書館のお姉さん」
「”予定外”……」
思わずポツリと呟くと、
「何その呼び方」
と彼が笑う。
「あそこの図書館って区が違うじゃない? 利用カードを作ろうと思って用紙に記入したんだよね」
ほとんどのものが電子化されてはいるが、いざという時に本人確認の一つに使える用に申込書は直筆で記入するシステムらしい。
「『達筆ね!』と感心されたから、『お姉さんはどんな字を書くの?』って聞いたら連絡先くれたんだ」
そういえばカウンターで何かやっていたなと、和宏はぼんやりあの時のことを思い出す。あの後、彼女が席を立ちカウンターから出てきた時、深いスリットの隙間から生足が見えてドキドキしたことまで思い出した。
灰茶のストレートなロングヘアにクリーム色の肩の膨らんだ襟《えり》のひらひらとしたシャツに、明るめの紫のスリットの入ったロングフレアスカートを履いていたように思う。
記憶に残っているのは、大方生足のせいだ。
理性は美徳が信念だが、刺激が強すぎて記憶に残ったものと思われる。
「美人だったよね」
と優人。
和宏は心を読まれたのではないかと、ドキリとした。
「最近、彼氏と別れちゃって暇してるらしいよ」
優人は頬杖をつき、スマホの画面を眺めている。
「合コンはいいが、何を着ていけばいいんだ?」
和宏は慌てて話を逸らす。
「とりあえず、裸じゃなきゃなんでも……」
と言いかけて、殴るふりをし拳を振り上げた和宏に気づき、
「決断力のポーズ」
と、こちらを見て笑った。
「そういえばさ、兄さんは父さん似だけれど……」
スマホをテーブルの上に置きこちらに向き直った優人が和宏を眺め、
「父さんって、普段何着てたの?」
と、問う。
それはきっと『何を着ても似合わない片割れが、何を着ていたのか?』と問うているのだろう。
時を渡った為、時間にすると十年くらい前の話しだが、優人は和宏の五歳下。当時はまだ誕生日前で十四はになってはいなかったとはいえ、今年十九になるのだから五年ほどしか経っていない計算となる。
その程度で父の服装の記憶がないということは、あまり普段着を着ている姿を見なかったか、記憶に残らない服装しかしなかったのではないだろうか。
「うーん」
そういえば自分もあまり記憶にないなと思いながら、顎に拳をあて考え込む和宏。母はワンピースを好み、妹は流行ものが好きだったような気がする。優人はいつもお洒落なカッコをしていた。
だが、父の服装については思い出せない。確かに服は着ていたはずだが。
むしろ裸族の方が印象に残るはずだ。
「そういえば……」
と和宏はあることを思い出す。
「うん?」
「母が買ってきた、”甘党”ってプリントされたTシャツ着てたな」
「なにそれ!」
と優人。
和宏はあの年は確か……と、優人に話を始めたのだった。
「兄さんはどう思う?」
帰宅したのは二十三時過ぎ。
長い一日が終わりを告げようとしている。
「カナさえ見つかれば、謎は全て解けるんじゃないかと思ってる」
母もカナも全て知っているのではないか?
和宏はそう思っている。
あの日、母は……
『和宏! 優人を連れて逃げなさい。早く』
と叫んだ。
ずっと引っかかっていたことがある。
何故、優人とカナと言わなかったのか?
カナは初めからこうなることを知っていて、逃げろという必要がなかったからではないのだろうか?
その謎もきっと、カナさえ見つけられたら分かることなのだろう。
「ところで、新聞社の友人がいるのは誰だったんだ?」
それは素朴な疑問。
お目当ての新聞社は、和宏たちの生家がある駅の傍に立っている。
となれば、ユニーもコンビニも漫画喫茶も範囲内。
だが返って来たのは、そのどれでもなかった。
「あれは、図書館のお姉さん」
「”予定外”……」
思わずポツリと呟くと、
「何その呼び方」
と彼が笑う。
「あそこの図書館って区が違うじゃない? 利用カードを作ろうと思って用紙に記入したんだよね」
ほとんどのものが電子化されてはいるが、いざという時に本人確認の一つに使える用に申込書は直筆で記入するシステムらしい。
「『達筆ね!』と感心されたから、『お姉さんはどんな字を書くの?』って聞いたら連絡先くれたんだ」
そういえばカウンターで何かやっていたなと、和宏はぼんやりあの時のことを思い出す。あの後、彼女が席を立ちカウンターから出てきた時、深いスリットの隙間から生足が見えてドキドキしたことまで思い出した。
灰茶のストレートなロングヘアにクリーム色の肩の膨らんだ襟《えり》のひらひらとしたシャツに、明るめの紫のスリットの入ったロングフレアスカートを履いていたように思う。
記憶に残っているのは、大方生足のせいだ。
理性は美徳が信念だが、刺激が強すぎて記憶に残ったものと思われる。
「美人だったよね」
と優人。
和宏は心を読まれたのではないかと、ドキリとした。
「最近、彼氏と別れちゃって暇してるらしいよ」
優人は頬杖をつき、スマホの画面を眺めている。
「合コンはいいが、何を着ていけばいいんだ?」
和宏は慌てて話を逸らす。
「とりあえず、裸じゃなきゃなんでも……」
と言いかけて、殴るふりをし拳を振り上げた和宏に気づき、
「決断力のポーズ」
と、こちらを見て笑った。
「そういえばさ、兄さんは父さん似だけれど……」
スマホをテーブルの上に置きこちらに向き直った優人が和宏を眺め、
「父さんって、普段何着てたの?」
と、問う。
それはきっと『何を着ても似合わない片割れが、何を着ていたのか?』と問うているのだろう。
時を渡った為、時間にすると十年くらい前の話しだが、優人は和宏の五歳下。当時はまだ誕生日前で十四はになってはいなかったとはいえ、今年十九になるのだから五年ほどしか経っていない計算となる。
その程度で父の服装の記憶がないということは、あまり普段着を着ている姿を見なかったか、記憶に残らない服装しかしなかったのではないだろうか。
「うーん」
そういえば自分もあまり記憶にないなと思いながら、顎に拳をあて考え込む和宏。母はワンピースを好み、妹は流行ものが好きだったような気がする。優人はいつもお洒落なカッコをしていた。
だが、父の服装については思い出せない。確かに服は着ていたはずだが。
むしろ裸族の方が印象に残るはずだ。
「そういえば……」
と和宏はあることを思い出す。
「うん?」
「母が買ってきた、”甘党”ってプリントされたTシャツ着てたな」
「なにそれ!」
と優人。
和宏はあの年は確か……と、優人に話を始めたのだった。
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