【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
19 / 84
4 雛本一族の事情

17 自己嫌悪に陥る和宏に

しおりを挟む
「とりあえず、片織さんが何故あの場にいたかは分かった」
 優人は伸びをすると再び椅子を回転させ、和宏の方に向き直る。
「なあ、優人」
 ひと段落し、立ち上がる彼。代わりに椅子に座るように言われ、和宏はそこへ腰かけた。彼にスマホを返しながら。

「何か質問でも?」
 明るい茶髪のストレートの髪をかき上げ、スマホの画面に視線を落とす彼。
 優人はカナと同じで母親似、和宏は父親似であった。
 もっとも、カナが実の家族ではない可能性が出てきたため、カナを母親似と表現するのはオカシイのかもしれない。
「あの日のこと、教えてくれないか?」

 和宏の勘違いは、何処から始まっていたというのだろうか?
 もしかしたら、そのせいでカナが見つからないということも考えられる。

「俺たちが時を超えた、あの日のこと?」
「ああ」

 それは和宏が高校三年、カナが一年、優人が中学生の時だっただろうか?
 あの日、自分たちはいつものように裏の林に遊びに行ったのだと思う。そこは、時渡《ときわたり》の練習のために何度も通った場所。
「そう言えば、あの日母がおかしなことを言ったんだよね」
と、優人。
「おかしなこと?」
「そう。『何があっても和宏といなさい』って」
 和宏は腕組みをすると足を組んだ。
 優人はメッセージを送ったそれぞれの相手から返信が来たことを確認したのか、スマホをハーフパンツのポケットに入れると、こちらに視線を戻す。
「『何かあったらお兄ちゃんの力になるのよ』って。あの時は、いつもわがまま言って兄さんを困らせる俺に自立を促したのかなって思っていたんだけれど」
 『今思えば、このことだったのかな』と彼は言う。
 
 優人の話を聞きながら、その推測は正しいだろうと和宏は思っていた。やはり和宏が思う通り、母はこうなる未来を知っていたのかもしれない。

「兄さんの勘違いについてだけれど」
と優人。
「あの日はお姉ちゃん、兄さんの右にいたんだよ」
 それは時を越えたときのことであろう。
「それと、そのことを提案したのは”お姉ちゃん”なんだ」
 どういうことなのだろう? と思う。
 それは母の指示ではないということなのだろうか?

 想定内の未来に、想定外の未来。
 これが自分たちを窮地に追いやらせているとでも?
 時は交差する。
 
 自分たちはこの時渡の力やそれに関係するすべての現象について、詳しく知っているわけではないのだ。
 何か見落としている気もする。
 だが、それよりも。

「と言うことは、俺のせいなのか? カナがここに居ないのは……」
 時渡の力は心の安定に左右される。
 両親を殺され、残った妹弟をこれから一人で守っていかねばならない重圧に耐えられず、不安でいっぱいだった自分。
 そんな自分が大切な妹をどこかに落っことしてきてしまったのだろうか?
 ずっと三人一緒だったのだ。
 この先もずっと同じ時を生きそれぞれが別の家庭を持ち、新たなる人生を歩んだとしても、仲の良い兄弟でありたいと願っていたのに。
「兄さん……」
 優人はPCモニターの横にあるティッシュボックスに手を伸ばすと、数枚引き抜いて和宏の目元にあてた。『泣かないでよ』と言うように。

「もしかしたら、だけれど」
と優人。
「なんだ?」
「お姉ちゃんは”自分の意志”で違う場所へ行ったのかもしれない」
「は?」
「だって、”真ん中”は何処へもいけないもの」
 和宏は優人の言っていることを理解しようとした。
「あ、ごめん。何か来てる」
 彼の尻のポケットに入れていたスマホがブルっと震える。
 画面を見つめクスッと笑う、彼。
 大方おおかた、彼女か平田であろう。

「ところで、優人」
 和宏は優人の手からティッシュを受け取るとゴミ箱へ入れながら、『このティッシュってあれに使うんだよな』と思いつつ、
「予定外って誰なんだ?」
と、ずっと疑問に思っていたことを質問した。
「それは、図書館のお姉さん」
 そこで和宏は『いつの間に?!』と埴輪顔になる。

 一体どんな手段で彼が次々と彼女たちから、連絡先を貰ったというのだろうか? 
 意図してと言うのであれば、ただのスマイルで手に入れたとは考えにくい。和宏は新たな疑問を抱きつつ、大きなため息をついたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

真実の追及と正義の葛藤

etoshiyamakan
ミステリー
警視庁より出向の刑事とたびたび起こる事件の謎を同僚たちと・・・・・。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

処理中です...