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3 雛本家に起きた殺人事件
11 それは誤解だ
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「ちょ! ちょっと待った!」
じりじりと路地に近づいて行く優人に、制止の声を上げたのは和宏ではない。
「わたし、私よ! 優人くん、物騒なものは捨てて!」
塀の陰から姿を現したのは二人が良く知る人物、片織であった。一泊程の大きさのキャリーケースをゴロゴロと引きながら。
ホッとして和宏が優人の傍に近づくも、彼は警戒を解かない。
「図書館からつけてきたのか?」
と和宏が問えば、
「図書館? なんのことよ」
と片織は不思議そうな顔をする。
和宏は優人の肩をポンと叩くと黒く燃えて先端が欠けている角材を、捨てるように言う。
「なんでここにいるんだよ」
と和宏が片織に問うと、経緯を話し始めた。
優人はその間、角材を生家の敷地に戻し、スマホで何か文字を打っている。
彼女の言い分はこうだ。
和宏たちのマンションで事件の話しをしたのち、なんとなく気になってこちらの事件現場に来たそうだ。一旦社に寄り、荷物を持って。
そのキャリーケースの中の荷物は着替えだという。
今日は暑い、『女性はいろいろ大変なのよ』と言うので、どうやら女装家ではなくトランス女性なのだろうと和宏は推測した。
「で、なんでそんなところに隠れてたんだよ」
チラッと優人の手元に目をやれば、友人の平田に『自分の代わりに車を取ってきて』と依頼していたようだ。
──なんで平田が、優人の車のスペアキー持ってんだよ!
大変仲がお宜しいようで。
内心ムッとしながら、片織の話しに耳を傾ける。
「いや、だってえ。二人ともおてて繋いで親密そうにしてるじゃない? 世間はいくら同性婚が可能とは言え、実の兄弟でしょー?」
どうやら片織は何か誤解をしているらしい。
「ほら、なんというか見ちゃいけないものを見たというか。その、『リア充爆発しろ!』的な何かというか。萌えるというか!」
もう、片織が何を言っているのか理解不能だ。
「片織さんって、腐男子なの? 腐女子なの?」
とスマホをポケットにしまった優人が顔を上げ、ニコッと笑う。
──おい、その世界を魅了する笑顔はやめろ。
これ以上、女性問題を増やしてどうする!
「腐男子であり、腐女子であり。あなたたちを応援してるわ!」
キラキラした目で、手を組み乙女ポーズをする片織。肉体は男性である。だがとても様になっていた。
「俺たちはそんなんじゃ……ひやっ!」
「何よ、和くん。急に変な声出して」
優人にわき腹を撫でられ、思わず声を上げた和宏。
”何すんだよ”と言うように優人に視線を向けると、真面目な顔でじっとこちらを見ている。少し険しいその表情から、誤解をさせておけと言っているように感じた。
どうやら彼は片織を信頼していないように見受けられる。和宏は優人の判断に従うことにした。
──平田のことはいささか、信頼しすぎだとは思うがな!
「ところで二人は、なんでこんなところに?」
と片織。
「迷子になっちゃって。駅に向かうところだったんだよ」
ほらと、ポケットからスマホを取り出し、地図アプリを表示して片織に見せる優人。
「そしたら立ち入り禁止のテープが張られている場所があるでしょう? なんだろうねって話していたところ」
優人が彼女に説明をしている間、和宏は汗をタオルで拭いながら片織を注意深く見ていた。だが変な様子はない。
「そうなの。ここ、例の新聞の記事になった場所よ」
三人は話しながら、生家の前まで来ると現場をじっと見つめた。
「なあ、片織」
「なに?」
和宏は、
「単に火事で逃げ遅れたわけじゃなく、殺人事件と断定された……きっかけってなんだったんだ?」
調べれば事件か過失かくらいは分かるだろう。
しかし翌日にはもう事件と断定されている。つまり、決定的な何かあったはずなのだ。
「ああ。それなら出火場所に対して、遺体の位置が不自然だったかららしいわ」
担当刑事に話を聞いたというだけあって、彼女はその辺の事情には詳しいようだ。その間和宏が気になったのは、鋭い目をし彼女を観察する優人の姿だった。
じりじりと路地に近づいて行く優人に、制止の声を上げたのは和宏ではない。
「わたし、私よ! 優人くん、物騒なものは捨てて!」
塀の陰から姿を現したのは二人が良く知る人物、片織であった。一泊程の大きさのキャリーケースをゴロゴロと引きながら。
ホッとして和宏が優人の傍に近づくも、彼は警戒を解かない。
「図書館からつけてきたのか?」
と和宏が問えば、
「図書館? なんのことよ」
と片織は不思議そうな顔をする。
和宏は優人の肩をポンと叩くと黒く燃えて先端が欠けている角材を、捨てるように言う。
「なんでここにいるんだよ」
と和宏が片織に問うと、経緯を話し始めた。
優人はその間、角材を生家の敷地に戻し、スマホで何か文字を打っている。
彼女の言い分はこうだ。
和宏たちのマンションで事件の話しをしたのち、なんとなく気になってこちらの事件現場に来たそうだ。一旦社に寄り、荷物を持って。
そのキャリーケースの中の荷物は着替えだという。
今日は暑い、『女性はいろいろ大変なのよ』と言うので、どうやら女装家ではなくトランス女性なのだろうと和宏は推測した。
「で、なんでそんなところに隠れてたんだよ」
チラッと優人の手元に目をやれば、友人の平田に『自分の代わりに車を取ってきて』と依頼していたようだ。
──なんで平田が、優人の車のスペアキー持ってんだよ!
大変仲がお宜しいようで。
内心ムッとしながら、片織の話しに耳を傾ける。
「いや、だってえ。二人ともおてて繋いで親密そうにしてるじゃない? 世間はいくら同性婚が可能とは言え、実の兄弟でしょー?」
どうやら片織は何か誤解をしているらしい。
「ほら、なんというか見ちゃいけないものを見たというか。その、『リア充爆発しろ!』的な何かというか。萌えるというか!」
もう、片織が何を言っているのか理解不能だ。
「片織さんって、腐男子なの? 腐女子なの?」
とスマホをポケットにしまった優人が顔を上げ、ニコッと笑う。
──おい、その世界を魅了する笑顔はやめろ。
これ以上、女性問題を増やしてどうする!
「腐男子であり、腐女子であり。あなたたちを応援してるわ!」
キラキラした目で、手を組み乙女ポーズをする片織。肉体は男性である。だがとても様になっていた。
「俺たちはそんなんじゃ……ひやっ!」
「何よ、和くん。急に変な声出して」
優人にわき腹を撫でられ、思わず声を上げた和宏。
”何すんだよ”と言うように優人に視線を向けると、真面目な顔でじっとこちらを見ている。少し険しいその表情から、誤解をさせておけと言っているように感じた。
どうやら彼は片織を信頼していないように見受けられる。和宏は優人の判断に従うことにした。
──平田のことはいささか、信頼しすぎだとは思うがな!
「ところで二人は、なんでこんなところに?」
と片織。
「迷子になっちゃって。駅に向かうところだったんだよ」
ほらと、ポケットからスマホを取り出し、地図アプリを表示して片織に見せる優人。
「そしたら立ち入り禁止のテープが張られている場所があるでしょう? なんだろうねって話していたところ」
優人が彼女に説明をしている間、和宏は汗をタオルで拭いながら片織を注意深く見ていた。だが変な様子はない。
「そうなの。ここ、例の新聞の記事になった場所よ」
三人は話しながら、生家の前まで来ると現場をじっと見つめた。
「なあ、片織」
「なに?」
和宏は、
「単に火事で逃げ遅れたわけじゃなく、殺人事件と断定された……きっかけってなんだったんだ?」
調べれば事件か過失かくらいは分かるだろう。
しかし翌日にはもう事件と断定されている。つまり、決定的な何かあったはずなのだ。
「ああ。それなら出火場所に対して、遺体の位置が不自然だったかららしいわ」
担当刑事に話を聞いたというだけあって、彼女はその辺の事情には詳しいようだ。その間和宏が気になったのは、鋭い目をし彼女を観察する優人の姿だった。
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