21 / 84
4 雛本一族の事情
19 少しづつ近づく何か
しおりを挟む
「ちょっと、優人!」
優人の友人である平田は、車を降りるなり優人へ抗議を始めた。
「”ゆあち”に、『優人と別れて!』とか意味不明なことを言われたんだが」
”ゆあち”とは優人の恋人の愛称のことであろうか。
「なに、結愛と連絡とってるわけ?」
「そこ?! 次から次へとフラグ立てるくせに、ヤキモチかよ」
両腕を広げ、ヤレヤレというポーズをする平田。
優人は和宏たちに背を向けるとスマホを操作し、耳にあてた。恐らく彼女へ電話をかけているのだろう。
「あ、すみません。お兄さんですよね、こんばんは」
「お、おう」
ため息をついていた平田がこちらに気づき会釈をしてから、和宏に近づいてきた。
スラリと背が高く、Vネックのシャツから筋肉質の腕が覗いている。薄いピンクのシャツにベージュのストレートパンツと言った出で立ち。
髪色は明るめで、白や灰茶のメシュを入れていた。優人よりも身長のある平田をお洒落だなと思い見上げていると、不思議そうにこちらを見つめ返す彼。
「何か?」
と問われ、感じていた疑問をぶつけてみる。
「何故、君が優人の車のスペアを?」
「ああ、その事ですか」
和宏に問われた彼は、優人から車のスペアキーを渡された経緯について話し出す。
和宏が家を出たと思われる時刻、優人は平田に連絡を取っていたらしい。何かあったら、自分の代わりに車を回収して欲しいと頼み、彼の自宅マンションへ寄り、ポストに鍵を入れていったというのだ。
「引き受けると言ってもいないのに、電話を切られたので。だいぶ慌てていたのかなと思っていましたが」
と彼は漫画喫茶の看板を見上げる。
「何か手がかりがあったんですか? お姉さんについて」
言わなくてもここで何かしていたのだろうことは、誰にでも想像がつく。
「優人は君にカナのことを話していたのか?」
「お姉さん、”かな”さんって言うんですか」
名前を出したことは失敗だったかもしれない。しかし平田は優人にとって唯一の信頼できる友人。支障はないと感じた。
「行方不明のお姉さんがいる、と言うことくらいは」
「そっか」
気まずい雰囲気になっていると、
「『また女と一緒なんでしょ』って、ご挨拶だな。兄貴と一緒だよ」
”彼女の前では兄貴と言うんだ”と思いながら優人の姿を眺めていると、平田が嫌な顔をしたことに気づく。
「どうかした?」
と彼に問う、和宏。
「今日は大丈夫でした? あいつ、次から次へとフラグばかり立てるんですよね。優人の彼女は尋常じゃないヤキモチ妬きだから、やめろと言っているのに」
と平田。
「ホント、何故モテるのやら」
とため息までついている。
優人の友人は苦労が絶えないなと思いながら、
「そうだな。君の方がモテそうなのに」
とぽつりと呟くと、彼は驚いた顔をした。
「ん?」
不思議そうに彼を見つめ返すと、
「あ、いや……その……」
と歯切れの悪い平田。
何かを言い淀んでいる平田の次の言葉を待っていると、
「何言ってんの? おまえ。それを言うなら、守備と攻撃だろ。それに俺も兄貴も野球はやってないし……平田も一緒」
何やら揉めているような優人の会話が耳に飛び込んでくる。
すると、
「優人の彼女は『お腐れ女子』なので」
と解説し肩を竦める隣の平田。
なんのことだろうと思っていると、
「もう、結愛が意味不明なことばかり言うんだが」
と、通話を切った優人は不機嫌そうだ。
「なんだって?」
と平田。
「『結愛、お兄ちゃんとなら浮気は可だから!』って何か知らんが、一人で盛りがっていてさ。『ところで優人は受けなの? 攻めなの?』って言うから、それを言うなら守備と攻撃だろって返事したんだが。あいつ、いつから野球ファンなわけ?」
と眉を寄せた。
「”ゆあち”、兄弟ものは萌えるとか言ってたからねえ」
と平田。
「はあ?!」
素っ頓狂な声をあげる優人を見ながら、どこかで似たようなことを言っていた奴がいたなと、和宏はぼんやりと思うのだった。
優人の友人である平田は、車を降りるなり優人へ抗議を始めた。
「”ゆあち”に、『優人と別れて!』とか意味不明なことを言われたんだが」
”ゆあち”とは優人の恋人の愛称のことであろうか。
「なに、結愛と連絡とってるわけ?」
「そこ?! 次から次へとフラグ立てるくせに、ヤキモチかよ」
両腕を広げ、ヤレヤレというポーズをする平田。
優人は和宏たちに背を向けるとスマホを操作し、耳にあてた。恐らく彼女へ電話をかけているのだろう。
「あ、すみません。お兄さんですよね、こんばんは」
「お、おう」
ため息をついていた平田がこちらに気づき会釈をしてから、和宏に近づいてきた。
スラリと背が高く、Vネックのシャツから筋肉質の腕が覗いている。薄いピンクのシャツにベージュのストレートパンツと言った出で立ち。
髪色は明るめで、白や灰茶のメシュを入れていた。優人よりも身長のある平田をお洒落だなと思い見上げていると、不思議そうにこちらを見つめ返す彼。
「何か?」
と問われ、感じていた疑問をぶつけてみる。
「何故、君が優人の車のスペアを?」
「ああ、その事ですか」
和宏に問われた彼は、優人から車のスペアキーを渡された経緯について話し出す。
和宏が家を出たと思われる時刻、優人は平田に連絡を取っていたらしい。何かあったら、自分の代わりに車を回収して欲しいと頼み、彼の自宅マンションへ寄り、ポストに鍵を入れていったというのだ。
「引き受けると言ってもいないのに、電話を切られたので。だいぶ慌てていたのかなと思っていましたが」
と彼は漫画喫茶の看板を見上げる。
「何か手がかりがあったんですか? お姉さんについて」
言わなくてもここで何かしていたのだろうことは、誰にでも想像がつく。
「優人は君にカナのことを話していたのか?」
「お姉さん、”かな”さんって言うんですか」
名前を出したことは失敗だったかもしれない。しかし平田は優人にとって唯一の信頼できる友人。支障はないと感じた。
「行方不明のお姉さんがいる、と言うことくらいは」
「そっか」
気まずい雰囲気になっていると、
「『また女と一緒なんでしょ』って、ご挨拶だな。兄貴と一緒だよ」
”彼女の前では兄貴と言うんだ”と思いながら優人の姿を眺めていると、平田が嫌な顔をしたことに気づく。
「どうかした?」
と彼に問う、和宏。
「今日は大丈夫でした? あいつ、次から次へとフラグばかり立てるんですよね。優人の彼女は尋常じゃないヤキモチ妬きだから、やめろと言っているのに」
と平田。
「ホント、何故モテるのやら」
とため息までついている。
優人の友人は苦労が絶えないなと思いながら、
「そうだな。君の方がモテそうなのに」
とぽつりと呟くと、彼は驚いた顔をした。
「ん?」
不思議そうに彼を見つめ返すと、
「あ、いや……その……」
と歯切れの悪い平田。
何かを言い淀んでいる平田の次の言葉を待っていると、
「何言ってんの? おまえ。それを言うなら、守備と攻撃だろ。それに俺も兄貴も野球はやってないし……平田も一緒」
何やら揉めているような優人の会話が耳に飛び込んでくる。
すると、
「優人の彼女は『お腐れ女子』なので」
と解説し肩を竦める隣の平田。
なんのことだろうと思っていると、
「もう、結愛が意味不明なことばかり言うんだが」
と、通話を切った優人は不機嫌そうだ。
「なんだって?」
と平田。
「『結愛、お兄ちゃんとなら浮気は可だから!』って何か知らんが、一人で盛りがっていてさ。『ところで優人は受けなの? 攻めなの?』って言うから、それを言うなら守備と攻撃だろって返事したんだが。あいつ、いつから野球ファンなわけ?」
と眉を寄せた。
「”ゆあち”、兄弟ものは萌えるとか言ってたからねえ」
と平田。
「はあ?!」
素っ頓狂な声をあげる優人を見ながら、どこかで似たようなことを言っていた奴がいたなと、和宏はぼんやりと思うのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
量子幽霊の密室:五感操作トリックと魂の転写
葉羽
ミステリー
幼馴染の彩由美と共に平凡な高校生活を送る天才高校生、神藤葉羽。ある日、町外れの幽霊屋敷で起きた不可能殺人事件に巻き込まれる。密室状態の自室で発見された屋敷の主。屋敷全体、そして敷地全体という三重の密室。警察も匙を投げる中、葉羽は鋭い洞察力と論理的思考で事件の真相に迫る。だが、屋敷に隠された恐ろしい秘密と、五感を操る悪魔のトリックが、葉羽と彩由美を想像を絶する恐怖へと陥れる。量子力学の闇に潜む真犯人の正体とは?そして、幽霊屋敷に響く謎の声の正体は?すべての謎が解き明かされる時、驚愕の真実が二人を待ち受ける。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
Like
重過失
ミステリー
「私も有名になりたい」
密かにそう思っていた主人公、静は友人からの勧めでSNSでの活動を始める。しかし、人間の奥底に眠る憎悪、それが生み出すSNSの闇は、彼女が安易に足を踏み入れるにはあまりにも深く、暗く、重いモノだった。
───
著者が自身の感覚に任せ、初めて書いた小説。なのでクオリティは保証出来ませんが、それでもよければ読んでみてください。
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
深淵の迷宮
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。
葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。
R18【同性恋愛】『君の中に眠るもの』
crazy’s7@体調不良不定期更新中
BL
実弟(左)×実兄(右)
【あらすじ】
雛本一族の異端児である雛本阿貴。
雛本一族本家にて問題を起こしたことにより、父の妹が彼を引き取ることになった。だがその家庭では、阿貴を引き取ったことにより家庭崩壊の危機を迎えていたのである。その後、ある事件をきっかけにして長子である和宏が阿貴と共に家を出た。
何も知らされないまま、兄が出て行ったことを知った末っ子の優人。母から兄がどんな想いを抱え、家を出たのか真実を聞かされる。しかし兄に会うことはできないまま、三年の月日が経った。
そんな時、ある人物から優人は連絡を受ける。
一方、義理の弟を守るために自分の大切なモノを犠牲にした和宏。
しかし真に守りたいものは、別にあったのである。
支配、陰謀、策略、利用。
彼が守りたかったもの。失ったもの、失えないものとは───?
雛本三兄弟シリーズ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる