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4 雛本一族の事情
17 自己嫌悪に陥る和宏に
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「とりあえず、片織さんが何故あの場にいたかは分かった」
優人は伸びをすると再び椅子を回転させ、和宏の方に向き直る。
「なあ、優人」
ひと段落し、立ち上がる彼。代わりに椅子に座るように言われ、和宏はそこへ腰かけた。彼にスマホを返しながら。
「何か質問でも?」
明るい茶髪のストレートの髪をかき上げ、スマホの画面に視線を落とす彼。
優人はカナと同じで母親似、和宏は父親似であった。
もっとも、カナが実の家族ではない可能性が出てきたため、カナを母親似と表現するのはオカシイのかもしれない。
「あの日のこと、教えてくれないか?」
和宏の勘違いは、何処から始まっていたというのだろうか?
もしかしたら、そのせいでカナが見つからないということも考えられる。
「俺たちが時を超えた、あの日のこと?」
「ああ」
それは和宏が高校三年、カナが一年、優人が中学生の時だっただろうか?
あの日、自分たちはいつものように裏の林に遊びに行ったのだと思う。そこは、時渡《ときわたり》の練習のために何度も通った場所。
「そう言えば、あの日母がおかしなことを言ったんだよね」
と、優人。
「おかしなこと?」
「そう。『何があっても和宏といなさい』って」
和宏は腕組みをすると足を組んだ。
優人はメッセージを送ったそれぞれの相手から返信が来たことを確認したのか、スマホをハーフパンツのポケットに入れると、こちらに視線を戻す。
「『何かあったらお兄ちゃんの力になるのよ』って。あの時は、いつもわがまま言って兄さんを困らせる俺に自立を促したのかなって思っていたんだけれど」
『今思えば、このことだったのかな』と彼は言う。
優人の話を聞きながら、その推測は正しいだろうと和宏は思っていた。やはり和宏が思う通り、母はこうなる未来を知っていたのかもしれない。
「兄さんの勘違いについてだけれど」
と優人。
「あの日はお姉ちゃん、兄さんの右にいたんだよ」
それは時を越えたときのことであろう。
「それと、そのことを提案したのは”お姉ちゃん”なんだ」
どういうことなのだろう? と思う。
それは母の指示ではないということなのだろうか?
想定内の未来に、想定外の未来。
これが自分たちを窮地に追いやらせているとでも?
時は交差する。
自分たちはこの時渡の力やそれに関係するすべての現象について、詳しく知っているわけではないのだ。
何か見落としている気もする。
だが、それよりも。
「と言うことは、俺のせいなのか? カナがここに居ないのは……」
時渡の力は心の安定に左右される。
両親を殺され、残った妹弟をこれから一人で守っていかねばならない重圧に耐えられず、不安でいっぱいだった自分。
そんな自分が大切な妹をどこかに落っことしてきてしまったのだろうか?
ずっと三人一緒だったのだ。
この先もずっと同じ時を生きそれぞれが別の家庭を持ち、新たなる人生を歩んだとしても、仲の良い兄弟でありたいと願っていたのに。
「兄さん……」
優人はPCモニターの横にあるティッシュボックスに手を伸ばすと、数枚引き抜いて和宏の目元にあてた。『泣かないでよ』と言うように。
「もしかしたら、だけれど」
と優人。
「なんだ?」
「お姉ちゃんは”自分の意志”で違う場所へ行ったのかもしれない」
「は?」
「だって、”真ん中”は何処へもいけないもの」
和宏は優人の言っていることを理解しようとした。
「あ、ごめん。何か来てる」
彼の尻のポケットに入れていたスマホがブルっと震える。
画面を見つめクスッと笑う、彼。
大方、彼女か平田であろう。
「ところで、優人」
和宏は優人の手からティッシュを受け取るとゴミ箱へ入れながら、『このティッシュってあれに使うんだよな』と思いつつ、
「予定外って誰なんだ?」
と、ずっと疑問に思っていたことを質問した。
「それは、図書館のお姉さん」
そこで和宏は『いつの間に?!』と埴輪顔になる。
一体どんな手段で彼が次々と彼女たちから、連絡先を貰ったというのだろうか?
意図してと言うのであれば、ただのスマイルで手に入れたとは考えにくい。和宏は新たな疑問を抱きつつ、大きなため息をついたのだった。
優人は伸びをすると再び椅子を回転させ、和宏の方に向き直る。
「なあ、優人」
ひと段落し、立ち上がる彼。代わりに椅子に座るように言われ、和宏はそこへ腰かけた。彼にスマホを返しながら。
「何か質問でも?」
明るい茶髪のストレートの髪をかき上げ、スマホの画面に視線を落とす彼。
優人はカナと同じで母親似、和宏は父親似であった。
もっとも、カナが実の家族ではない可能性が出てきたため、カナを母親似と表現するのはオカシイのかもしれない。
「あの日のこと、教えてくれないか?」
和宏の勘違いは、何処から始まっていたというのだろうか?
もしかしたら、そのせいでカナが見つからないということも考えられる。
「俺たちが時を超えた、あの日のこと?」
「ああ」
それは和宏が高校三年、カナが一年、優人が中学生の時だっただろうか?
あの日、自分たちはいつものように裏の林に遊びに行ったのだと思う。そこは、時渡《ときわたり》の練習のために何度も通った場所。
「そう言えば、あの日母がおかしなことを言ったんだよね」
と、優人。
「おかしなこと?」
「そう。『何があっても和宏といなさい』って」
和宏は腕組みをすると足を組んだ。
優人はメッセージを送ったそれぞれの相手から返信が来たことを確認したのか、スマホをハーフパンツのポケットに入れると、こちらに視線を戻す。
「『何かあったらお兄ちゃんの力になるのよ』って。あの時は、いつもわがまま言って兄さんを困らせる俺に自立を促したのかなって思っていたんだけれど」
『今思えば、このことだったのかな』と彼は言う。
優人の話を聞きながら、その推測は正しいだろうと和宏は思っていた。やはり和宏が思う通り、母はこうなる未来を知っていたのかもしれない。
「兄さんの勘違いについてだけれど」
と優人。
「あの日はお姉ちゃん、兄さんの右にいたんだよ」
それは時を越えたときのことであろう。
「それと、そのことを提案したのは”お姉ちゃん”なんだ」
どういうことなのだろう? と思う。
それは母の指示ではないということなのだろうか?
想定内の未来に、想定外の未来。
これが自分たちを窮地に追いやらせているとでも?
時は交差する。
自分たちはこの時渡の力やそれに関係するすべての現象について、詳しく知っているわけではないのだ。
何か見落としている気もする。
だが、それよりも。
「と言うことは、俺のせいなのか? カナがここに居ないのは……」
時渡の力は心の安定に左右される。
両親を殺され、残った妹弟をこれから一人で守っていかねばならない重圧に耐えられず、不安でいっぱいだった自分。
そんな自分が大切な妹をどこかに落っことしてきてしまったのだろうか?
ずっと三人一緒だったのだ。
この先もずっと同じ時を生きそれぞれが別の家庭を持ち、新たなる人生を歩んだとしても、仲の良い兄弟でありたいと願っていたのに。
「兄さん……」
優人はPCモニターの横にあるティッシュボックスに手を伸ばすと、数枚引き抜いて和宏の目元にあてた。『泣かないでよ』と言うように。
「もしかしたら、だけれど」
と優人。
「なんだ?」
「お姉ちゃんは”自分の意志”で違う場所へ行ったのかもしれない」
「は?」
「だって、”真ん中”は何処へもいけないもの」
和宏は優人の言っていることを理解しようとした。
「あ、ごめん。何か来てる」
彼の尻のポケットに入れていたスマホがブルっと震える。
画面を見つめクスッと笑う、彼。
大方、彼女か平田であろう。
「ところで、優人」
和宏は優人の手からティッシュを受け取るとゴミ箱へ入れながら、『このティッシュってあれに使うんだよな』と思いつつ、
「予定外って誰なんだ?」
と、ずっと疑問に思っていたことを質問した。
「それは、図書館のお姉さん」
そこで和宏は『いつの間に?!』と埴輪顔になる。
一体どんな手段で彼が次々と彼女たちから、連絡先を貰ったというのだろうか?
意図してと言うのであれば、ただのスマイルで手に入れたとは考えにくい。和宏は新たな疑問を抱きつつ、大きなため息をついたのだった。
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